第32話 二つの村の間に眠るもの
第32話 二つの村の間に眠るもの
ドクン……。
山の中から、また一つ鼓動が響いた。
ふわりか村と野獣村。
そのちょうど中間に現れた巨大な黒い扉。
三つの鍵穴を持つその扉は、ゆっくりと開き続けている。
「……最後の存在って、何なんだ?」
グレゴリーが扉を見上げる。
レオンは古代文字を読み取ろうと近づいた。
「待って……まだ文字がある」
扉の縁に、細かな文字が刻まれている。
レオンは指でなぞりながら読む。
「『二つに分かれし大地、その境に眠るもの――』」
「続きは?」
ミアが身を乗り出す。
「……『二つの村が一つになる時、目覚める』」
一同が顔を見合わせた。
「二つの村が一つになる時……?」
ノアが呟く。
「それって、俺たちが協力したから?」
「その可能性が高い」
レオンが答える。
すると、ヴァルターが眉をひそめた。
「待てよ」
「どうした?」
アルベルトが振り返る。
「もし、この扉を開ける条件が俺たちの協力だったなら――」
ヴァルターが拳を握る。
「俺たちは自分から、こいつを起こしちまったってことか?」
「……」
誰も答えられなかった。
その瞬間。
ドクンッ!
扉の奥から、先ほどより強い鼓動が響いた。
地面が大きく揺れる。
「きゃっ!」
ソフィアがよろめく。
アリスがすぐに支える。
「大丈夫?」
「うん……でも、この音……」
ソフィアは胸に手を当てた。
「なんだか、眠っている誰かが苦しんでいるみたい」
レオンが振り向く。
「眠っている誰か……?」
黒い影が扉を見つめていた。
紫色の魔石が激しく明滅している。
「……知ってる」
「え?」
黒い影が震える。
「この場所……僕は知ってる」
「本当に?」
アリスが尋ねる。
「うん」
黒い影は頭を押さえた。
「ずっと昔……僕はここに来た」
その瞬間、黒い影の周囲に古い記憶が浮かび上がった。
---
◆遠い昔
まだ二つの村が一つだった頃。
山の麓に、小さな石の祭壇があった。
そこには、一人の守護者と小さな黒い影。
そして――。
二つの村の代表が立っていた。
『この力をどうする?』
『封じるべきだ』
『いや、利用すればもっと豊かになれる』
意見が分かれている。
黒い影は、二つの村の代表を見ていた。
やがて争いが始まる。
魔法が飛び交う。
大地が震える。
守護者が叫んだ。
『やめろ!』
だが、誰も止まらない。
そのとき。
山の地下から黒い霧が現れた。
『力を求めるか?』
黒き王の声。
人々が恐怖する。
黒い影は守護者の前に立った。
『この地を守る』
そして――。
黒い影は自ら黒い力を受け止めた。
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◆現在
「……」
黒い影が沈黙する。
ソフィアが優しく声をかけた。
「あなたは、昔からここを守っていたんだね」
「……たぶん」
「たぶん?」
「僕の記憶は、全部戻っていない」
黒い影は扉を見つめる。
「でも……一つだけ覚えてる」
「何?」
「ここには――」
黒い影の声が震えた。
「黒き王じゃない、もう一つの存在が眠っている。」
全員が凍りついた。
「黒き王じゃない?」
エラが尋ねる。
「じゃあ、何なんだ?」
黒い影は首を振る。
「分からない」
そのとき、セドリックが突然走り出した。
「全員、下がれ!」
「セドリック?」
「扉を閉じる!」
セドリックは懐から古い魔法石を取り出した。
しかし、手が震えている。
「この扉は、三つの鍵を使って開くためのものじゃない」
レオンが気づいた。
「じゃあ何のため?」
「逆だ」
セドリックが答える。
「三つの鍵を使って、閉じるための扉だ。」
「えっ?」
ミアが驚く。
「でも鍵穴が三つあるよ?」
「そうだ」
セドリックは頷く。
「三つの鍵を差し込むことで、この扉の奥にある存在を封じる」
レオンが目を見開く。
「つまり……」
「黒き王は、三つの鍵を奪っただけじゃない」
セドリックが扉を見上げる。
「三つの鍵を使わせることで――封印を逆転させようとしている」
ヴァルターが拳を握った。
「じゃあ、この扉が開いたら……」
「中の存在が出てくる」
アルベルトが答える。
「だが、黒き王が『最後の存在』と言った理由が分からない」
ノアが呟く。
そのとき。
扉の隙間から――。
白い光が漏れた。
「黒い光じゃない……?」
アリスが驚く。
白い光は、ゆっくりと地面を照らしていく。
そして、その中に一つの巨大な影が浮かび上がった。
四本の足。
巨大な身体。
頭には二本の角。
「……生き物?」
エコーが呟く。
影がゆっくりと動いた。
ドクン……。
そして――。
目が開いた。
青い光だった。
黒き王とは違う。
山の守護者とも違う。
その存在は、扉の向こうから静かにこちらを見つめている。
「……誰?」
ソフィアが問いかける。
すると、巨大な存在から声が響いた。
『……長い……眠りだった』
「しゃべった!」
ミアが驚く。
エコーも目を丸くした。
「すごく大きい……」
グレゴリーが呟く。
「俺より大きい」
「そこを比べるの?」
エラが即座に突っ込む。
だが、次の瞬間。
巨大な存在が黒い扉を見た。
『黒き王……』
その声に、空気が震える。
『まだ……存在していたのか』
レオンが尋ねる。
「あなたは、黒き王を知っているの?」
『知っている』
巨大な存在は答えた。
『私は、かつて黒き王と戦った』
一同が息をのむ。
『そして私は――』
黒い扉の奥から、さらに身体を現す。
白い毛。
巨大な翼。
そして額に輝く青い紋章。
『この山そのものを守る、最後の守護者。』
セドリックが呆然とする。
「最後の……守護者……」
巨大な守護者は、二つの村を見渡した。
『だが……』
青い瞳が悲しげに揺れる。
『私は、お前たちを守るために眠ったのではない』
「じゃあ、何のために?」
ソフィアが聞く。
守護者は答えた。
『お前たちが再び争わない日を待つためだ。』
ヴァルターとアルベルトが顔を見合わせる。
かつて一つだった村。
争いによって二つに分かれた村。
その歴史が、今もこの山に刻まれている。
そして――。
黒き王の声が響いた。
『目覚めたか』
空に巨大な黒い目が現れる。
『ならば、お前を器にする』
「なに!?」
レオンが叫ぶ。
巨大な守護者の身体に、黒い紋章が浮かび上がった。
『……っ!』
守護者が苦しむ。
「守護者まで器にするつもり!?」
アリスが叫ぶ。
黒き王は笑う。
『人も村も選べなかった』
『ならば――』
黒い目が大きく開く。
『山を守る者を、私の器にすればいい。』
守護者の身体から黒い煙が噴き出した。
「まずい!」
セドリックが叫ぶ。
「守護者を助けろ!」
ソフィアが前へ出る。
「みんな!」
「分かってる!」
グレゴリーが構える。
ヴァルターも炎を出そうとする。
しかしレオンが叫んだ。
「待って!」
「何だ!」
「魔法は駄目だ!」
全員が止まる。
黒き王は、すでに守護者を器にしようとしている。
そして魔法を使えば――。
その力まで奪われる。
レオンが周囲を見る。
「今までと同じだ。黒き王は力を奪うんじゃない」
「……利用している」
ノアが気づく。
「そう」
レオンが頷く。
「だから、今必要なのは魔法じゃない」
ソフィアが守護者を見る。
そして静かに言った。
「……眠らせる」
「ソフィア?」
「山の心臓を眠らせたときと同じ」
ソフィアは守護者へ手を伸ばした。
「黒き王の力だけを――」
目を閉じる。
「眠らせる!」
淡い魔法が広がる。
黒い紋章の動きが、少しずつ止まっていく。
しかし――。
守護者の背後から、もう一つの黒い影が現れた。
『無駄だ』
黒き王の声。
『この守護者だけではない』
『私はすでに――』
黒い影が、二つの村の間に広がっていく。
『二つの村の境界そのものを、器に変え始めている。』
地面に巨大な黒い紋章が浮かび上がった。
その中心には――。
三つの鍵穴。
そして、その下に新たな文字が現れた。
「最終器――大地」
レオンの顔から血の気が引いた。
「……村でも、人でも、山でもない」
「今度は……」
エラが呟く。
セドリックが答える。
「この大地そのものを器にするつもりだ。」
黒き王の笑い声が山々に響き渡った。




