第29話 最後の器候補
第29話 最後の器候補
時計塔の文字盤に浮かび上がった、
「最終選定開始」
という黒い文字。
その下で、村人たちは息をのんでいた。
「……最終、選定……?」
エラが警戒しながら時計塔を見上げる。
「つまり、黒き王が器を決めるってことか?」
レオンが頷いた。
「そう考えて間違いない。問題は――」
レオンが文字盤を見つめる。
「さっき表示されかけた名前だ」
「誰だったの?」
アリスが尋ねる。
「まだ最後まで表示されていない」
「じゃあ、早く止めればいい!」
ヴァルターが拳を握る。
「時計塔を壊せば――」
「壊すな!」
エラとアルベルトが同時に叫んだ。
「……お前ら、息ぴったりだな」
ノアが小さく笑った。
「笑ってる場合じゃない!」
エラが睨む。
そのときだった。
カチ……。
時計塔の針が動いた。
今度は逆回転ではない。
一秒ごとに、
右へ。
左へ。
また右へ。
まるで時間そのものが混乱しているようだった。
「何をしているんだ……?」
グレゴリーが首をかしげる。
すると、時計塔から黒い光が伸びた。
その光は村人たちの頭上を次々と通過していく。
「うわっ!」
「何だこれ!」
村人たちが逃げる。
しかし黒い光は誰にも攻撃しなかった。
ただ、一人ずつの前で止まり――
すぐに消えていく。
「……選んでいる」
セドリックが呟いた。
「何を?」
ミアが尋ねる。
「記憶だ」
セドリックは苦しそうに目を細めた。
「黒き王は、今の魔力だけを見ているんじゃない。過去にどんな魔法を使ったか、誰を守ったか、何を恐れたか……」
「そこまで調べるのかよ」
グレゴリーが驚く。
「器として最も適した存在を探している」
ソフィアが拳を握る。
「そんなの……絶対にさせない」
その言葉に、黒い影が振り向いた。
「ソフィア……」
「大丈夫」
ソフィアは微笑んだ。
「今度は、私がみんなを助ける番だから」
すると――。
黒い影の胸にある紫色の魔石が突然輝いた。
「うっ……!」
影が膝をつく。
「どうした!?」
ノアが支える。
「時計塔が……僕の記憶をもっと深く呼び起こしてる……」
「記憶?」
レオンが近づく。
「何を思い出した?」
黒い影は頭を押さえた。
「……昔の時計塔……」
その瞬間。
村の景色が再び白く染まった。
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◆古代のふわりか村
そこに映し出されたのは、遠い昔のふわりか村だった。
今よりもずっと大きな森。
まだ時計塔が完成していない村。
そして――。
現在とは違い、ふわりか村と野獣村は一つの共同体として暮らしていた。
「これが……昔の村」
レオンが呟く。
その中央で、一体の守護者が人々を見守っている。
今の山の守護者と同じ姿だった。
「守護者……」
エコーが驚く。
その隣には、小さな黒い影がいた。
今の黒い影よりもずっと小さい。
「僕だ……」
黒い影が呟いた。
「昔の僕だ」
映像の中で、小さな影は村人たちを助けていた。
畑に水を運び、
森で迷った子どもを村へ送り、
夜になると山の入口を守る。
「……敵じゃなかったんだ」
アリスが静かに言う。
黒い影は何も答えない。
やがて映像の中に、三つの鍵が現れた。
一つ目。
二つ目。
そして三つ目。
三つの鍵を使い、時計塔が起動する。
ゴォォォン……!
大地全体に魔力が流れていく。
「この時計塔は、昔からあったんだ」
レオンが気づく。
「しかも、三つの鍵と連動している」
そのとき、過去の村人たちが時計塔の前に集まった。
一人の村人が叫ぶ。
『山の力を、もっと使えばいい!』
別の村人が答える。
『それなら、もっと豊かな村を作れる!』
そして、少しずつ争いが始まった。
魔力を巡る争い。
土地を巡る争い。
力を欲しがる者。
力を恐れる者。
黒い霧が、大地の隙間から少しずつ現れる。
「これが……」
ノアが呟く。
「黒き王の始まり……」
セドリックが頷いた。
「黒き王は最初から存在していたわけではない」
「人々の欲望や争いから生まれた……」
レオンが続ける。
黒い霧は、やがて一つの姿になっていった。
巨大な目。
黒い身体。
そして――。
黒き王。
『力を求めるか』
過去の人々が怯える。
『ならば、与えよう』
「やめろ……」
黒い影が震える。
「それ以上、見たくない……」
しかし映像は止まらない。
黒き王の力を封じるため、守護者と小さな黒い影が立ち上がった。
二人は力を合わせて封印を作った。
だが、その代償として――。
小さな黒い影の身体に、黒い亀裂が走った。
「……だから僕は……」
影が胸を押さえる。
「器になったんじゃない」
「え?」
ソフィアが振り返る。
黒い影はゆっくり顔を上げた。
「僕は、最初から器だったんじゃない。封印を守るために、黒き王の力を受け止めたんだ。」
一同が息をのんだ。
「じゃあ……」
アリスが言う。
「あなたは黒き王に選ばれた存在じゃなくて――」
「そう」
影が答える。
「僕は……黒き王を封じるために作られた、守護の器だった」
その瞬間。
映像が途切れた。
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◆現在
時計塔の文字盤が再び黒く輝いた。
「器候補――」
一文字。
そして、もう一文字。
村人たちが固唾をのんで見守る。
「誰だ……?」
ヴァルターが呟く。
「早く止めないと!」
エラが叫ぶ。
しかしセドリックが首を振った。
「待て!」
「何だ?」
「時計塔を止めてはいけない!」
「どうして!」
「今止めれば、黒き王の選定が途中で固定される!」
「つまり?」
レオンが聞く。
セドリックは時計塔を見上げた。
「今は、まだ候補を選んでいる段階だ。ここで止めれば、その時点で選ばれた者が器になる。」
「そんな……!」
アリスが青ざめる。
ならば、最後まで選定させるしかない。
だが――。
それでは本当に器が選ばれてしまう。
そのとき、ミアが突然走り出した。
「待って!」
「ミア?」
「名前じゃない!」
ミアは時計塔の下にある古代文字を指差した。
「ここ! 『器候補』って書いてある!」
レオンが近づく。
「……!」
「まだ決定じゃない!」
ミアが叫ぶ。
「だから、候補を見つければいいんだよ!」
レオンの目が輝いた。
「そうか……!」
セドリックも気づく。
「時計塔は候補を選定している。しかし、候補が決まった後に――」
「本当の選定をする仕組みがある!」
エコーが叫ぶ。
「じゃあ、その前に見つければいい!」
「そういうことだ!」
ところが――。
ゴーン……。
時計塔の鐘が鳴った。
文字盤に、最後の文字が浮かび上がる。
「――出た!」
全員が見上げる。
黒い文字が一つずつ並んでいく。
器候補――
「グ……」
「グ……?」
グレゴリーが固まった。
「まさか……」
エコーがグレゴリーを見る。
「グレゴリー?」
「俺じゃない!」
グレゴリーが慌てて両手を振る。
「俺は普通の大工だぞ!」
「大工は普通じゃないと思うけど……」
エラが呟く。
「そこじゃない!」
時計塔の文字がさらに続く。
「グ――」
そして――。
突然、文字盤が真っ黒になった。
「え?」
ミアが首をかしげる。
黒き王の声が響いた。
『候補を一つにする必要はない』
『ならば――』
時計塔の下から、黒い紋章が広がっていく。
村全体を覆うように。
『すべてを候補にすればいい。』
「なっ……!」
レオンが叫ぶ。
「黒き王は、器を一人に絞るつもりがない!」
黒い紋章が村人たちの足元へ迫る。
そして時計塔の針が――。
一斉に十二時を指した。
セドリックが叫ぶ。
「まずい!」
「何が起こるの!?」
ソフィアが尋ねる。
セドリックは震える声で答えた。
「十二時は……」
「器の最終選定が始まる時刻だ!」
時計塔の鐘が鳴り響く。
ゴーン――――!
そして村全体が、黒い光に包まれた。




