乱戦
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穴の底より細長い物体が飛来する。
空気が裂けて、その悲鳴じみた唸りが皆の耳に届いた。
間髪入れずにマリーアが、結生の前に飛んできて立ち塞がる。
「うっ…」
ドスッと言う鈍い音が響いた。
結生に覆いかぶさる様に立ったマリーアの右肩に、槍の穂先が深々と突き刺さっていた。
「また身代わりか、素晴らしい。身代わりは素晴らしい。」
フェルディナント・フォン・オーデンセ教授のしわがれた声が、階段の奥から響いた。
「死を賭して対価を得る。その対価に付帯する所得税は、全て神の物だ。」
ぐぐ、とマリーアの肩に突き刺さった槍が揺り動く。
震える彼女の吐息が、結生の右耳があった場所にかかった。
「……!」
「では“税”を頂くとしよう。」
ミチミチと肉を裂いて、魔の槍が彼女の肩から抜けていく…
「雷雄よ!」
ファラフナーズが叫んだ。
階段の一区画が破裂し、瓦礫と煙が巻き起こって、そこから一閃の雷光が煌めいた。
「私を呪う者に、その呪いは跳ね返らん!」
朗々とした声が闇の向こうから轟いた。
穴蔵の向こうから紫電の筋が一本伸びて、ファラフナーズの身体をまるで、ボーリングのピンの様に打ち倒した。
「タパ!」
結生は叫ぶ。
それと同時にマリーアの身体が、一瞬全ての力を無くしたが如くにがくん、と倒れ込んだ。
「マリーア!」
ホセが駆け寄った。
グラグラと揺れる槍の柄を掴もうとする…
「兄さん、手を出さないで!」
虚空を切り開く怒声が響いた。
「!」
無骨な髭面がドキッとした様に仰け反った。
結生は静かにマリーアの身体を離す。
布が擦れる静かな音と共に、彼女の小さな身体が床に落ちた。
「マリーア…」
流血する頭部を押さえつつ、ファラフナーズが近づいて来た。
そして目の前の光景に目を見張る。
「…!」
マリーアの肩の皮膚が、突き破られた制服の穴から網状になって伸びた。
そして必中の魔の槍の柄を覆って伸びる。
「…っくあ…」
絞り出される声と共に、両目の端から銀の粒が零れ落ちた。
「…返さないよ、オーデンセ。あんたの武器は…返さない。」
「おらぁっ!」
ホセは雄叫びを上げて階段の下へ突入した。
床下の空間で、男二人が乱闘する様が伝わってきた。
「行って…結生…そして敵を討って。本当の敵を、オーデンセを、討って。」
「マリーア…!」
マリーアの眼を見て、そして彼女の、微かに傷跡の残る手を少し撫でた後、結生はファラフナーズと目を合わせ、そして階段を降りた。




