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おいでませ幽鬼神道町  作者: 狐面 シノ
壱話「百合咲く少女ら指切限満」

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■肆章『見知った顔と知り得ぬ怒炎』

 風の次に肌が触れたのは、何処(どこ)か柔らかい布に寝かされている、と()う感覚だった。咲が覚えているのは、墓地で襲われた酷い眩暈(めまい)と、その後の落下の事である。落下については夢なのだろうし、着地点に人が居てぶつかったのも、本当は気のせいだ―――と、咲は思いたかったのだが……。目を開いた瞬間、その思い込みは通用しないと確信してしまう。


「……ん?」

「……。ぅわぁっ⁈」


 先程から感じていた妙な視線の主は、咲の目と鼻の先まで顔を近づけて様子を(うかが)っていた。しかもそれが、何時(いつ)かの見覚えのある青年だった事―――そもそも人間じゃないと知っていた―――から、意図せず飛び起きて、間抜けな声を挙げてしまう。

 今更隠す事も無いのだが、咲が便利屋二人に直撃した後、タカは必至こいて二人を事務所まで運んでいた。(しばら)くして(いずみ)はケロッと目を覚まし、二人は状況を確認する。()ず、この少女が「周防(すおう)(さき)」本人である事、()だ生身の人間であると云う事、中々目を覚まさないと云う事。

 泉が恐る恐る顔を近づけた時、丁度意識が覚醒してしまった……と云うのが事の顛末(てんまつ)だ。泉は余りにも驚いて狼狽(ろうばい)する咲を、ただ不思議そうにじっと見つめていた。


「……えっと、な、なんでしょう……」

「いや……起きたんだな、と思った(まで)だ」

「そう、ですか。あの―――」


 ―――何がどうなって、此処(ここ)はどこなのでしょう?

 そう尋ねようとしたのを察したのか、泉は咲の台詞に口を挟んだ。


「此処は便利屋の事務所だ。そして(それがし)は元人間の……」

「泉はん、どっから話始めとんねん。咲ちゃんにも分かるようにせんと」


 ここで救急箱を取りに行っていたタカが二階から戻ってきた。誰だろうと咲はタカに視線を合わせ、何処かぴんと来ていない顔をした。


「……女の子?」

「さっきの声聞いてその感想が出るんか……男やって、女ちゃう」

「あっ、そう、ですよね……」


 「最近は女っぽく無い気もしてんねんけどなぁ」とぼやいたタカ。それよりも泉同様、咲と一度顔を合わせたハズが、どうして未だ「女の子」なんて発想が出てくるのだろうか。だがそう話を持っていくのは(はばか)られると、タカは憤懣(ふんまん)を飲み込んだのさ。

 咲は改めて事務所の中を見渡した。掃除が程々に()されている木造の部屋なのだが、場所によっては強引にパーティションで区切られた空間が目に付く。これは事務所の改築をせずとも何とかなるだろう、と二人が壁として設置したモノである。咲が今いる応接間も、元から応接間らしくはあったけど、そこにパーティションで区切りを入れていて、事務所の中は二人なりの改造が施されているのさ。

 意識が戻ってきたある程度平静を取り戻したのか、咲はいよいよもって質問を切り出せた。


「……あのぉ、前にお会いしたこと、ありましたか……? 確か、百合子(ゆりこ)を止めてくれた……」

「んまぁ、そん時に会ったなぁ。ワイはタカ、こっちのは泉や。んでもって、ここは第二地獄ってとこなんよ」


 タカは親指で泉を指しながら、サラッと自己紹介を流した。その後の「第二地獄」と云う単語に反応して、咲は思わず怖気(おじけ)づいてしまう。


「……えっ、地獄⁈ わたし、なんか悪いことしちゃったのかな……」

「いやぁ、最近は何しても地獄に行くけどなぁ……でも安心せい、別に死によったワケやない。見たところ、未だ生身の人間っぽいしな」


 生身の人間の判別は簡単で、「血色」による部分が大きい。血の気のある色と云うのは地獄の住人からすれば、元人間か(ただ)の人間のどちらかに分類される。無論元人間であればそれなりに活躍しているだろうし、所属もハッキリする位の地位にある。その為「見たことのない血色ある人型」は「人間」と見分けることができるのだとか。他にも種族によっては「匂い」でも分かるそうだ。

 咲自身が死んだから地獄に来たわけでないと告げられて、本人は再び安堵(あんど)することができた。


「良かったぁ……って、地獄―――あっ⁉ そうだ、百合子‼ 百合子、鹿島(かしま)百合子(ゆりこ)はいるんですよね⁉」


 その時脳裏によぎったのは、地獄に紐づいた幼馴染―――百合子の事だった。此処が地獄なのであれば、百合子は探せばいるのかも知れない。それに送った本人達が居るのなら、聞いたほうが手っ取り早い。その問いに警戒心無く答えたのは泉だった。


「……いるんじゃないか?」

「えぇっ⁉ じゃあ早く探さないと―――‼」

「―――泉はん‼ 余計なことは言わんとき‼」


 急いで立ち上がり、玄関に向かおうとした咲。しかし待ったを掛け、タカは結界の力で咲を引き戻した。


「わっ⁈」


 咲は襟元を掴まれて、その場で体制を崩してしまう。タカは咲の身体を受け止めると、「咲ちゃん、分かるけどなぁ……」と行動を(たしな)める。


「あのなぁ……此処は地獄やって言ったやろ。この町の連中は人間を容赦なく食い殺すことも有り得るんよ。迂闊(うかつ)に行動せんといてな」

「うぅ~……でもぉ……」

「『でもぉ……』やない。一先(ひとま)ず閻魔庁に連絡さして貰うわ。ちょい大人しくしとき」

「む~……」


 第二地獄と言えども、地獄は地獄である。人喰い妖怪も人喰いの趣味を持つ者だってゴロゴロ居るんだ。タカはそう言う趣味を持っていないからこそ、咲をこのまま外に出す訳にはいかなかった。

 タカがダイヤルを回し、閻魔庁の知り合いに連絡をしている最中、咲は不服そうに頬を膨らませていた。それに近づいた泉は落ち着いた声音(こわね)で声を掛ける。


「……咲、だったか。故人(こじん)に逢いたい気持ちは分かる。だが異界では自分の身を守る事が最優先だ。その百合子の前で死ぬことにはなりたくないはずだ」

「はぁ……はーい……」


 咲がやるせない気持ちを抱え、泉も煮え切らないままで事が進むのだろうか? ……実際、そんな事は無かったんだ。それは此処から少し離れた、凍結措置をされ運ばれていた百合子の方に巻き起こっていた。

 幽鬼神道町の氷屋の仕事は、氷を売る以外にもこういう罪人を運ぶ事も一環として行われていた。今回措置が取られた罪人は百合子一人、氷屋にとっては珍しく軽い仕事であった。愚痴や噂話をする位の余裕が生まれる程だ。


「……あーあ、氷屋だからって、凍った罪人を運ぶなんざ不釣り合いだっての!」

「仕方ないだろ? 『冷蔵庫』ってやつが出てきてるらしいし、なんでも氷屋が廃業になるとかの噂だ……ヤになるよなぁ……」

「嫌だ嫌だ、ただでさえ氷屋は夏場しか大変にならないってのに。余計、氷屋の印象が罪人運びになっちまうよぉ」


 現世から流れ着いたテクノロジーは、こうして第二地獄に流れ着くこともある。多くが付喪神を抱えていて、ポンコツ冷蔵庫でも問題なく動くと云うのが氷屋の不満を増やしていた。


「それにだ、今運んでいるこの嬢ちゃん、こんなナリで暴れたそうじゃないか。俺人間不信になりそうだよ。折角(せっかく)好みの見た目だってのに、勿体無い……」

「……お前、そう云う趣味が……」

「顔やっての。俺が何処(どこ)を見て言ったと思ってるんだ、その顔は」


 なんて、けらけらと笑っている氷屋は、目の前に立ちふさがる女に中々気が付けなかった。正確にはローブを纏って、女かどうか一見では区別が付かない。しかし掛けられた声は確実に「女」だった。


「―――おいそこの氷屋、ちょっといいかい?」

「……んだお前。黒ずくめで、明らか不審者じゃねぇか」

「第一印象で決めるなよ……どこのどなたですかぁ? こっちは忙しいんですよ……」

「ん? えーっと、閻魔庁だ。その罪人を預かりに来たんでさ、多分」

「多分だぁ?」


 呂律(ろれつ)も回っていない、多分だのえーっとだの、思い出した様に言っている(さま)は、怪しさが天元突破(てんげんとっぱ)していた。


「信じられんな。アンタ、閻魔庁の名刺も見せてくれんのかい?」

「無くしたんだ、そんなことどうだっていいだろう?」

「んなことあるか。おい、閻魔庁に電話できるか?」

「へいへい……えーっと電話電話―――」


 (らち)が明かない不審者だ。電話を取り出そうと(ふところ)を探った氷屋を見て、やれやれと話を続ける女。不意に、周囲がじりじりと暑くなっていき、氷屋は()ぐに異変を察知することになる。


「おいおい、信じてくれないどころか、ツーホーするんかい。ノリの悪い氷屋だねぇ。……仕方ねぇ。わっちを不審者扱いしたのを後悔させてやんよ‼」


 女はローブの中から酒瓶(さかびん)を取り出すと、それを凍結した百合子に投げつけた。氷屋は信じられないと感じると同時に、目の前の女を確実な「危険人物」だと認定した。


「なっ……⁈ おい、罪人に酒瓶投げるなよ―――」

「―――そぅれ燃えろぉ‼」


 直後、女の指輪が光った。それは女が結界を用いた事に直結する。辺りは途端に大気が熱を帯びて、酒を浴びた百合子を中心に「怒りの炎」が現れ出る。

 ―――全ては命令の通りに。女は不気味に笑って見せた。


「おい、ヤバいんじゃねぇか⁈」

「―――ああ、一旦逃げるぞ‼」


 氷屋がすたこらさっさと逃げていく。炎は残された百合子の氷を溶かすにとどまらず、百合子の「復讐心」から成る怒りをも燃やしていく。これこそが彼女―――「慕火(ボヤ)」の結界であった。


「―――さぁて。嬢ちゃん、思う存分怒りを燃やしてくれよなぁ‼」


 百合子はぎらついた瞳を脈動させ、幽鬼神道町を包む程の地獄を展開した。その殺気は只者(ただもの)では無く、事務所にいた咲を含む三人にも、既視感と異常事態を感づかせたのだ。

 幽鬼神道町全土に、黒百合が咲き乱れる―――。

※本エピソードは「小説家になろう」への投稿として公開されており、後にエピソードの内容が変更される可能性がありますことを、ご留意ください。

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