第41話 守護者救出戦、黒き王の心へ
第41話 守護者救出戦、黒き王の心へ
黒き王の胸に浮かんだ、青い光。
それは小さく、弱々しい。
けれど、確かにそこに存在していた。
かつて山を守っていた守護者の心。
長い年月、黒き王の中に閉じ込められながら、それでも消えずに残っていた。
「……あそこに、守護者がいる」
ソフィアが静かに言った。
全員が黒き王を見上げる。
『来るな……』
黒き王の声が響く。
『あれは私の一部だ』
紫色の瞳が大きく輝いた。
『あれを取り戻すことは許さない!』
「それは違う!」
アルベルトが叫んだ。
「守護者はお前の一部なんかじゃない!」
ヴァルターも続く。
「ずっとお前の中で戦ってたんだろ!」
『黙れ!』
黒き王が腕を振る。
大量の黒い雷が地面へ降り注いだ。
「全員、避けろ!」
エラが叫ぶ。
グレゴリーが両手を地面についた。
「大地よ!」
ドォン!
地面が盛り上がり、巨大な岩の壁が現れる。
黒い雷が岩壁にぶつかる。
バリバリバリッ!
「ぐっ……!」
グレゴリーの身体が押される。
「グレゴリー!」
アリスが駆け寄る。
「大丈夫だ!」
グレゴリーは歯を食いしばった。
「これくらい……まだまだ!」
「じゃあ、こっちも!」
クララとセシルが地面に魔力を送る。
岩壁がさらに厚くなる。
黒い雷を受け止めながら、三人が踏ん張った。
「今だ!」
エコーが風をまとって飛び出す。
「行くよ!」
風の刃が黒き王へ向かって飛ぶ。
だが――。
『無駄だ!』
黒き王の身体から黒い鎖が伸びた。
ガキィン!
風の刃を鎖が弾き飛ばす。
「うそっ!」
エコーが空中で体勢を崩す。
「エコー!」
アクアが風を操る。
ふわっ。
エコーの身体が風に乗り、そのまま地面へ無事に着地した。
「助かった!」
「礼はあとでいい」
アクアが笑う。
「次はもっと速く飛ばすぞ」
「えっ、もっと!?」
「もちろん」
「ちょっと待って!」
緊張した戦場に、ほんの少しだけ笑いが起こった。
しかし黒き王は、その隙を逃さない。
『笑っている場合か!』
黒い波動が広がる。
空気そのものが震えた。
「うわっ!」
ミアが吹き飛ばされる。
「ミア!」
ノアが素早く走り、ミアを受け止めた。
「いたた……」
「怪我は?」
「大丈夫!」
ミアは立ち上がる。
そして黒き王を睨んだ。
「でも、今ので分かったよ!」
「何が?」
レオンが聞く。
「黒き王は、私たちが守護者を助けようとすると、すごく嫌がる!」
レオンの目が光った。
「つまり……」
「守護者が戻ってくれば、黒き王の力が弱くなるんだよ!」
「その通りだ」
セドリックが頷いた。
「黒き王は守護者を完全に消せていない。だから、あの青い光が弱点になる」
ソフィアが前へ出た。
「じゃあ、私が眠らせる」
「でも、前に黒き王を眠らせた時より強いよ」
アリスが心配そうに言う。
「分かってる」
ソフィアは頷いた。
「だから……今回は一人じゃやらない」
ソフィアが両手を広げる。
淡い白い光が広がった。
その光に、アリスの治癒魔法。
リリアの水と光。
エドガーの強力な水魔法。
そして、村人たちの魔力が重なっていく。
ふわりか村の魔法。
野獣村の魔法。
二つの村の力が、一つになる。
「行くぞ!」
ヴァルターが炎を放つ。
ゴォォォォッ!
アルベルトが光の雷を重ねる。
バリィィィン!
レオンが幻影を作り、黒き王の視界を乱す。
エコーが風で仲間たちの魔法を押し上げる。
グレゴリーが地面を固める。
クララとセシルが大地と植物で黒い鎖を縛る。
マルセルは巨大な身体で防壁を作る。
「俺の後ろにいろ!」
「マルセル、あなたが一番前じゃない!」
「一番丈夫だからな!」
「確かに!」
アリスが思わず納得してしまう。
その間にも、ソフィアの白い光が強くなっていく。
「守護者さん……」
ソフィアは黒き王の胸を見る。
青い光が震えている。
「聞こえる?」
返事はない。
「ずっと一人だったんだよね」
青い光が、ほんの少しだけ明るくなった。
「でも、もう一人じゃないよ」
ソフィアの声が響く。
「私たちは、あなたを助けに来た」
青い光がさらに輝く。
黒き王が苦しそうに胸を押さえた。
『やめろ……!』
「嫌!」
ソフィアが首を振る。
「今度は絶対にやめない!」
『私を……否定するな!』
黒き王から、巨大な黒い腕が現れる。
それがソフィアへ向かって振り下ろされた。
「ソフィア!」
その瞬間。
ヴァルターが飛び出した。
「させるか!」
炎をまとった身体で黒い腕を受け止める。
「ぐっ……!」
「ヴァルター!」
アルベルトが隣に立つ。
「一人で受けるな!」
「だったら、お前も手伝え!」
「最初からそのつもりだ!」
二人の魔力が重なる。
炎と光が黒い腕を押し返していく。
「私たちも!」
エラが剣を構える。
「みんなで支える!」
エコー、ミア、ノア、グレゴリー。
次々と仲間たちが二人を支える。
さらに、その後ろから――。
「ふわりか村も!」
クララが叫ぶ。
「野獣村も!」
ノアが叫ぶ。
「一緒だ!」
アルベルトが叫んだ。
全員の声が重なった。
「「「絶対に、一人にしない!」」」
その瞬間。
山の心臓が、大きく鼓動した。
ドクン!
白い光が黒き王を包み込む。
『ぐ……あああああっ!』
黒き王の身体に亀裂が走った。
その亀裂の中から、青い光が漏れ出す。
「今!」
レオンが叫ぶ。
「ソフィア!」
「うん!」
ソフィアは両手を胸の前で合わせた。
「眠って……」
白い光が黒き王の胸へ入っていく。
「そして――」
青い光に触れる。
「起きて!」
――パァァァァッ!
まばゆい光が爆発した。
黒き王の身体から、巨大な黒い鎖が次々と外れていく。
『やめろ!』
一本。
『私から離れるな!』
二本。
『あいつは私の中にいる!』
三本。
そして最後の一本が――。
バキィン!
砕けた。
黒き王の胸から、青い光が飛び出す。
「出た!」
ミアが叫ぶ。
青い光は空中で形を変えていく。
長い年月を経て、少しずつ。
白い毛。
青い瞳。
そして、穏やかな表情。
かつて山を守った守護者の姿が、そこに現れた。
『……久しいな』
静かな声だった。
ソフィアの目に涙が浮かぶ。
「守護者さん……?」
『ありがとう』
守護者は微笑んだ。
『私を、起こしてくれて』
しかし――。
黒き王が立ち上がった。
その姿は以前よりも小さくなっていた。
だが、まだ消えてはいない。
『ふざけるな……』
黒き王の紫色の目が燃える。
『私を生み出したのは、人間たちの心だ』
『怒りも、恐怖も、憎しみも……』
『それを消すことなどできない!』
守護者は黒き王を見つめた。
『消す必要はない』
「え?」
アリスが驚く。
守護者は静かに続ける。
『怒りも恐怖も、人の心の一部だ』
『だが――』
守護者の青い瞳が輝く。
『それに支配されるかどうかは、別の話だ』
黒き王が黙る。
『恐怖を知っているからこそ、守ることができる』
『悲しみを知っているからこそ、誰かに優しくできる』
『過去に間違えたからこそ、同じ間違いをしない選択ができる』
ヴァルターが拳を握る。
「その通りだ」
アルベルトも頷く。
「過去は消せない」
「でも、未来は選べる」
二人の言葉に、山の心臓が反応した。
ドクン。
黒き王の身体が揺れる。
『……認めない』
黒き王は震える。
『そんなもの……私は認めない!』
再び黒い魔力が集まり始めた。
「まだ終わってない!」
エラが叫ぶ。
守護者も表情を変えた。
『そうだ』
守護者は山を見上げる。
『黒き王は、まだこの世界に残っている』
レオンが時計塔を見る。
文字盤には、新しい文字が浮かび上がっていた。
――守護者の帰還を確認。
――黒き王、弱体化。
――最終封印条件、未達成。
「まだ条件がある……」
セドリックが呟く。
「何なんだ?」
グレゴリーが聞く。
時計塔の文字が変わる。
そして――。
そこに、たった一つの言葉が浮かんだ。
――許し。
全員が息をのんだ。
「……許し?」
ソフィアが呟く。
黒き王が笑う。
『そうだ』
『最後に必要なのは、私を倒す力ではない』
黒き王の姿が闇の中で揺れる。
『私を生み出した者たちが――』
『自分たちの過ちを許せるかどうかだ』
山の心臓が、静かに鼓動する。
ドクン。
そして時計塔の鐘が鳴った。
ゴォォォォン――。
文字盤に最後の文章が現れる。
――第三段階。
――守護者救出、成功。
――最終段階へ。
その文字を見たレオンが、顔を上げた。
「……最終段階」
黒き王が静かに笑う。
『さあ、見せてもらおう』
『お前たちは――』
『自分たちの過去を、許せるのか?』
山全体が、再び黒と白の光に包まれていった。
次に待っているのは、最後の戦い。
敵を倒すだけでは終わらない。
二つの村が犯した過去。
守護者が背負った罪。
そして、黒き王自身が抱えていた孤独。
そのすべてと向き合う戦いが、始まろうとしていた。




