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第29話:ネイル

「明人のそのネイルも似合ってるよっ」


「えへへ」


 嬉しそうに明人が両手を見せた。

 

 派手過ぎず地味すぎず、シンプルでとても可愛らしいネイルだった。


「それってマニキュア?自分で?」


 竜二は明人に聞いた。


「そうだよー。除光液で落とせるしー。二人もやってみたらー?」


「うーん。ぼくはまだいいかなっ」


 性別適応特別講習で習った記憶が正しければ、マニキュアは乾くまで時間がかかるはずだ。


 それに失敗したらと思うと…なんか怖い。

 

 おしゃれに興味がないわけではないが、今はまだやる勇気がなかった。


「竜ちゃんはあそこにあるようなネイルサロンって憧れない?いつかわたしもやってもらいたいんだよねー」


 ネイルアート…どうせやるなら明人が言うように斜め向かいのビルに入っているようなおしゃれなネイルサロンに行った方がいいのだろう。だけど…あぁいうお店は値段も高そうだし…もっとオシャレな大人が行くところだという思いがあった。たかが初メイクで緊張しまくっている高校生の自分では、とてもではないがネイルサロンに入る勇気がなかった。


「おれもそこまでは…可愛いけど…ネイルってちょっとまだ早そうだし…それにみんなから何か言われそうだし」


「それもそうかー。たしかネイルって男子受け悪いっていうしねー」


「えっ?!そうなのっ!?」


 明人の話に良太が驚いている。

 

 別に男子の話をしたつもりはなかった。どうして8歳まで女子だったはずの元男子がマニュキュアを嫌いなのかは竜二もさっぱり理解できない。ネイルはみんなの憧れではなかったのだろうか?


「真相は定かじゃないけど―。なんかネットでそんな話読んだよー。なんでもT-VIDで本人ができなくなった恨みだとかー、そもそも生理的に受け入れられないとからしいよ…」


「ネイル…可愛いのにな」

 

 腑に落ちず竜二はいつもよりわずかに低い声をだした。


「アイドルならともかく普通の男子がネイルしてるところなんて見たことないしねー」











「やっとついたねー」


「でもやっぱり人多いやっ」


 みんなで入ったお店は中高生が気に入りそうな服を多く扱っている婦人服のお店だ。T-VID後に新たにできた店舗で元男子の中高生に人気のデザインになっていることから、最近急速に業績を伸ばしているのだという。


「新作セールやってるし、午前中にきてよかったでしょ?」


 店の中に入った竜二は、明人が言うように午前中に来てよかったと思っていた。店内にはかなりの人がいる。…まだ午前のこの時間帯でこの人数なら、午後のレジや試着室は相当な混雑になことになることが簡単に想像できた。




「さっそくだけどこれどうかな?」


 明人が一着のワンピースを手に取った。新入荷の半袖ワンピース。涼しそうでこれからの時期にはぴったりだった。


「うん。かわいいと思う」


「ぼくはこっちもいいと思うけどっ」


 良太が色違いのものを手に取り、明人に合わせた。


「たしかにこっちもかわいいねー」


「そっちもいいと思うぞ」


 明人はご満悦のようだ。


「試着されますか?」


 近づいてきた店員さんに声を掛けられた。振り向くと、そこには爽やかそうな美形の店員が立っている。彼は…たぶん大学生ぐらいなので…おそらく何歳かまでは…自分と同じ女子だったのだろうが…メンズのファッションを着こなしているところといい、とてもそうはみえなかった。


「色違いにこちらやこちらもありますよ」


 竜二は思いがけないイケメン店員の登場にドキッとしていた。


 優しそうだし、なんかすごくカッコいい。


「お客様でしたらこちらもいいかもしれませんね」


 そんなイケメン店員さんが明人に服をすすめた。


 どれもこれも明人のサイズにピッタリそうな服だ。


「…ごめん、ちょっとわたし両方試着してくるー!」


 明人のかわりに服を手に持ち…店員さんが明人をエスコートしている。竜二は純粋な気持ちで…オシャレな店員さんにコーディネートしてもらっている明人がうらやましいと思っていた。


「なんか、かっこいいお兄さんだよねっ」

 

 隣で良太も素直な感想を述べた。


 中学の頃のぎくしゃくした人間関係のグループの場合、誰かが今の明人と同じことをすれば「何あの子…一人だけ感じわる」と言い出しかねない状況のはずだ。しかし…無反応な自分や良太の反応をみてわかるように…今のこのメンバーの信頼関係はこの程度で壊れる脆いものではない。中学の頃のような複雑な人間関係に竜二が怯える必要はもうどこにもなかった。


 だからだろうか?


 竜二の意識は明人や良太ではなく…イケメン店員さんの方にじっと向けられていた。


「そ、そうだよな」


 竜二はついもじもじしながら答えてしまった。


「あれ?竜二なんか残念そう?もしかしてあの店員さんに声かけてもらいたかったとかっ?」


 図星だった。


「ち、違う!…ことないかもしれない…ちょっとかっこいいって思った」


 完全否定できず…竜二はさらにぼそぼそと答えた。


「なんでだろ?おれ…今…ちょっとクラスの男子みたいに下心ある気がする…」


 普段、自分は性欲丸だしの同年代の男子を馬鹿にしていたはずだ。だけど自分も年上のイケメン相手だと下心いっぱいということに気づいてしまい…年下の美少女に夢中な男子と同レベルなんだと思うと何か妙に悔しかった。


「…ぼくどちらかといえば男の人嫌いだけど…あの店員さんぼくが見てもまぁ顔はありだし…竜二がかっこいいって感じちゃうのも仕方ないんじゃないかなっ?…イケメンのアイドル追っかけてる子もいっぱいるし…下心って別に男の人だけが持つものじゃないって思うよっ」


「…おれって生まれつきの女子じゃないはずなのに…」


 つい言ってしまってから…それは良太も同じだ…ということに気づいた。


 またしても失言だった。

活動報告でも書きましたが、大人向けのサイトで掲載している『性別転換事変 ~極めて深刻な後遺症「性転換」~』(本作8年前の世界)もついに完結間近です。本作「元男子女子高校生のモラトリアム」とあわせるとおよそ15万文字越えの作品となっています。


今後は全年齢版である本作の執筆に専念する予定です。


しかし…さすがに8年前と現在の二つの時間軸での同時連載は、どちらから読んでも大丈夫!というモットーの元執筆していたとはいえ…作者の混乱により読者への背景説明に無理や過度な冗長説明が生じており、現在、その違和感を見直すため、本作30話以降のストーリーを急遽、大幅見直し中です。


なお…本作8年前を描いた大人向けの方は…大人向けなので…18歳未満の方は申し訳ございませんが閲覧できません。さらに…作品を紹介することで運営様より警告が入る可能性も完全に否定できず、こちらからはリンク等は行わない方針ですので、ご理解いただけると幸いです。

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