第7話 封印の中から現れたもの
第7話 封印の中から現れたもの
地下遺跡に響く、ゆっくりとした足音。
ドン……。
ドン……。
その音がするたびに、石造りの床がわずかに震えた。
「……誰かが、こっちへ来ている」
エラが剣を構える。
グレゴリーも拳を握った。
「もし敵なら、俺が止める」
「待って」
レオンが手を上げた。
「攻撃するのはまだ早い」
「でも、あの扉の向こうには――」
「だからこそだ」
レオンは巨大な封印扉を見つめた。
「この遺跡は、何百年も前から何かを封じている可能性がある。正体も分からないまま攻撃したら、封印そのものを壊しかねない」
アリスも頷いた。
「レオンの言う通りよ。まず何が起きているのか確かめましょう」
「……分かった」
エラは剣を下ろした。
その隣で、ミアが小さな声を出す。
「でも……足音、大きくなってない?」
全員が黙る。
確かに。
先ほどより近い。
ドン……。
ドン……。
そして――。
ピタッ。
足音が止まった。
「……」
静寂。
誰も動かない。
すると封印扉の中央に、淡い光が浮かび上がった。
そこには古代文字が現れていた。
「文字だ!」
エコーが近づく。
「読める?」
アリスがレオンを見る。
「少し待ってくれ」
レオンは文字を一つずつ読み取っていく。
「……『眠れる守護者』」
「守護者?」
ノアが眉をひそめる。
「つまり、封印されているのは敵じゃないのか?」
「分からない」
レオンは首を横に振った。
「続きがある」
さらに文字を読む。
「『この地を守るため、二つの村の魔力を受けて眠る者』……」
「二つの村の魔力?」
エラが驚く。
「ふわりか村と野獣村の魔力を使って、何かを眠らせていたってこと?」
アリスが尋ねる。
仮面の人物が静かに答えた。
「その通りだ」
全員が一斉に振り返る。
「だったら、どうして今まで教えなかった!」
エラが詰め寄った。
「話す前に、二つの村が争い始めてしまった」
「……」
「そして魔法石が盗まれ、封印が弱くなった」
仮面の人物は続けた。
「私は、二つの村を戦わせている場合ではないと知っていた」
ノアが腕を組む。
「なら、最初から事情を説明すればよかっただろ」
「信じてもらえたと思うか?」
「……」
ノアは言葉に詰まった。
そこへミアが手を挙げる。
「私は信じたかもしれない」
「ミアは人を信じるのが早すぎる!」
エラが突っ込む。
「だって、ノアも最初は怪しかったけど、今は仲間だよ?」
「それは……そうだな」
ノアが苦笑した。
だが、その直後――。
封印扉が大きく揺れた。
ゴゴゴゴゴ……!
「話してる場合じゃない!」
グレゴリーが叫ぶ。
「封印がまた弱くなってる!」
魔法石の黒い亀裂が、先ほどより広がっていた。
「どうすればいい!?」
エコーが叫ぶ。
仮面の人物が魔法石を見る。
「二つの村の魔力が必要だ」
「でも、今はふわりか村の結界も弱っている!」
アリスが言う。
「野獣村も同じだ」
ノアが続ける。
「ヴァルターたちは、まだ俺たちを敵だと思っている」
そのとき。
遺跡の入口から、大きな声が響いた。
「ノア!」
全員が振り返る。
「その声……!」
ノアの顔が強張った。
入口に立っていたのは――。
野獣村のリーダー、ヴァルター。
その後ろにはアルベルトたち、野獣村の仲間たちがいた。
「ヴァルター……」
ノアが前へ出る。
「なぜここに?」
ヴァルターは険しい顔で周囲を見回した。
「お前たちを追ってきた」
「俺たちは――」
「説明は後だ」
ヴァルターが遮る。
その目が、中央の魔法石へ向けられた。
「それを返せ」
エラが身構える。
「これはふわりか村の魔法石よ」
「違う」
ヴァルターが低く言った。
「それだけじゃない」
彼は魔法石を見つめた。
「俺たちの村から盗まれた魔法道具も、ここにつながっている」
レオンが目を見開く。
「やっぱり……」
魔法石から伸びる魔力の線。
その一本はふわりか村へ。
もう一本は野獣村へ。
そしてさらにもう一本――。
「……山の向こうへ続いている」
アルベルトが指差した。
レオンが息をのむ。
「違う」
「何が?」
「野獣村でも、ふわりか村でもない」
レオンは魔力の流れを追った。
「この魔力は――」
その先にあるのは、二つの村のさらに奥。
誰も近づいたことのない、険しい山だった。
「山の地下から来ている」
その瞬間。
封印扉が――。
バキッ!
大きく割れた。
「全員、下がれ!」
エラが叫ぶ。
巨大な亀裂の向こうから、金色の光があふれ出す。
そして――。
扉の隙間から、一つの大きな手が伸びてきた。
「……!」
誰も動けない。
だが、その手は攻撃してこなかった。
地面にゆっくりと置かれた。
巨大な獣の手。
その爪の間には、古い石板が握られていた。
石板には、こう刻まれていた。
『災厄は、すでに目覚めている』
ヴァルターが目を見開く。
「……守護者じゃないのか?」
仮面の人物が、初めて動揺した。
「そんなはずはない……」
レオンが石板を見つめる。
「つまり、封印されているものとは別に――」
その言葉を遮るように、森の遥か彼方で巨大な爆発が起こった。
ドォォォン!!
地下遺跡の全員が振り返る。
爆発の場所から、黒い煙が空へ立ち上っていた。
ノアが呟く。
「……あれは、野獣村の方向だ」
アリスの顔が青ざめる。
「じゃあ……誰かが野獣村を襲った?」
ヴァルターが拳を握りしめる。
「違う」
彼の声が低く響く。
「俺の村を襲ったのは――」
遠くの山を睨みつける。
「野獣村の魔法を使った、何者かだ」
ふわりか村と野獣村。
二つの村を争わせていた本当の敵が、ついに動き始めた。




