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ふわりか村英雄譚~黒き王と三つの鍵~もふもふたちの戦い  作者: 雨宮ぐみ


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第2話 森に残された足跡

第2話 森に残された足跡


 ふわりか村の中央にある時計塔から、魔法石が消えた。


 村の結界を維持する大切な魔法石。


 それを取り戻すため、エコー、アリス、エラ、レオン、グレゴリーの五人は、森へ向かっていた。


「足跡、まだ続いてるよ!」


 先頭を歩くエラが叫んだ。


 地面には、いくつもの足跡が残っている。


 森の中は薄暗く、木々の間から差し込む光が細い筋になっていた。


「誰の足跡か分かる?」


 アリスが尋ねる。


「大きさからすると……オオカミかもしれない」


 エラが答えた。


 グレゴリーが腕を組む。


「やっぱり野獣村の仕業か」


「まだ決めつけるのは早いですよ」


 レオンが冷静に言った。


「足跡だけでは、誰が残したものか分かりません」


「でも、オオカミなんだろ?」


「オオカミに似た別の動物かもしれません」


「そんなのいるのか?」


「さあ」


「さあって……」


 グレゴリーが困った顔をする。


 その横で、エコーが木の枝を見上げた。


「みんな、静かに」


「どうした?」


「誰かいる」


 全員が身構える。


 エラが剣を抜き、アリスも杖を構えた。


 グレゴリーは拳を握り、レオンは幻影魔法の準備をする。


 森の奥から――


 ガサッ。


 ガサガサッ。


 何かが近づいてくる。


「来るぞ!」


 グレゴリーが叫んだ。


 茂みが大きく揺れた。


「そこだ!」


 エラが飛び出す。


 しかし――。


「きゃあっ!」


 ドサッ!


 エラが何かに足を取られ、地面に転んだ。


「エラ!」


 アリスが駆け寄る。


「大丈夫?」


「う、うん……」


 エラが足元を見る。


 そこには、木の根が一本飛び出していた。


「……」


「……」


 エコーが黙り込む。


「誰かいると思ったら、木の根だったのか」


「言わないで」


 エラは恥ずかしそうに立ち上がった。


 すると、その瞬間。


「グルルル……」


 今度こそ、本物の唸り声が聞こえた。


 全員が振り向く。


 木々の向こうに、二つの黄色い目が浮かんでいた。


「今度こそ敵だ!」


 グレゴリーが叫ぶ。


「待って!」


 アリスが止める。


 目の前の茂みから姿を現したのは――。


 一匹の大きな狼だった。


 しかし、その狼は傷だらけだった。


「……野獣村のオオカミ?」


 エラが警戒する。


 狼はふらつきながら、こちらを見る。


「近づくな……」


 低い声だった。


 エコーが目を細める。


「喋った?」


「ここでは動物が普通に喋るだろ」


 グレゴリーが言った。


「いや、そういう意味じゃない」


 狼はその場に倒れ込んだ。


「ちょっと!」


 アリスが駆け寄る。


「かなり傷が深いわ」


「敵を助けるのか?」


 エラが驚く。


「敵だからって、怪我をしている相手を放っておけないでしょう」


 アリスは治癒魔法を使った。


 白い光が狼の体を包む。


 傷が少しずつ癒えていく。


「……なぜ、助ける?」


 狼が尋ねた。


「困っているなら助ける。それだけよ」


 アリスは笑った。


 狼はしばらく黙っていた。


 そして――


「俺はノア」


 そう名乗った。


「野獣村の者だ」


 全員の表情が変わった。


「やっぱり……!」


 エラが身構える。


 ノアはゆっくり立ち上がった。


「だが、魔法石を盗んだのは俺じゃない」


「え?」


 エコーが驚く。


「では誰が盗んだの?」


 アリスが尋ねる。


 ノアは森の奥を見つめた。


「俺は魔法石を盗んだ犯人を追っていた」


「犯人を?」


「ああ」


 ノアは頷いた。


「俺たち野獣村も、魔法石が盗まれたことを知った」


「じゃあ、野獣村も犯人を探しているのか?」


 グレゴリーが聞く。


「そうだ」


 ノアは答えた。


「俺は犯人を追ってここまで来た。しかし、途中で何者かに襲われた」


「誰に?」


「分からない」


 ノアは悔しそうに拳を握った。


「ただ、一つだけ分かっている」


「何?」


「犯人は野獣村の者ではない」


 森に静寂が戻った。


 レオンが考え込む。


「では、あの野獣村の紋章は……」


「偽物だ」


 ノアが答えた。


「誰かが野獣村に罪を着せようとしている」


 エコーは険しい顔をした。


「じゃあ、犯人はふわりか村と野獣村を争わせようとしている?」


「その可能性が高い」


 ノアが頷いた。


 そのときだった。


 森の奥から、枝を踏む音が聞こえた。


 パキッ。


 全員が振り向く。


「誰だ!」


 エラが叫ぶ。


 返事はない。


 エコーが風魔法を放つ。


 木々が揺れ、茂みの奥が見える。


「誰もいない……?」


 しかし、地面には新しい足跡があった。


 そして、その先には小さな黒い袋が落ちていた。


 レオンが拾い上げる。


「これは……」


 袋を開ける。


 中には青白い光が残っていた。


「魔法石の魔力だ」


 アリスが言った。


「犯人はここにいたんだ」


 エコーが森の奥を見る。


「でも、もう逃げた」


 ノアが足跡を調べる。


「違う」


「え?」


「逃げたんじゃない」


 ノアが顔を上げた。


「この足跡……」


 ノアの表情が険しくなる。


「ふわりか村へ戻っている」


「……!」


 全員が息をのんだ。


 犯人は魔法石を持ったまま、ふわりか村へ向かっている。


「急いで戻ろう!」


 エラが叫ぶ。


 五人と一匹は、急いで村へ引き返した。


 だが、その頃――。


 ふわりか村では、別の異変が起きていた。


 村を守っていた結界が――


 大きく揺らぎ始めていた。


「結界が……消える!」


 村人たちの叫び声が響く。


 そして山の向こう。


 一頭のトラが、静かにふわりか村を見つめていた。


「時間だ」


 野獣村のリーダー、ヴァルターが低く呟く。


「ふわりか村へ向かうぞ」


 魔法石をめぐる事件は、ただの盗難事件ではなかった。


 ふわりか村と野獣村。


 二つの村を巻き込む、大きな事件が始まろうとしていた。

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