死と再生
「…良いよ。」
暗い表情でマリーア・ミゲル・デ・ミニョーラは言った。
そして制服のポケットから折りたたみ式のナイフを取り出す。
灰色のスーツを着た“枢機卿”とファラフナーズが、その光景をじっと見つめている。
マリーアは言う。
「…生まれ変わる時だからね。こういう時は。許し難い事があっても、受け入れづらい事があっても、時間は待っちゃくれない。誰にでも収穫の時は来るんだ。」
彼女はナイフの刃を出しながら続ける。
「何か許せない事があっても、その時、自分は死んで生まれ変わるんだって、そう思う事にしたの。私は。蛹が羽化して蝶々になる時みたいに、“皮”は後に置いていく。そのゆく先は知らない。」
彼女はナイフをベッドに突き立てた。
そして上半身の上着とシャツを脱ぎ、浅黒い肌を露出させる。
「……。」
「……。」
“灰色の枢機卿”とファラフナーズは協力して、結生の眠り続ける身体を起こし、包帯を剥ぎ取っていった。
見るも無残な、生新しく、痛々しい傷に覆われた素肌があらわとなる。
マリーアはナイフを取った。
「……。」
スパスパと、何でもない事の様に自らの皮膚を切りつけ、皮を剥いでいく。
痛みを感じないわけではない。
しかし繰り返された自傷の果てに彼女は、身体の痛みと心を、切り離す術を身に着けていた。
皮がまるでパッチワークの様に、結生の皮膚に貼り付けられていく。
彼女は再生して塞がっていく、自らの傷を眺めながら言う。
「耳と手は駄目だね。無くなったモノは戻らないし、切れた神経は繋がらないよ。」
思えば彼女は昨日、スリプナーを埋める穴を掘る際、能力を使って自分の身体を縛り、操り人形の様に動かしていた。
血まみれの身体で。
涙に濡れた顔で、スリプナーの遺体を見送った。
愛馬の最期を看取る騎士の様だ、とマリーアは思った。
…やがて、全身を包み込んだむず痒さの故か、結生は微かに身動ぎした。
「ユキちゃん…」
ファラフナーズがか細く、やつれた声で囁く。
四人の男女が見守る中、結生はゆっくりと目を開け、そして起き上がる。
乾いた喉から絞り出される様に声が発された。
「…お腹、空いた。」




