アルティンパサ
「“降参します”。」
振り返って、あっさりとその少女は言った。
「!」
突然の動揺と狼狽に、結生は内心でたじろぐ。
すぐ様、ナオの首筋に青のブレードをあてがった。
少女の手からナイフが落ちて、鐘の音の様な音を立てた。
「…………。」
はち切れんばかりの、重々しい沈黙が満ち満ちて、無の空間を占有する。
永劫にも感じられる、ほんの僅かの時間が、一瞬で過ぎた。
結生は彼女の首筋から刀身を離し、そして口を開く。
「…ごめんなさい。」
ホセがゆっくりと少女ナオの手を解く。
彼女は向き直り、結生と真っ直ぐに向き合った。
静かな、それでいて激しい怒りを孕んだ声に、凄絶な殺気と警戒心を絡めて少女は問うた。
「最初に聞くわ。あなたはどうして私の仕事場を破壊して、同僚達を殺したの?」
疲れ果てた様な、ため息にも似た吐息が、結生の口から漏れる。
「…友達を助けたい。嘘をつかれて、貶められたの…」
「嘘?」
その一言に反応して、少女の瞳の中心が蛇の眼の様に閉じる。
彼女はしばし思案し、そして振り返る。
「……。」
超常的な力で、既に片目の傷が癒え始めているホセを前にして、出淵ナオは語り掛ける。
「あなたはどうしてここに来たの?」
「こいつを助けようと思ったんだ。こいつの思ってる事が、全て本物だったからだ。」
「……。」
また少しだけ考え込んで、再び結生の方を向く。
「嘘をついたのはオーデンセ?」
こくりと結生は頷く。
少女、出淵ナオは重々しい沈黙を押して告げる。
「ついて来て。」
✝
「アァァァルティンパァァァサァァァ…!」
少女は白眼を剥いて詠唱する。
ホセと結生の二人が見守って立っている。
そしてその隣には結生の親友、石破望。
健康そのものとは言い難いが、五体満足で、生きている。
彼らの目の前で、彼女は呪文を詠唱した。
薄暗く閉じられた部屋の中、サークル状に並べられたローソクの火の輪の中で少女はあぐらをかいて座り、そして憑依状態となる。
「!」
意を決した様に、少女は立ち上がって叫ぶ。
「あぁぁぁるてぃんぱぁぁぁさぁぁぁ!」
ざらり
めいめいに、思わず自分の首筋や二の腕をさする。
三人は、自分達の全身の皮膚がざらついて、鱗じみた規則正しいパターンを持った、皮疹の集合体に覆われ始めるのを感じた…




