第30話:勘違い~中学校の頃の竜二~
「…おれって生まれつきの女子じゃないはずなのに…」
言ってしまってから…それは良太も同じだ…ということに気づいた。竜二から見た良太は背が低く、小柄で可憐な少女だ。肩まで伸ばした髪はとてもよくお手入れされており、羨ましいほどのしなやかさである。いったい良太が髪を整えるのにどれだけの時間をかけているのか見当もつかないほどだ。
外見で判断してしまい…お互いを同じT-VID被害者だと思えなくなるのは竜二の昔からの悪い癖だった。
こういうのが、皆が感じ悪いと嫌っている自己中心的思考というのだろうか?
「…ごめん…良太もT-VIDでつらいたち…」
「竜二ってさ!」
田沼さんの時に失敗した経験を思い出し…慌てて発言を取り消そうとしたが…良太に言葉を遮られた。
「今の性別とか恋愛のことすごく難しく考えてるみたいだけど…」
最近、特に難しく考えすぎ…という自覚はあった。今回もまたいつものように、良太に何もかも見透かされている…そんな感じがひしひしとしていた。
「…本来のぼくたちって異性に憧れる年だし…竜二が異性のこと魅力に思ってもそれはおかしいことじゃないと思うよっ」
良太が深呼吸してから話をつづけた。
「それにその雰囲気だと本気の恋愛感情ってわけでもないんでしょっ?」
「たしかにマジの恋愛感情…とはちょっと違うと思う…多分びっくりして、ちょっとドキッとしてしまっただけ…」
恋愛というのは一時のトキめきではない。その先のことをしっかりと考えてお付き合いするものだ。
「それに…デートとか付き合うとかってどういうことかよくわからない……誰かと付き合いたいとも思わねぇし」
「ならそれは…竜二もふつーにぼくと同じ年ごろの女の子ってことだと思うよっ」
ふつうの女の子…本当にそうだろうか?
竜二はふと…昔のことを思い出した。
~~~~
竜二が本格的に今の性別のことを悩み始めたのは中1の夏ごろである。記憶によれば…あの年の3月に生理がはじまって…繰り返す生理に苦しみながらもなんとか頑張って…5月に体育祭があって落ち込んで…6月末のプールの時に男子に女子更衣室を覗かれ…事故だと言い訳する運動部の男子と最後の喧嘩をした。
「おいお前!着替え覗いただろ!!」
「はっ?だから事故だって言ってるだろ」
事故だと言い張る男子を追いかけた竜二は感情的になっていた。ほかの女子も追いかけてきて…「吉田さんもういいよ」「野球部の森宮君だよ?たぶん本当に事故なんだよ」と言っている。
「事故なんて言い訳許されるか!男と女じゃ身体の価値が違うんだ!おれたち女子全員に土下座して謝れ!」
竜二は調子に乗っていた。ヒーロー気取りと言った方が正しいかもしれない。
今では女子の着替えを覗くような変態的な男子に臆することなく口答えするなんて、とてもではないが怖くてできないが…当時の竜二はこういうタイプの元男子だった。良太が言う…ふつーの女の子とは…程遠い存在…それが当時の竜二だったのである。
田沼さんはこの頃の竜二を見て…こんな竜二が好きだと言ってくれたようだが…クラスメイトから見ると…当時の竜二はみんなの前で男子を土下座させようとしている…かなり無謀で…やばい女子に見えたはずだった。
「この男女!何勝手に自意識過剰になってやがる!!誰がお前の身体なんて好んで見るかよ!」
森宮こずえのこの言葉に竜二はカチンときた。
「なんだと!!やんのかよ」
「俺はお前みたいな乱暴なくせに弱そうな女と喧嘩する気はねぇぞ」
「はっ!?そんなのやってみなきゃわからねぇだろ!!ふつーの女子だと思って舐めんな」
「ふつーの女子!??男女のくせに馬鹿なのかお前…」
森宮が爆笑していた。
そんな森宮に先に手を出したのは竜二だった。まさか竜二のような女子が本当に殴り掛かりに来るとは思っていなかったようで…森宮がどうしようかと慌てたのがわかった。
「吉田さんダメ!!」
暴走した竜二を止めたのは森宮ではなく女子テニス部の鈴川健だった。そんな鈴川さんが竜二に覆いかぶさっていた。
「はなせ!!」
暴れたが…相手は運動部の子だ。竜二はあっけなく取り押さえられ…思いっきり地面にねじ伏せられた。鈴川さんとは体格差もあり、小学校の時のような抵抗はもうできなかった。
「ちょっと!吉田さん!見えちゃう!!制服も汚れちゃうしお願いだから暴れないで!!」
暴れる竜二を押さえつけながら鈴川さんが悲鳴をあげた。二人とも制服姿で暴れたので…スカートが乱れてしまっていた。
「どうでもいいからどけ!!」
竜二は鈴川さんを罵った。
「ごめん。吉田さん…可哀そうだけど…ちょっと静かにして」
本気を出した鈴川さんが竜二の腕を容赦なくひねった。
「っていたい!マジ痛い!!」
突然、腕を無理な方向にねじられた竜二は悲鳴をあげた。竜二もまた小学校のころ、面白おかしくこうやって人に技をかけてきたが…まさかここまで痛いものだとは思ってもみなかった。か弱い女子にかける技ではなかった……いざ自分がされてみて…今更ながらそう思った。
「マジ!マジ無理!!」
あまりの痛さに涙が出た。自分の腕が折れてしまわないか心配になるほどだ。
「ごめんね…これって結構痛いよね」
痛いのわかってるならやめろと言いたいが…もう痛みで声にならない。そして、緩めたら再び暴れることを知っている鈴川さんは竜二の上に乗ったまま…一定の力で容赦なく竜二の腕を締めあげ続けている。
そんなわけで結果的に身体を押さえつけられ、グラウンドで砂まみれになりがなら…ある意味土下座をさせられていたのは…男子の森宮ではなく女子の竜二だった。
「森宮君、吉田さんたちをあまり見ないであげて」
竜二は…森宮の前で…無様な姿をさらす羽目になっていた。
「お、おう…」
竜二は刑事に取り押さえれている凶悪犯になった気分だった。身体は完全に地面に押し付けられており…もはや抵抗することもできない。制服姿の女子中学生が同じく制服姿の女子中学生に腕をねじり上げられ取り押さえられている光景…森宮からみればとてもシュールに映ったことだろう。
「とにかくこっち!」
見かねた誰かが森宮を連れて行く。
ようやく解放された竜二だったが…竜二は皆からこっぴどく叱られる羽目になった。
「吉田さん!!いい加減にして!!自分の立場わかってないでしょ!!あぁーもう!どろどろ!ほんと最悪!」
特に怒っていたのは一緒に砂まみれになる羽目になった鈴川さんだった。数日前に雨が降っていたこともあり…湿った砂ははらっただけでは完全に落ちず、制服の汚れはクリーニングしないと落ちそうになかった。
竜二は痺れる腕をさすりながら…ただただ謝るしかなかった。




