3
学院襲撃事件から数日後。
王立学院は表面上、平穏を取り戻しつつあった。
抉れた石畳は修復され、焼け焦げた花壇には新しい苗が植えられ、崩れた壁も急ピッチで直されている。
生徒たちの間でも授業や試験や恋愛話が再開し、ひとまず“日常”は戻ってきた。
……戻ってきたのだが。
「おはよう」
朝の校門前でそう声をかけてきた青年に対し、挨拶を返した生徒たちは一様に微妙な顔をした。
レオ・アルバート。
王直属部隊所属、学院に臨時滞在中の男。
襲撃の日までは、爽やかで優しくて顔がいい、誰にでも分け隔てなく接する理想の王子様先輩として大人気だった人物。
そして今では。
――あの笑顔のまま魔族の腕を握り潰した人。
――悲鳴を聞いてちょっと楽しそうにしてた人。
――隊長に「好きにやれ」と言われた途端、戦場を更地にしかけた人。
という認識が追加されていた。
もちろん、助けてもらった恩はある。感謝もある。
だがそれはそれとして怖い。
びっくりするくらい怖い。
「お、おはようございます……」 「うん、おはよう。あれ、元気ない? まだ怖い夢とか見る?」 「えっ」 「見るなら医務室の先生紹介するけど」
あまりにも自然に気遣われて、生徒は一瞬言葉に詰まった。
レオはいつも通りの、眩しい笑顔だ。声も優しい。距離感もほどよい。
何なら襲撃前より少しだけ、相手の顔色をよく見るようになっている気すらする。
――いや、なんで?
生徒たちは混乱する。
怖がられていることに気づいているはずなのに、なぜ態度が変わらないのか。
気まずくならないのか。
自分が恐れられていると知って、少しは距離を置こうとか思わないのか。
思わないのである。レオは。
なぜなら彼の中では、
怖がられていることと、
相手に親切にすることは、
まったく別問題だからだ。
相手が怖がっていようがいまいが、困っているなら助ける。
機嫌が悪そうなら声をかける。
怪我しているなら医務室に連れていく。
荷物が重そうなら持ってやる。
別に善意の発露ではない。
そうした方が円滑だからだし、面倒ごとが減るし、あと単純にその場の空気が明るい方が自分も楽しい。
だから、今日もレオはいつも通りだった。
そして、その“いつも通り”が、別方向で王子様像を補強していくことになる。
「レオ先輩って……なんなんだろうな」 「分からん」 「怖いよな?」 「怖い」 「でも昨日、近所の子どもにめちゃくちゃ優しくしてるの見た」 「……俺も見た」
昼休み。
中庭の隅、木陰のベンチでパンを食べていた男子生徒たちは、ひそひそとそんな会話をしていた。
学院の外門のすぐ向こう、王都の住宅街に面した通りで、レオが近所の子どもたちに囲まれていたのだ。
正確には、囲まれているというより、完全に遊び相手にされていた。
「レオにーちゃん! 見て見て、虫!」 「うわ、すご。でかいね」 「こっちこっち! あっちに変な木の実ある!」 「ほんとだ。食べたら死にそう」 「死ぬの!?」 「たぶんお腹は壊す」
しゃがみ込んで、子どもと同じ目線で話している。
虫かごを覗き込んだり、泥だらけの手を気にせず頭を撫でたり、鬼ごっこに付き合ったり。
普段学院で見せる“王子様然とした優しさ”より、もっと気安くて、妙に慣れていた。
「……なんか、普通に子ども好きなお兄さんって感じだったな」 「そうなんだよな……」 「でもあの人、この前魔族の首を」 「やめろ。ギャップで頭がおかしくなる」
男子生徒たちが遠い目をする。
同じ頃、学院の裏門近くでも似たような光景があった。
町の菓子屋の老婆が、買い物帰りに学院前を通りかかったところを、レオが見つけたのだ。
「おばあちゃん、それ重いでしょ。持つよ」 「あらあら、悪いねぇ」 「いいよ。どこまで?」 「すぐそこの角までだよ」 「じゃあ送る」
自然すぎる。
荷物を持つ手つきも、歩幅を合わせる足取りも、完全に板についている。
しかも老婆が「あんたこの前も飴ちゃんあげた子だろう」と笑えば、「あれ美味しかった。またちょうだい」と屈託なく返す始末だ。
「ずうずうしいねぇ」 「だって好きなんだもん」 「あら、可愛いこと言うじゃないか」 「ほんとだよ。おばあちゃんたち、だいたいお菓子くれるし、昔話もしてくれるし、優しいから好き」 「理由が正直すぎるねぇ」
からから笑う老婆。
レオもつられて笑う。
その光景を目撃した女子生徒は、思わず友人の腕を掴んだ。
「見た!?」 「見た」 「今の、めちゃくちゃ王子様じゃなかった!?」 「王子様っていうか、孫?」 「それはそう」 「でも顔がいいから王子様に見える」 「分かる」
数日前まで“怖い”一色に傾きかけていた学院内の評価が、じわじわと揺り戻しを始める。
なぜか。
理由は単純だった。
レオの子どもと老人への好感度が高いからである。
そして、その理由がまた最悪にズレていた。
「隊長、レオ先輩って、子ども好きなんですか?」
学院側との合同巡回の最中、若い部隊員が何気なくそう尋ねた。
隊長は嫌な予感を覚えながら振り返る。
視線の先では、レオが学院の用務員の老人に捕まっていた。
正確には、捕まっているというより、世間話に付き合っている。
「それでなぁ、昔はこの辺り一帯が全部畑でな」 「へぇ」 「わしが若い頃はまだ学院の塔も半分しかなくて」 「面白いね、その話。続きある?」 「あるとも。ほれ、これ食うか」 「あ、ありがとう」
渡された干菓子を、レオが嬉しそうに受け取る。
笑顔がやけに柔らかい。
若い部隊員が引きつった顔で呟いた。
「……なんか、すごく平和ですね」 「そうだな」 「でもこの人、この前『敵の悲鳴って個性が出て面白いよね』って言ってませんでした?」 「言ってたな」 「同一人物ですか?」 「残念ながらな」
部隊員はしばらく黙ったあと、恐る恐る続けた。
「で、実際どうなんです。子ども好きなんですか」 「好きっちゃ好きだ」 「へえ……」 「ただし理由がろくでもねぇ」 「やっぱり」
隊長は心底うんざりした顔で言った。
「弱いから守りたいとか、無垢だから愛しいとか、そういう殊勝なもんじゃねぇよ。あいつの中で子どもってのは、“面白い生き物”なんだ」 「面白い?」 「ああ。予測不能に動くし、意味分かんねぇ理屈で泣いたり笑ったり怒ったりするだろ。あと変なもの拾ってくるし、すぐ懐くし、同じ話を十回でもする。見てて飽きないらしい」 「うわあ……」 「あと年寄りはお菓子くれるから好きだそうだ」 「小学生か?」 「昔話も聞けるし、優しいから好きだとよ」 「小学生か???」
横で聞いていた副隊長が、疲れた顔で眼鏡を押し上げた。
「実際、そのあたりの好みだけ切り取ると無害なんですがね」 「切り取ったらな」 「問題は、そこに“だから子どもと老人には比較的丁寧に接する”という行動原理が乗ることです」 「結果、妙に善人っぽく見えるんだよなぁ……」
そう。
ここが厄介なのだ。
レオは、弱者だから庇うのではない。
好ましいから雑に扱わないだけである。
だから子どもが泣いていればしゃがんで理由を聞くし、迷子なら親を探すし、転んだら膝の泥を払ってやる。
老人が重い荷物を持っていれば運ぶし、世間話にも付き合うし、店先で飴をもらえば素直に喜ぶ。
その振る舞いだけ見れば、どう見ても優しい好青年だ。
王子様ポイントが高すぎる。
だが、本人の内面にあるのは、保護欲でも博愛でもなく、
「面白いから」
「好きだから」
「お菓子くれるから」
である。
部隊員は頭を抱えた。
「なんでそれで王子様の評価が上がるんですかね……」 「顔がいいからだろ」 「顔がいいの、罪すぎません?」 「俺に言うな」
その日の放課後。
学院の裏庭で、レオは小さな女の子を肩車していた。
学院教師の娘らしい。母親の迎えを待っている間にレオを見つけてしまい、全力で懐いた結果がこれである。
女の子はきゃっきゃと笑いながら、レオの頭にぺちぺち手を置いていた。
「たかーい!」 「よかったね」 「もっと!」 「落ちたら怒られるからこれ以上はなし」 「えー」 「代わりに走る?」 「はしる!」
次の瞬間、レオがその子を肩に乗せたまま走り出す。
驚いた教師たちが悲鳴を上げる。
「ちょっ、レオ殿!?」 「大丈夫だよ、落とさないって」 「そういう問題では……!」 「きゃははは!」
当の本人は大喜びだ。
レオもそれを見て楽しそうに笑っている。
そこへ、偶然通りかかった数人の生徒が立ち止まった。
ひとりがぽつりと呟く。
「……あれ、めっちゃ良いお兄さんじゃない?」 「そう見える」 「いやでも中身はアレだぞ」 「分かってる、分かってるけど……っ」
そのとき、肩車された女の子がバランスを崩してぐらりと傾いた。
見ていた生徒たちが息を呑む。
だがレオは、まるで最初からそうなるのが分かっていたみたいに片手で支え、そのままくるりと抱き直して地面に下ろした。
「ほら、危ない」 「ごめんなさい……」 「いいよ。次はちゃんと掴まって」
叱るでもなく、甘やかすでもなく。
声は柔らかい。手つきも丁寧だ。
そのまま女の子の頭に乗った葉っぱを取ってやり、膝についた土を払ってやる。
見ていた女子生徒が、完全にやられた顔で口元を押さえた。
「無理」 「何が」 「王子様じゃん……」 「この前まで魔族の腕を握り潰してた人が?」 「それはそうなんだけど……でも今の見た!?」 「見た」 「無理、ギャップが強すぎる」 「情緒が死ぬ」
その夜には、学院内の噂はまたひとつ更新されていた。
――レオ先輩、怖いけど子どもにはめちゃくちゃ優しい。
――近所のおばあちゃんに荷物持ちしてた。
――この前も泣いてた子をあやしてた。
――なんなら町のじいさんばあさんに顔を覚えられてるらしい。
――飴もらって喜んでた。可愛かった。
――いやでも怖い。
――怖いけど、なんか、やっぱり王子様っぽい……?
評価が、混沌としていた。
「レオ先輩って、子ども好きなんですね」
翌日。
授業の合間、とうとうそう本人に聞いた女子生徒がいた。
レオは窓際に腰かけたまま、手の中の飴を転がしている。
聞かれて、ぱちりと瞬いた。
「うん? ああ、好きだよ」 「へ、へえ……」 「面白いし」
女子生徒の笑顔が一瞬固まる。
だがレオは気にせず続けた。
「予想外のことばっかするでしょ、子どもって。見てて飽きないし、喋ってると変な方向に話飛ぶし。あと懐かれるとちょっと楽しい」 「……そ、そういう感じなんですね」 「うん。老人も好きだよ」 「おじいちゃんおばあちゃんも?」 「好き。お菓子くれるし」
教室が静まり返った。
レオは飴の包みを剥きながら、まるで天気の話でもするみたいに続ける。
「あと昔の話してくれるじゃん。戦争の話とか、昔の王都の話とか、今はない店の話とか。ああいうの面白い。みんなだいたい優しいし」 「……」 「この飴も昨日もらったやつ。美味しいよ」
ころん、と口に放り込む。
にこっと笑う。
「だから結構好き」
あまりにも屈託がない。
そして、理由があまりにも俗っぽい。
女子生徒は数秒沈黙したあと、耐えきれずに吹き出した。
「……っ、ふふ」 「なに?」 「いえ、その……もっとこう、“守りたいから”とか、“子どもは未来だから”とか、そういう立派な理由かと思ってたので」 「そんなわけないじゃん」 「ないんだ……」 「未来とか言われてもよく分かんないし」
レオは肩をすくめる。
「好きだから優しくする。嫌いじゃないから雑にしない。それだけだよ」
さらりとした口調だった。
たぶん本人にとっては、それがごく自然な価値観なのだろう。
女子生徒は少しだけ目を丸くしてから、ふっと笑った。
「……でも、そういうの、嫌いじゃないです」 「ほんと?」 「はい。分かりやすくて」 「そ。よかった」
その会話を少し離れた席で聞いていた男子生徒が、机に突っ伏した。
「なんでだよ……」 「どうした」 友人が小声で聞く。 「いや、今のでちょっと“アリかも”って思った自分が悔しい」 「やめろ。戻れ」 「だって怖いのに、変なとこだけ妙に素直で……」 「分かるけど戻れ」
そして数日後。
「レオくん、これ持ってきな」 「わ、まんじゅうだ」 「昨日助かったお礼だよ」 「いいの?」 「いいんだよ。若い子はいっぱい食べな」
学院近くの商店街で、レオは完全に年寄り連中の可愛がられ枠になっていた。
八百屋の婆さんに漬物を渡され、菓子屋の爺さんに焼き菓子を持たされ、茶屋の女将に「ちょっと座っていきな」とお茶を出される。
襲撃のとき、商店街側へ抜けようとした魔物をレオがまとめて叩き潰したため、その礼も兼ねているのだろう。
だがそれを抜きにしても、彼は妙に年配者受けが良かった。
「この前の話の続き、聞かせて」 「お、聞くかい。あれはわしがまだ十七の頃でな……」 「十七!? 思ったより若い時代の話だった」
相槌がうまい。
話を聞くのが苦ではない。
そして、相手が差し出す菓子を遠慮なく喜ぶ。
可愛げがある、というやつだ。
物陰からその様子を見ていた学院の生徒たちは、もう何度目か分からない混乱に襲われていた。
「……レオ先輩、商店街のおじいちゃんおばあちゃんに愛されすぎでは?」 「分かる」 「しかも本人も普通に懐いてる」 「さっき『その飴好き』って言ってたぞ」 「犬?」 「大型犬かもしれない」 「ただし人は殺せる」 「急に現実を入れるな」
そこで、たまたま巡回に来ていた隊長と副隊長が合流した。
生徒たちは思わず尋ねる。
「あの、隊長さん」 「ん?」 「レオ先輩って……もしかして、年上に可愛がられるタイプなんですか」 「タイプっつーか、あいつ年寄り相手だと機嫌いいんだよ」 「お菓子もらえるからですか」 「それもある」 「本当にそれなんだ……」
副隊長が淡々と補足した。
「加えて、老人相手だと話のテンポがゆっくりになりますからね。レオは案外、そういう時間を嫌いません」 「へえ」 「昔話も好きですよ。知らない時代の話を聞けるから」 「意外だ……」 「意外か?」 隊長が眉を上げる。 「あいつ、基本的に“自分が知らないもの”に対する興味が強いだけだぞ。珍しい魔物も、変な呪具も、予測不能な子どもも、人生の長い年寄りも、全部“面白いもの”の括りだ」 「……うわぁ」 「感心するところじゃねぇからな」 「してないです」
だが、生徒たちは顔を見合わせた。
確かに、理由だけ聞くとだいぶひどい。
ひどいのだが、行動として出てくるものは、荷物持ちだったり子守りだったり、話し相手だったりする。
それを見ていると、どうしても“優しい人”に見えてしまう。
「なんか、ずるいですよね……」 女子生徒がぽつりと呟いた。 「何が」 「怖いのに、こういうところでちゃんと好感度を稼いでくるのが」 「本人、稼ぐつもりないぞ」 隊長が即答する。 「そこがまたずるいんですよ……!」
それは本当にそうだった。
その日の帰り道。
学院の前で、近所の子どもたちがまたレオにまとわりついていた。
今日は紙飛行機大会らしい。誰が一番遠くまで飛ばせるか競っている。
「レオにーちゃんもやって!」 「いいよ」 「ずるしちゃだめ!」 「しないしない」
レオは器用な指で紙を折る。
さらさらと、慣れた手つきだった。
「上手!」 「昔やったことあるからね」 「飛ばして!」 「はいよ」
ひゅ、と飛んだ紙飛行機は、綺麗な弧を描いてかなり遠くまで滑空した。
子どもたちが歓声を上げる。
「すごーい!」 「ね、僕うまいでしょ」 「もういっかい!」 「いいよ」
その笑顔を見て、通りすがりの女子生徒が立ち止まった。
しばらく眺めたあと、隣の友人に小さく言う。
「……やっぱり王子様なんじゃない?」 「何を見てそう思った」 「子どもに優しいし、お年寄りにも優しいし、顔がいいし、笑顔が眩しいし」 「この前の戦闘見たよね?」 「見た」 「腕握り潰してたよね?」 「握り潰してた」 「なのに?」 「なのに……」
女子生徒は悔しそうに眉を寄せた。
「なのに、王子様みたいって思っちゃうんだよ……!」
友人は深くため息をついた。
だが、否定はできなかった。
子どもが転べば手を貸し、老人が困っていれば荷物を持ち、誰かが泣いていれば理由を聞く。
その理由が「面白いから」「好きだから」「お菓子くれるから」というズレたものでも、表に出てくる振る舞いだけ見れば、どうしたって優しい。
王子様の仮面が強化される。
しかも本人は演じていない。
素でこれをやる。
そこがいちばん質が悪い。
紙飛行機を飛ばし終えたレオが、ふとこちらに気づいて手を振った。
「やっほー。君たちもやる?」 「えっ、いや、私たちは……」 「楽しいよ。子どもたち、容赦なく勝ちにくるし」 「それはちょっと面白そうですけど……」
結局そのあと、生徒たちまで巻き込んで紙飛行機大会は日没まで続いた。
優勝したのは近所の七歳の男の子で、レオは「くそ、風読みが甘かった」と本気で悔しがっていた。
帰り際、菓子屋の老婆が「みんなで食べな」と焼き菓子を差し入れに来て、レオが真っ先に「好き」と言ったせいでまた笑いが起きる。
その輪の中心にいる彼は、返り血も凶気も何もない、ただの明るい青年にしか見えなかった。
けれど学院の生徒たちは、もう知っている。
この男の中には、笑顔のまま敵を壊す災厄がいる。
子どもに紙飛行機を教える手で、魔族の首も折れる。
老人にもらった飴を嬉しそうに舐める口で、敵の悲鳴は個性が出て面白いと平然と言う。
そのちぐはぐさが、恐ろしくて。
同時に、妙に人を惹きつけた。
「……レオ先輩って、本当に何なんだろうね」 誰かがぽつりと呟く。
子どもたちに囲まれて笑う横顔は、ひどく綺麗だった。
まぶしくて、温かそうで、近づきやすい。
だから皆、つい手を伸ばしたくなる。
たとえその正体が、触れ方を間違えれば焼け焦げる太陽だとしても。
そして隊長は、その光景を少し離れたところから見て、盛大にため息をついた。
「……なんでこれで王子様評価が上がるんだ」 「顔がいいからでしょうね」 副隊長が即答する。 「あと子どもと老人に対する態度が、結果だけ見ると満点です」 「理由は最低だがな」 「ええ。ですが世の中、理由より見た目の行動が勝つことはままありますので」 「世知辛ぇ……」
隊長が頭を掻く。
視線の先では、レオが子どもに肩を貸し、老婆から飴をもらい、女子生徒に焼き菓子を半分渡していた。
どう見ても善良だ。
どう見ても好青年だ。
どう見ても、王子様の顔をしている。
中身はまったくそんなものではないのに。
「隊長ー」 レオがこちらに気づいて大きく手を振る。 「おばあちゃんにまた飴もらった! あとこれ、子どもたちと作った紙飛行機!」 「報告の内容が平和すぎて腹立つな……」 「褒めて?」 「なんでだよ」 「いい子にしてたから」 「お前の“いい子”は信用ならねぇんだよ!」
レオはけらけら笑う。
その笑い声に、子どもたちもつられて笑う。近くの老婆まで「元気でいいねぇ」と目を細める。
そうしてまた、王子様の像は補強される。
本人の知らないところで。
本人のズレた嗜好によって。
弱者に興味はない。
けれど、子どもは面白いから好き。
老人は優しくて、お菓子をくれて、話が面白いから好き。
そのあまりにも身も蓋もない理由が、結果として誰かを助け、誰かを安心させ、誰かに「優しい人だ」と思わせてしまう。
それはたぶん、善ではない。
博愛でもない。
ただの気まぐれと嗜好の延長だ。
それでも、救われる側にとっては、理由なんて案外どうでもいいのかもしれない。
明日もきっとレオは、迷子の子どもを見つければしゃがんで目線を合わせるし、商店街の老人に呼び止められれば足を止める。
お菓子をもらえば素直に喜ぶし、昔話は最後まで聞く。
そうしてまた学院中の誰かが思うのだ。
――やっぱりレオ先輩って、怖いけど王子様みたいだ。




