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033.夏祭りの日に3

一日あいちゃいましたが、投下!

巧巳くんって、音泉と灯南どっちが好きなのかが気になる作者です!

「おつかれっ、いいステージだったよ」

 とんとんとステージから降りてみんなの所に戻ると、美優さんが肩にぽんぽんと手を置いて褒めてくれた。

 もうイベントが終わって小休止に入ったステージは静まりかえっていて、観客もおのおの散り散りになり始めている。次の巨大タイヤキ作りまではもうちょっと時間があるのだ。


「うーん、いいのかなぁ。僕はちょっと」

 よくわかんないやというと、美優さんがそうじゃないそうじゃないと手をひらひらさせながら言った。

 ん? 克彦さんの話じゃないの?


「私が褒めてるのは、となっちの事。まさかあんなにしっかり話せると思ってなかったから」

 可愛かったよーー、とぎゅっと抱きしめながら言われると、僕はあーとため息にも似た声を漏らした。

 たしかにいきなりあんな風に振られて、ちゃんと舞台で話せるようには見えないかもしれないけど。

 そりゃ、いつも音泉としてしゃべってるからね。今こういう格好をしているというのもあるけど、別人を演じているというような感じがあるから、こういう大観衆の前でもちゃんとおしゃべりはできるのである。


 たぶん仮面を付けてるみたいな、そんな感じなんだろうね。普段の灯南としてじゃなくて別の自分がやることだから、どんな冒険だってできちゃう。ちょっとくらい上手くできなくたって明るく元気にやっちゃおうっていう気になる。

「てっぱんメシのほうはまぁ、巧巳さんには悪いけど……可もなく不可もなくかな。まあまあ面白いけどそれほどってわけでもないし」

「それで……克彦さんって……あの……」

 あの相方さんを見つめる視線を思い出して、ドキドキが戻ってくる。

 角度の問題でまるで僕に向けられたような錯覚すら覚えたんだけど、ネタというよりかなりガチな感じのなまめかしいというか、色っぽい流し目だったのである。


「あれは実際に二人ができてるわけじゃないんじゃない? ネタよネタ」

 だってとなっちに声かけてたじゃない、と彼女は言った。

 そりゃそうだね。そうそう男同士で恋愛なんてできるはずないんだから。

 今の姿の僕にも興味を示していたし、ネタということなのかもしれない。


「ちょっとあんた、うちの克くんになに色目つかってんの」

 ステージが静かになって群衆がそれぞれ散っていくのに、彼女らは僕らを取り囲むように集まっていた。かなりの人数だ。

 さっきステージの前方で盛り上がってた人達。僕らより年上だろうね。髪の毛金髪のいかにもギャルって感じの人から、黒髪の普通ぽいねーちゃんまで、いろいろな人種が揃っている。

 ひぃ、こわい。


「それは、言いがかりってもんでしょう」

 けれど僕が震えていたら、ほい。と美優さんは僕の手をひっぱって巧巳にひっかけた。

「見ての通り、このコは巧巳くんのだから、嫉妬するなんてナンセンスだよ」

「……え……」

 言いがかりをつけた子が絶句しているのが見えた。拍子抜けってところなんだろうね。

 さぁさぁうちらに構ってないで、もっと大切な事があるんじゃないの? と美優さんがいうと、彼女たちはくもの子を散らすようにわらわらと居なくなった。


「女子って……こわい……」

 僕は巧巳の腕を掴んだまま、そうつぶやいた。それにしても美優さんはすばらしくあしらい方が上手い。

「まぁ、そんなもんでしょ」

 気にしない気にしないと彼女は笑った。

 熱狂的に好きになる事って怖いんだね。そう言われると音泉もちょっと危険なのかもしれない。知らず知らずのうちに、お客さんがあんな風になっていたらイヤだ。


「そんなことより、どら焼き作りまでどうしよっか。このままここで喋ってる?」

「……そう、だね」

 ちょっと顔を引きつらせながらたたずむ僕に、美優さんはぽんと肩に手を置いて言った。

 僕はまだ不安げに、巧巳の腕を掴んでいた。




「おわっちゃったねぇ、花火」

「今年は盛大だったぁ」

 いつもはもう真っ暗になってしまっている町は、まだ熱気に包まれていた。

 盛大な花火はもう空にうっすらと煙をまき散らしているだけになってしまっているけれど、祭りの熱はまだ冷めてはいない。名残を惜しむかのように町の人達は思い思いに話をしたり集まったりしていた。


「さて残念だけど、そろそろ時間だね」

 門限十時だし帰らないと、と彼女は残念そうに言った。

 やっぱりお祭りの後って名残惜しくって、ちょっと胸の辺りが寂しい感じになる。


「おまえんち、どこだっけ?」

「ああ、いいよいいよ。明るい道だし」

 家はあっちの高台、といって指を指しながらも、美優さんは巧巳の申し出をやんわり断った。そりゃね、夜って言うと男が女の子を送るっていうのは、なんとなく常識な感じだから巧巳も言ったんだと思う。


「送るなら、となっち送って上げてよ」

 あたしなんかより断然、危険が危ないんだからと言うと、美優さんは巧巳の手を掴んで僕の手を握らせた。

「え……って、ちょっとまって」

 僕はそう言われて、はっとなった。そう、彼女は暗にこの恰好のままで帰れと言っているのだ。ずっと彼女の家に一度行って着替えて戻ると思っていたからびっくりだ。


「いやー、さすがに夜に男の子を家に上げるとなると、和砂もうるさいしさ。それにもう両親帰って来ちゃってる時間だから……男の子に女装させてるなんてばれたら怒られちゃう」

 それとも……やっぱし、となっちの家もその恰好だと厳しいかな? なんてこわごわ言われてしまうと、なかなかダメとも言い出せなかった。

 ふむ。確かにそう言われれば異性を女装させて遊ぶというのは、大人から見ればちょっとアレなことなのかもしれない。

 和砂さんはすっごくノリノリだったけども。


 それに親父はもう僕の女装姿に十分慣れっこになっているから、浴衣姿でお化粧までしっかりしてても、きっともうとやかく言いはしない。不憫そうな顔はするけど、そんなにショックは受けないと思う。


「それじゃ、服は後日取りに行くのでいい?」

 そういうと彼女はおーけーと言った。おまけに浴衣は洗わないでそのまま畳んで返してくれればいいとまで付け加えてくれた。そう言えば浴衣の洗い方なんて僕も知らないもんなぁ。これは大助かりだ。


「さてそれじゃ私はこれで。またちょくちょく遊ぼ。和砂もたぶん会いたいだろうから」

 学校の友達は面白くないから助けると思って是非、なんて彼女は戯けて見せながら、片手を上げて先程下ってきた道を帰っていった。

 今日一日一緒にいたけど、なんというか最初にあんなに泣き顔を見せてたのが嘘みたいに、行動力のある子である。


「行っちゃったね……」

「だな……」

 はぁ、と無意味に息を吐き出しながら、僕は彼女が去っていった道を見ていた。

 大変な一日だったなぁという感じもするけど、仕事もプライベートも関係ない女友達という感じで、楽しかった。


「それじゃ、僕達もかえろっか」

 さっき無理矢理繋がれた手を放して僕は巧巳から少し離れる。

 いちおう、美優さんには送って返るといい! なんていわれたけど、これでも僕は男だ。

 さすがに巧巳に送らせるなんていうなんていうのはよろしくないだろう。

 それに、巧巳はこれからやらなければならないこともある。


「送らなくて平気か?」

「へーきへーき。いちおうこういう恰好してるけど、ね」

 巧巳がこっちを見ながらいうもんだから、僕は一回転しながら笑顔で、これでも僕は男だよと言ってあげた。強姦に襲われるなんてことは万に一つもないだろうけど、そうなったらなったで返り討ちにしてやればいいのだ。


「それよりもキミは明日も早起きしてケーキ作りなんでしょ? だったら早く帰って寝ないとダメだよ」

 僕がそういうと巧巳は照れたように笑って、そうだよな、と何回かつぶやいた。


「じゃあ、今度は来週末だな」

「うんっ、楽しみにしとくね」

 お祭りは終わっちゃったけれど、夏休みはまだまだ終わらない。

 夏休み最後のイベントは巧巳と春花さんと一緒に行く海水浴だ。海水浴っていっても、海の中で泳ぐのはあんまり得意じゃないし、どっちかっていうと散策と食べ歩きがメインになる。


 だから僕はそう言うと、またねといって巧巳から離れた。巧巳もそのまま帰っていったみたいだった。さすがに男の人に送ってもらうというのは男としてどうかと思うし、近所の人に変な噂が立つのもイヤだったから素直に帰ってくれてありがたい。


「しかし草履って動きにくいよねぇ」

 一人になると、どっと先程までの疲れが襲ってくるようだった。今まで気を張っていたからあまり気付かなかったけど、草履はさすがに大変で足の裏もふくらはぎの辺りもかなりおかしな力が入ってひりひりしている。仕事の時も履いたけどそんな何日かで慣れるもんでもない。

 たしかにこんな恰好な時に男の人に襲われたらちょっと逃げらんないかも、なんて思いながらも僕はすでに暗くなり始めている町を歩き始めていた。他にも家にそれぞれ帰っていく人なんかもちらほらいて完全に一人きりじゃないっていうのが少しだけ安心だ。


「よかった。見つかって」

 けれど、そんな時、背後から声が聞こえた。

 明らかにつかれてはぁはぁと息が上がっている声だ。

 ずいぶんと辛そうにしている顔には確かに見覚えがあった。忘れるはずもない。ついさっき一緒にステージに立った、巧巳のおにーさんの克彦さんだったんだから。


「ごめん、その……ちょっと、一緒に歩いてもいいかな?」

「ええ……いいですけど……」

 なんだろう、と思いながらもとりあえず僕は肯いて見せた。巧巳の事でも聞きたかったんだろうか。


「巧巳のやつ……最近どうしてるんだ?」

 ほら、やっぱり。お兄ちゃんだもんね。見た感じ一緒に生活してなさそうだし、気になるんだろう。芸人さんもある程度人気が出ると忙しくなるんだろうし、今日を逃したら話が聞けないとか思って必死に僕のことを探したのかもしれない。

 巧巳本人はあんな感じでちょっと険悪な感じだしね。


「どうって……とにかくケーキ作りですねぇ。頭の半分以上ケーキでできてるみたいで」

 僕は巧巳が調理室に立っている姿を思い出して、ふふっとわずかに笑った。

 ほんと。巧巳のケーキは美味しいんだもん。あれだけ熱心だからきっと、いいものができるんだと思う。


「同じ学校に通っているの?」

「ええ。クラスメイトですから」

 そういうと、ふーんと、彼は唸った。

 それからなぜかあまり話もせずに道を進んでいくだけになってしまった。


 住宅街に入ると、もう先程の騒ぎが嘘のように静まりかえっていた。

 あのまま都会にでて宴会を始めてしまっている人達はすでにいないにしても、ちりぢりに家に帰っている人達の姿ももうなくなり始めていて、今ここにいるのは本当に僕と克彦さんだけになってしまった。

「君はその……あいつとつき合ってたりとか……」

 それをチェックしてから、克彦さんは言いにくそうにどもりながら言った。


「……へ?」

 突然、何を言い出すんだろう。確かに僕はこんな恰好をしてるけど、女の子じゃないんだよ。それなのに、なんでそんな発想が生まれるんだろう。

「いえ、巧巳くんとは友達に決まってるじゃないですか」

「じゃあ、別につき合ってるというわけじゃ、ない?」

 しつこく聞かれるので、思い切りうんと肯いてやった。そうしたら、彼は巧巳みたいに押し黙って、何かを思案しているようだった。


「じゃぁ……俺、立候補してもいいかな……」

「は?」

 一瞬何を言われているのかわからなかった。

 立候補。つまり候補者に自分から立つということだ。

 誰が何を選ぶというんだろうか?


「えと、そのつまり……俺とつきあってくれないかってこと」

 よくわからないではてな顔の僕に、彼はかなり恥ずかしそうに言葉を付け足した。

 完全に不意打ちだ。いきなりそんなことを大まじめに言われても、僕としてはどうしようもないと思う。これで僕が女の子だったらちょっとは考えたりとか、場合によっては舞い上がっちゃう所なのかもしれないけど、残念ながら、そんなことはまったくないのである。

 そもそも、それがあってもなくても今は借金の方が最優先なのだ。


「いきなりこんな事を言われても困ると思うんだけど、一目惚れなんだよ。友達からでもなんでもいいんだ。LINEとか、メールアドレスだけでも……教えてくれないかな」

「そんな、こまります」

 僕は慌てて、彼から一歩引いた。

 メールとかLINEって言われてもそんな文明の利器はないし、そもそも友達からでも無理がある。

 持っているのはお店からの連絡用のものだけだ。音泉のものであって、灯南のものではない。

 

「俺の事きらい?」

 嫌いとかどうとか、そう言った問題じゃない。

「そうじゃなくてですね」

 彼が詰め寄ってくるのでさらにもう一歩さがって、僕ははぁとため息をついた。

 そっか。僕はずっと自分は男だって思ってたけど、こんな恰好してるんだもんね。事情をしらない第三者からしてみれば僕は女の子にしか見えないんだ。この外面だけを見て僕を男だと見抜けというほうが、むしろ無理なのかもしれない。

 一目惚れっていうのは、外見でするものだっていうし、あ、あの子かわいいなとか、そういったことから始まるものなのだろう、きっと。


「あのですね、耳をかっぽじってよーく聞いて下さいね」

 とりあえず押しとどめると、彼は目をぱちくりさせながらこちらの声に耳を傾けてくれた。これでようやく話せる。

「今日はこんな格好してますけど、僕はこれでも、男です。巧巳くんとも男友達同士です。だから、池波さんの申し出は却下です」

「はい?」

 克彦さんはまだ理解できてないようで、ぴしっと固まったまま口をぱくぱくとさせていた。それには構わず僕は先を進める。


「この格好だって、友達の陰謀ですからね。たしかに声もあまり低くない自覚はありますけど、女の子じゃないんですよ?」

 浴衣の裾を軽くつまんで、少しだけ恥ずかしそうに顔をふせた。

 なんなら胸でも触ってみます? というと、彼はイヤいいとだけいって後ずさった。

 ほんと。ずりっと。ずりっと後ずさってくれました。


 ずいぶん失礼な話だ。勘違いした挙げ句にそんなバケモノをみるような顔しなくてもいいじゃないか。

 でも、仕方ないのかな。和砂さんも言ってたじゃない。女装することがばれたらお天道様の下を歩けないとまで言ってたしね。

「それじゃ僕はもう行きますね、家族が心配するといけないですから」

 そのままここにいても仕方がないので、僕は放心状態の彼を置き去りにして、家への道を帰りだした。少し離れて振り返ってみても彼はまだショックなようで動く気配の一つもみせはしなかった。


きゃー! 同性愛をディスるとかーー!(再び)

まー、でもどこかのカメラバカみたいな人じゃないとなかなか、「あーそうなんだーふーん」とはならない、もんだろうなぁと。


そして兄弟そろってトナちゃん好きになるとか、まったくもう! ですよねー!

巧巳くんはまだまだ揺れておりますけれども!


次話はメイド喫茶の開店準備中な光景です。お祭りの反省会的なアレですね。

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