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闘いの理由

「待ちなさい。」


そう日本語で発して、少女は微笑んだ。


「……。」

「……。」


結生とホセの二人は彼女を見つめ、凄惨な現場の只中にあって、落ち着いた表情で立つ少女を見つめた。

静かな狂気すら感じさせるその場違いな出で立ちに、結生は居心地悪そうに身動ぎする…


「ナオ・イデブチ…」


掠れた声でそう、ホセが呟いた。

空虚が奏でる掠れた静寂の中で、人形の様に整った容姿のその少女は、長い黒髪を傾げて問う。


「ねえ、答えてくれるかしら。私の管轄であるこの監獄を滅茶苦茶にしたりして、どういうつもりなの?」


暗い色合いをした、軍服めいた制服を着込んだその身体を左右に振りつつ、彼女は近づいて来る。


「ユキ。ヤバい。逃げるぞ。」


ホセが今際の際の如き掠れ声を漏らした。

その瞬間。


「アルティンパサよ。殻を打ち破り、我を涅槃(ニルヴァーナ)へと至らせ給え。」


無限に続くかのような灰色の回廊に、朗々とした祈りの言葉が響き渡る。

少女は唱えたと同時に“自分を脱ぎ捨てた”。


「!」

「!」


“脱ぎ捨てた”。

正確に言えば、人間離れした移動速度の為、視覚の処理が追いつかず、彼女の姿が残像の尾として見えた。

まるで蛇の抜け殻の如く、長く伸びた尾のように見えた。


「おおおおおおおお!」


ホセが咆哮する。

右眼の眼窩から血を噴き出している。


「!!」


結生は青い光のブレードを構えた。

肌と鼓膜が感じる空気の動きと、周囲の明暗の揺れだけを本能のみで受け取り、そして無言で受け流す。

硬質の、凶器同士がかち合う音が響く。


「私は友人を助けたい!」


結生は叫んだ。

少女は離れ、野生動物の様なしなやかさで彼女の周りを旋回し、言う。


「そう。」


ホセが流血する右目を押さえながら近寄る中、少女は落ち着き払った様子で結生に問う。


「それは私の仕事場を破壊して良い理由にはならないし、私の同僚を沢山殺して良い理由にもならないわね。貴方が私のテリトリーを蹂躙する、その正当な理由は何?」


「闘いに理由はない!」


結生の中の、“(テュール)”が吠えた。


「私の右腕は数々の、口なき人民の声。血塗られた矛先。忘れられた尊厳。」


彼女は叫んだ。


「正しい理由なんかないっ!思いがあるだけなんだっ!それしかないんだ!!」


ホセが見守る中、彼女は自分の思いの為に、最後の闘いを挑んだ。

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