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ふわりか村英雄譚~黒き王と三つの鍵~もふもふたちの戦い  作者: 雨宮ぐみ


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第40話 黒き王が生まれる前の真実

第40話 黒き王が生まれる前の真実


 山の心臓が、ゆっくりと鼓動していた。


 ドクン。


 白と青の光が山全体へ広がり、ふわりか村と野獣村をつないでいる。


 しかし、その光の中心にある時計塔だけは、異様な黒い光を放っていた。


「最後の記憶……?」


 レオンが時計塔を見上げる。


 文字盤には、これまで見たことのない文字が浮かんでいた。


 ――黒き王が生まれる前の真実。


「これ以上、何があるっていうの……?」


 アリスが不安そうにつぶやく。


 セシルも時計塔を見つめた。


「二つの村が分かれた理由なら、さっき分かったはずよ」


「いや」


 セドリックが静かに首を振った。


「まだ、一番大切な部分が抜けている」


「大切な部分?」


 エラが聞き返す。


 セドリックは、黒き王を見た。


「なぜ……黒き王が生まれたのか」


 その言葉に、全員が黙った。


 黒き王。


 山の心臓から生まれた力。


 恐怖、怒り、憎しみ、欲望。


 これまで何度も聞かされてきた。


 だが、それだけではない。


 黒き王が生まれる前。


 そこには何があったのか。


 時計塔の鐘が鳴った。


 ゴォォォォン――。


 世界が白く染まる。


「うわっ!」


 ミアが目を閉じる。


「また記憶の中に入るの!?」


「たぶんね」


 レオンが答えた。


「でも今回は……今までとは違う」


「何が?」


「時計塔が、過去を見せているんじゃない」


 レオンは文字盤を見た。


「過去そのものが、こちらを見せようとしているんだ」


「……意味が分からん」


 ヴァルターが腕を組む。


「俺にも分からない」


「お前が分かっていたら逆に怖いよ」


 ノアが淡々と返した。


「なんだと!」


「はいはい、喧嘩は後」


 アルベルトが二人の間に入る。


 その瞬間だった。


 景色が変わった。


 そこは、まだふわりか村でも野獣村でもない場所。


 巨大な山の麓。


 そして、その山の中心には、今よりもはるかに美しい山の心臓が輝いていた。


 青。


 白。


 そして、柔らかな金色。


「……きれい」


 リリアが息をのむ。


 そこには、まだ黒い影はなかった。


 黒い鎖も。


 黒き王も。


 何もなかった。


 山の心臓の周囲では、一つの村の住民たちが暮らしていた。


 動物たちは笑い、畑を耕し、川から水を運び、家を建てている。


 今の二つの村よりも、ずっと大きな村だった。


「これが……」


 クララがつぶやく。


「昔の、私たち……」


 その村の中央には、一匹の大きな守護獣が立っていた。


 白い毛。


 青い瞳。


 胸には、青く輝く魔石。


 現在の黒い影とは、まるで別の姿だった。


「守護者……」


 セドリックが言った。


 守護獣は山を見上げていた。


 そして、村人たちに語りかける。


『山の力は、命を守るために使うのです』


『必要な分だけを受け取りなさい』


『山が与えてくれるものには、限りがあります』


 村人たちは頷いていた。


 最初は。


 しかし――。


 ある日、一人の村人が言った。


『もっと力を使えば、もっと豊かになれるんじゃないか?』


 別の者が答える。


『そうだ。畑をもっと広げよう』


『病気も全部治せる』


『もっと強い家を作れる』


『外敵から村を守るためにも、もっと必要だ』


 少しずつ。


 少しずつ。


 山の心臓から取り出される魔力が増えていった。


「……今と同じだ」


 アリスが小さく言った。


「便利だからって、どんどん使ってしまったんだ」


 さらに時が進む。


 村人たちは二つの集団に分かれていた。


 一方は、


『もっと山の力を使うべきだ』


 もう一方は、


『これ以上使えば山が壊れる』


 と主張していた。


 そして、ついに争いが起きた。


「やめろ!」


 守護獣が叫ぶ。


『山を傷つけてはいけない!』


 だが、誰も止まらなかった。


 魔法が飛び交う。


 炎。


 雷。


 風。


 土。


 水。


 そのすべてが山にぶつかった。


 山の心臓に亀裂が入る。


 ――ピシッ。


「……!」


 現在の村人たちが息をのむ。


 山の心臓から、黒い煙のようなものが漏れ出した。


 しかし、それはまだ黒き王ではなかった。


 ただの感情だった。


 恐怖。


 怒り。


 悲しみ。


 嫉妬。


 後悔。


 そして――憎しみ。


 それらが山の心臓の周囲に渦巻いていく。


「これが……黒き王の材料?」


 レオンがつぶやく。


 守護獣は必死にそれを抑えようとしていた。


『やめろ……』


『もう争うな……』


『このままでは――』


 しかし、村人たちは聞かなかった。


 守護獣の胸にある青い魔石が、次第に黒く染まっていく。


「そんな……」


 ソフィアが悲しそうに声を漏らす。


「守護者が……」


 黒い感情は、守護獣の中へ流れ込んでいた。


 だが、守護獣は逃げなかった。


 むしろ、そのすべてを受け止めようとしていた。


『私が……受け止めればいい』


『この山を守るために……』


『皆の心を、私が抱えれば……』


「待って!」


 ソフィアが叫んだ。


「そんなことしたら、あなたが壊れちゃう!」


 もちろん、過去の守護獣には聞こえない。


 守護獣の青い魔石が、黒く染まる。


 その身体から黒い鎖が伸びた。


 そして――。


 守護獣の背後に、巨大な黒い影が現れた。


『……我は』


 低い声が響く。


『怒りである』


『恐怖である』


『欲望である』


『憎しみである』


 黒い影が笑った。


『そして、人々が生み出したものだ』


 黒き王。


 その誕生だった。


「……人が作った」


 エラが呟く。


「そういうことなのか」


 黒き王は守護獣へ手を伸ばす。


『器をよこせ』


 守護獣は首を振った。


『断る』


『なぜだ?』


『お前が生まれた原因は、私たちの過ちだ』


 守護獣は山を振り返る。


『ならば、私が終わらせる』


 次の瞬間。


 守護獣は自分の身体ごと黒き王を封じ込めた。


 青い光が爆発する。


 黒い影が叫ぶ。


『なぜだ!』


『私は山の守護者だ』


『この山も、この村も――』


『守る!』


 白い光が黒き王を包み込む。


 そして守護獣は、黒き王とともに山の奥深くへ沈んでいった。


 その直前。


 守護獣は、最後に村人たちを見た。


『いつか……』


『争うことをやめられたなら……』


『もう一度、この山は目覚める』


 そこで記憶が途切れた。


 現在へ戻る。


 誰も、すぐには言葉を出せなかった。


 やがて――。


「……俺たちは」


 ヴァルターが拳を握る。


「昔の奴らと同じことをしていたんだな」


 アルベルトも静かに頷く。


「ああ」


「でも」


 ヴァルターは隣にいるアルベルトを見る。


「俺たちは、違う」


「そうだ」


 二人は拳を合わせた。


 その瞬間――。


 山の心臓が大きく鼓動した。


 ドクン!


 白い光が二人の村へ広がっていく。


 しかし。


 黒き王が笑った。


『愚かな』


 空に巨大な姿が浮かび上がる。


『ならば聞こう』


『お前たちは、過去の過ちを本当に乗り越えられるのか?』


 黒き王の目が紫色に光った。


『守護者は、私を封じるために自らを犠牲にした』


『ならば――』


 黒い鎖が一斉に伸びる。


『その守護者を救うことができるのか?』


「……え?」


 セドリックが顔を上げる。


「守護者を……救う?」


 黒き王は笑った。


『守護者はまだ、私の中にいる』


 その言葉に、全員が凍りついた。


「なんだって……?」


 レオンが目を見開く。


 黒き王の胸。


 そこに、一瞬だけ――。


 青い光が見えた。


 ほんの一瞬。


 だが、確かに存在した。


 白い光。


 青い光。


 そして、その奥にある黒い闇。


「……あれが」


 ソフィアが呟く。


「守護者……」


 黒き王は胸を押さえた。


『まだ消えていない』


『あの愚かな守護者は、今も私の中で抗っている』


 黒き王の声に、初めて苛立ちが混じった。


『だから私は――』


 鎖が激しく揺れる。


『あいつを完全に消す!』


「させない!」


 ソフィアが前へ出た。


 その手から、淡い光が生まれる。


「眠らせるだけじゃない」


 ソフィアは黒き王を見つめた。


「今度は……あなたの中にいる守護者を起こす」


「ソフィア……」


 アリスが驚く。


 ソフィアは小さく笑った。


「だって、あの守護者はずっと頑張ってたんでしょう?」


 ミアが頷く。


「じゃあ、今度は私たちが助ける番だよ!」


「そうだ!」


 ガルドが叫ぶ。


「みんなでやればいい!」


「お前はまず突っ込む前に考えろ」


 エラが即座に止める。


「考えてる!」


「何を?」


「……今から考える!」


「今かよ!」


 緊迫した空気の中、思わず笑いが起こった。


 その笑いは小さかった。


 だが――。


 山の心臓は、それを確かに受け取った。


 ドクン。


 白い光がさらに強くなる。


 黒き王の胸から、青い光が再び漏れた。


『やめろ……』


 黒き王が苦しそうに叫ぶ。


『その光を……近づけるな!』


 レオンが気づく。


「そうか……!」


「何が分かった?」


 エコーが聞く。


「黒き王は、守護者を完全には取り込めていない」


 レオンは時計塔を指差した。


「そして、時計塔が見せた最後の記憶は、黒き王の誕生だけじゃない」


「じゃあ何?」


「守護者を救う方法も、どこかに残されているはずだ」


 その瞬間。


 時計塔の文字盤に、新しい文字が浮かんだ。


 ――最後の鍵。


 ――守護者の心を呼び戻せ。


「最後の鍵……?」


 グレゴリーが目を丸くする。


 これまでの三つの鍵とは違う。


 それは物ではなかった。


 レオンが文字を読み上げる。


 ――三つの鍵を戻した者よ。


 ――最後に開くべきものは、扉ではない。


 ――黒き王の中に残された、守護者の心である。


「……鍵そのものじゃない」


 セドリックが呟いた。


「三つの鍵で作った道を使って、守護者の心へ向かうんだ」


 黒き王が叫ぶ。


『来るな!』


 その声には、これまでなかった恐怖があった。


 ヴァルターがニヤリと笑う。


「おい、聞いたか?」


 アルベルトも笑った。


「ああ」


「黒き王が、初めて怖がったぞ」


『黙れ!』


 黒い雷が落ちる。


 だが――。


 白い光が、それを受け止めた。


 ふわりか村と野獣村。


 二つの村をつないだ光の道が、黒き王へ向かって伸びていく。


 その先には――。


 黒き王の胸にある、青い光。


 かつて山を守った守護者の心があった。


 ソフィアが一歩前へ進む。


「行こう」


 アリスが隣に並ぶ。


 レオンも続く。


 エラ、エコー、ミア、グレゴリー。


 そしてヴァルター、アルベルト、ノア。


 次々と仲間たちが並んでいく。


 黒き王が叫んだ。


『来るというのか!』


 ソフィアは答えた。


「うん」


「今度は――」


 全員が前を向く。


「誰も一人にしない!」


 山の心臓が、これまでで一番大きく鼓動した。


 ドクン――!


 そして時計塔の文字が、最後に一行だけ浮かび上がった。


 ――第三段階、開始。


 ――守護者救出戦。


 黒き王の胸の奥で、青い光が強く輝いた。


 それはまるで――。


 長い眠りから目覚めようとする、誰かの心のようだった。

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