第4話 森の奥に潜む黒い影
第4話 森の奥に潜む黒い影
ふわりか村の外れに広がる深い森。
青白い光を放ちながら走る魔法石を追って、ふわりか村の仲間たちと野獣村のノアは、木々の間を駆け抜けていた。
「いた! あそこ!」
木の枝の上を走っていたエコーが叫んだ。
前方――。
大きな岩の向こうに、青い光が一瞬だけ見えた。
「魔法石だ!」
エラが剣を構える。
「待って。何かおかしいわ」
レオンが足を止めた。
キツネの耳が、ぴくりと動く。
「……音がしない」
「音?」
アリスが首をかしげる。
「盗んだ魔法石を運んでいるなら、普通は魔力の揺れがもっと大きい。あれは……」
レオンが目を細めた。
「誰かが魔法石を、遠くから動かしているように見える」
「つまり?」
グレゴリーが尋ねる。
「囮かもしれない」
「囮……」
その言葉に、全員が警戒した。
ノアも周囲を見回す。
「……やはり罠だったか」
「ノア、何か気づいたの?」
アリスが聞く。
「ああ」
ノアは地面に鼻を近づけた。
「さっきまで俺たちが追っていた足跡は、ここで突然消えている」
「消えた?」
ミアが地面を覗き込む。
「本当だ! ここまでしかない!」
「魔法で消したんだろうな」
ノアが答えた。
その瞬間――。
ズズズズズ……。
森の奥から、低い音が響いた。
「な、何!?」
ミアが驚いてグレゴリーの背中に飛びついた。
「ミア、俺の背中は木じゃないぞ」
「今だけ木になって!」
「無茶言うな!」
そんなやり取りをしている間にも、地面が小刻みに揺れている。
グレゴリーが手を地面につけた。
「……地下に何かある」
「地下?」
エラが尋ねる。
「かなり大きい。しかも魔力を吸い上げている」
レオンの表情が険しくなった。
「魔力を吸い上げる……?」
「まさか――」
ノアが森の奥を見た。
「ふわりか村の結界から流れ出た魔力を、地下で集めているのか?」
全員が息をのんだ。
魔法石を盗んだだけではなかった。
誰かが、ふわりか村の結界そのものを利用して、大量の魔力を集めている。
「じゃあ、魔法石を盗んだのも……」
アリスがつぶやく。
「結界を弱らせるため」
レオンが続けた。
「そして、野獣村からも魔法道具を盗んだのは……」
「両方の村を戦わせるためだ」
エラが言った。
森の奥で、何かが動いた。
「……誰かいる!」
エコーが一気に飛び出した。
「待て、エコー!」
しかし、エコーはすでに木々の間へ消えていた。
「もう……!」
アリスがため息をつく。
「エコーらしいけど、今は単独行動しないでほしいわね」
「俺が追う」
ノアが走り出した。
「俺も行く!」
グレゴリーも続く。
「じゃあ私はエコーたちを上から追う!」
エコーを追って、ミアも木の上へ飛び乗った。
「……全員、勝手に動くなよ」
エラが頭を抱えた。
「この村、作戦会議が苦手すぎる……」
レオンが苦笑する。
「でも、悪くない」
「何が?」
「全員が、自分で考えて動いている」
「それを勝手に動いているって言うんだけどな」
エラはため息をつきながら、仲間たちを追った。
◆
森の奥。
エコーは黒い影を見つけていた。
「止まれ!」
木の枝から飛び降り、目の前に着地する。
黒いローブをまとった人物が振り返った。
「……!」
顔は仮面で隠されている。
「お前が魔法石を盗んだのか!」
エコーが風魔法を放つ。
しかし――。
シュンッ!
黒い影は風をかわした。
「速い……!」
エコーが追いかける。
黒い影は木々の間を抜け、地面に手をかざした。
すると――。
ゴゴゴゴゴ……!
巨大な岩が地面からせり上がった。
「うわっ!」
エコーは慌てて飛び退いた。
その隙に黒い影は走り去る。
「逃がすか!」
そこへノアが飛び込んできた。
「エコー!」
「ノア!」
二人で黒い影を追う。
だが、影は突然姿を消した。
「……消えた?」
エコーが周囲を見回す。
ノアは地面を見た。
「違う」
「え?」
「地下だ」
岩のそばに、小さな魔法陣が描かれている。
ノアが触れた瞬間――。
地面が開いた。
「うわあああっ!」
「エコー!」
二人はそのまま地下へ落ちていった。
◆
「いた!」
後から追いついたアリスたちが、開いた穴を見つけた。
「エコーとノアは?」
「中だ!」
グレゴリーが答える。
その時だった。
地下から、エコーの声が響いた。
「みんな! 早く来て!」
「何があるの!?」
アリスが叫ぶ。
「魔法石だけじゃない!」
エコーの声が返ってくる。
「ここに――」
一瞬、声が途切れた。
そして。
「ふわりか村の結界の魔力を、集めている装置がある!」
全員の顔から笑みが消えた。
これは単なる魔法石泥棒ではない。
誰かが、ふわりか村の魔力を奪い、さらに野獣村まで利用している。
そして地下には、まだ見ぬ巨大な魔法装置が眠っていた。
レオンが静かに言った。
「……犯人の目的は、村を襲うことじゃない」
「じゃあ何だ?」
グレゴリーが聞く。
レオンは地下を見つめた。
「この土地に眠る、もっと大きな魔力だ」
その瞬間――。
地下の奥から、巨大な獣のような唸り声が響いた。
グオオオオオ……。
全員が凍りつく。
ノアが低い声で言った。
「……あれは、魔法装置の音じゃない」
森の地下深く。
何かが、目を覚まそうとしていた。




