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第31話:謝罪~中学校の頃の竜二~

 結局、この日は2人とも体操服に着替えて過ごすことになった。


 竜二も鈴川さんも生徒指導室という、とても怖い部屋で、先生から事情聴取を受ける羽目になり…最終的には“女子なのにそんなことをしてはいけません“と説教され…二人とも反省文を書くことになった。


「特に鈴川!お前自分のしたことわかってるんだろうな!!」


「そうですよ…女子生徒が人前でケンカなど…言語道断です。あなたは女性として恥ずかしいとは思わないんですか?」


 とくに公衆の面前で女子の竜二を取り押さえた鈴川さんは竜二以上に叱られていた。鈴川さんは女子である竜二に馬乗りになり、女子である竜二の腕を女子である竜二が泣くほど強く締め上げたのだ。女子はお淑やかであることが求められるこのご時世…先生のお叱りはある意味、当然だった。


「マジごめん」


 悪いのは森宮であり鈴川さんではない。だから生徒指導室から解放された竜二は何度も何度も鈴川さんに謝った。ひねられた両腕がちょっと傷む気もしたが、もうとても鈴川さんを責める気は起きなかった。





「今回の件でテニス…やめないといけなくなっちゃった…」


 翌日、鈴川さんは泣きながら竜二の前に現れた。買ったばかりの制服を汚したことと学校から注意の連絡が入ったことで鈴川さんは親に相当怒られたらしい。竜二と違って鈴川さんの家はあまり経済的に余裕がなく…鈴川さんが運動部に入ることすらよく思われていないという複雑な事情もあったようだ。


「でも…自分の意志でしたんだし…先生に怒られたのも本当なんだし…自業自得だよね」


 もしこの時、鈴川さんが怒っていたら竜二にとってはどれほど楽だっただろう。鈴川さんの目には…もはや竜二に対する怒りはなく…テニスをできなくなった絶望しか残っていなかった。


「ごめん。おれ、できる範囲でなんとかしてみる」


 鈴川さんを巻き込んでしまったのは竜二の責任だ。鈴川さんが意外そうな顔を見せた。


「こう見えてもおれ、謝罪は慣れてるんだ」


 小学校の頃…クラスメイトを泣かせて…竜二が謝ったのは一度や二度ではない。


「まずはテニスができなくなった理由詳しく話してくれ」


 それでも謝罪は久しぶり…さらに家庭内の問題ともなれば…うまくいくかどうか自信がなかった。だから竜二は真剣に対策を立てることにした。


「えっ?でも…お金の話だよ…」


「多分なんとかなると思うぞ」


 田沼さんにとどめをさされる前。この頃の竜二はまだポジティブだったのである。







「バカ息子がバカ娘になった時はどうなるかと思いましたが…吉田さんのような礼儀正しい人がそばにいてくれてとても助かってます。バカ娘が何か相当ひどいことをしたのだと学校から伺っています」


「えっ?いや…そんな…鈴川さんの制服汚したのはお、いや自分なんで…、ととにかくすみませんでした!!」


 鈴川さんの制服を汚した件は、中学生としては金銭的に余裕があった竜二が手土産とクリーニング代を持参し鈴川さんの両親の前で謝ったことでなんとか丸く収まった。


 服を汚したことの謝罪は初めてではない。


 問題はテニス部の方だった。


「それから…その…鈴川さんがテニスを続けるの…許してもらえないでしょうか?」


「し、しかし…それは、いくらお友達の吉田さんの頼みでも…。試合の遠征でお金のかかる運動部には入らない…というのが娘との約束でしたので…。…恥ずかしながら…ご覧の通りうちにはいろいろと事情も…」


 謝罪するにはフローリングより畳が好都合で助かっていたが…そんな鈴川さんの家は全室畳張りの2LDK…見るからにおんぼろ木造アパートで経済的にきついのは中学生の竜二でもすぐにわかった。鈴川さんによるとお風呂はバランス釜とかいう骨董品なのだという。トイレはさすがに洋式らしいが温水便座なしで…壁も薄く音は丸聞こえ、玄関以外ドアではなくすべて襖で区切られているこの家にプライベートな空間などあるはずもなく…あくまで竜二の主観であるが…この家は女子中学生として住みたくない家ベスト10に入ることは間違いなかった。




 お金のことは担当の大人に…竜二は事前にテニス部顧問からいくらお金が必要なのか…ヒアリングしていた。考えられるのは交通費だが…最悪の場合、参加費や宿泊代ということも考えられた。そうすれば万単位…正直…数千円でも厳しい。もし無理ならどうにか具体的なお金を提示し納得してもらうか…お金を工面する方法を考えないといけなかった。


 しかし…顧問から返ってきた言葉は竜二も鈴川さんも予想しなかった内容だった。


「その件なら…おそらく大丈夫です…幸いうちの学校…T-VIDの少子化対策の助成金で…部費は豊富で…試合に出ても遠征費用は食費含めて全部学校に出してもらえるので…部活動でお金はい一切かからないはずなんです」


 テニス部顧問は生徒がお金のことを心配するなと笑い飛ばした。もちろん、そのまま伝えるわけにもいかないので竜二は言葉を選びながらゆっくりと説明した。


「…なのでもしかかるとしても…お土産代とか…あるいは現地で何か買いたいものができた場合とか…そういう自分でコントロールできるお金だけのはずなんです。ラケットだって…最悪今のが壊れても…古いものですが…学校に備品があるそう…なので…」


「えっ?そうなのですか?私たちはてっきり…昔の頃のようにお金がかかるものだと…」


 鈴川家にはどうやら誤解があるようだった。両親がもめていたのは今後、各地の大会に参加すると、かかってくるはずの莫大な遠征費をどう工面するか…そういう話のようだった。


 先入観と親子のコミュニケーション不足が招いた…よくある誤解だった。

今後の執筆の参考にしたいので…もし感想やご意見あればどうかお願いします!!

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