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おいでませ幽鬼神道町  作者: 狐面 シノ
壱話「百合咲く少女ら指切限満」

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■捌章『己に籠る復讐の妖魔』

 便利屋二人が武器を構えたのを見て、妖魔となった百合子は容赦を捨てる。だが正面突破は無謀だと思いでもしたか、妖魔本体から張り巡らす根はあっと言う間に便利屋の背後へ、(きびす)を返して後ろから襲い掛かってきた。便利屋二人は当然ながら攻撃を避けるべく、移動を前方に縛られてしまった。目算(もくさん)通り、と妖魔は魔方陣を展開し、そこから(するど)(とげ)を断続的に放出する。

 逃げつつも泉は冷静さを捨てない。並走するタカを一瞥(いちべつ)し、それから尻目に策を伝える。


(それがし)は咲の下を目指す、タカは樋口(ひぐち)(ともえ)を守り通せ‼」

「わぁった‼ 気ぃつけ、泉はん‼」


 作戦を実行し、二手に別れた便利屋。妖魔は器用にも双方を均等に狙い、伸びる根も弾丸も、依然として行動を制限し続ける。しかし()()すと避けるだけでは終わらないのがこの二人。泉は速度を上げて追いすがる根の一つを、振り返りざまに切り捨てた。その後追いついた根も(まと)めて切り伏せ、その後も棘の狙いを攪乱(かくらん)しつつ、咲が(とら)われている黒百合の(おり)を目指す。

 タカも巴が倒れている場所まで、襲い来る棘にフェイントを仕掛け、追尾する根へと誤射を()し、その隙を突いてみるみる距離を縮めていく。

 巴は魂に傷が付いていたものの、第二地獄での活動においては支障が残らないだろう程度であった。タカは礼節通り巴に駆け寄って、必死に容体を()き出した。


「―――巴ちゃん、ケガとか平気か⁈」

「うぅ……ちょ、っとキツイかも……」

「そうか―――ちょっとおぶるで‼」

「ふえっ⁈」


 紳士的にサッと背を差し出したタカに、巴は渋々(しぶしぶ)身体を預ける。しっかりと足を抱えて立ち上がったタカを、すぐに棘の弾丸が襲う。先程より狙いが(さだ)まり()くなってしまったのか、タカは結界の力で攻撃を()らしつつ逃げ(まど)う事となる。巴を支える力にも、結界を操る力にも気を向けて、少しの不都合でどちらかが手薄(てうす)になりそうで不安を感じた。

 その間、泉は咲が囚われている黒百合の檻にまで迫っていた。目と鼻の先、泉はしつこく迫る根を追い払って、檻を断ち切ろうと刀を振りかぶった。刀は鋭く仕上がって、こんな花弁(かべん)など()()()()()()()()―――などというのは、()()()()()()()のさ。


「なっ―――⁈」


 そう、()()()今の程度の力なら切り裂ける。だが妖魔から伸びた丈夫な葉脈(ようみゃく)が割って入り、泉の刃を受け止めてしまった。止まった刃は最早(もはや)格好の(マト)、刀は遥か遠くへと弾き飛ばされ、手の届かない場所へと突き刺さってしまた。急を(よう)するあまり、たった一つの武器しか持ち込まなかった泉は、その後の攻撃に反する事が出来ず、気が付けば四肢の自由を、花の根に奪われていたのさ。


「くっ……‼」

「泉はん‼」


 タカが気が付き、動揺する。その動揺すら相手は逃さず、一瞬静止した足元を器用に払い、タカは体制を崩され巴の身体を手放してしまう。その時運悪く、鎖鎌(くさりがま)が花畑に転がった。泉同様自由を奪おうと伸びる根が邪魔をし、あと少しで手に取れる鎖鎌が遠のいていく。

 状況は妖魔の独壇場(どくだんじょう)となった。身動きの取れない便利屋二人に、満身創痍(まんしんそうい)の巴、それから手中に収めた(いと)しの彼女()―――ポッドの中で、百合子本体が片笑(かたえ)んだ。


「くっそぉ……‼」

『無駄だよ。もうお終い―――そして私と咲の物語が始まるの』

「―――タカッ……‼」


 妖魔の勝利が漂い始めた、その刹那(せつな)


「―――うっせぇんだよ‼‼」


 復讐地獄に木霊(こだま)する、耳を(つんざ)く真っ直ぐな罵声。なんと、先程(さきほど)まで動けずにいた巴が今、妖魔を前に立ち上がり、威勢のいい声を上げたんだ。視野の外からの挑発文言(もんごん)、妖魔は首を(かし)げるように根を揺らした。巴の目は何時(いつ)もの揺らいで()びたなりではなく。(つい)(おのれ)と決着をつけ、(りっ)された眼光を放っている。


『……死にぞこないが。結局何も変わらなかったんだね』

「言ってろ―――アンタこそ、()()()()()()()()()()()()()()()ってのに‼」

『何……⁈』


 今の巴の目に映る百合子は、おぞましく威圧のある姿をしていた―――が。それ以上に変化を望まない、ある意味ではお似合いの醜さにしか見えていない。

 巴は何度でも、成長しようとしない百合子を馬鹿にするつもりで、怯える心の底から虚勢(きょせい)を張り続ける気でいた。


(さん)(ざん)『変わらない』、『変わらない』って、どの口が言ってんのよ‼ ええ、あたしが全部悪いですとも‼」

『開き直って―――樋口‼』

「口を挟まないで‼ いい⁈ 鹿島百合子‼」


 巴の首、声帯の位置するその皮膚に、結界を象徴する文様(もんよう)が浮かんでいた。(うず)く文様を両手で抑え、それから大きく息を吸い込んだ。


「―――アンタは馬鹿だから、周防さんのくれたチャンスを台無しにしたんだよ‼」


 『何のこと、何の、何のこと……‼』と酷く動揺する妖魔。巴は(なお)も主張を繰り返す。


「周防さんはねぇ‼ アンタに成長して欲しかったんだよ‼ あんな約束だって、アンタが変わろうとしないから言ったんだ‼ なのにアンタは、周防さんに言われても変わろうとしなかったじゃんか‼」

『―――知ったような口を……‼』


 此処(ここ)まで挑発され怒り心頭の妖魔は、それまで便利屋二人に向けていた敵意全てが、巴の方へ向かって行くのを感じ取った。(あらが)う事の出来ない、敵意の推移(すいい)―――それは巴が発現させた、『嗜虐心(しぎゃくしん)逆撫(さかな)でする結界』による、ヘイトスピーチの効力のせいだろう。

 花の根は櫛刃(くしば)を構えた巴に集中攻撃を仕掛けた。捕らえるなんて野暮(ヤボ)な事でじれったい、()ぐにでも殴り殺さんと猛攻(もうこう)が繰り出される。当然戦闘に不慣れな巴は、三分と満たない内に櫛刃を真っ二つに折られてしまった。

 櫛刃は縮んで、なすすべが無くなった。しかし巴の瞳はひと時も揺らがない。遂に妖魔が動き出し、根の全てが殺しに掛かった―――その時だった。


「―――引き裂け、『鎌依断(カマイタチ)』ぃ‼」


 ―――間に合った……‼

 数十の根は一纏めにされ、鎖鎌から繰り出された円形の斬撃により、一本残らず()り取られた。妖魔の手から逃れたタカが、鎖鎌を掴んで咄嗟(とっさ)の行動に出たんだ。たじろぐ妖魔をよそに、再び斬撃波が放たれて、今度は泉を囚われから解放した。


「巴ちゃん‼ よぉ頑張ったなぁ‼」

「え、あっ……うっす‼」

「いい返事やなぁ! 泉はん、動けるか?」


 「問題は無い」と言う泉。心配を寄せる二人に、不都合が生じた妖魔は、傷だらけのままの根を二人へとぐんぐん伸ばしていく。それを阻んだのは、巨大な『白百合(しらゆり)』の盾であった。見ると、咲が囚われている黒百合は何時の間にか、一回り大きい白百合が包んで、そこから黒の花畑を塗り替えている。

 そして本当の気持ちを吐露(とろ)した巴にも、互いを純粋に思う便利屋二人にも、それから怒りも何もかもが()()()()になった百合子本体にも、胸元からは白百合が覗いていた。


「これって―――周防さん……⁈」

「……成程。〝元人間〟が出来うる(結界を扱う)ことを、それよりも高位な〝人間〟が出来ないハズはない、か」


 これは類を見ない事象であった。この白百合の正体は、人間である周防咲が発現させた『結界』の作用であった。言うなれば『白百合を咲かせる結界』、それがただ花を咲かすだけにとどまらず、純粋な感情や考えを引き出すこともできるというのか―――なんにせよ、妖魔の感情が取り留めのない状態の今、便利屋二人の能力は格段に上昇していた。


『咲っ……ッ、咲ぃっ……‼』

「決めるで、泉はん‼」

「ああ、終わらせよう‼」


 二人が指輪に優しく触れたとき、周囲の結界が収縮して、各々(おのおの)の手中に収まった。それを武器と共に天高く掲げると、武器と結界全てが混ざり合い、一振りの大太刀へと姿を変えた。泉が大太刀を握り整然と構えた時、その場の感情が大太刀に引き寄せられる。力を十分に蓄えた刀は煌々(こうこう)と赤く輝いて、その刀身に熱が広がっていく。


「今こそ此岸(しがん)の未練を断ち切らん―――覚悟せよ‼」


 泉が地面を蹴り、正中線に刃が重なった。



「―――彼岸(ヒガン)(ソウ)(ソウ)ッ‼」


 ―――()()。妖魔ははらはらと崩れ去り、蜘蛛の糸は断ち切られ、地獄も崩壊していく。泉が差し出した手に、タカは鋭く拍手を払った。


「「これにて落着、是非とも便利屋へおいでませ‼」」

※本エピソードは「小説家になろう」への投稿として公開されており、後にエピソードの内容が変更される可能性がありますことを、ご留意ください。

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