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人柱

その男は牢屋の中のベッドに下着姿で拘束され、震えていた。

理解不能な状況に、ただひたすら恐れおののく。

彼の手足を、薄汚れた灰色のベッドに縛り付けているのは、非物質的な青く輝く紐だった。

横に少女が立ち、視線を集中させている。

そしてその真向かい。

少女より遥かに大柄なスキンヘッドの若い男が、何かを握り締めて見下ろしている。

しょぼくれた埃っぽい白熱電球に照らされ、チラッと視界の端に映ったそれは、黒光りする石の破片だった。

あれは…黒曜石の…………ナイフ?


そう思った矢先、ほぼ一瞬で自分の運命を悟ったこの不運な男は、身も震えんばかりの激しい動揺を示した。


「おい!やめろ!俺は人殺しなんだぞ!ギャングなんだ、ギャングなんだぞ!女をレイプして、殺したんだ!子供だろうが年寄りだろうが構わずに撃ったんだ!」


喚きながら悪党は、これまでに起きた出来事を走馬灯の様に思い返す。

朝方、鉄格子の中の子汚いベッドの上でボンヤリしていたら、突然胸を突き上げる様な地響きが湧き上がってきた。

…国は、地下核実験でもおっ始めたのか…?

彼はチラリとそう思った。

そこからの展開は早かった。

大柄な男と一人の小さな東洋人の少女…何故か少女の方は右耳が無かった…が、意図も容易く独房の鍵を開け、駆け込んで来たのだ。

そして男は摩訶不思議なエネルギーの青い紐で縛られ、今に至る…


「やめろぉ、やめてくれぇ…!」


男は涙と鼻水を撒き散らしてそう、訴えた。


「…ユキ、始めるぞ。」


そう言って、スキンヘッズのラテンアメリカ人らしき男が黒曜石の欠片を、少女に手渡した。

東洋人の女の子はそれを左手で受け取って、コクリと頷き、そして男の顔を覗き込んだ。

…見慣れない、暗い色合いをした瞳。

その表面に、他ならぬ自身の恐怖心に満ち満ちた顔が映り込んで、男は全身をくまなく縛り上げられている様な感覚を味わった。


どすっ


漆黒の色をした石のナイフの先端が、少女の手によって左胸に突き立てられた。

抵抗らしき抵抗もなく、鋭いナイフの先が、肋骨の隙間に潜り込み肉をかき分けていく。

瞬間的に稲妻の様な衝撃が走り、数秒置いて、足のつま先から両手の10本の指先、髪の毛の一本一本の先に至るまで花火の如くに激痛が広がった。


「ぎゃああああああああああああああ!」


男は見た。

少女が左手と、そして青く光る紐が巻き付いた右手で、男の肋骨を砕き、かき分け、そして脈動する自身の心臓を掴んで引っ張り出すのを。


彼が正気を保つ状態で最後に見たのは、自分の心臓が黒曜石の欠片によって切り離される光景だった。

そして、冷たくなっていく脳裏の片隅で、完全に破壊された自意識が、ラテンアメリカンの男が自分の心臓を頭上に掲げて、流れ出す血をその大きく開かれた口で受け止めるのを見た。

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