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ふわりか村英雄譚~黒き王と三つの鍵~もふもふたちの戦い  作者: 雨宮ぐみ


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第8話 野獣村を襲った黒い魔法

第8話 野獣村を襲った黒い魔法


 森の向こうから立ち上る黒煙。


 それを見た瞬間、ヴァルターの表情が変わった。


「戻るぞ!」


「待って!」


 エラが叫ぶ。


「今、野獣村へ戻ったら――」


「俺の村が襲われているんだ!」


 ヴァルターが怒鳴った。


 その声には、いつもの怒りとは違う焦りがあった。


 ノアがヴァルターの前に立つ。


「俺も行く」


「お前はふわりか村の連中と一緒にいろ」


「違う」


 ノアは首を横に振った。


「俺は野獣村の仲間だ。村が襲われているなら、戻る」


「ノア……」


 ヴァルターが黙る。


 そのとき、アルベルトが口を開いた。


「ヴァルター。ノアを連れていこう」


「アルベルト?」


「今までのことを考えれば、敵は俺たちを分断しようとしている」


 アルベルトは魔法石を見つめた。


「だったら、今度はこちらから一緒に動いたほうがいい」


 ヴァルターはしばらく考えた。


「……分かった」


 そして、ふわりか村の仲間たちを見る。


「お前たちも来るのか?」


 エラが剣を握る。


「当然よ」


 アリスも頷いた。


「野獣村が襲われたなら、見過ごせないわ」


「俺も行くぞ」


 グレゴリーが胸を叩く。


「俺も!」


 エコーが手を挙げる。


「ミアも行く!」


「……全員で行くことになったな」


 レオンが苦笑した。


「なら、急ごう」


     ◆


 ふわりか村と野獣村の間にある山道。


 アクアが風魔法を使い、全員の移動を助ける。


「この速度なら、かなり早く着くよ!」


 アクアが走りながら叫ぶ。


「助かる!」


 エラが答える。


 ところが――。


「うわっ!」


 ミアが突然、アクアの背中から転げ落ちた。


「ミア!」


「大丈夫!」


 ミアは地面に着地すると、何事もなかったように立ち上がった。


「……でも、ちょっと目が回る」


「なら最初から無理するな!」


 エラが呆れる。


「だって速いほうがいいと思って!」


 グレゴリーが笑う。


「ミアらしいな」


 だが、レオンは笑っていなかった。


 地面に残された黒い跡を見つけたからだ。


「止まって」


 全員が足を止める。


「何だ?」


 ヴァルターが聞く。


 レオンはしゃがみ込み、黒い跡に手を近づけた。


「……魔力の残骸だ」


「敵のものか?」


「分からない。でも――」


 レオンが眉をひそめる。


「野獣村の魔法と似ている」


 ヴァルターの目が鋭くなる。


「俺たちの魔法だと?」


「正確には、炎と雷の魔力が混ざっている」


 アルベルトが驚く。


「俺とヴァルターの魔法……?」


「そう」


 レオンは立ち上がった。


「犯人は、二人の魔法を何らかの方法で使っている」


 ノアが拳を握る。


「つまり、野獣村を襲った犯人は、村の魔力を利用したんだ」


「その可能性が高い」


 するとヴァルターが突然、走り出した。


「ヴァルター!」


「村が近い!」


 山道の先。


 黒煙がさらに濃くなっていた。


     ◆


 野獣村。


 村の中央にある大きな広場には、黒い魔法陣が刻まれていた。


 建物の一部は壊れている。


 しかし、村人たちは無事だった。


「みんな!」


 ヴァルターが叫ぶ。


「ヴァルター様!」


 村人たちが駆け寄ってくる。


「何があった!」


「突然、黒い魔法陣が地面に現れて……」


 別の村人が答えた。


「そこから炎と雷が噴き出したんです」


 アルベルトが魔法陣を見る。


「……やはり俺たちの魔力だ」


 そのとき、ノアが何かを見つけた。


「待て」


 地面に小さな布が落ちている。


 黒い布。


 そしてそこには――。


 見覚えのある紋章が刺繍されていた。


「これは……」


 ノアが息をのむ。


 ふわりか村の紋章だった。


 ヴァルターの顔が険しくなる。


「やっぱり、ふわりか村の連中が――」


「待って!」


 アリスが割って入る。


「それは罠よ!」


「何?」


「今までの犯人のやり方を考えて」


 アリスが指を差す。


「魔法石を盗んで、野獣村の魔法道具も盗んだ。両方の村を疑わせようとしていた」


 レオンが続ける。


「だから今回も同じだ」


「わざとふわりか村の紋章を残した」


 エラが言った。


「私たちが疑い合うように」


 ヴァルターは布を握りしめる。


「……また同じ手か」


 怒りを抑えながら、布を見つめる。


 そのとき。


 ミアが突然、地面を指差した。


「ねえ!」


「どうした?」


「この布、変だよ」


 全員が見る。


「紋章の糸が……新しい」


 ミアはリスの小さな指で糸をつまんだ。


「ふわりか村の服に使われている糸とは違う」


 レオンが確認する。


「……本当だ」


「つまり?」


 グレゴリーが尋ねる。


 レオンの目が鋭くなる。


「偽物だ」


     ◆


 その瞬間――。


 村の外から、カァン……と金属音が響いた。


「誰だ!」


 エラが振り返る。


 ノアがすぐに走り出した。


「待て!」


 村の外れに、一つの黒い影が立っている。


 仮面をつけた人物。


「お前!」


 ノアが追いかける。


 黒い影は山道へ逃げた。


「逃がすな!」


 エコーとミアが左右から追いかける。


 だが、影は振り返りもせずに魔法を放った。


 ドンッ!


 地面から黒い壁が立ち上がる。


「くっ!」


 エラが剣で斬りつける。


 しかし壁はびくともしない。


「こいつ……!」


 ヴァルターが炎を放つ。


 ゴォォッ!


 黒い壁が炎に包まれる。


 その一瞬――。


 影が姿を消した。


「また逃げた……!」


 エコーが悔しそうに拳を握る。


 しかしノアは、地面に落ちている小さな物を拾った。


「これは……鍵?」


 黒い金属でできた、不思議な形の鍵。


 中央には古代文字が刻まれている。


 レオンが文字を読む。


「……『山の心臓』」


「山の心臓?」


 アリスが首をかしげる。


 仮面の人物が、遠くからその鍵を見つめていた。


「……それを、どこで?」


 初めて、その声に明らかな動揺が混じった。


 ノアが振り返る。


「お前、これを知っているのか?」


 仮面の人物は答えなかった。


 ただ、山の奥を見つめる。


「……もう始まってしまった」


「何が?」


「山の心臓が、動き始めた」


 遠くの山から――。


 ドン。


 また地鳴りがした。


 そして山の頂上に、巨大な黒い光が浮かび上がる。


 ふわりか村と野獣村。


 二つの村の争いの裏で、さらに大きな何かが目を覚まし始めていた。

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