軍神と女神
「…手を出さないでね、ホセさん。もう片方の眼まで失くしちゃう。」
…結生はゆっくりとにじり寄る、怪しげな笑みを浮かべた少女を睨みつけながら言う。
「いい子ね。」
ナオと呼ばれたその少女は、人形の様に整った顔を綻ばせて言った。
「この期に及んで、他人の心配ね。良いわね、あなた。私の職場を滅茶苦茶にした事以外は。そこだけは褒めてあげるわ。」
そう語りつつ距離を詰める。
微笑みを浮かべながらにじり寄り、そして警戒を解かない結生の上手に、一気に踊り出る。
蛇の如くに柔軟な関節を曲げ、その華奢な身体からは想像もつかない、深く鋭い斬撃を見舞った。
「!」
声を上げる間もない。
結生の右脇腹に後ろから。
構えた光のブレードをかいくぐって深い傷を負わせた。
ガチガチガチガチ
食い込んだ刃先が数多の肋骨に次々とかち合い、気も狂わんばかりの狂騒の調べを奏でるのを、結生は感じた。
「ぐぅわぁあああああっ!」
激痛に身悶えし、おぞましい寒気が、足先から身体の末端に至るまで一気に駆け抜けた。
大量の血が、彼女の肉体から流れ失せる。
「“断て”!」
結生は叫ぶ。
立ったままで、その意志の力で凝固されたかの様な闘争への意志を左手で握り締めて、彼女は立っていた。
「……!」
パァン!
彼女の背後で炸裂音がした。
飛んで跳ねる様に、ナオが同時に退く。
倒れた警備員が持っていたと思しき拳銃を、ホセが握り締めていた。
「ホセさん、手を出しちゃダメ!」
「……。」
無言で少女ナオは多数の残像を残し、ホセに接近する。
電光石火の速さで、ホセの残された片目へナイフを突き立てんと勢い良く…
「!」
ナイフの刃先が突き刺さる直前、少女のその細い手首を、無骨な太い指が掴んだ。
蛇を思わせる狡猾そうな瞳が、一瞬の驚きで見開かれる。
「あらかじめ分かってりゃ簡単よ。喉か目玉かで迷ったんだがな。こっちで助かったぜ。」
結生は流血する身体を無理やりに、引き剥がすように動かしナオの後ろ姿に接近する。
そして青く輝く刀身を思いっきり、少女の黒い制服の背中目掛けて振り下ろした…




