【番外編】ソロキャンプは乙女の憩い 4
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翌日の朝、東伯カイリ探偵事務所では……
『乙女の憩い』というソロキャンプのサイトには、中戸のアカウントが発行されていた。
もちろん、身バレしない程度には配慮されている。
男子禁制とされているこのサイトだが、実際にはどうだかわからない。
とくに、アカウント発行時に本人確認などをしないようなサイトでは、利用者の自己申告によって任されている。なので、女性だと偽って登録している者もいるかもしれない。
ネットとはそういうものだ。
ただ、サイト管理者に関しては女性だったことが、捜査上裏付けられていた。
「わぁ。これが私のアカウントなんですね」
南条警部補の持ってきたタブレット端末を中戸も覗き込む。
「そうだ。この投稿は西がしたものだが、明日はこの画像の車に乗って行ってもらう」
可愛らしいベビーピンク色の軽自動車の画像を見て、中戸は嬉しそうに言う。
「かわいいですね! ソロキャンプなんて初めてだから嬉しいです。たしか……場所は、能勢でしたよね」
「そうだ。現地までは、カーナビに登録しているから安心してくれ。あと、ウイッグも用意した」
南条は紙袋の中から、ロングヘアのウイッグを取り出すと、おかっぱ頭の中戸へと手渡す。
この女子二人のやり取りは、ずっとカイリと北堂が眺めていた。
ただ北堂いつきだけは、不機嫌極まりない様子だったが。
『ソロキャンプ初心者でーす! ハンドルネーム・そのちゃん、二十五歳独身OL……』
「何が、そのちゃんだ……年齢も詐称やないか」
とわざと聞こえる声で言う北堂に、本当は二十八歳の中戸はウイッグを被って言った。
「私がお役に立てるなんて、事務所的にも良いことじゃないですか。いつもは、カイリさんや北堂さんの後ろで何もできていないんです。今回は、黙って応援してください!」
「うっ……」
その様子を見ていたカイリが大笑い。
口元を抑えて、よろめく北堂も大事な事を思い出したようだ。
「俺、すっかり忘れてたわ……中戸さんが超がつくほどの『お人よし』やっていうこと!!」
入念な打合せが終わった後、南条は中戸に「明日は頼む」と告げ帰って行った。
「車は、明日の朝に西刑事が、このビルの下に乗ってくるんやって?」
とカイリが中戸の背後から声をかけた。
「はい。何だかドキドキしますね」
「運転、大丈夫なん?」
「久しぶりなので、そっちもドキドキです」
すると、北堂が仏頂面のまま、中戸に声をかける。
「……ほな、キャンプ用の食材やら買いに行こか。現地で簡単にできるもん、教えたる」
北堂は、目を輝かせた中戸を連れて、事務所を後にした。
「いつき、そない心配せんでもええと思うで」と、ひとり事務所に残された、そんなカイリのつぶやきは、北堂に届くことはないのだろう。
暮れていく、大阪淀屋橋。
北堂と中戸の凸凹な長い影が、歩道には並んでいた。




