憑依
先の見えないトンネルの様に長い廊下を、ホセと結生の二人は疾走した。
途中、怒号と共に何発もの弾丸が飛来する。
結生はホセの大柄な身体を盾にし、身を守った。
その彼の、上半身裸になった身体。
不思議な青い文様が全体に浮き上がっている。
その表面は鋼鉄で出来ているかの如くに、銃弾を弾いた。
そして立ち塞がる警備員や、職員を次々に投げ飛ばして行く。
「オラァ!」
インディゴ色に染まった太い腕で、竜巻の如く破壊の渦を巻いた。
その背後で結生は血まみれの手で、青く輝く光の刀身を振り回し、廊下を飛び交う弾丸を打ち落とした。
青いエネルギーの紐が、麻痺したまま動かない右手を縛り、無理やりに動かす。
見えない弾丸の動きを肌が感じ取り、刃を振るって落とす。
…もはや勘と、流れ込む“神”の意識だけが身体を動かしている。
彼女は神の声を聞き、身体の自由を上位の存在へと明け渡す。
彼女は霊媒だった。
ホセもホセとて、全く変わりはない。
生贄の血を浴びる様に飲んで、そうした儀式を経て変成した彼の意識は彼の神、軍神ウィツィロポチトリの受け皿になっていた。
鋼の様に硬化し、そして矢の弦の如く柔軟。
怪力無双のパワーで、障壁をなぎ倒しつつ進む。
鋼鉄製の扉を打ち壊し、錠前を引き千切り、彼は進撃する。
そのまま彼らは一人の警備員を捕らえ、詰問した。
「石破望はどこ?言って。」
ごく短い少女の問い。
巨体の男に首根っこを絞められ、青く輝く紐で手足を拘束されて、ブルブル震えながら相手は答える。
「…地下3階、Ж(ジェー)−13号室監獄です…」
ホセと結生は顔を見合わせ、互いに頷く。
二人は振り返って一歩を踏み出し、そして結生はつまずいた。
今しがたまで拘束されていた警備員が放った弾丸が、彼女の右足首の近くを撃ち抜いていた。
「…うぐっ…!」
ホセは言葉もなく、背後の壁に寄りかかって立つ男を殴りつけた。
恐怖の色一色で染まった顔が、一瞬でひしゃげる。
ザクロの実が押し潰されるかの如くに、衝撃を受け止めて圧壊した。
「結生、大丈夫か?」
駆け寄ってホセは尋ねる。
片膝で立つ結生はうつむいたままで答える。
「大丈夫…。貫通しているから…。」
青く輝く紐が、受傷した足首に巻き付いて締め上げる。
彼女ははっきりと前を向いて言った。
「…行きましょう。」
「…“待ちなさい”。」
唐突に、結生の耳に飛び込んできた日本語。
彼女は声が聞こえてきた廊下の果てを向く。
…長い黒髪を持つ人形のような少女が、長めのナイフを持って、二人を見つめていた。




