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と、言うわけで。
わたしがお届けする、ちょっと誇張した、わたしの日記帳。
Vtuber二 貂理の物語。よろしければ、ご覧あれ。
私はイタチである。名前はまだない。
……間違えた。あの時の心情を書くなら。正確には、こうだ。
私は化けイタチである。名前はまだない。
そう、化けイタチ。いわゆる一つの妖怪。血を吸ったり、火をつけたり、変化したり。どうやらそう言うことが出来るらしい、妖怪の一種。
「ふーむむ……」
と、そんな何故か分かる自分の状態に首を傾げつつ、岩へ腰かける。さて、どうしてこう
なったのだろうか。少なくともついさっきまで、ただのイタチだったはずなのに。
「考えてみても、何もわからないわけだけど……」
いくら思い出そうとしてみても、出てくるのは薄ぼんやりとした記憶だけ。動物の頃の記憶はこんなものなのかとちょっと前までの自分へ思うが、最後の方でちょっとそれっぽいモノが。
「凄いもの食べてるなぁ、私。」
何やらモヤモヤしたものが噴き出す石ころを飲み込んでいる。その直後から記憶が無く今に至るので、原因はこれだろう。
「なんて。分かったところで何もなし、か」
原因が分かったところで、対応する必要があるお話ではない。化けイタチになった。やれることは一通りやってみた。では何か変わるのかと言えば、何も変わらない。
何も食べなければ死ぬ、という生き物の摂理は残っているのだ。試しに妖術でエサを取ろうとしたのだけど、いやはや難しい。走って捕まえるか、何か人間が育ててるのを取った方が早いね。
「ヘクチ」
後何より、寒い。変化してみたはいいけれど、人の体は毛皮もないから、肌がまるだしである。上手くいかなくて手と足は毛皮に覆われていて暖かいのだけど、胴体がもう寒くて仕方ない。
「戻ろう。うん」
イタチの姿の方が便利だ。毛皮もあるし。
=○=
あれからしばらくたった。とはいえあれから一度も変化はしていないし、これと言って変わったことがあるわけでもない強いて言えば火をつけられるようになって暖かかったり、変な動物が近づいてこなくなったけれど……人に見つかると全力で消しに来る。一回ムカついてイタチ火全力したんだけど、赤いうるさい何かが来たので以来人が近づいて来たら消して逃げるようにしている。高いところになっている木の実が取りやすくなった、と言うくらいか。純粋にうれしいのは。
「と、ご飯取れた」
なんてしている間に、今日のご飯が取れた。よく分からない鳥が一羽。味くらいしか違いは分からないし、その違いも小さなものなので気にしない。食べないと死ぬのだから。
と言うわけで、かぶりつく。この肉を引きちぎる感じがたまらない。味?毎回変わるものは二の次です。
とまぁそんな感覚で食べきり、ホッと一息。水でも飲みに行こうかと考えたところで……背後から、足音が。変な動物でも来たら火を出して追い払おうと、
「あ、イタチだ。こんなところにいるんだ」
あ、人間だ。ここで変な早い塊の中じゃないの、初めてだ。
と、しばらく固まってお互いを見る時間が続く。人間が何を考えているのかは分からないけど、基本これまでに関わってきたのは人が増やしてる鳥を取った時に追われる時くらい。興味深げに見られるのは新しい経験である。
ちょっと興味がわいて、一歩近づく。人間はスッと後ずさった。
とえとて、と二歩近づいてみる。また一歩後ずさった。
……どうしよう、楽しいなこれ。ウズウズしてきたので、ちょっと飛びかかる準備を―――あ、逃げた。
よし、追うか。
「なんで追ってくるの!?」
楽しいから……と言っても、相手には聞こえないのだけど。
ひとまず、追いつかない程度で追いかけよう。
=○=
「なんで、人里まで来たのに、追ってくるの……」
楽しいから追ってきただけだし、人里だろうが気にはしない。
「しかも、律儀に待ってるし……」
獲物として見ていないから、そこまで気にしない。疲れているなら休めばいいと思う。
「はぁ……なんだかなぁ」
言いつつしゃがみ、恐る恐ると言った感じで手を伸ばしてくる。ちょっと頭に触れて、引っ込めて。こちらが動かないでいると、頭を撫でてきた。雑い、頭がグラグラする。不器用かコイツ。
「直で触れられても逃げない……でもイタチだから、飼われてるわけじゃないよなぁ」
なんか言いながら手を放した。立ち上がって歩き出したので、一歩後を追う。
「……まだついてくる、と」
面白そうだし。
「この後、電車なんだけど」
何それ興味をそそられる。
「はぁ……君、大人しくできる?」
よく分からないけど、ひとまず頷いておいた。
=○=
「無事に帰ってこられた、な。ほら、もういいぞ」
そう言っておろされたので、それまで入っていた袋から出る。帰ってこれた、と言うあたりここはコイツの巣だろうか。
「しっかし、どうするかな……ついてくるから連れてきちゃったけど、家族には話せないし……」
何やら呟いているけれど、気にせず歩き回……ろうとしたら、抱え上げられた。
「っと、当たり前だけどお前汚いな」
ものすごく失礼なことを言われた気がする。野良イタチだぞ、当たり前じゃないか。
「このままにして部屋中土まみれは嫌だし……二階の風呂なら誰も使わないから、掃除すればいいか」
などと言いながら移動を始める。さてどこに連れていかれるのかと思っていると、なにやらつるつるとした地面の場所に。というかコイツの巣広いな。
「さて、流石に人用のシャンプー使うわけにはいかないし、そもそもここにあるの古いからなぁ……ひとまずは、お湯で洗えばいいか」
何だろうこれはと眺めていたら、そんなことを言いつつ何かをひねる。水が出てきた。
……え、何これ便利すぎでは?水が簡単に手に入る。
「んー、ちょっとぬるいくらいだけどこれでいいのかな……動物のが体温高かったりするし、いいとは思うんだけど」
何か器に水をためつつ、そう言う。お湯。暖かい水をそう言うはず。近づいてみて、前足を入れてみる。あ、気持ちいい。
その器へ入った。縁に頭を乗せる。なるほど、これはこれは……
「……え、イタチって入浴の習慣あるの?マジで?」
何やら言っているが気にしない。そう決め込んで休んでいたら、ゆったりとお湯をかけてきつつ表面を撫でられる。その動きもゆっくりで……それが出来るなら山でも丁寧に撫でて欲しかった。
「っと、ひとまずこれでいいかな……出来れば足も洗いたいんだけど」
足。足か。仕方ないので体を乗り出し、縁に前足を乗せる。
「え、言葉分かるの、イタチって。日本語対応してるの?」
別に話すことはできないが、理解はできる。化けイタチだし。一方通行にはなるけれど、それでも便利なモノだ。なんて考えている間に揉み解すように洗われる。ちょっとくすぐったい。
ついでに終わったあたりで後足も出しておいた。もう特に反応もなく洗われ、面白みがない。
「あ、尻尾」
メチャクチャくすぐったかった。
=○=
全身くまなくお湯で洗われた。それも何度も。「シャンプー使いたい……」とか言ってたけど、それで回数が減るなら使ってほしかった。そう思いつつ、布で全身を拭かれている。
「んー、流石毛の塊。拭いても拭いても乾かない、か」
言いつつ立ち上がり、何かを探る。これまでは常に目を離さなかったのだけど、もう逃げないと踏んだのだろうか。
「お、あったあった。古いけど……ちゃんと動く、な」
と、何かを取り出し蔦を壁に差し込んだ。何かの前に手をかざして確認しているが、あれは何なのだろうか。なんて考えている間にそれを地面へ置き、私を布で包んで持ち上げる。と思ったら座った足の上に置かれた。
「熱風は……流石に暴れるよなぁ」
言いながら何かを取る。暴れるって、何をするつもりだコイツ。警戒だけ忘れないようにしていると……何やら冷たい風が吹き付けられた。驚いている間に、当てながら撫でられる。濡れた体が渇いていくのは、なんでか気持ちいい。
「……オマエ、ホント大人しいよな。飼われてた?」
別にいつでも逃げられるし、心地よいから逃げないだけだ。あと言葉も分かるから、敵意は無いと分かっているし。
「はぁ……なんだか、奇妙なことになったなぁ」
そんなしみじみと言われても。
「ってか、そもそもイタチって飼っちゃいけないはずだしなぁ。どこかで山に返さないと」
え、イタチって人間の間でそんな扱いなの?酷くない?
「それに、今は大人しいけど出かけてる間どうなるか分からないしなぁ……部屋を出られて家族にばれたらヤバい」
まぁ、群れに別の動物を混ぜるのはよろしく……いや人間よくやってない?ペット、とか言って。
「……よし、今日はもう考えるのやめよう。明日の俺、任せた」
と言うと、一度手を止め木の何かを取って目の前に置く。何をしているのかと思えば、その上に出会った時も見ていた板を置いて……あれ、中で人が動いてないか、これ。え、何これ気になる超気になる。
……よし、聞くか。化けイタチ生二度目の変化を実行する。
「……え?」
「なぁ、人間」
私を足に乗せ顔を赤くして困惑しているが、そんなことは気にしない。人間が中に入った板を手でつつきながら。
「これ、何?」
とまぁ、そんな感じで。この後もう何悶着かあるわけだけど。
私が野良イタチから野良化けイタチにジョブチェンジして。野良化けイタチから家イタチな化けイタチへジョブチェンジしたのは、こういうきっかけからだった。




