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ふわりか村英雄譚~黒き王と三つの鍵~もふもふたちの戦い  作者: 雨宮ぐみ


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第3話 ふわりか村に迫る影

第3話 ふわりか村に迫る影


 森からふわりか村へ戻る道を、エコーたちは急いでいた。


 先頭を走るのは犬のエラ。


 その後ろを、猫のエコー、うさぎのアリス、キツネのレオン、熊のグレゴリーが続いている。


 そして、その少し後ろには――野獣村のオオカミ、ノアがいた。


「もっと急げ!」


 エラが振り返る。


「分かってる!」


 グレゴリーが答える。


 だが、大きな体のグレゴリーは、森の細い道を走るのが苦手だった。


「うわっ!」


 ドサッ!


「グレゴリー!」


「大丈夫だ!」


 グレゴリーは木の根につまずきながらも立ち上がる。


「俺はまだまだ走れるぞ!」


「……その割には三回転びましたよ」


 レオンが冷静に言った。


「数えるな!」


 グレゴリーが叫ぶ。


 エコーは苦笑した。


 しかし、村が近づくにつれて、全員の表情が真剣になっていった。


 空気が妙に重い。


 遠くから見えるふわりか村の上空には、いつもなら透明な膜のように広がっている結界があった。


 ところが今は――。


 結界が大きく揺らいでいる。


「まずい……」


 アリスが呟く。


「魔法石がないから、結界が維持できなくなってる」


「急ごう!」


 エラが走る速度を上げた。


 村の門をくぐると、たくさんの村人たちが集まっていた。


「エラ!」


 リスのミアが駆け寄ってくる。


「遅いよ!」


「何があった?」


 エラが尋ねる。


「結界がどんどん弱くなってるの!」


 ミアが空を指差す。


 その瞬間。


 バチッ!


 結界の一部に亀裂のような光が走った。


「あとどれくらい持つ?」


 エコーが尋ねる。


「長くても数時間だと思う」


 ミアが答える。


「それまでに魔法石を取り戻さないと……」


「村が危ないな」


 グレゴリーが拳を握る。


 すると、村の中央から声が響いた。


「みんな、落ち着いて!」


 村長の声だった。


 タヌキのルークが、村人たちの前に立っている。


「今から村の防衛態勢を整える!」


「防衛って……野獣村が攻めてくるの?」


 誰かが尋ねた。


 ルークは険しい顔で頷いた。


「その可能性が高い」


 村人たちの間に不安が広がる。


 そのとき。


「違う」


 ノアが前へ出た。


 村人たちが一斉に振り返った。


「オオカミだ!」


「野獣村の奴だぞ!」


「なぜここにいる!」


 ざわめきが起こる。


 エラがすぐに前へ出た。


「待って! ノアは敵じゃない!」


「本当に?」


 ミアが不安そうに聞く。


「ノアは魔法石を盗んだ犯人を追っていたの」


 アリスが説明した。


「犯人は野獣村の者ではない可能性が高いわ」


「……」


 村人たちは顔を見合わせる。


 ノアは静かに口を開いた。


「俺は野獣村の人間だ」


 村人たちが身構える。


「だが、俺たちも魔法石を盗んだ犯人を探している」


「どうして?」


 エコーが聞く。


 ノアは山の向こうを見た。


「誰かが、ふわりか村と野獣村を戦わせようとしている」


「つまり……」


 レオンが目を細める。


「魔法石を盗んだ犯人は、二つの村を争わせることが目的?」


「そう考えている」


 そのときだった。


 突然、村の鐘が鳴った。


 カン!


 カン!


 カン!


 警報の鐘だ。


「敵襲!?」


 グレゴリーが叫ぶ。


 エラが村の入り口へ走る。


「みんな、武器を!」


 村人たちが一斉に動き始めた。


 ウシのクララは大地魔法で土の壁を作り、ヤギのセシルは植物魔法で巨大な蔦を伸ばす。


 ゾウのエドガーは大量の水を呼び出し、カバのマルセルは村の入り口に立った。


 いのししのガルドは――。


「俺に任せろ!」


 勢いよく走り出した。


「ガルド、待て!」


 エラが叫ぶ。


「敵を倒してくる!」


「まだ敵が来てない!」


「え?」


 ガルドが止まった。


 そのまま勢い余って――


 ズザザザザッ!


 地面を滑って転んだ。


「……」


「……」


 村人たちは一瞬、沈黙した。


 ミアが小声で言う。


「いつものガルドだね」


「うん」


 アリスも頷いた。


 しかし、次の瞬間。


 山の向こうから、黒い影がいくつも現れた。


「……今度は本当に来た」


 エコーが呟く。


 遠くに見えるのは、オオカミたち。


 そしてその中央には、一頭の大きなトラがいた。


「ヴァルター……」


 ノアが低く呟いた。


 野獣村のリーダーだった。


 ヴァルターは山の上から、ふわりか村を見下ろしていた。


「ふわりか村の者たちよ!」


 大きな声が響き渡る。


「我々は魔法石を渡してもらう!」


「魔法石は俺たちが盗んだんじゃない!」


 エラが叫び返す。


「そんな言葉は信じられぬ!」


 ヴァルターが吠える。


「我々の村にも、ふわりか村の者が侵入した形跡がある!」


「え?」


 レオンの顔色が変わった。


「ふわりか村の者が、野獣村へ?」


 ヴァルターは続ける。


「我々の倉庫から、大切な魔法道具が盗まれた!」


 村人たちがざわつく。


「それって……」


 アリスが呟いた。


「魔法石を盗んだ犯人と同じ奴が、野獣村でも何かを盗んだ?」


 エコーが頷く。


「その可能性が高い」


 つまり犯人は――。


 ふわりか村から魔法石を盗み、野獣村からも魔法道具を盗んだ。


 そして、それぞれの村に相手の仕業だと思わせようとしている。


「このままじゃ……」


 エラが拳を握る。


「本当に戦争になる」


 そのとき。


 ノアが突然、村の外へ歩き出した。


「ノア?」


 エコーが呼び止める。


「俺がヴァルターと話す」


「危険よ!」


 アリスが叫ぶ。


「分かっている」


 ノアは振り返った。


「だが、このままでは両方の村が傷つく」


 ノアは一人で山の上へ向かって歩き出した。


 ヴァルターもノアに気づいた。


「ノア……?」


「ヴァルター!」


 ノアが叫ぶ。


「話を聞いてくれ!」


「なぜお前が、ふわりか村にいる!」


「魔法石を盗んだ犯人を追っている!」


「証拠はあるのか!」


「ある!」


 ノアは、森で拾った黒い袋を掲げた。


「犯人は魔法石を持っている!」


 ヴァルターの目が鋭くなる。


「ならば、その犯人を捕らえろ」


「そのために、俺たちは協力する必要がある!」


 ふわりか村と野獣村。


 今まで敵だった二つの村。


 その間に、ほんのわずかな沈黙が流れた。


 そのとき――。


 森の奥で、何かが光った。


「……!」


 エコーが気づいた。


「あそこだ!」


 木々の間。


 一瞬だけ、青白い光が見えた。


 魔法石の光だった。


「犯人がいる!」


 エラが叫ぶ。


 ふわりか村の住人たちと野獣村の者たちが、一斉に森を見る。


 すると、木々の向こうから――。


 一つの影が走り出した。


「逃げたぞ!」


 ガルドが叫ぶ。


「追えーーー!」


 ガルドが真っ先に走り出した。


 エコー、エラ、アリス、レオン、ノアも続く。


 さらに、野獣村のオオカミたちも走り出した。


 ふわりか村と野獣村。


 二つの村の住人たちが、初めて同じ目的のために走り始めた。


 果たして、魔法石を盗んだ犯人は誰なのか。


 そして――。


 二つの村を争わせようとしている黒幕は、いったい何者なのか。


 事件は、さらに大きな謎へと繋がっていく。

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