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ふわりか村英雄譚~黒き王と三つの鍵~もふもふたちの戦い  作者: 雨宮ぐみ


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第28話 逆回りの時計塔

第28話 逆回りの時計塔


ふわりか村の中央にそびえる時計塔。


いつもなら、村人たちの暮らしを見守るように、正確な時を刻んでいる。


しかし今――。


カチ……カチ……カチ……。


時計の針が、逆方向へ動いていた。


「……おかしい」


レオンが時計塔を見上げる。


「時計の針が……時間を戻している?」


「そんなこと、あるのか?」


グレゴリーが首をかしげる。


「時計が壊れたんじゃないの?」


エコーが屋根の上から時計を覗き込んだ。


すると、エラがすぐに叫ぶ。


「エコー! 勝手に登るな!」


「大丈夫、大丈夫!」


「その『大丈夫』は信用できない!」


「まあまあ、エラ。今は時計のほうが大問題だ」


ノアが冷静に二人を止めた。


その横では、ヴァルターが時計塔を睨んでいる。


「時間を戻すだと……? そんなもの、俺の炎で――」


「待て」


アルベルトがヴァルターの肩をつかんだ。


「今回は壊すな」


「……まだ何もしてねえだろ!」


「顔がすでに壊す顔をしている」


「どんな顔だ、それは!」


ミアが時計塔の下を走り回る。


「ねえ、みんな! ここ!」


「どうした?」


アリスが駆け寄る。


ミアが指差したのは、時計塔の土台だった。


そこには、これまで誰も気づかなかった小さな文字が浮かび上がっている。


レオンがしゃがみ込み、文字を読む。


「……『時を戻す者、失われし記憶を呼び起こす』」


「失われし記憶?」


ソフィアが不安そうにつぶやいた。


その瞬間――。


ゴーン……。


時計塔の鐘が鳴った。


一回。


二回。


三回。


そして――四回目の鐘が鳴った瞬間。


村全体が白い光に包まれた。


「うわっ!」


「何だ!?」


「きゃあ!」


みんなが目を閉じる。


やがて光が消える。


しかし――。


何も変わっていない。


……ように見えた。


「終わったのか?」


グレゴリーが周囲を見回す。


すると、ミアが首をかしげた。


「……ねえ」


「どうした?」


「なんか……変じゃない?」


「何が?」


ミアは村の広場を見つめる。


「時計塔の影……さっきまでこっちだったよね?」


エラが地面を見る。


確かに、時計塔の影の向きが変わっていた。


「……太陽は動いていない」


レオンが呟く。


「つまり……時計塔だけが時間を逆行させている?」


そのときだった。


カチッ。


時計塔の壁の一部が開いた。


中から、小さな石板がせり出してくる。


そこには古代文字が刻まれていた。


レオンが読み上げる。


「『第一の鍵、第二の鍵、第三の鍵――』」


一同が息をのむ。


「『三つの鍵は、時間を閉じるために存在する』」


「時間を……閉じる?」


ノアが眉をひそめる。


レオンは続けた。


「そして……」


石板の文字が黒く染まっていく。


「『器が決まらぬ限り、時は終わらない』」


ソフィアの顔が青ざめた。


「……器が決まらないと?」


その瞬間。


時計塔の鐘が再び鳴った。


ゴーン……。


すると、村のあちこちにあった黒い紋章が、一斉に消えた。


「消えた……!」


アリスが驚く。


だが――。


黒い紋章は消えたのではなかった。


時計塔へ吸い込まれていた。


「まずい!」


セドリックが叫んだ。


普段は静かな彼が、珍しく声を荒らげている。


「時計塔は今、村人全員の魔力を調べている!」


「何だと!?」


ヴァルターが振り返る。


セドリックは苦しそうに時計塔を見上げた。


「古代の封印装置には、器を選定する機能があった……。しかし、通常は一人ずつ調べるものではない」


「じゃあ、今回は?」


レオンが尋ねる。


セドリックは答えた。


「逆だ」


「逆?」


「時計塔が時間を巻き戻しながら――」


セドリックの顔から血の気が引いた。


「村人が黒き王の器になる可能性を、過去から探している。」


「過去から……?」


グレゴリーが呟く。


「つまり……昔、黒き王の影響を受けたことがある人を探しているのか?」


「その可能性が高い」


そのとき――。


時計塔の最上部が黒く光った。


ドクン。


まるで巨大な心臓のように。


「……来るぞ」


黒い影が、時計塔の壁からゆっくりと現れた。


紫色の魔石が胸元で明滅している。


「時計が……僕を呼んでる」


影が苦しそうに胸を押さえる。


「でも……違う」


「何が違うの?」


ソフィアが尋ねる。


影は震えながら答えた。


「僕を呼んでいるんじゃない……」


そして時計塔を見上げる。


「僕の中に残っている、昔の記憶を呼び起こそうとしている。」


一同が沈黙した。


黒い影には、まだ語られていない過去がある。


かつて山を守っていたこと。


そして――なぜ黒き王の器になったのか。


その答えが、時計塔に残されているのかもしれない。


しかし次の瞬間。


ゴーン……。


鐘が鳴る。


村の風景が一瞬だけ揺らいだ。


そして――。


黒い影の姿が変わった。


今の姿ではない。


白い石の鎧をまとい、山の前に立つ、別の姿。


「……僕……?」


黒い影自身が驚く。


レオンが目を見開いた。


「これは……記憶だ!」


映し出された過去の光景。


そこには、まだ二つの村が一つだった頃の大地があった。


そして、その中央には――。


現在の時計塔とよく似た巨大な装置が建っている。


その前に立っていたのは、一体の守護者。


そして、その隣には――。


「……誰?」


ミアが呟いた。


過去の守護者が振り返る。


その隣にいた小さな影の顔が、少しずつ見えてくる。


その瞬間。


時計塔の針が止まった。


カチッ。


黒き王の声が、村全体に響き渡る。


『見つけた』


全員が凍りつく。


『ようやく……見つけた』


時計塔の文字盤に、黒い文字が浮かび上がった。


「器、候補――一名」


そして――。


その名前が、ゆっくりと表示され始めた。


「まさか……」


アリスが息をのむ。


「誰なの……?」


文字盤が黒く染まり――。


次の瞬間。


名前の最初の一文字が浮かび上がった。


「――――!」


しかし、その直後。


時計塔が激しく揺れ始めた。


ゴゴゴゴゴ……!


地面が震える。


時計の針が、さらに猛烈な速度で逆回転を始める。


そして黒き王が告げた。


『器を選ぶのは――これが最後だ』


村の空に、巨大な黒い文字が浮かび上がった。


「最終選定開始」


ふわりか村の運命を左右する、新たな選定が始まった。

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