第19話 仮面の下の正体
第19話 仮面の下の正体
地下湖に響いた水竜の声。
『第三の鍵が――動き始めた!』
その瞬間、青い鍵が激しく輝いた。
「第三の鍵って、どこにあるの!?」
エコーが叫ぶ。
レオンは答えるより先に、黒衣の人物を見た。
割れた仮面。
その隙間から見える毛並み。
「……ふわりか村の住人と同じ色だ」
黒衣の人物は黙っている。
ヴァルターが一歩前へ出た。
「お前、誰だ?」
「……」
「答えろ!」
ヴァルターの声が地下湖に響く。
すると、黒衣の人物はゆっくりと仮面を外した。
カタン……。
仮面が地面へ落ちる。
現れた顔を見て、ミアが目を見開いた。
「……え?」
レオンも言葉を失う。
「あなたは……」
そこにいたのは――。
ふわりか村で以前から何度も見かけていた人物だった。
村の古い図書室を管理している――セドリック。
普段は物静かで、古代文字や歴史に詳しい人物だった。
「セドリック……」
エコーが呆然と呟く。
「嘘でしょ?」
セドリックは静かに目を伏せた。
「……すまない」
ヴァルターが怒りをあらわにする。
「お前が、あの黒い装置を作ったのか!」
「違う」
「じゃあ、なぜ仮面をかぶっていた!」
「私は……装置を止めようとしていた」
レオンが割って入る。
「だったら、最初から話してくれればよかった!」
「話せなかった」
セドリックは苦しそうに答えた。
「私が知っていることを村に伝えれば――村そのものが狙われる」
「もう狙われている!」
エラの声が響く。
「だからこそ、今まで隠していた」
セドリックは地下湖の奥を見る。
「だが、もう隠している時間はない」
---
そのとき。
黒い影が突然苦しみ始めた。
「グ……グオオ……!」
胸の紫色の魔石が激しく明滅する。
セドリックが顔を上げた。
「来る……」
「何が?」
アリスが尋ねる。
「第三の鍵の解放だ」
ドクン――!
地下湖が大きく揺れる。
水竜が巨大な身体を起こす。
『第二の鍵を手にせよ』
レオンは青い鍵を握った。
「これをどうすれば?」
『地上へ持ち帰れ』
「地上?」
『第三の鍵は、すでに動き始めている』
「でも、どこに?」
水竜は答えた。
『二つの村の間』
レオンの顔が青ざめる。
「……まさか」
セドリックが頷いた。
「そうだ」
「村と村の間にある――あの谷か」
「昔から誰も近づかない場所だ」
エコーが言った。
「でも、あそこには何もないよ?」
セドリックが首を横に振る。
「何もないんじゃない」
「え?」
「見えないようにされている」
---
一方、ふわりか村。
時計塔の鐘が鳴り続けていた。
カン……。
カン……。
カン……。
グレゴリーたちは時計塔の地下へ急いでいた。
「この先に何かある!」
グレゴリーが地面を掘り進める。
クララが土を照らす。
「慎重にして!」
「分かってる!」
ドゴン!
「……」
エラなら間違いなく怒っていたが、幸いここにはいない。
クララがため息をつく。
「だから慎重にって言ったのに」
「……今のは慎重だった」
「どこが?」
そのとき、地下の壁が崩れた。
その向こうに――。
巨大な空間が現れた。
「これは……」
セシルが息をのむ。
壁一面に、二つの村の古い記録が刻まれている。
そして中央には――。
巨大な扉。
その扉には三つの鍵穴があった。
第一。
第二。
第三。
グレゴリーが目を見開く。
「鍵穴が三つ……」
クララが扉に近づく。
「でも、第三の鍵穴だけ――」
黒く染まっている。
その瞬間。
扉の向こうから声がした。
『……もうすぐだ』
全員が凍りつく。
『三つ目の鍵が開けば――』
ドン。
扉が内側から叩かれた。
『この山は、私のものになる』
---
地下湖。
レオンたちも、その声を聞いていた。
「今の声……」
ノアが周囲を見渡す。
セドリックが目を閉じる。
「黒き王だ」
「本当に存在しているの?」
アリスが尋ねる。
「存在している」
セドリックは答えた。
「だが、まだ完全な身体はない」
レオンが理解する。
「だから、あの黒い影を器にしている」
「そうだ」
セドリックは黒い影を見る。
「そして、三つの鍵がすべて開けば――」
「黒き王が完全に目覚める」
レオンが言った。
セドリックは頷いた。
「その通りだ」
ヴァルターが拳を握る。
「なら、第三の鍵を止める」
「簡単にはいかない」
「それでもやる」
ノアも頷く。
「もう、二つの村は一緒だ」
エコーが笑った。
「そうそう。今さら別々に戦うなんて無理だよ」
ミアが手を挙げる。
「私も行く!」
「危険だよ」
アリスが心配する。
「でも、私が見つけられるものもあるから」
ミアは胸を張った。
「前にもみんなが気づかなかったこと、見つけたでしょ?」
レオンが微笑む。
「その通りだ」
「じゃあ決まり!」
ヴァルターが青い鍵を見る。
「これを持って戻るぞ」
しかし――。
黒い影が突然、レオンの前へ歩いてきた。
そして青い鍵を見る。
「……?」
レオンは警戒しながら尋ねる。
「どうした?」
黒い影は鍵ではなく、自分の胸を指差した。
紫色の魔石。
そこから黒い糸のような魔力が伸びている。
その先は――。
セドリックへつながっていた。
「……!」
全員が驚く。
ヴァルターがセドリックを睨む。
「どういうことだ?」
セドリックは目を閉じた。
「私にも、この力がつながっている」
「お前が黒き王の仲間なのか?」
「違う!」
セドリックは初めて声を荒らげた。
「私は――」
一瞬、言葉を止める。
そして静かに続けた。
「黒き王を封じるために、この力を引き受けた」
「引き受けた?」
「誰かが黒き王の力を受け止めなければならなかった」
セドリックの身体から、黒い魔力が漏れ始める。
「私はその役目を選んだ」
アリスが心配そうに近づく。
「そんな……。それじゃあ、あなたの身体が……」
「もう長くはない」
全員が凍りついた。
セドリックは笑った。
「だから、急いでくれ」
その瞬間。
地下湖の奥で――。
巨大な亀裂が走った。
バキィィィン!
水竜が咆哮する。
『第三の鍵が、完全に目覚める!』
青い鍵が激しく震える。
レオンは鍵を握りしめた。
「行こう!」
全員が地上へ向かって走り出す。
その後ろで、セドリックは黒い影を見つめた。
「……君も来い」
黒い影がゆっくりと頷く。
二人は仲間たちの後を追った。
そして地上では――。
ふわりか村と野獣村の間にある谷から、巨大な黒い柱が空へ向かって伸び始めていた。
その中心に、三つ目の鍵穴が浮かび上がる。
そして――。
誰もいないはずの谷に、低い笑い声が響いた。
『ようやく……三つ目が開く』
黒き王の目覚めまで――。
あと一つ。




