第33話 大地を器にする黒き王
第33話 大地を器にする黒き王
「最終器――大地」
巨大な黒い文字が、二つの村の間に浮かんでいた。
地面には三つの鍵穴を持つ巨大な魔法陣。
その中心から、黒い光がゆっくりと広がっている。
「大地そのものを……器に?」
アリスが呆然と呟く。
セドリックは険しい表情で頷いた。
「黒き王が完全に目覚めれば、この山だけでは済まない。大地に流れる魔力そのものを支配するつもりだ」
「それって……」
ミアが周囲を見る。
「この村も、野獣村も……全部危ないってこと?」
「そうだ」
レオンが答えた。
「二つの村は、この山の魔力によってつながっている。だから大地が器になれば、両方の村が黒き王の力に取り込まれる」
「だったら――」
ヴァルターが拳を握る。
「今すぐ止めるぞ!」
「待て!」
レオンが叫んだ。
ヴァルターの足が止まる。
「また魔法を使ったら吸収されるんだろ?」
「その通り」
「じゃあ、どうする?」
レオンは巨大な魔法陣を見つめた。
「三つの鍵を使う」
「鍵を?」
アルベルトが聞き返す。
「でも、鍵を使ったら封印が逆転するんじゃなかった?」
「普通に使えばね」
レオンは魔法陣の周囲を調べる。
「だけど、古代文字には別の使い方が書かれている」
「別の使い方?」
セドリックが近づいた。
レオンが地面の文字を指差す。
「ここだ」
そこには小さな文字が刻まれていた。
『三つを開くために使うな。三つを戻すために使え』
セドリックが息をのむ。
「……そういうことか」
「分かったの?」
エコーが尋ねる。
「三つの鍵は、扉を開ける鍵じゃない」
セドリックは三つの鍵を見つめた。
「本来の場所へ戻すことで、山の心臓と大地を元の状態へ戻せる」
「じゃあ、三つの鍵を戻せばいいんだ!」
ミアが喜ぶ。
「でも――」
セドリックが言葉を止める。
「三つの鍵を戻すには、二つの村の代表者が同時に力を合わせる必要がある」
ヴァルターとアルベルトが顔を見合わせた。
「また俺たちか」
「どうやらそうらしい」
アルベルトが苦笑する。
「任せろ!」
ヴァルターが胸を張った。
「今回は絶対に失敗しねえ!」
エコーが横から言う。
「前は力を入れすぎて装置壊しかけたけどね」
「今回は絶対に壊さねえ!」
「二回言った」
「うるせえ!」
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◆三つの鍵
レオンたちは、これまで集めてきた三つの鍵を取り出した。
第一の鍵。
第二の鍵。
そして第三の鍵。
三つの鍵は、黒い光に包まれていた。
「触って大丈夫?」
ソフィアが心配そうに尋ねる。
セドリックが答える。
「今ならまだ大丈夫だ」
「今なら?」
「黒き王が大地を器にしようとしている途中だからだ」
レオンが頷く。
「完成する前に、三つの鍵を戻す必要がある」
そのとき――。
ドクン……。
地面が揺れた。
巨大な守護者が苦しそうに目を閉じる。
「守護者!」
ソフィアが駆け寄る。
守護者の身体に広がった黒い紋章が、少しずつ大きくなっている。
『……私に構うな』
守護者が低い声で言った。
『鍵を戻せ』
「でも!」
『私は長き眠りの中で、この日を待っていた』
守護者の青い瞳が、ソフィアを見る。
『お前たちが一つになる日を』
ソフィアは拳を握った。
「……分かった」
「ソフィア?」
「守護者さんを助けるためにも、やらなきゃ」
アリスが微笑んだ。
「そうね」
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◆三つの鍵を戻せ!
三つの鍵を戻すため、魔法陣の三方向に台座が現れた。
第一の台座には――ふわりか村の紋章。
第二の台座には――野獣村の紋章。
第三の台座には――古代の守護者の紋章。
レオンが説明する。
「三つ目の台座は、守護者が担当する必要がある」
「私がやる」
守護者がゆっくり立ち上がった。
黒い亀裂が身体を走る。
「大丈夫なの?」
アリスが聞く。
『大丈夫ではない』
守護者が正直に答えた。
「……」
『だが、守るためなら立てる』
その言葉に、グレゴリーが笑った。
「それなら俺たちも負けられないな」
ヴァルターが第一の鍵を握る。
アルベルトが第二の鍵を握る。
守護者が第三の鍵の前に立つ。
「準備はいいか?」
アルベルトが尋ねる。
「いつでもいい!」
ヴァルターが答える。
「では――」
レオンが叫ぶ。
「同時に!」
三人が鍵を差し込んだ。
カチッ。
カチッ。
カチッ。
三つの鍵が、同時に回った。
その瞬間――。
ズゴゴゴゴゴゴ……!
山全体が大きく揺れた。
「きゃあ!」
「立っていられない!」
村人たちが次々と膝をつく。
黒い魔法陣が激しく回転する。
『やめろ……』
黒き王の声が響いた。
『その鍵は、私のものだ』
黒い光が三人へ向かって伸びる。
「来るぞ!」
ノアが叫ぶ。
「みんな、魔法を使わないで!」
レオンが叫ぶ。
しかし黒い光は止まらない。
ヴァルターの腕に巻きつく。
「ぐっ!」
アルベルトにも黒い鎖が伸びる。
守護者の身体にも黒い鎖が絡みついた。
『鍵を離せ』
黒き王が命じる。
『そうすれば、お前たちは助かる』
ヴァルターが歯を食いしばる。
「……断る!」
「ヴァルター!」
『お前は力を欲していた』
黒き王が囁く。
『もっと強くなりたいのだろう?』
ヴァルターの炎が揺らぐ。
『私なら、その願いを叶えられる』
「……」
ヴァルターは黙った。
アルベルトが横を見る。
「ヴァルター」
「分かってる」
ヴァルターは笑った。
「俺が強くなりたいってのは、本当だ」
黒い光がさらに強くなる。
「でも――」
ヴァルターが鍵を握り直す。
「仲間を守るための強さじゃなきゃ、意味がねえ!」
炎が一瞬だけ輝く。
しかし――魔法として放たれることはなかった。
ヴァルター自身の意思が、黒い力を押し返したのだ。
アルベルトも微笑む。
「私も同じだ」
「アルベルト……」
「強さは、誰かを支配するためにあるものではない」
二人の鍵が、さらに深く台座へ沈んでいく。
「俺たちは――」
「この村を守る」
二つの声が重なった。
すると、ふわりか村の仲間たちが一斉に叫んだ。
「私たちもいる!」
「一緒にやろう!」
「負けないぞ!」
グレゴリーが大声を上げる。
「みんなで押し返そう!」
「でも魔法は使えないよ!」
ミアが叫ぶ。
「じゃあ――」
グレゴリーは両手を広げた。
「声だ!」
「声?」
「みんなで声を出せばいい!」
「それ、魔法じゃないけど……」
エコーが笑った。
「やってみよう!」
村人たちは一斉に声を上げた。
「ふわりか村!」
「野獣村!」
「一緒に!」
「守るぞ!」
その声が山に響き渡る。
すると――。
三つの鍵が、まばゆい光を放った。
カァァァァッ!
黒い鎖が一本、また一本と砕けていく。
『なぜだ……』
黒き王の声が震える。
『なぜ、力を使わずに私を拒める……!』
セドリックが静かに答えた。
「お前は、力しか知らないからだ」
黒き王が沈黙する。
「この村の力は、魔力だけじゃない」
レオンが続ける。
「仲間を信じること」
アリスが言う。
「助け合うこと」
ノアが言う。
「そして――」
ソフィアが前に出た。
「絶対に諦めないこと」
その瞬間。
ドォォォォン!
三つの鍵が完全に台座へ収まった。
巨大な魔法陣が逆方向へ回転し始める。
黒い光が大地から吸い上げられていく。
山の黒い亀裂も、少しずつ消えていった。
「成功した……?」
エラが呟く。
「まだだ!」
レオンが叫ぶ。
魔法陣の中心に、巨大な黒い穴が開いた。
その奥から――。
巨大な黒い手が伸びてくる。
「そんな……!」
アリスが息をのむ。
黒き王の声が響く。
『器を失った程度で――』
『私が消えると思うな』
黒い手が地面をつかむ。
『私は――』
巨大な目が、山の奥で開いた。
『すでに、この世界の中にいる。』
「……!」
セドリックが青ざめる。
「まさか……」
レオンが尋ねる。
「どうした?」
セドリックは、三つの鍵を見つめた。
「鍵は封印を戻した」
「じゃあ、黒き王は封じられたんじゃないの?」
「違う」
セドリックが首を振る。
「黒き王は、器を失った」
そして――。
「だから今度は、自分自身で地上へ出ようとしている。」
その言葉と同時に、黒い手の先から巨大な亀裂が空へ伸びた。
そして山の上空に――。
黒き王の姿が、初めて全身を現し始める。
『三つの鍵は戻った』
『だが――』
『私を止める鍵は、もう存在しない』
ソフィアが空を見上げる。
「……まだ、戦いは終わってない」
守護者がゆっくり立ち上がった。
『そうだ』
青い瞳が輝く。
『ここからが――』
『本当の戦いだ。』




