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君が綺麗すぎて、怖がっている暇がありません  作者: リンコ


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4話 高橋の登場と焦り

朝の会議室は、いつもより眩しい光に満ちていた。

窓から差し込む陽光が、磨き上げられたテーブルを照らしている。

蓮は腕を組みながら、その光景をぼんやり眺めていた。

先日の帰り道。

陽向とコンビニで買ったおにぎりの味を、蓮はまだ覚えている。

鮭の塩気が少し強くて、陽向は「お茶飲みますか?」と無邪気に笑った。

——妙に、頭から離れない。

蓮は小さく息を吐いた。

(……面倒だ)

最近、気づけば陽向のことばかり考えている。

笑った顔。

コーヒーを淹れる姿。

どうでもいい雑談。

そんなもの、本来なら気に留める必要もないはずなのに。

腕時計を見る。

会議開始五分前。

陽向は几帳面だ。

きっと、そろそろ来る。

そう思った瞬間だった。

「——おい、君」

聞き慣れない声が、会議室の入り口から響いた。

蓮は眉をひそめて振り返る。

そこに立っていたのは、高橋健太だった。

同じ時期に入社した同期。

実力は認めている。

だが、あの軽薄な笑い方だけは昔から気に入らなかった。

「あ、はい!」

陽向の明るい声が返る。

高橋は陽向へ歩み寄り、親しげに笑った。

「君、佐藤陽向くんだよね?」

「はい! そうです!」

陽向は警戒心の欠片もなく笑っていた。

(……不用心な奴だ)

蓮は無意識に眉間へ力を入れる。

高橋の視線が気に入らなかった。

ああいう男が、陽向みたいなタイプを放っておくはずがない。

「最近、結構噂になってるよ。鬼の黒崎の新人アシスタントだって」

「ええ!? そんな有名なんですか?」

陽向は目を丸くした。

「まあね。黒崎の下で辞めずに残ってる新人ってだけで珍しいし」

高橋は笑いながら、自然な動作で陽向の肩へ手を置いた。

——その瞬間。

蓮の胸の奥が、ざわりと騒いだ。

「陽向」

低い声が出る。

陽向がぱっと振り返った。

「え? 黒崎さん?」

「会議資料、確認しておけ」

蓮はそう言って、陽向の腕を軽く引いた。

「あ、はい!」

陽向は素直に高橋から離れる。

高橋はそれを見て、面白そうに笑った。

「相変わらず独占欲強いねぇ、黒崎くん」

「仕事だ」

蓮は短く返す。

「へえ?」

高橋の目が細くなる。

「ただの部下にしては、ずいぶん必死に見えるけど?」

「……黙れ」

蓮の声は低かった。

陽向は二人を交互に見比べながら、不思議そうに首を傾げている。

「あの……黒崎さん、心配してくれたんですか?」

「違う」

即答だった。

「会議前に無駄話をするなと言っただけだ」

「そっかぁ。でもありがとうございます!」

陽向は嬉しそうに笑う。

その笑顔を見た瞬間、蓮は言葉を失った。

……調子が狂う。

高橋は肩をすくめた。

「まあいいや。佐藤くん、また今度話そうね」

「はい!」

陽向は無邪気に手を振る。

蓮はその様子を見て、胸の奥が妙にざわつくのを感じていた。

高橋が去ったあと、会議室には一瞬だけ静寂が落ちた。

「黒崎さん?」

陽向がそっと袖を引く。

「怒ってます?」

「……怒ってない」

蓮は短く答えた。

だが、自分の手がわずかに強く握られていることに気づく。

高橋が陽向に触れた瞬間。

あれが、どうしても気に入らなかった。

——渡したくない。

そこまで考えて、蓮は小さく舌打ちした。

(……何を考えている)

面倒だ。

本当に。

陽向は何も知らない顔で、蓮を見上げている。

「黒崎さん、今日ちょっと変ですよ?」

「うるさい」

「えー、また冷たい」

陽向は唇を尖らせたあと、すぐに笑った。

その笑顔を見ていると、胸の奥が落ち着かなくなる。

蓮は視線を逸らした。

「……会議が始まる。席に着け」

「はーい!」

陽向は元気よく返事をして、自分の席へ向かった。

蓮はその背中を目で追ってしまう自分に気づき、深く息を吐く。

——厄介だ。

胸のざわつきが、なかなか消えなかった。


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