034.祭の後の喫茶店で
半年ぶりとなりましたので、前話のあらすじ!
夏祭りに友人たちと一緒に参加した浴衣女装姿の灯南っちは、おどおどびくびくしながら、祭を楽しみました!
そしてその後、その場にいた巧巳のお兄さんに呼び止められ、告白され……自分男なんで、さーせん♪と断ったのでした。
さぁ、その後のちょっとした葛藤をどうぞ。
克彦さん。
ボクの目の前にいきなり現れて告白してきて、そして自滅していった人。
そして、巧巳のお兄さん。
昨日のステージを思い出して、彼の横顔を思い出して。それでもやっぱりいろいろと考えてしまう。
男だといった瞬間の、あの硬直したような顔。
それはきっと当たり前なこと。
克彦さんはボクを女の子だと思っていたからこそ声をかけたきたのだ。
なら「だまされた」とでも思ってしまってもしかたないかもしれない。
でもそんなの、ボクは乞われて女物の浴衣を着ていただけなのだし、僕に向かって歪んだ感情を向けられたって困る。
あちらの一方的な都合であって、こちらが気にすることじゃない。
でも、どうしてもそのことがしこりとなって残ってしまってるのは、ボクがいま、こうしているように、音泉として、女の子としてメイドをやっているからなのだろうと思う。
音泉が男だってばれたら、みんなボクに冷たい視線を浴びせてくるんだろうか。
巧巳はどうなんだろう。巧巳はボクの事をどう思うのだろう。
巧巳は今、音泉のことをその……それなりに大事にしてくれてると思う。
さすがに戸月くんや、渚凪さんがいうみたいに、気になってるんじゃないの? というのは鵜呑みにしてないけど、少なくとも嫌われてはいないし、むしろ大事にされてると思う。
いろいろ気にかけてくれたり、声を掛けてくれたり。何より、灯南にはしないような、大人っぽい物静かな笑顔を向けてくれる。
そんな巧巳が、ボクが男だと知ったらどう思うんだろう。
ううん、違うんだ。巧巳に対してだけは違う。音泉が男だと知られるって意味合いじゃなくて、音泉と灯南が同一人物だってことがばれるってことの方がマズイ。今まで嘘をついていたことがばれるって事なんだ。
そうなったら巧巳はボクを許してくれるのかな。それとも許してくれないのかな。
許してくれたとしても、やっぱり関係は変わっちゃうんだろうか。
今までの関係が壊れるのは。ヤだな……
「どーしちゃったの? ぼーっとしちゃって」
「ひっ」
ぽんと肩に手を置かれて、ボクは思わず変な声をあげてしまった。
ロッカー室で着替えが終わったあとに、ちょっと考え事に集中してしまっていたのが良くなかったみたいだ。
「また、なにかあった?」
そんな様子のボクに愛水さんは困ったような、それで面白いものをみるような様子で尋ねてきた。
「またって、言わないでくださいよぅ」
そりゃまぁ、確かにボクは顔に出やすいタイプだけど、また、なんて言われるのはちょっと切ない。
うーん、と思い起こして、ボクは核心部分だけを彼女に尋ねた。
「男同士の恋愛って、どう思います?」
「これまた、いきなりだね」
休みになんかあった? と聞かれたので、ボクは、いえと曖昧に答えた。
まぁ、愛水さんはボクのことを女性としか思ってないから、万が一にも僕が男性に告白されたからこんな質問をしているのだとは思わないだろうけど。情報はなるべく与えない方がいい。
「この前、てっぱんメシってお笑い芸人来たじゃないですか」
「ああ、あれね。私も見た見た。もーちょー灯南ちゃん可愛かった」
「はひ?」
愛水さんが嬉しそうに言うので、ボクは口をぱっくり開けて固まった。
ちょっと、そこでどうしてその名前が出てくるの。
「あ、えと、ほら、ステージに上がってた子いたじゃない? あの子、巧巳くんの友達でね」
池波ミナなんて名乗ってたけど、完全に偽名だよと彼女は言った。
ボクの疑問を、名前が違うことへの疑問だと受け取ってくれたらしい。
巧巳のやつめ愛水さんに灯南の話をするなんてきわどいことをしてくれるじゃないか。
「それで、その……てっぱんメシって、男同士で色仕掛け漫才するじゃないですか。だからその……」
「それは、ないと思うよ」
あいつらのはネタだから、とやっぱり愛水さんもバッサリと斬って捨てた。
けれど美優さんとは違って、愛水さんは、でも、と言葉を続ける。
「男同士の恋愛がないとは言えない、かな。実際、男の人が好きっていう男性だって世の中にいるよ?」
それにね……と、いいながら愛水さんは立ち上がった。
「ひわっ、なにするんですかっ」
愛水さんはわざわざ背中に回って、ボクの肩をわしっと抱きしめた。
「まだ付き合い短いけど、私は音泉ちゃんのことかわいいって思ってるのね。でもこれって別にエッチしたいとかそういうのじゃないわけよ」
女同士だしね、と彼女が言うと、愛水さんの吐息が首筋にあたってぞくりとした。
「この気持ちがすごい強くなって、どうしようもないくらいになれば、身体とか性別とかまったく関係なくなっちゃうのかな、なんて私は思うんだ」
言ってみれば、理性的な恋、かな、なんて愛水さんは戯けていった。
ボクより一つしか上じゃないのに、すごい事を考えているもんだ。
「愛水さんってすごい……」
「っていっても、全部漫画の受け売り受け売り」
だから素直にそう言ったのだけど、愛水さんはテレながら手をひらひらさせてそれを否定した。
「じゃあ、男同士の恋愛はあり、か……」
もしかしたら克彦さんが僕のことを男でも好きだっていう事も十分あるかもしれないわけだ。
もちろんこちらにも断る権利はあるわけだから、お付き合いをすることはまずないとは思うけれど。
でも、……あれだけ愕然としていたし、もう連絡なんかはこないかな。
「まさかっ、音泉ちゃんお耽美系に目覚めた!?」
一人思案にふけっていると、愛水さんがきゃっと言いながらわざとらしいくらいに可愛らしく両手を口に当てて身を引いた。その仕草はあまりにもはまっていたけど、あんまりなのでボクはどよーんとした目で彼女を見つめる。
「お耽美って……聞いたことない単語ですけど、なんだかとてもまがまがしいものを感じます」
「ふふふ。じゃあ開店準備をしながらそこらへんをおねーさんが教えてあげようではないかっ!」
そろそろ準備しないとね、と彼女はいいながら、さぁさぁ今日もがんばりましょーなんて元気よく言った。
そして、お店の方に行くとすでに厨房担当の天笠さんがスタンバイしていた。
まあ、彼はお昼から仕事しているし、こちらのまかないを作ってくれたりするから、いっつも先に入っていてくれるんだけれど。
「それでね、音泉ちゃん! お耽美系っていうのはね、オトコノコ同士のいけないそれでいて美しい恋のことなのよっ!」
「……こら。愛水ちゃん。いたいけなお子様になに嘘おしえてやがるんだ」
ジューとフライパンが鳴る音がする。
今日のまかないはチャーハンだろうか、オムライスだろうか。
「えー、いいじゃーん! てか、嘘ってどういうこと? それとも天笠さんってそういうのに偏見ある人なんだ?」
「んー、いやぁ、なんつーかな。確かに認識は間違っちゃいないんだろうが、今時は男同士の恋愛はBLものってくくりだろ?」
「あぁー、なるほど! そう言われると、そうかも」
二人で会話が続いている。
「んで、耽美っていうのは、なんかこう、美を象徴するものであって、その手段として常とは違うものをもってくるみたいなものなんだよ。同性愛にありがちな、美しくもはかない関係性ってのもだから、かつては耽美っていわれてたんだ」
「えー、BLだって禁断臭が受けるんじゃないの?」
「否定はしないがな……でも、実際男同士で付き合ってるの知り合いにいるけど、別段特別イケメン同士! とかじゃなくてめちゃくちゃ庶民的だぞ? 一緒に飯くって楽しそうにしてるって感じで」
そこらへんのカップルとかわんないから、と天笠さんは言い切った。
「えええー! 天笠さんお友達にそういう方がいらっしゃるんですか!?」
「って、愛水ちゃん驚きすぎ。中高生くらいで自覚して、それでも自由にやれそうな仕事を探して料理人やろうみたいな感じかな。あとは美容師とか、なにか手に職を持ってる感じな人の方が多いと思う」
ちなみに、千恵里オーナーはどっちもオッケーな人だから、二人とも一線はこえないように、と注意が入った。
「あ、あのボク、テーブル拭いてますね」
ああ、聞いてるのは聞いてますから、お二人でやっててください、というとボクはそそくさ布巾でテーブルを拭き始めた。
同性愛一つとってもこんなにいろいろと語られているのだなぁと思うと、世の中は広いなぁと思ってしまう。
いや、むしろボクの世界がまだまだ狭すぎるということなのかもしれないけど。
学校で同性愛のことに触れた記憶はあんまりないし、ましてや耽美とかBLとか初めて聞くくらいだ。
「はいよっ、俺の渾身の耽美オムライスだ! くってくれ」
「わーい。いただきますー」
「くっ。確かに卵つやつやで美味しそうだけれども」
オムライスをいただくと、男同士の恋愛などどうでもよくなってしまったボクだった。
ご飯が美味ければそれでよい。これが世界の真理というものなのだ。
長らくお待たせしてすんません。ある程度文字がないと……という思いもあって、ちょっとまとまらずに半年経ってしまいました。(他にも理由はあるけれどMO!)
ここからちょっと急展開が入ったり、プロットが雑なので修正が大変だったりします。
なるべく早めに公開したいと思います。




