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仮装パーティー

10月31日。ハロウィンの時期。


「紬ちゃーん、トリックオアトリート!」


元気よく両手を広げる早江。


「“お菓子か悪戯か”という意味だな。あいにく私はお菓子を所持していない。悪戯で頼むよ」


即答だった。


「じゃあ……くすぐりだ!」


そう言って、早江は紬の脇に手を伸ばす。


「何をしているのだ?」


「え?……くすぐったくないの?」


「私にそのような感覚はないな」


紬は淡々と答える。


そして、ふと思いついたように手を伸ばした。


「では、こちらも試すとしよう」


「え、ちょ――」


紬の指が早江の脇に触れる。


「あひっ……ははっ……や、やめっ……!」


一瞬で崩れる早江。


「楽しそうじゃないか」


「ちがっ……あっははは……!」


笑いながら必死に逃げようとする。


しばらくして、紬は手を止めた。


「なるほど。これが“くすぐり”か」


「はぁ……はぁ……もうやらないで……」


早江はその場にへたり込む。


紬はその様子をじっと見つめていた。


「……興味深いな」


早江が息を整えて言った。


「そうだ、仮装してみない?」


「仮装とは?」


紬が首を傾げる。


「普段の自分とは違う格好をする……みたいな?」


「それなら、外で着る服で十分ではないか」


「そういうことじゃなくて……あった、こういうの!」


早江はスマホを取り出し、画面を紬に見せる。


そこには、マントを羽織った吸血鬼のコスプレ写真が映っていた。


「これが仮装か……」


紬はしばらく見つめる。


「意味が分からないな」


「意味なんていらないの!」


早江は勢いよく立ち上がった。


「取り敢えず百均で買ってきたから、着てみよ!」


袋をガサガサと漁り、黒いマントを取り出す。


紬はそれを受け取り、少しだけ考える。


「……非合理的だが、興味はある」


紬はマントを羽織り、ロリータ衣装に着替えた。


カーテンが開く。


「か……か……可愛い!血吸って!」


早江のテンションが一気に跳ね上がる。


「私は血なんて吸わないぞ」


紬は冷静に返す。


「吸血鬼は血を吸って眷属増やすから……ある意味、私達が目指してるものかもね」


ふと、早江がそんなことを言った。


「……どういう意味だ?」


「ほら、家族を増やすっていうか……繋がりを作るっていうか……」


言いながら、自分でも少し照れくさくなる。


紬はしばらく黙って考えた。


「なるほど。ならば私は“血”ではなく、別の方法で増やすべきだな」


「いや増やす前提なんだ」


思わずツッコミが入る。


早江は無言でスマホを構え、パシャパシャと写真を撮りながら言った。


「言い忘れてたけどさ……会社で仮装パーティーがあって。よかったら一緒に来ない?」


「仮装パーティー?一体、何をするのだ?」


紬が首を傾げる。


「仮装して、お菓子食べて、みんなでワイワイする感じ?」


「お菓子か……」


紬は少しだけ目を細める。


「食したことが無い。是非連れて行ってくれ」


その瞳が、ほんのわずかに輝いた。


「お、乗り気じゃん」


早江は笑う。


「この格好のまま会社に向かうのか?」


紬が自分のマントを軽くつまむ。


「あー……ごめんごめん、それはさすがに目立つか。普通の服に着替えて大丈夫。会社でまた着よっか」


「了解した」


紬は素直に頷いた。


徒歩で40分、3キロの道のりを経て会社に着いた。


「ここが早江の会社か……どこにでもありそうな見た目だ」


「まぁね、実際どこにでもある会社だし」


二人はそのまま中へ入る。


廊下を歩いていると、二人の女性社員が駆け寄ってきた。


「雨宮さん!やっと来てくれた!」


「あはは……どうも……」


少しぎこちないが、いつもよりはちゃんと返せている。


「その子どうしたの?」


「え、可愛い!」


視線が一斉に紬へ向く。


早江が答えに詰まった、その瞬間――


紬が一歩前に出た。


「雨宮紬だ。早江の子のようなものだ」


「え!?」


空気が一瞬止まる。


「雨宮さん……何歳で産んだんですか!?」


「ち、違います!!」


早江が慌てて手を振る。


「紬、それだと誤解されるから……別の言い方で!」


「すまない」


紬は素直に頭を下げた。


「じゃ、仮装楽しみにしてるね!紬ちゃんもまたね!」


「お菓子、いろいろ準備してるから!」


「あぁ、また会おう」


紬は軽く手を振った。


二人がその場を離れると、早江が小さくため息をつく。


「紬が私の子って言ったら……変な勘違いされちゃうから、言い訳考えないと……」


「む?変な勘違いとは?」


紬が首を傾げる。


「10代で子供産んだ無責任な人って思われちゃうでしょ」


「人間としては、良い事をしているように思えるが」


「社会が許さないの!」


間髪入れずに返す。


紬は少しだけ考え込んだ。


「……社会とは、随分と不合理だな」


「ほんとそれ」


苦笑しながら頷く早江。


そんな会話を交わしながら、二人は更衣室へと入っていった。


「なぁ早江、この歯は付けないといけないのか?」


「付けた方が雰囲気出るかなって」


付け八重歯を装着した紬が、少し口元を気にする。


「違和感が凄いのだが……」


「まぁまぁ、行こ!」


「致し方ない……慣れるとしよう……」


二人は会場へ向かう。


オフィス内はデスクが片付けられ、広いスペースが作られていた。

机の上にはカラフルなお菓子がずらりと並んでいる。


「おぉ……様々な格好をしている者がいるな……」


メイドやナース、警官に、ほぼ普段着の人まで。統一感のない仮装が逆に賑やかだった。


「早速お菓子取りに行こっか!」


そう言った瞬間――


「お、雨宮ちゃんじゃん!仮装しない感じ?」


別の女性社員が声をかけてくる。


「あぁ……はい……」


少しぎこちなく返す早江。


「確かに仮装していないな。不平等だ」


紬が横から真顔で補足する。


「おや?この子は誰?」


「私は雨宮紬。里子だ」


「よろしくねー紬ちゃん!吸血鬼の格好なんだ!眷属にしてほしいなぁ」


軽いノリで顔を近づける女性社員。


「あぁ、よいぞ」


紬はあっさり了承し、両手を相手の頬に当てようとする。


(え、嘘でしょ……?)


――その瞬間。


「ちょっと待って!」


早江が慌てて引き剥がした。


「紬は私を眷属にするんでしょ!」


思わず出た言葉。


「……あぁ、すまない」


紬は素直に頷く。


「じゃ、ま……また会おうね〜」


女性社員は少し頬を赤らめながら、その場を離れていった。


早江はどこか不機嫌そうに視線を逸らす。


「何故不機嫌なんだい?」


紬が不思議そうに覗き込む。


「別に……紬は家族を作れるなら誰でも良いんだ……」


早江は視線を逸らしたまま、小さく呟く。


「選べるなら、私は早江を選ぶぞ?」


即答だった。


「なっ……」


思わず振り向く。


「そういうとこ、ちょっと卑怯……」


頬を少し赤くしながら言う。


「うむ?」


紬は意味が分からないといった顔をする。


「何が卑怯なのだ?」


「そういうの……さらっと言うからだよ……」


早江は小さくため息をついた。


紬は少しだけ考え込む。


「……事実を述べただけなのだが」


「それがずるいの!」


二人は紙皿を取って、お菓子が並べられている机に向かった。


「やっとお菓子にありつけたな」


「どれにしよっかな〜」


「この金色の小包はなんだ?」


「チョコじゃない?あと、そのカラフルなのがグミ、あれが飴ね」


「お菓子とは、一種類ではないのだな……迷うな」


紬は少しだけ考えたあと、いくつかを選んで皿に乗せた。


「お、ちゃんと選んだね」


「一度に多く摂取しても分析が雑になるからな」


「食べるのに分析とか言わないの」


早江が苦笑する。


紬は金色の包みを開け、中のチョコを一口かじる。


「……甘いな」


「でしょ?」


「だが、不快ではない」


少し間を置いて、そう付け加えた。


早江はそれを聞いて、小さく笑う。


次に紬はグミを手に取る。


軽く指で押してから口に運ぶ。


「……食感が独特だ」


「それがいいんだよ」


「なるほど……」


紬はもう一つ手に取りながら、小さく頷いた。


二人は紙皿を取って、お菓子が並べられている机に向かった。


「やっとお菓子にありつけたな」


紬が期待を滲ませる。


「どれにしよっかな〜」


早江は楽しそうに見回す。


「この金色の小包はなんだ?」


「チョコじゃない?あと、そのカラフルなのがグミ、あれが飴ね」


「お菓子とは、一種類ではないのだな……迷うな」


紬は少しだけ考えたあと、いくつかを選んで皿に乗せた。


「お、ちゃんと選んだね」


「一度に多く摂取しても分析が雑になるからな」


「食べるのに分析とか言わないの」


早江が苦笑する。


紬は金色の包みを開け、中のチョコを一口かじる。


「……甘いな」


「でしょ?」


「だが、不快ではない」


少し間を置いて、そう付け加えた。


早江はそれを聞いて、小さく笑う。


次に紬はグミを手に取る。


軽く指で押してから口に運ぶ。


「……食感が独特だ」


「それがいいんだよ」


「なるほど……」


紬はもう一つ手に取りながら、小さく頷いた。


そのとき、紬の耳に小さな声が届いた。


「雨宮さん……あんなに喋ってるところ、初めて見た……」


「ね。隣の子、一体何者なんだろう……」


紬は何も言わず、お菓子を口に運びながら考える。


(早江も……苦労して、ここまでやって来たのだな……)


視線を少しだけ早江に向ける。


楽しそうに笑っているその姿は、どこか誇らしくも見えた。


やがて、仮装パーティーの終わりが近づく。


二人は静かに帰る準備を始めた。


「お菓子とやらは、不思議な食感だった」


「ね〜、私も久々に食べたかも」


軽く会話を交わしながら、更衣室で着替える。


そのとき――


「あれ、雨宮さん帰る感じ?」


「あぁ……はい……すみません」


少しだけ申し訳なさそうに答える。


「次はクリスマスパーティーだと思うから来てね!紬ちゃんも!」


「あぁ、そのときはまた参加させてもらうよ」


紬は自然に答えた。


帰り道。


街灯の明かりの下を、二人並んで歩く。


「クリスマスパーティーも行きたい?」


早江が何気なく言う。


「あぁ、クリスマスとやらは知らないが……実に興味がある」


紬は迷いなく答えた。


「そっかそっか」


早江は小さく笑う。


少しだけ足取りが軽くなる。


紬はそんな様子を横目で見ていた。


「……何がそんなに嬉しいのだ?」


「え?あー……なんか、紬が楽しそうだからかな」


照れくさそうに頭をかく。


紬は少しだけ考える。


「ならば……今後も楽しむとしよう」


「うん、それがいい」


夜の空気は冷たかったが、二人の間にはどこか柔らかい温度があった。

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