第13話 山の心臓が動き出す
第13話 山の心臓が動き出す
地下遺跡の奥。
二つの村の魔力が一つに重なったことで、巨大な扉は完全に開いていた。
その先にあったのは、広大な空間だった。
天井は見えないほど高く、壁には古代の文字と無数の魔法陣が刻まれている。
そして中央には――。
巨大な黒い球体。
まるで生き物の心臓のように、ゆっくりと脈打っていた。
ドクン……。
ドクン……。
「……また動いた」
エコーが息をのむ。
黒い球体から、細い黒い光が伸びていく。
その光は地下の壁を走り、さらに山の奥へと消えていった。
レオンが目を細める。
「違う……これは魔力を集めているんじゃない」
「じゃあ、何なんだ?」
グレゴリーが尋ねた。
「送り込んでいるんだ」
「どこへ?」
レオンは答えなかった。
そのとき――。
ドクンッ!
先ほどよりも大きな振動が地下空間を揺らした。
「うわっ!」
ミアが驚いて飛び上がる。
そして反射的にグレゴリーの背中へ飛び乗った。
「グレゴリー、動かないで!」
「お、おう」
「……ナッツが落ちる!」
「そこかよ!」
エラが思わず突っ込んだ。
「こんな状況でも食べ物の心配か……」
アルベルトが呆れたようにつぶやく。
「大事なことです!」
ミアは真剣だった。
「非常食です!」
「今のところ一番緊張感がないのは君だね」
ノアが苦笑する。
しかし、次の瞬間。
ミアの表情が変わった。
「……待って」
「どうした?」
エコーが聞く。
ミアは耳を澄ませた。
「音が……二つある」
「二つ?」
全員が静かになる。
ドクン……。
山の心臓が脈打つ音。
そして、その奥から――。
ドン……。
もう一つ。
低く、重い音が聞こえた。
「確かに……」
アリスが小さく言った。
レオンは壁へ近づいた。
古代文字の一部が、黒い光によって浮かび上がっている。
「……ここに書いてある」
「何て?」
エラが尋ねる。
レオンはゆっくり読み上げた。
「『心臓は大地の力を巡らせる器なり』」
さらに下へ視線を移す。
「そして……」
レオンの顔が険しくなった。
「『しかし、心臓を逆流させる者が現れた時――災厄は力を得る』」
一同に緊張が走る。
ヴァルターが拳を握った。
「つまり、あの黒い機械か」
「おそらく」
レオンは中央の黒い装置を指差した。
古代遺跡のものとは明らかに違う。
金属製で、黒い魔石がいくつも組み込まれている。
「誰かが後からこの装置を取り付けた。そして、二つの村から集めた魔力を山の心臓へ流していた」
ノアが静かに言った。
「それなら……犯人は、最初から村同士を戦わせるつもりだったんだ」
「そうだ」
エラが頷く。
「互いに疑わせて、魔力を使わせるために」
「戦えば戦うほど……」
アリスが黒い球体を見る。
「山の心臓が強くなる」
ドクンッ!
その瞬間。
黒い球体から、巨大な黒い波動が放たれた。
「危ない!」
エラが叫ぶ。
グレゴリーが前に出て土壁を作る。
ズドォン!
黒い波動が土壁にぶつかり、壁が大きく揺れた。
「グレゴリー!」
「大丈夫だ!」
グレゴリーは歯を食いしばる。
「これくらい……!」
しかし、土壁に次々と亀裂が入っていく。
「グレゴリー、一人では無理!」
アリスが叫ぶ。
「みんなで!」
ノアが風を送る。
エコーも両手を広げ、風の魔力を重ねた。
「ここで負けたら、村に帰れないからね!」
「火は俺が!」
ヴァルターが炎を放つ。
「僕も!」
アルベルトが雷を重ねる。
リリアは水の魔力を、クララは大地の魔力を送り込む。
エドガーとマルセルも防御魔法を展開した。
二つの村の魔力が、再び一つになっていく。
バチバチバチッ!
黒い波動が押し返される。
「いまだ!」
エラの声と同時に、レオンが黒い装置へ走った。
「これを止めればいい!」
装置には三本の魔力管が繋がっている。
しかし――。
「一本じゃない!」
レオンが叫ぶ。
「三つとも同時に止めないと!」
「なら三人でやればいい!」
エコーが飛び出す。
「私が一つ!」
ノアも続く。
「僕がもう一つ!」
「最後は俺だ!」
ヴァルターが装置へ向かう。
「待て、ヴァルター!」
アルベルトが叫んだ。
「お前の魔力は強すぎる!」
「何だと?」
「加減しろと言っているんだ!」
「……俺に加減しろだと?」
「今は喧嘩している場合じゃない!」
エラが二人の間に割って入った。
「あとで好きなだけ喧嘩してください!」
「あとでならいいのか?」
アルベルトが真顔で聞く。
「そこじゃありません!」
エラの怒鳴り声が地下に響いた。
一瞬、全員が黙る。
そして――。
エコーが吹き出した。
「エラ、怒ると怖いね」
「笑っている場合じゃない!」
「でもちょっと面白い」
「エコー!」
そんなやり取りをしながらも、三人はそれぞれの装置へ到達した。
「せーの!」
三方向から同時に魔力を流す。
ガギィィン!
黒い装置が激しく震えた。
そして――。
ピシッ。
黒い魔石に亀裂が入った。
「いける!」
レオンが叫ぶ。
しかし。
装置の奥から、誰かの声が響いた。
『――まだ早い』
全員が凍りつく。
「この声……!」
エコーが振り返る。
黒い装置の上に、あの黒衣の人物が立っていた。
仮面の奥からこちらを見つめている。
「お前!」
ヴァルターが炎をまとわせる。
「今度こそ逃がさん!」
「待って!」
ノアが止める。
だが、黒衣の人物は逃げようとしなかった。
「私は、この装置を作った者ではない」
レオンが驚く。
「……何?」
「私もまた、止めようとしている」
「じゃあ、なぜ今まで黙っていた!」
エラが問い詰める。
黒衣の人物はしばらく黙っていた。
そして――。
「災厄は、もう山の中にはいない」
全員が息をのむ。
「……どういう意味?」
アリスが聞いた。
黒衣の人物は、山の心臓のさらに奥を指差した。
「災厄は――すでに外へ出ている」
ドクン。
その瞬間。
地下遺跡全体が大きく揺れた。
「何だ!?」
グレゴリーが叫ぶ。
天井から石が落ちてくる。
そして遠くから――。
ゴォォォォン……!
地鳴りが響いた。
黒衣の人物は山の出口へ向かって歩き出す。
「待て!」
レオンが叫ぶ。
しかし、その姿は黒い霧の中へ消えていった。
「……外へ出ているって……」
ミアが震える声で言う。
ノアが険しい顔で答えた。
「つまり……」
そのとき。
山の外から――。
ふわりか村の方向へ向かって、巨大な咆哮が響いた。
「グオオオオオオオオッ!!」
全員が振り返る。
ヴァルターが目を見開いた。
「……まさか」
レオンは青ざめながら言った。
「災厄が……村へ向かっている」
そして彼らは急いで地下遺跡を飛び出した。
ふわりか村を守るために――。
二つの村が初めて手を取り合った、その直後。
本当の敵が、姿を現そうとしていた。




