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魔術師と人

二人は半壊した階段を駆け、床下の地下通路に降りた。

大の男二人が格闘する怒号が、彼女達の耳に飛び込む。


(アシャ)よ、我らを照らし給え!」


ファラフナーズが唱えると、地下通路の壁という壁が真っ白に発光し始めた。


「ホセさん!」


結生が叫ぶ。

まばゆい輝きの中、視線の先にはオーデンセに覆い被さり、拳を振り上げるホセの背中があった。

彼女は先程、マリーアの“皮”で包まれ、治療された右耳の跡を手でなぞった。

そして叫ぶ。


「《断て》!」


結生の手に、青く輝く刀身が出現した。

鮮烈な青と、光そのものの色たる白。

世界の色が混ざり合った最中にあって、彼女は言った。


「魔法で反射なんかさせないっ!その首、直接斬り落としてやる!!」


見えない力に押されたホセが、オーデンセから離れる。

年齢不詳な教授はゆっくりと立ち上がり、余裕綽々と、左目を覆う眼帯の位置を直した。


「良いだろう、迎え撃つと言いたい所だが…」


不気味な魔法使いは不敵な笑みを浮かべて続ける。


「丸腰の私に対し、武器も寄越さずに真剣勝負とな?それは奇っ怪かつ矛盾だ。」


「ほざけ!」


結生の口から“(テュール)”の声が漏れた。


「卑怯で卑劣で、臆病な、女魔術師にすら劣るケチなまじない師よ。今日貴様は本当の恐怖を知るのだ。他ならぬこの私の剣先で、それを学ぶが良い!」


「そうか、それは良い。」


不遜かつ不快な笑みを浮かべつつ、時そのものの様に年老いた魔法使いは言った。


「極限の感情を学ぶ事が出来るのは素晴らしい。普通の人間にはそんな機会は一回しか来ない。しかし、本当に賢い者の前には、その“機会”が、幾つにも分裂して現れるのだ。」


彼は右手を掲げて、持ち上げた。


「ユキちゃん、注意して。」


ファラフナーズの声をかき消すかの様に、ジャラジャラという金属が擦れる音が弾けた。


「!」


オーデンセの手に握られた、黄金色の腕輪。

そこから滴る様にして、全く同じ輪が幾つも、溢れて流れ落ちた。


…金色の津波が押し寄せて、あっという間に三人の足元が、腕輪で埋まる。

増殖は止まらず、すぐにそれらは脛辺りの高さまで積み上がった。


「くっ…!」


身動きを封じられた結生は青いブレードを斬り払い、黄金色に輝く宝の山を取り払おうとする。


「無駄よ、ユキちゃん。」


ファラフナーズは覚悟を決めた様に言った。


霊鳥(シームルグ)!」


二羽の火の鳥が飛来した。

そして冷たく燃えるその両足を後ろから、ホセと結生の服の襟に引っ掛けた。


「なっ!」

「!?」


宙を駆け抜けて鳥達は二人を、驚くべき勢いで運び去った。


「…成る程…。」


感心した様に魔術師は呟いた。

ファラフナーズは叫ぶ。


「“王国(クシャスラ・ワリヤ)”、罪を打ち、穢れを浄化し給え!!」


ファラフナーズの全身が、太陽の様な輝きを放った…

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