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ふわりか村英雄譚~黒き王と三つの鍵~もふもふたちの戦い  作者: 雨宮ぐみ


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第37話 黒き王が狙う心

第37話 黒き王が狙う心


 ふわりか村と野獣村。


 二つの村を結ぶように現れた、白い光の道。


 その光は、山の心臓から伸びていた。


「これが……二つの村をつなぐ道」


 レオンは光の上に手をかざした。


 ほんのりと温かい。


 まるで、誰かがそこにいるような感覚だった。


「山が、私たちに何かを伝えようとしているのかもしれないね」


 アリスが微笑む。


 その横で、ミアが光の道を走り回っていた。


「すごい! 本当に野獣村までつながってる!」


「ミア、走りすぎるな!」


 エラが注意する。


「転んだら危ないぞ!」


「大丈夫、大丈夫!」


 そう言った直後――。


「わっ!」


 ミアがつまずいた。


「言ったそばから!」


 エラが慌てて駆け寄る。


 ミアは地面に座ったまま、頭をかいた。


「……光ってるから、足元が見えにくかった」


「それを先に言え!」


 エコーが笑いながら飛んでくる。


「でも、こういう道があれば、これからは野獣村に行きやすくなるね」


「そうだな」


 ノアも頷く。


「二つの村の行き来が増えれば、互いのことをもっと知ることができる」


 ヴァルターが腕を組んだ。


「だったら、早速何か始めようぜ!」


「歓迎会だ!」


 ミアが叫ぶ。


「さっき決めたじゃん!」


 グレゴリーも大きく頷いた。


「飯を食うんだろ?」


「グレゴリーも覚えていたのか」


 アルベルトが少し驚く。


「もちろん!」


「食べ物のことなら忘れない!」


 マルセルが力強く言った。


「俺も!」


 アリスが苦笑する。


「……あなたたち、本当に食べることが好きね」


 村人たちから笑いが起こった。


 戦いが終わった直後とは思えないほど、村に明るい空気が戻り始めていた。


 だが――。


 森の奥。


 誰にも見つからない場所で。


 一本の黒い糸が、木の根元から伸びていた。


 黒い糸は地面を這いながら、ふわりか村へ向かって進んでいる。


 ――スル……。


 ――スル……。


 その先には、小さな動物の姿があった。


「今日は……野獣村のみんなも来るんだよね」


 嬉しそうに話しながら歩いている。


 その足元に――。


 黒い紋章が浮かんだ。


 ――カッ。


「……?」


 小さな動物が立ち止まる。


「今……何か光った?」


 足元を見る。


 しかし、もう何もない。


「気のせいかな」


 そのまま歩いていった。


 その背後で、黒い糸が静かに消えた。


 ――。


 ふわりか村では、歓迎会の準備が始まっていた。


「料理は任せて!」


 クララが張り切る。


「野菜は私たちが用意するよ!」


 セシルも植物魔法で新鮮な野菜を集める。


「私は薬草茶を作るね」


 アリスが準備を始めた。


「じゃあ、俺は肉を!」


 ヴァルターが言う。


 エラがすぐに振り返った。


「待て」


「なんだ?」


「どこから持ってくるつもりだ?」


「野獣村からだ」


「ちゃんと食用として用意されたものだろうな?」


「……」


 ヴァルターが目をそらす。


「ヴァルター?」


「もちろんだ!」


「今、絶対に考えたよな?」


「考えてない!」


 ノアがため息をつく。


「エラ、その辺にしておいてくれ」


「だが……」


「歓迎会なんだから」


 アルベルトが言った。


「細かいことは気にするな」


「アルベルトまで!」


 そのとき。


 突然――。


 ――ガタン!


 村の時計塔から大きな音がした。


 全員が振り返った。


「時計塔?」


 レオンの顔が険しくなる。


 時計の針が――。


 動いていた。


 しかし。


 今までとは違う。


 逆回りでもない。


 普通に、前へ進んでいる。


「……おかしい」


 セドリックが時計塔を見つめる。


「時計は、黒き王が封じられてから停止していたはずだ」


「じゃあ、どうして?」


 レオンが走り出す。


「調べよう!」


 エラ、エコー、ミアも続く。


 時計塔の内部へ入ると――。


 歯車が激しく回っていた。


 ガチャガチャガチャ……!


「こんなに速く……」


 エコーが目を丸くする。


 レオンが古代文字を確認する。


「これは……」


 文字が一つずつ浮かび上がっていく。


 ――『心をつなぐ者』


 ――『心を失う者』


 ――『二つの道』


 そして最後に――。


 ――『選別開始』


「選別?」


 ミアが不安そうに尋ねる。


 レオンが頷いた。


「黒き王は、まだ諦めていない」


 セドリックが時計塔の奥へ進む。


 そこで、床に刻まれた黒い紋章を見つけた。


「……これだ」


「何?」


 エラが近づく。


「黒き王の力が、時計塔を通じて二つの村を監視している」


「監視……?」


「そう」


 セドリックは険しい表情になる。


「誰と誰が仲良くしているのか」


「誰が誰を信頼しているのか」


「そして――」


 黒い紋章が脈打つ。


 ――ドクン。


「誰の心に、不安や疑いが生まれたのか」


 その瞬間。


 時計塔の鐘が鳴った。


 ――ゴォォォォン!


 村中に響き渡る音。


 しかし、それは普通の鐘ではなかった。


 鐘の音を聞いた瞬間――。


「……え?」


 アリスが胸を押さえた。


「どうした?」


 エラが振り返る。


「今……」


 アリスは周囲を見る。


「みんなの声が……遠く聞こえた」


「俺もだ」


 グレゴリーが耳を押さえる。


「なんだこれ……」


 ミアの表情が曇る。


「……私も」


 そして――。


 野獣村でも同じことが起きていた。


 ヴァルターが頭を押さえる。


「何だ、この音……」


 アルベルトが村人たちを見る。


「みんな、落ち着け!」


 しかし。


 一人の村人が、別の村人を見て呟いた。


「……本当に、あいつらを信用していいのか?」


「え?」


「今まで敵だったんだぞ」


 その一言。


 ほんの小さな疑いだった。


 だが――。


 黒い紋章が、その瞬間に輝いた。


 ――カッ。


 ふわりか村でも。


「野獣村の人たちって……本当に仲間なのかな」


 誰かが呟いた。


 黒い紋章が、また輝く。


 ――カッ。


 山の心臓が――。


 ――ドクン。


 黒い光が一瞬だけ強くなった。


 レオンが青ざめる。


「まずい……」


 セドリックが振り返る。


「どうした?」


「黒き王は……」


 レオンが時計塔を見上げた。


「村同士を直接攻撃するつもりじゃない」


「もっと危険なことを考えてる」


「何だ?」


 レオンは、ゆっくりと言った。


「僕たち自身に――」


「お互いを疑わせようとしているんだ」


 時計塔の上で、黒い影が笑った。


『そうだ』


『剣も炎も必要ない』


『心など、ほんの一つの疑いで壊れる』


 黒き王の声が、誰にも聞こえない場所から響く。


『仲間を疑え』


『友を疑え』


『そして――』


『最後には、自分自身さえ疑うがいい』


 時計の針が進む。


 ――カチッ。


 また一つ。


 ――カチッ。


 そして時計塔の文字盤に、新しい文字が浮かんだ。


 『第一段階――疑念』


 その文字を見たセドリックの顔が険しくなる。


「始まった……」


「何が?」


 アリスが尋ねる。


 セドリックは静かに答えた。


「黒き王による――」


「心の戦いが」

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