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ふわりか村英雄譚~黒き王と三つの鍵~もふもふたちの戦い  作者: 雨宮ぐみ


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第22話 黒き王、村を飲み込む

第22話 黒き王、村を飲み込む


ドォォォォン――!


ふわりか村の中央に現れた黒い扉が、大きく震えた。


扉の隙間から伸びた巨大な黒い手が、地面をつかむ。


ズズズズズ……。


その指先から黒い霧が広がり、石畳を覆っていく。


「みんな、下がって!」


エラが叫ぶ。


「この黒い霧に触れちゃ駄目!」


クララは畑の方を振り返った。


「畑が……!」


黒い霧に触れた植物が、次々としおれていく。


セシルが慌てて植物魔法を使った。


「お願い、耐えて!」


緑色の光が畑を包む。


しかし――。


バチッ!


黒い霧が光を弾き返した。


「駄目……!」


「セシル、無理に魔力を使うな!」


エラが止める。


「でも、このままじゃ……」


そのとき、マルセルが巨大な身体で畑の前に立った。


「だったら、俺が壁になる!」


「マルセル!」


「魔法が効かないなら、身体で止めればいい!」


黒い霧がマルセルに迫る。


ズズズズ……。


「うおおおおっ!」


マルセルは防御魔法を全開にした。


巨大な光の壁が出現する。


黒い霧がぶつかる。


バチバチバチッ!


「ぐ……!」


マルセルの足が少しずつ地面に沈んでいく。


「マルセル!」


「まだ……いける!」


すると、その後ろからグレゴリーの声が響いた。


「なら、俺も手伝う!」


ドン!


グレゴリーが地面に両手をつく。


大地が盛り上がり、巨大な土の壁が現れた。


「これならどうだ!」


「グレゴリーさん、頼もしい!」


クララが叫ぶ。


だが――。


エラが冷静に言った。


「二人とも、力を使いすぎるな!」


「分かってる!」


「……たぶん」


グレゴリーが答える。


「たぶんじゃ困る!」


エラのツッコミが飛んだ。



---


その頃。


ふわりか村の地下深く。


レオンたちは、さらに下へ続く階段を走っていた。


「まだ下があるのか……!」


ヴァルターが苛立ったように言う。


「古代人は、どうしてこんなに地下を掘ったんだ!」


「秘密を隠すためじゃない?」


ミアが答える。


「秘密?」


「うん。私だったら、見つけてほしくないものは地下に隠す!」


エコーが笑った。


「ミア、それじゃ宝探しの発想だよ」


「だって地下って宝箱がありそうじゃない?」


「今は宝箱を探してない!」


エラなら絶対そう言うだろう、と全員が思った。


そして――。


階段が終わった。


目の前には巨大な石の扉。


その中央には、三つの円が描かれていた。


一つはふわりか村。


一つは野獣村。


そして中央には――。


黒い円。


レオンが扉を見つめる。


「これだ」


アリスが近づく。


「これが、三つの鍵を戻す魔法陣?」


「いや……」


レオンは首を横に振った。


「これは魔法陣じゃない」


「じゃあ何?」


レオンは古代文字を読み取った。


そして顔色を変えた。


「……選定の間だ」


「選定?」


ノアが聞く。


「三つの鍵が選んだ器を、ここで固定するための場所らしい」


ヴァルターが拳を握る。


「つまり、ここを壊せば黒き王を止められるのか?」


「違う」


レオンは首を振った。


「むしろ逆だ」


「逆?」


「ここを壊すと、三つの鍵が完全に解放される」


全員が黙った。


「じゃあ、どうする?」


アリスが尋ねる。


レオンは三つの円を見た。


「三つを元の一つに戻す」


「どうやって?」


そのとき――。


遠くから声が聞こえた。


「私が知っている」


セドリックだった。


だが、その姿を見た瞬間、全員が息をのんだ。


身体中に黒い鎖が絡みついている。


「セドリック!」


アリスが駆け寄ろうとする。


「来るな!」


セドリックが叫んだ。


「私の近くにいると、鎖が君たちにも移る!」


黒い鎖がズルズルと床を這う。


ヴァルターが睨む。


「だったら、俺が切る!」


「駄目だ!」


セドリックが叫ぶ。


「その鎖は魔力でできている。攻撃すれば、黒き王の力が強くなる!」


ヴァルターは歯を食いしばった。


「……また魔法が使えないのか」


「今度は、頭を使いましょう」


レオンが言った。


ヴァルターが振り返る。


「お前、今俺を馬鹿だと言ったか?」


「言ってません」


「顔が言っている!」


「……否定はしません」


「おい!」


エコーが吹き出した。


「こんなときまで喧嘩してる場合?」


「誰のせいだ!」


「僕は何もしてないよ!」


「お前もだ!」


少しだけ、緊張がほぐれる。


だがセドリックは真剣な顔をしていた。


「時間がない」


その瞬間。


ゴォォォォン――!


地下全体が震えた。


天井から砂が落ちてくる。


セドリックが目を閉じる。


「……もう、扉が開いた」



---


地上。


黒い扉が、半分以上開いていた。


その向こうから巨大な黒い目が、村を見下ろしている。


『ふわりか村よ』


低い声が響く。


『お前たちの魔力は、長い間この山を支えてきた』


村人たちは震えながらも、その場を離れなかった。


『ならば、その力を私に渡せ』


黒い霧が一気に広がる。


「させない!」


エラが叫んだ。


村人たちが一斉に魔力を使おうとする。


しかし――。


レオンの声が、遠くの地下から魔法通信を通して響いた。


『待ってください! 魔法を使わないで!』


「レオン!?」


『黒き王は、こちらの魔力を吸収しています!』


『攻撃すればするほど、村が器にされる速度が上がる!』


村人たちは魔法を止めた。


「じゃあ……どうすればいいの?」


クララが叫ぶ。


一瞬、静寂が訪れる。


そしてミアが前に出た。


「魔力を使わなくても、守れるよ」


「ミア?」


「この村は、魔法だけでできてるんじゃないから」


ミアは村を見渡した。


家。


畑。


時計塔。


店。


広場。


そして――。


そこに暮らす人々。


「ここに住んでるみんながいる」


ミアは笑った。


「だから、魔法を使わなくても守れる」


エラが微笑む。


「……その通りだ」


村人たちは頷いた。


「みんなで扉を囲むんだ!」


「黒い霧を村の外へ押し戻す!」


「家族を守るんだ!」


誰も魔法を使わない。


それでも、一人、また一人と黒い扉の前に集まっていく。


マルセルが防御壁を維持しながら笑った。


「なるほどな」


グレゴリーも頷く。


「俺たちの村は、魔法だけが強さじゃない」


そのとき――。


黒い扉が大きく揺れた。


『愚かな……』


黒き王の声が響く。


『魔力を使わずとも、いずれ私はこの村を――』


しかし。


黒い扉の表面に、突然ひびが走った。


ピシッ。


「……え?」


村人たちが顔を見合わせる。


もう一度。


ピシッ……!


黒い扉の一部が白く光り始めた。


地下にある古代の紋章と同じ光だった。



---


地下。


レオンが目を見開く。


「村のみんなが……」


三つの円のうち、ふわりか村の紋章が輝いている。


ノアも驚く。


「何が起きている?」


セドリックが静かに答えた。


「昔の封印は、魔力だけで作られたものではなかった」


「では何で?」


「人々の意思だ」


セドリックが三つの紋章を見る。


「二つの村が一つだった頃――」


「互いに守り合うという意思そのものが、封印を支えていた」


レオンが気づく。


「だから黒き王は、村を器にしようとしている……」


「ああ」


セドリックが頷く。


「村人同士の心を分断し、自分のための器に変えるためだ」


そのとき。


黒い影がゆっくりと三つの円の前に立った。


胸の紫色の魔石が、強く輝いている。


「……なら」


黒い影が呟く。


「僕も……守る」


黒い鎖が一斉に動いた。


「待て!」


セドリックが叫ぶ。


しかし黒い影は、三つの円の中央へ手を伸ばした。


その瞬間――。


ドォォォォン!


三つの紋章が同時に輝いた。


そして地下深くから、古代の声が響く。


『三つの鍵を戻す者よ』


『一つの心を示せ』


『そうすれば――』


『黒き王の器は、完成しない』


レオンが息をのんだ。


「……まだ間に合う!」


だが、その直後。


黒い扉の向こうから、黒き王の巨大な目がゆっくりと細くなった。


『なるほど』


低い笑い声。


『ならば――』


『私は、別の器を選ぼう』


黒い目が――。


村の中にいる一人へ向いた。


「……え?」


誰かが振り返る。


その胸元に――。


いつの間にか、黒い紋章が浮かんでいた。


黒き王が、新たな器を選んだ。

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