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ふわりか村英雄譚~黒き王と三つの鍵~もふもふたちの戦い  作者: 雨宮ぐみ


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第24話 黒い紋章に抗う村人たち

第24話 黒い紋章に抗う村人たち


ふわりか村の空に、無数の黒い紋章が浮かんでいた。


地面にも、家々の壁にも、時計塔にも。


村中が黒い光に包まれていく。


『一人では足りぬ』


黒き王の声が響く。


『ならば、全員を器にすればよい』


「そんなこと……!」


エラが歯を食いしばる。


村人たちは恐怖に震えていた。


胸元に黒い紋章が浮かび始める者もいる。


「嫌……!」


「誰か、助けて!」


「魔法が……勝手に動く!」


村のあちこちから悲鳴が上がった。


その瞬間。


「みんな、魔法を使わないで!」


ソフィアが叫んだ。


「え?」


「黒き王は、私たちの魔力だけじゃなくて……心の動揺まで利用してる!」


レオンの言葉を思い出していた。


村全体を一つの器にする。


それなら――。


恐怖や怒りまで利用される可能性がある。


「落ち着いて!」


エラが大声で呼びかける。


「誰も一人にならないで!」


村人たちは互いに手を取り合った。


すると――。


黒い紋章の光が、一瞬弱くなった。


「……効いてる?」


クララが驚く。


ソフィアが頷く。


「たぶん……」


そのとき、ミアが叫んだ。


「だったら、もっと近くに集まろう!」


「もっと?」


「うん!」


ミアは両手を広げた。


「みんなが一人ずつなら、黒き王に狙われる。でも、みんなで一つになったら――」


エコーが笑う。


「器にできないってこと?」


「そう!」


「なるほど!」


エコーがすぐに村の上空へ飛び上がった。


「みんな、広場に集まって!」


「でも黒い霧が……」


「道は私が作る!」


エコーが風魔法を放つ。


ゴォォッ!


黒い霧が左右へ押し分けられ、安全な道ができた。


「今だよ!」


村人たちが広場へ集まっていく。


しかし――。


黒い紋章が地面から伸びる。


ズズズズ……!


「来た!」


エラが身構える。


黒い鎖が村人たちへ向かって伸びてきた。


「させるか!」


マルセルが前に立つ。


ドンッ!


防御魔法の壁が出現する。


黒い鎖がぶつかる。


バチバチバチッ!


「ぐうううっ!」


マルセルが踏ん張る。


「グレゴリー!」


「任せろ!」


グレゴリーが地面に手をついた。


大地が盛り上がり、マルセルの防御壁を支える巨大な岩の柱になる。


「これならどうだ!」


「助かる!」


「俺たち、いいコンビじゃないか!」


「前からそう思ってた!」


「えっ、本当か?」


「今まで思ってなかったの?」


「……」


「そこ黙るな!」


エコーが上空から笑う。


「こんなときまで仲良しだね!」



---


一方、地下。


レオンたちは三つの鍵を一つに戻す作業を続けていた。


しかし、黒い鍵だけが動かない。


「くっ……!」


ヴァルターが力を込める。


「動け!」


鍵はびくともしない。


アルベルトも両手を添える。


「こちらも駄目だ」


「なぜ……?」


レオンが古代文字を読み直す。


「三つの鍵は、ただ魔力を合わせればいいわけじゃない」


セドリックが苦しそうに言った。


「何か……条件があるはずだ」


「条件?」


ノアが聞く。


レオンは石板を調べる。


そこには、古代文字が一行だけ残っていた。


『二つの村、三つの鍵、そして――』


その先が削れている。


「読めない……」


レオンが悔しそうに拳を握る。


「何か重要な言葉だったはずなのに!」


そのとき。


黒い影が石板の前に立った。


「……僕なら分かる」


「え?」


全員が振り返る。


黒い影は石板に手を触れた。


紫色の魔石が淡く光る。


すると、消えていた文字が少しずつ浮かび上がった。


『そして――守護者の意思』


「守護者の意思……?」


レオンが呟く。


セドリックが目を見開いた。


「そうか……!」


「何か分かった?」


「この三つの鍵を作ったのは、人間だけではない」


セドリックが黒い影を見る。


「山の守護者も封印に力を与えていたんだ」


黒い影が静かに頷く。


「だから……僕が必要」


「でも、あなたは黒き王に操られているんじゃ……」


アリスが心配そうに言う。


「完全には……操られてない」


黒い影は胸の魔石を押さえる。


「ずっと、僕の中にあいつがいる」


「なら危険じゃないのか?」


ヴァルターが警戒する。


黒い影は少しだけ俯いた。


「怖いよ」


意外な答えだった。


「でも……」


顔を上げる。


「僕は、もう逃げたくない」


その言葉に、セドリックが静かに笑った。


「それでいい」



---


地上。


広場には村人全員が集まっていた。


黒い紋章は、まだ消えていない。


しかし――。


誰も一人ではない。


「みんな!」


ソフィアが前に出る。


「目を閉じて!」


村人たちが一斉に目を閉じる。


「今までのことを思い出して」


「この村で楽しかったこと」


「嬉しかったこと」


「誰かに助けてもらったこと」


「誰かを助けたこと」


一人の村人が呟く。


「……収穫祭」


別の人が笑う。


「雪の日にみんなで雪かきしたこと」


「川の橋が壊れたとき、みんなで直したこと」


「新しい家ができた日」


「子どもたちと遊んだこと」


一つ。


また一つ。


村の記憶が語られていく。


すると――。


黒い紋章が少しずつ薄くなっていった。


『くだらぬ……』


黒き王の声が響く。


『過去の記憶など、何の力にもならぬ』


ソフィアが顔を上げる。


「違う」


『何?』


「記憶は、私たちをつなぐものだから」


ソフィアの周囲に淡い光が集まる。


「私たちは、一人じゃない」


「この村で過ごした時間がある」


「だから――」


村人たちが手をつないだ。


「私たちは、あなたの器にはならない!」


その瞬間。


ドォォォォン――!


ふわりか村全体から、白い光が放たれた。


黒い紋章が次々と砕けていく。


パリンッ!


パリンッ!


パリンッ!


黒い扉にも大きな亀裂が走った。


『馬鹿な……』


黒き王の声が初めて動揺する。


『人間の記憶ごときが……私の力を……』


「記憶だけじゃないよ」


ミアが言った。


「思い出してみて」


黒き王の目がミアを見る。


「あなたは、人の欲望や争いから生まれたんでしょう?」


『……』


「だったら――」


ミアが笑う。


「私たちは、それと反対のものを持ってる」


エコーが続ける。


「信頼」


クララが言う。


「助け合い」


セシルが言う。


「一緒に生きること」


エラが剣を握る。


「そして、守る意志だ」


白い光がさらに強くなる。


黒い扉が――。


ギギギギ……。


閉まり始めた。


「いける!」


アリスが叫ぶ。


しかし。


その瞬間。


地下から凄まじい衝撃が伝わってきた。


ドゴォォォォン!


「何!?」


村全体が揺れる。


白い光が一瞬消える。


そして――。


黒い扉の隙間から、一本の黒い腕が伸びてきた。


だが、その腕は村人たちを狙っていない。


ゆっくりと地面へ突き刺さった。


ズンッ!


地面が割れる。


その奥から――。


巨大な黒い根のようなものが現れた。


「これは……?」


エラが警戒する。


地下からレオンの声が響いた。


『みんな、聞いてください!』


『黒き王は、村を直接器にすることに失敗しました!』


「じゃあ……!」


『ですが――』


レオンの声が途切れる。


しばらくして、震える声が続いた。


『別のものを器にしようとしている!』


「別のもの?」


地面の黒い根が、大きく脈打つ。


ドクン。


ドクン。


まるで――。


巨大な心臓のように。


セドリックの声が地下から響いた。


『……山の心臓だ』


全員が凍りつく。


黒き王が笑った。


『人間が駄目なら――』


『山そのものを器にする』


ゴゴゴゴゴゴ……!


山全体が震え始めた。


遠くに見える山の頂上から、黒い光が空へ伸びていく。


そして、その光の中に――。


巨大な黒い王冠が浮かび上がった。


「……まだ終わってない」


レオンが呟く。


黒き王の声が、山全体に響き渡った。


『さあ、二つの村よ』


『次は、お前たちの大地そのものを奪おう』


ふわりか村と野獣村。


二つの村を隔てていた山が――。


ゆっくりと、黒く染まり始めた。

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