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…遠くでは重火器と戦車の応酬が続いている。

砲弾が壁に激突し、ボロボロと外壁が崩れる。

そんな中、急ごしらえでしつらえられた食卓を、結生達は囲んでいた。

ホセが店から持ち出して来た食料が、ベッドの上に広げられている。

結生の皮膚は、ゾンビ映画に出てくる歩く死者の様に、斑に染まっている。

そんな有様のまま、結生はトルティーヤや、干し肉を食らい、ライムをかじった。

斑だった皮膚が少しづつ、元の色と溶け合い、馴染んでいく。

左手のみで食べづらそうに、しかし貪欲に食べ物を貪った後、砂漠から生還した遭難者の様に、微発酵茶(クヴァス)を飲み干した。

彼女は言った。


「石破君は今、どこにいるの?」


椅子の上に座っている“枢機卿”が彼女に答えて言う。


「彼はまだこの街にいる。都市の第三区画、一級犯罪者収容施設だ。」


「…助けに行くわ。」


包帯が巻かれた、麻痺して力の入らない右手を、左手でさすりながら彼女は言った。


「この状況でか!?」


“灰色の枢機卿”は驚いた様子で尋ねた。

結生は目の前に佇む灰色の男に向き直った。


「…この状況だからこそよ。もう法律も、社会も、国家もどうでも良い。私はその全てを踏みしだいて、一つの命を救う。」


「…確かに、一理ある。」


と“枢機卿”。


「彼の末路の事を考えるとな。望・石破の無実は私の前で証明されたが、国家の前ではない。容疑は恐らく覆らないだろう。オーデンセが、手を回していない筈はない。もれなく全ての関係者が、身に覚えのない嫌疑をかけられて、ありとあらゆる罪がなすり付けられるだろう。そして、彼自身は国家を揺るがす反乱分子に捕らわれた哀れな被害者へと。許しがたい事だ!」


突如として彼は近くの壁を殴りつけた。

その場にいた全員がギョッと身を強張らせる。

普段の彼の落ち着いた佇まいからは想像も出来ない激昂ぶりだった。

灰色のコートの袖を振り回して“枢機卿”は叫ぶ。


「ふざけるな!半世紀以上の月日を党と国家に捧げ、仕事をしてきた結果がこれか!同志スターリンに代わり自らの手を汚し、国家の敵を粛清してきた。森の中で指揮官として、結核に苦しみ戦った。戦後はあらゆる贅沢を避け、社会の、人民の為に働いた。その報酬がこれか!これなのか!」


「落ち着いてくださいな、同志。」


とファラフナーズ。


「まだ、全てが終わりと決まったわけではないですわ。」


「…確かにな。」


一瞬で、彼は落ち着きを取り戻す。

そして、言った。


「彼を助けに行こう。」


「どうやって…?」


枕元に腰掛けたマリーアは呟く。

その問いに答える様にして、“灰色の枢機卿”は立ち上がり、部屋の隅の本棚に近づいた。


「ミニョーラ君、手を貸してくれ。」


ホセも、今まで黙って座り込んでいた部屋の一角から立ち上がり、彼に近づいた。

…二人の力で、本棚が引きずってずらされる。

移動した後の床に、取っ手付きの蓋が現れた。

“枢機卿”は取っ手を掴んで開く。

蓋の向こうには、地下へ続くような階段が奥へ、奥へと続いていた。

彼は言った。


「さあ、彼を助けに行こう。」

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