第二章 不安要素と新たな道具
I
穂希は不本意ながら神様の依頼とやらを引き受けることとなった。
月読命と名乗る男性の神様にまんまとはめられた感じもするが、兎にも角にも穂希は神様が求めるお守り作りというのをやらなくてはいけなくなったのである。
少しばかり不貞腐れながらも、穂希は月読命に問いかけた。
「……それで」
「と、申しますと?」
月読命は分からないとばかりに質問を質問で返した。
穂希は一つ息をついて。
「さっき、手まりがどうこうと言っていただろう。私は何をすれば良いんだ。手まりが関係していることは理解したが、先に述べた通り私は素人だぞ」
そこである。
穂希はその点がいまだに納得がいっていなかった。
独学で覚えて作れるようになった手まりは、本屋の手芸コーナーで手まりを製作する書籍が販売されていたからだ。コロコロと小さく可愛らしく、それでいて宝石のように輝きを放っていた。
実際は刺繍糸などの糸の光沢によって輝いていたのだが、表紙を見ただけで目を惹かれるほどだったのだ。興味が湧いた、というほうが正しいのかもしれない。
まず、現代において手まりと触れ合う機会自体はほとんどないはずだ。地元の名産品として販売している場所もあるが、そもそも「手まり」を知らない人のほうが多いかもしれなかった。
創作物や物語の中では極たまに登場する。昔の遊び道具だったのだ、時代物であればまったく見たことがないということもないだろう。それに、正月などに使われるポチ袋や年賀状には描かれていることもある。「手まり」という言葉は知らなくとも、絵を見たことがある人はいるはずだ。
だが、実際に触ることや実物を目の前にする機会はほとんどないことだろう。
かくいう穂希もそうであった。
たまたま通りがかった本屋の手芸コーナーへと足を運ぶことがなかったら、おそらく今ですら知る機会はなかったはずだ。
それぐらい現代において珍しいものだと、穂希は思うのである。
穂希が作るのはごく小さな世界だ。
直径八センチ、そんな手のひらに収まってしまうほどの小さな世界である。
その世界を生み出し、彩っていく。球体を作って、色を選んで、模様を刻み込んでいく。花が咲き誇れるように、一つ一つ丁寧に糸をかがっていくのだ。
穂希はその準備にかかわり、完成させる立て役者に過ぎない。主役がお披露目できるようにと、陰ながら引き立てていくのだ。結婚式で花嫁を送り出す、メイクリストや他のスタッフと何ら変わらない。
主役は手まり、引き立て役は自分。
そして、自身が手がけた手まりが人の目に留まり、興味を持ってもらえれば御の字である。
「手まり」という小さな世界を見て貰うこと、それこそに価値があるのだ。製作する自分に焦点を置いて貰う必要はない。
だが、目の前にいる月読命は間違いなく穂希に焦点を置いた。
話を聞くに手まり自体にも興味が湧いたようだが、依頼をしに来た相手は穂希だ。手まりを作る職人と呼ばれる誰かではなく、素人である穂希に仕事を任せるためにここまで来た。
それに、気になることならまだある。
「……先に聞いておきたいんだが、仮に私が手まりを作ったとして、どうやって相手に渡すつもりだ」
「はい?」
「一番大事だと思うぞ。私が作ることは良いとして、普通に手渡そうものなら不審者扱いで通報されるのがオチだろう。しかも、神様である月読命、あんたの話なんてしたらどう考えても頭がおかしいと思われるだろうな」
主に、私が。
最後の言葉は口から出さずに静かに飲み込んでいた。
実際、現代では詐欺やら何やらが横行している。素直に信用してくれる者のほうが少ないかもしれない。それぐらい最近は怪しいと思うようなことが立て続けに各地で起こっていた。
普段、ニュースを見ているだけの穂希でも、自分の身に起こっていないだけでいつ自分の身にニュースのような出来事が起こってもおかしくはないのだ。他人事とは思えない出来事が毎日のように起こっている。穂希がまだ運が良いだけで、いつ何が起こったとしてもおかしくないのである。
そんなご時世で、見知らぬ人から何かを与えられる。確実に訝しむだろうし、何より受け取らない可能性が高い。
加えて、目の前にいる神様の話なんて論外だろう。最悪、医者に連れていかれるか、警察に連行されるか。
考えてみてまだ前者のほうが救いがあるような気がした。いや、どっちもどっちかもしれない。結局のところ、頭を疑われるだろうから。
しかし、この状況から考えるに、訴えられるもしくは連行されるのは穂希だけということだ。
それだけは、絶対に阻止する……!
穂希は心中で固く決意した。不思議そうな月読命の視線が自身に刺さっているような気もするが、無視することにする。
手まりを作ること自体はまだ良い。それは、手まりを作ることが好きだからだ。責任問題は出てくるものの、それでも好きだからこそできるし、苦ではない。
だが、自分が不審者扱いされることは困るのだ。生まれてこのかた三二年、悪事に手を染めたことはない、はず。平凡に生きたいと願っているはずなのに、目の前の男、月読命と呼ばれる神様のせいで人生を棒に振るなどあってたまるか。
それに、この男が本当に神様であるという証拠はない……。
チラリと月読命を確認する。いまだにキョトンとした顔で、穂希を不思議そうに見ていた。
穂希はなんだかなあと肩を落とす。
だが、それでも男の頼みを引き受けてしまった事実は変わらない。心外ではあるが、目の前の男に根負けする形で引き受けてしまったのだから。
ならば、自分が不利にならない状況だけは先に作っておくべき。多少なりとも先のことを考えて動くべきだろう。
この時、穂希の用心深い考えが妙に頭を冴えさせていた。
普段はそこまで頭が回らないものの、今回は状況が状況だ。半ば追い詰められている状況で、特に考えることも多いからこそ、穂希の中で瞬時に解決しようとしているのであった。
穂希の問いかけにどうやらしばらく考えていたことがあったらしい、月読命は知らぬ間に首を傾げてうーんと唸っていた。そして、急にパッと顔を輝かせたと思ったら。
「そこは大丈夫です! 作り終わった後は、私がこっそり置いてきますから!」
「お守りの意味とは」
月読命の言葉に、穂希は咄嗟にツッコミを入れてしまう。SNSでハッシュタグをつけて検索でもできそうな言葉しか出てこなかったが。
それにしても、と穂希は呆れてしまう。
この男、もしや何も考えていないのだろうか……。
穂希は心配になる一方であった。
信用できない、そんな言葉が頭を過ぎっていく。
じとっという疑いの目を月読命へと向けていれば、その視線に気がついた男は慌てて。
「何ですか、その目は! 大丈夫だもん、置いてあっても相手がつい手にしたくなるように工夫するもん!」
「神様がもんとか言うなよ」
穂希は月読命の言葉をバッサリと斬り捨てる。肩を竦めて、「それに、」と告げた。
「おかしいだろう、そのまま置いてくるだけなんて。それじゃあ、お守りかどうかも分からないじゃないか」
「大丈夫ですよ、私が置いてくるのですから。確実にお守りって分かりますよ。あ、心配なら手紙を一緒に置いておくっていうのはどうでしょうか?」
「気味が悪いって捨てられるのに一票」
月読命の提案を、穂希はまたバッサリと斬り捨てる。
もしくは、怖いって悲鳴をあげられるか、最悪警察沙汰だろうな……。
そう考えていれば、穂希に斬り捨てられたのが相当ショックだったらしい月読命がガックシと肩を落としている姿が目に映る。そして、その後に「……少し、考えます」と弱々しく返事が返ってきた。
穂希は頭を抱える。
先が思いやられるな……。
今さらながらに引き受けたことを悔やむ穂希であった。
Ⅱ
穂希は再度月読命に声をかける。
「引き受けるにしても、そこは詰めとかないと。さすがに作って捨てられた、なんて聞かされたら私もヘコむぞ」
「……ヘコむんですか?」
「喧嘩を売っているなら買ってやるが」
穂希の言葉が意外だったらしい、月読命がキョトンとして尋ねるものだからつい返しが鋭くなってしまった。しかも、青筋まで浮かべてしまう始末だ。
意外で悪かったな、そう思いつつ、すぐに思考を切り替える。
それにしても、本当にどうするつもりなんだ……。
手まりを作ることは、先にも述べたがまだ良い。作ること自体は時間がかかるものの、その時間すら大事にしたいし苦ではない。
問題はこの厳しく疑わしいことで溢れかえっている現代世界の中でその手まりをどう渡すかである。
人間が可能とする手段は怪しまれて終わる可能性が高い。
郵送……は、住所を記載しなくてはいけないし、個人情報の流出に当たる。私も他人の住所を勝手に見るのは気が引ける。手渡しは危険だとさっき結論付けたところだし、あとは……。SNSで何かしら理由をつけて繋がるか……? いや、それこそ一発アウトだろう。
人間世界の可能な手段は、それ以外の世界では通用しなさそうである。神様基準で考えようとすると、人間の穂希にはどこかしこで壁があるように感じた。
こう考えてみると、種族の違いというものを痛いほど理解する瞬間であった。
となれば、穂希からしたら頼みの綱は目の前にいる男、月読命のみである。人間の穂希には思いもつかない方法で何とかしてくれるだろう。というか、何がなんでも何とかして欲しい。
そう信じることにして、穂希は思考を断ち切る。自分ができることを優先する、仕事と一緒だ。考えなくてはいけないことは他にもある。答えのでないことを考えるよりも、考えられることを優先したほうが良いと考えた。
「……まあ、渡し方はあんたに任せることとして。手まりをどうしたいって?」
「はい、お守りにしたいのです」
「その方法は? 普通に作ったところで、普段の手まりと変わらないはずだ。私が普段から作っている手まりがそうだろうから。だとしたら、何か手段を考えているってことだろう?」
穂希が確信を持って尋ねれば、月読命は久方振りに微笑んだ。余裕のある表情に見えた。
穂希はつい眉を寄せる。先ほどの話を聞くに、簡単に信用はできないだろう。
だが――。
何で、こんなに自信ある表情ができるんだか……。
穂希は内心呆れてしまった。先ほどから自分にだいぶ厳しく、しかも痛いところをつかれているはずなのに、どうも彼は自分のペースを維持しているように見えるのだ。肩を落としたり、ガッカリとしているように見えたりしているものの、めげていないように見える。
それが神様だからなのか、それともこの男がそういう性格だからなのか……。
いずれにせよ、穂希は引き受けた以上、安心要素がとにかく欲しいわけで。今さら「やはりやらない」とは言わないが、不安要素ばかりだったら自分も製作に集中できなくなる。雑念が入ってる手まりがお守りとして役割を果たせなかったら、それこそ本末転倒だ。
今までとは違う。それこそ、一発勝負のようなものだろうな……。
穂希は自身の手がすでに小刻みに震えていることを自覚していた。
責任と恐怖、重圧。それらが理由だった。
個人で製作して楽しむだけでいた、今までとはわけが違う。神様に頼まれた、依頼されたお守り作りとなるのだ。しかも、人の願いを元として渡す相手に自信を、背中を押せるようなものにしたいとのこと。
ならば、その元になる願いというのはたった一つ。作り直しはほぼ不可能と考えておかしくないだろう。
材料は代用がたくさんあったとしても、その願いに代用は一つもない――。
それが穂希に責任を感じさせ、恐怖を与え、重圧をかけていたのである。
今までの人生で感じたことのないほどに、自分が重たく感じる……。
人間が感じる重力自体に変化はない。そんなニュースが出たのであれば、世間で大々的に公表され連日騒がせていることだろう。
それでも、穂希が強くその重さを感じさせる、重力とは違う何かが確かに両肩に乗せられていた。
それを少しでも軽くさせたくて、穂希は必死に頭を動かす。この目の前にいる男、月読命に任せて良いことと、自分ができることをきっちりと見極める必要がある。そして、後になって困るようなことにはしない、それだけを穂希は意識していた。
その時、月読命が急にスッと両手を胸の辺りまで掲げた。
一向に答えが返ってこない、そう思っていた中で行われたことだった。急な展開に、穂希は目を見開いてしまう。
月読命は気にせずにそのままじっとしていた。すると、徐々に彼の両手の中に光の球体が現れ始めたではないか。
先ほど、目の前で見せられた人の願いのように見えた。
だが、よく見てみると違う。
何か、何か中心に存在している……。
穂希はゆっくりと目を細めた。球体の中心、そこに視線を集中させる。かなり小さく、細いもので光に包まれているのもあり、なかなか視界が追いつかなかった。
やがて、穂希の視界がようやく小さきものを捉えた。
そして――。
「あ、れは……針?」
穂希にとって見覚えのありすぎるものに、穂希は気の抜けた声で呟いたのであった。
Ⅲ
月読命は球体を穂希に渡そうと無言で手を伸ばす。
穂希は迷ったものの、恐る恐る両手を差し出した。すると、その両手の中に光がストンと収まる。何故だか妙にしっくりきたような気がした。
呆けている穂希を放って、光は徐々に消え始めた。消えて針が落ちてしまう、そう考えた穂希は慌てて針を掴んだ。手に刺さらないようにだけ気をつけて、光が消えた後に手のひらに乗せてみる。
針を落としたら、自分も月読命も危ない。怪我をしたら元も子もない、そう考えて咄嗟に針を掴んだものの。
……月読命って、怪我、するのか?
神様に実体があるのかは微妙なところだ。しかも、怪我するよりも先に何かしらすごい力を使って簡単に落とした針を見つけてしまいそうな気がする。
取り越し苦労だったかもしれないな、そう思いつつ、穂希は手のひらに乗せた針へと視線を移した。
見た目はごく普通の針だった。手芸用の針、それこそ穂希が普段手まり作成で使用するものと何ら変わりがないように見えた。
ちなみに、穂希が手まりを作る時に使用する針は、どこにでも売っている針だ。それこそ、穂希の場合は小学生の時に学校から配布されて購入した、手芸箱の中に入っていた針であった。特別なものではない。
その針とよく似ているものの、月読命が出した針はよく見てみると違った。
針先が虹色に光っている。光の加減ではない。照明の光や、日光が当たってなっているわけでもなかった。針先がずっと途絶えることなく色を変化させている。イルミネーションのようで目を惹かれてしまうほどだった。
そして、穂希はじっと見ている中であるものを感じ取った。確信は持てない。だが、何故だかそれが針の意思のように感じて仕方がなかった。
何か強く、願っているような、活力が湧いてくるような……。
「これ、は……」
穂希が戸惑う中、月読命が微笑む。
「私の力が宿った針です。世界で唯一の、願いを込められる針となります。その針が願いと穂希さんの意思を受け継いで力を宿しながらお守りとして縫っていくのです」
穂希はその説明を聞きながら、疑問を抱いた。
「……ちょっと待て。願いが込められるのは分かる。だが、私の意思は不要なのでは……」
穂希は不安になった。
穂希が手まりを作ることは、何度も述べているが良い。だが、それに穂希の意思が込められてしまっては願いがまったく別のものへと変化してしまうのではないだろうか。相手の願いが打ち消されてしまったり、元の願いが書き換えられてしまったりしないのだろうか。
穂希はそう思ったのである。
だが、穂希の質問を耳にした月読命は首を横に振った。そして、真剣な瞳で穂希を貫く。
「いいえ、これは大事なことです。穂希さんの意思がなくては完成はできませんから」
「……どういうことだ」
穂希は納得がいかずに低い声で問いかける。
穂希の意思がなくとも、願いはすでに決まっている。ある人が強く願ったもの、それは穂希の意思とはまったく関係がない。
その人の願いであって、穂希の願いではないのだから。
なのに、月読命は穂希の意思がなければ完成ができないという。矛盾しているように感じて仕方がなかった。
すると、月読命はにこりと微笑んで。
「あなたにしか分かりませんから。手まりのノウハウに関しては」
穂希はその言葉に目を見張る。
思考が停止する中、月読命は微笑んだまま話を続けた。
「実は、私は手まりの細かいこと云々はからっきしでして」
「おい」
穂希は思わず低い声を出していた。目の前の悪びれる様子がない男に怒りが沸き起こる。
つまり、だ。
この男、月読命は手まりがどうこうと始めのほうに語っていたわりには、何も知らなかったということで。
穂希はてっきり月読命が多少なりとも手まりに関して知っているのだろうと予想していたため、勝手なことを言っている月読命に腹が立ったのである。
なんだそれ、その感情が先に出てきていた。
だが、月読命は冷静だった。
「人の願いに対して、どう彩りを付けようとするのか、どう糸を操っていくのか、穂希さんのイメージ通りに針は動きます。針が穂希さんの意思を汲んで、願いを込められるように、糸や他の材料に力を込めながら作られていくように支援してくれるのです。糸に力を与えて塗っていくのは、針の力でもあり、穂希さんの力でもある、そういうことです」
月読命の言葉に、穂希は針を見つめる。力を感じるのは確かだ、今にも動きたい、そう言っているかのように力がみなぎっているように見えた。
月読命は嬉しそうに微笑んで。
「穂希さんにしか手まりのことは分かりません。私はあくまでその支援をすることしかできない。針とともに願いを形へと変化させていく、そして糸で縫い付けていく穂希さんのイメージが大事な仕事となるのです。ですから、穂希さんの意思がなくては完成しないのですよ」
穂希はその説明を聞いて「そうか」と頷いた。
月読命の言い分はとりあえず理解した。細かいことは使ってみないことには分からない。何かあればまた確認すれば良いだろう。
それにしても、と穂希は思う。納得のいかない部分があって、月読命へと視線を移すとじっと見つめて声をかける。
「ところで、月読命」
「はい?」
月読命は何も分かっていないようで、キョトンとして穂希を見る。先ほどの笑顔とは違って、幼く見えるその姿にやれやれと思いつつ、穂希は告げた。
「……あのな、手まりの場合は『縫い付ける』じゃなくて、『かがる』って言うんだよ」
IV
穂希は再度月読命に与えてもらった針をじっと見つめる。虹色の光が途絶えることはない。
だが、まだ使用することはないだろう。そう考えた穂希は自身の手芸道具の中にある針山へとその針を刺した。
針山には普段穂希が使っている、針やまち針などが刺さっていた。普段からよく使用するため、針山に乱雑に刺した状態のままである。
だが、ほかの針と混ざっていても、与えられた針はすぐに目に留まった。間違えようもないほどに、何かオーラを放っているように感じた。
針先は虹色に光っていたものの、針本体は光がなかった。それでも、何か滲み出るものがあるのだろう。その針に力があると語るかのように、必ず穂希の目に留まるのである。
これなら間違えることはないだろう。
そう考えた穂希は針が針山にきちんと刺さっていることを再度確認した後、月読命へと視線を向ける。そして、しっかりと向き直りながら真剣な瞳を交わらせてハッキリと告げた。
「さて、と。その願いの話、っていうのを聞かせてくれよ」
「話、ですか?」
月読命は意外そうな表情で穂希を見た。どうやら、予想に反した言葉が飛んできたらしい。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
穂希はしっかりと頷いてみせる。
「さっきの話からするに、私のイメージが重要となってくるんだろう。しかも、願いのイメージときた。それはつまり、私が思い思いに好き勝手に作ってはいけないということ。願いに沿って、作るイメージが必要になってくるということだろう。ならば、イメージはしっかりと固めておきたい」
月読命はその言葉に少し悩んでいるような表情を見せた。
穂希はだろうな、と思う。だから、月読命が何か言う前に再度告げた。
「先に言っておくが、全部じゃなくて良い」
「……と、申しますと?」
「……願いというのは、他人に聞かれたくないこともある。その願いだって、本当なら私が聞いて良いものではないだろう。だが、私もやるからには相手のためになるように、あんたの依頼をきちんとこなせるようにはしておきたい。……だから、頼む、可能な限りで良い、教えてくれ」
穂希は月読命に気持ちを伝えながら、深々と頭を下げた。
頼みごとをするなら、礼儀ぐらいは守らなくてはいけない。特に、個人情報と言っても過言ではない話だ。
別に、すべてを知りたいわけではない。名前とかを聞くつもりもない。ただ、作るからにはきちんと作りたい……。
それが穂希の本心である。
月読命は何か考える素振りをしてから、口元を緩めて肩を竦めた。そして、頷きながら優しく紡ぐ。
「……顔を上げてください。穂希さんの意思は分かりました。可能な限り、お話しましょう」
「ああ」
「……それよりも、穂希さん、」
月読命は何か言いたそうに告げる。だが、その後がなかなか続かなかった。
穂希は片眉を上げて問いかける。
「なんだよ」
すると、月読命は困ったように力なく告げた。
「……あの、あなた、私が神様だと思って話をしていませんね? 敬語もないですし……」
「何をいまさら」
月読命が悲しそうに顔を俯かせる中、穂希は容赦なくバッサリと斬り捨てたのであった。




