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ふわりか村英雄譚~黒き王と三つの鍵~もふもふたちの戦い  作者: 雨宮ぐみ


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第34話 黒き王、ついに姿を現す

第34話 黒き王、ついに姿を現す


 ――ドォォォン……!


 山全体を揺らすような轟音が響いた。


 三本の鍵が元の台座へ戻されたことで、大地を覆っていた黒い根は少しずつ消えていった。


 しかし――。


 空だけは、違っていた。


 黒い雲が渦を巻き、その中心から巨大な黒い影がゆっくりと姿を現していく。


「……あれが……黒き王……」


 レオンが息をのんだ。


 これまで黒き王は、声や黒い影、そして巨大な手としてしか現れていなかった。


 だが、今は違う。


 空に浮かんでいるのは、はっきりとした人型。


 黒い鎧のようなものをまとい、背中には無数の黒い鎖。


 そして顔には、二つの紫色の光が浮かんでいた。


「ついに……出てきやがったか!」


 ヴァルターが牙をむいた。


「ヴァルター、待って!」


 ノアが止める。


「今までとは何かが違う!」


「分かってる!」


 ヴァルターは拳を握った。


「だからこそ、ここで止めるんだ!」


 その隣でアルベルトも空を見上げる。


「……あれほどの魔力を持つ存在が、今まで完全な姿を現せなかった理由が分からない」


 レオンが三本の鍵を見る。


「おそらく……器が必要だったんだ」


「器?」


 ミアが首をかしげる。


「でも、器は見つからなかったんだよね?」


「そう」


 レオンはうなずいた。


「だから黒き王は、村人を器にしようとした。ソフィアを狙い、マルセルを狙い、アルベルトまで狙った。そして最後には、大地そのものを器にしようとした」


 セドリックが静かに続けた。


「だが、三本の鍵が元の位置に戻ったことで、その計画は崩れた」


「じゃあ……」


 アリスが不安そうに空を見上げる。


「器がないのに、どうして出てこられたの?」


 セドリックは答えなかった。


 しばらくして、ようやく口を開く。


「……器を必要としないほど、力を蓄えたということだ」


「そんな……」


 エラの顔が険しくなる。


 すると空から、低い声が響いた。


『そうだ』


 ズン――。


 声だけで、大地が震えた。


『私はもう、器など必要としない』


 黒き王が両手を広げる。


『三つの鍵を戻したところで、遅い』


 紫色の光が強く輝いた。


『私は長い年月、この山の底で力を蓄えてきた』


『村人の恐怖』


『憎しみ』


『争い』


『疑い』


『そのすべてが、私を育てた』


 村人たちは息をのんだ。


 黒き王が言っていることは、これまでの出来事とつながっていた。


 村同士が疑い合ったこと。


 魔力石を奪われたと思い込んだこと。


 野獣村とふわりか村が対立しかけたこと。


 そして、昔の村人たちが山の力を巡って争ったこと。


「……つまり」


 ソフィアが小さくつぶやく。


「黒き王は……みんなの心から生まれたの?」


『完全には違う』


 黒き王が答える。


『私はもともと、この山に眠る力の一部だった』


『だが、人々の欲望と争いが、私に形を与えた』


 白い翼を広げた最後の守護者が、静かに前へ出た。


「ならば、お前は人々の心に寄生している」


『寄生?』


 黒き王が笑う。


『違う』


『私は――人々の心にあるものを、ただ増幅しているだけだ』


 その言葉に、誰も反論できなかった。


 すると――。


「だったら!」


 突然、ガルドが前へ飛び出した。


「俺たちが仲良くすればいいんだろ!」


「ガルド……」


 エラが目を丸くする。


「そういうことだ!」


 ガルドは胸を張った。


「怒ったり、疑ったりしなければ、黒き王は弱くなる!」


 しばしの沈黙。


 ミアがぽつりと言った。


「……珍しく、まともなこと言った」


「珍しくは余計だ!」


 ガルドが叫ぶ。


 緊張していた空気が、ほんの少しだけ和らいだ。


 しかし――。


『甘い』


 黒き王の声が響く。


『人間も獣も、争いを完全には捨てられない』


 その瞬間。


 空から無数の黒い矢が降り注いだ。


「全員、伏せろ!」


 エラが叫ぶ。


 ドドドドドッ!


 黒い矢が大地に突き刺さる。


「結界!」


 アルベルトが両手を広げる。


 白い光の壁が村人たちを包んだ。


「うおおおっ!」


 ヴァルターが炎をまとって飛び出す。


「俺が止める!」


「待って!」


 ノアが叫ぶ。


 しかしヴァルターは止まらない。


 空中へ飛び上がり、巨大な炎の拳を黒き王へ叩き込んだ。


「くらえぇぇぇっ!」


 ゴォォォォッ!


 炎が黒き王を包み込む。


 だが――。


 黒い煙の中から、ゆっくりと腕が伸びた。


「なっ……!」


 ヴァルターの目が見開かれる。


 黒き王は、無傷だった。


『その程度か』


「くっ……!」


 黒き王の手がヴァルターをつかもうとする。


 その瞬間――。


「ヴァルター!」


 アルベルトの雷が走った。


 バリバリバリッ!


 黒き王の腕が弾き飛ばされる。


「助かった!」


「礼は後だ!」


 アルベルトが叫ぶ。


「今は二人で戦う!」


 ヴァルターとアルベルトが並んだ。


 炎と雷。


 二つの巨大な魔力が重なっていく。


「ふわりか村!」


 ヴァルターが叫ぶ。


「力を貸せ!」


「もちろん!」


 エラが盾を構える。


「全員、魔力を合わせるぞ!」


 村人たちが一斉に動いた。


 アリスの癒やしの光。


 エコーの風。


 リリアの水。


 クララとグレゴリーの大地。


 セシルの植物。


 ミアの素早い魔力。


 そしてソフィアの眠りの魔法。


 それぞれ違う魔法が、一つに集まっていく。


「これなら……!」


 レオンが目を輝かせる。


 しかし、その直後だった。


 黒き王が笑った。


『そうだ』


『それでいい』


「え?」


 レオンの顔から笑みが消える。


『もっとだ』


『もっと力を集めろ』


『もっと感情を強くしろ』


『怒りも、恐怖も、悔しさも――』


『すべて私の力になる』


「しまった!」


 セドリックが叫んだ。


「奴は……戦いそのものを利用している!」


 黒き王の体に、再び黒い魔力が集まり始めた。


「じゃあ、どうすればいいの!?」


 ミアが叫ぶ。


 セドリックは答えた。


「戦うなという意味ではない!」


「では、どうするのです?」


 エラが尋ねる。


 セドリックは、村人たちを見渡した。


「怒りや恐怖を消す必要はない」


「大切なのは――」


 セドリックが三本の鍵を見る。


「それに支配されないことだ」


 ソフィアが静かにうなずいた。


「怖くても……逃げたくても……」


「それでも、誰かを守りたいと思えるなら」


 アリスが続ける。


「その気持ちは、黒き王の力にはならない」


 グレゴリーが拳を握った。


「だったら簡単だ!」


 エコーが笑う。


「私たちは私たちの気持ちで戦えばいい!」


 エラも盾を構えた。


「守るために戦う」


 ヴァルターが牙を見せる。


「仲間のために!」


 アルベルトが雷をまとわせる。


「二つの村の未来のために!」


 白い守護者が翼を広げた。


「そして、この山のために」


 ソフィアが杖を握る。


「……黒き王を眠らせる」


 黒き王の紫色の目が細くなった。


『くだらぬ』


 その声には、初めて怒りが混じっていた。


『その程度の絆で、私を倒せると思うのか!』


 黒き王が両手を振り下ろす。


 空いっぱいに黒い雷が生まれた。


「来るぞ!」


 レオンが叫ぶ。


「全員、力を合わせて!」


 村人たちが叫ぶ。


「おおおおおおっ!」


 光が大地を包む。


 黒い雷と、村人たちの魔力が正面からぶつかった。


 ――バァァァァン!


 巨大な衝撃波が山を駆け抜ける。


 そして――。


 黒き王の胸元に、わずかな亀裂が入った。


『……何?』


 レオンが息をのむ。


「効いてる……!」


 セドリックも驚いた。


「いや……違う」


 黒き王の胸の奥。


 そこには、紫色の光とは別に――。


 小さな白い光が見えていた。


「まさか……」


 白い守護者がつぶやく。


「黒き王の中にも……まだ、山の本来の力が残っている」


 ソフィアが目を見開いた。


「じゃあ……」


 黒き王が胸を押さえる。


『黙れ……』


 その声は初めて、苦しそうだった。


『私は……私だけの力で……』


 黒い鎖が激しく揺れる。


『私は……黒き王だ!』


 だが、その瞬間。


 白い光がさらに強くなった。


 山の奥から――。


 ドン。


 ドン。


 ドン。


 まるで巨大な心臓が鼓動するような音が響き始めた。


 レオンが振り返る。


「……山の心臓?」


 セドリックが首を横に振る。


「いや」


 白い守護者が答えた。


「これは……山の心臓だけではない」


 大地そのものが、ゆっくりと光り始める。


「山全体が……目を覚まそうとしている」


 黒き王が空で叫んだ。


『やめろおおおおおっ!』


 初めて聞く、明確な恐怖の声。


 そして――。


 山の奥から、巨大な光が空へ向かって伸びていった。


 その光は黒き王を包み込み――。


 物語は、新たな段階へと進もうとしていた。


 ――黒き王との戦いは、まだ始まったばかりだった。

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