【番外編】ソロキャンプは乙女の憩い 9
田中は自分のテントが青い色をしていて、大きな樹の下にあると指をさして言った。
中戸は、彼の誘導でそのすぐ近くに車を停め、テントを張ることにする。
彼が手伝ってくれたので、あっという間にキャンプの準備は整う。
「よし、これで安心ですね」
「何から何まで、ありがとうございます」
「中戸さん、女性一人であのような人気のないところ……本当に危ないんですよ?」
「ははは、ですよね……」
田中の気遣いに、中戸は改めて『この人、いい人だな』と思った。
食事の用意を始めて、ふと顔を上げるとすっかり日が落ち、近くのテントにランタンが点っているのを確認する。
それぞれの灯りの下には、キャンプを楽しむ笑顔があるのだろうと、中戸は思う。
そんなことを考えられている、今の状況に気が付いて、おとり捜査という任務で自分が気を張っていたんだなとも思ったようだ。
しかし、勝手に移動しても良かったのか。
南条に叱られたばかりなのに、この男についてきてしまった。
だけど、目の前の男は女性を襲うようなことをするようには、到底思えない。
中戸は、小さな折り畳みのテーブルを広げて、カセットコンロを置いた。
「御礼に、ホイル焼き一緒に食べましょう」
「やった!」
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少し離れたところで、南条は迷彩柄のテントから中戸の様子を窺っていた。
もちろん、中戸が田中と移動したことを確認して、南条も場所を変えたのだ。
「中戸……もう少し警戒しろ……」
そう呟きながらも、周囲に他のテントもある。
もしかしたら、このような場所で、犯行を行うことは難しいかもしれないなどと、南条も内心は中戸を危険な目に合わせずに済むと思っている。
が、それだとおとり捜査の意味がない。南条は、他にソロキャンプをしている女子がいないかを少し見て回ることにした。
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キャンプ場の駐車場に停めてある、警察車両……冷凍車には、北堂とカイリが到着していた。二人は、西刑事から無線を受け取ると装着を始める。
装着しながら、今の状況を西から聞いていた北堂が、突然目を見開いて大きな声を出した。
「なにぃ!? すでに容疑者かもしれん男と接触中!!?」
その声にカイリが「声が大きい……」と耳をふさぐ。
「そうみたいっす。南条警部補の報告によると、現在二人は一緒に食事をしているとか」
「それ、ホンマに容疑者なんか?」
ふさいだ耳を外し、カイリは西刑事に問う。
西は、自信なさげに答えた。
「たぶん……」
「たぶんって何や?」
「いや、高身長でイケメンということは、被害者の聴取内容と類似してるっす。だけど、被害者は八人いて証言のほとんどは、高身長でイケメンなんっすけど……」
「なんや、ハッキリ言え!!」
「ひとりだけ、そんなに大きくなかったと言っていて」
「……それって、犯人は一人じゃない可能性があるんちゃうか?」
「そうっすね……一貫して、同じなのはあんまり覚えてないということと、犯人はキャンプ上級者でとても物知りだったとか」
カイリと北堂が顔を見合わせる。
「いくぞ、いつき」
「ああ。れみさんに合流や!」
と、車内に積んであった刺又を手に、冷凍車を降りて行った――




