第12話 二つの村、初めての共同作戦
第12話 二つの村、初めての共同作戦
地下遺跡の最深部。
ふわりか村と野獣村。
二つの村の紋章が刻まれた巨大な扉を前に、一行は立ち尽くしていた。
扉の中央には、二つの魔法石を置くための台座がある。
片方には青い石。
もう片方には赤い石。
「これを同時に起動させればいいのか?」
ヴァルターが尋ねる。
レオンは古代文字を読みながら頷いた。
「そうみたいだ」
「なら簡単だ」
ヴァルターが赤い魔法石を持ち上げる。
「俺が炎を流し込む」
「待って!」
アリスが止める。
「二つの魔法を同時に合わせる必要があるのよ」
「分かっている」
「本当に?」
「……たぶん」
エラがため息をつく。
「さっきから『たぶん』が多すぎない?」
ノアが苦笑した。
「ヴァルターにしては珍しいな」
「うるさい!」
ヴァルターが睨む。
するとアルベルトが真顔で言った。
「俺も心配だ」
「アルベルトまで!?」
「前に炎と雷を合わせたら、村の井戸が爆発したから」
「それを今言うな!」
エコーが吹き出す。
「野獣村って、意外と危険な実験してるんだな」
「お前の村はどうなんだ?」
「……」
エコーが目をそらす。
「グレゴリーが一度、倉庫を土魔法で埋めた」
「それは事故だ!」
グレゴリーが慌てて否定した。
「しかも三回だ」
ミアが付け加える。
「ミア! 三回目は俺じゃない!」
「じゃあ誰?」
「……」
グレゴリーが黙り込む。
「ほら!」
エコーが笑う。
緊張していた空気が少し和らいだ。
だが、レオンは真剣な顔で扉を見つめていた。
「笑っていられるのも今のうちだ」
「どういうこと?」
アリスが尋ねる。
「この扉は、単純に魔力を合わせれば開くわけじゃない」
レオンは古代文字を指差した。
「『互いの魔力を奪わず、与え合え』と書いてある」
「与え合う?」
ノアが聞く。
「片方が強くなろうとすると、もう片方の魔力が弱くなる仕組みらしい」
ヴァルターが腕を組む。
「つまり、俺が力を出しすぎたら駄目なのか」
「そういうこと」
「……」
ヴァルターが少し考える。
「難しいな」
「意外と素直に認めたわね」
エラが驚いた。
「俺だって学習する!」
◆
共同作戦が始まった。
青い魔法石を、ふわりか村側の台座へ。
赤い魔法石を、野獣村側の台座へ。
「準備はいい?」
アリスが確認する。
「いつでも」
ノアが答える。
「こっちもだ」
エラが杖を構える。
「じゃあ、三つ数えるぞ」
レオンが言った。
「一……」
ヴァルターが炎を出す。
「二……」
アリスが癒しの光を流す。
「三!」
魔法石が同時に輝いた。
青と赤の魔力が中央で混ざり合う。
ゴゴゴゴゴ……!
「成功した!」
ミアが喜ぶ。
しかし――。
魔法石の光が急激に強くなった。
「待って!」
レオンが叫ぶ。
「魔力が吸われている!」
「え!?」
台座から黒い魔力が噴き出した。
「犯人が仕掛けを利用している!」
ノアが叫ぶ。
「このままでは二つの村の魔力が全部奪われる!」
ヴァルターが炎を強める。
「だったら力で止める!」
「駄目!」
レオンが叫んだ。
「力を強めたら、逆に吸われる!」
「じゃあどうする!」
その瞬間。
「私に任せて!」
アリスが前へ出た。
「癒しの魔法を、魔法石に流す!」
「癒し?」
ノアが驚く。
「魔法石だって傷ついているんでしょう?」
アリスは第6話で見つかった黒い亀裂を思い出していた。
「だったら、治せるかもしれない!」
アリスが両手を魔法石へ向ける。
柔らかな光が広がる。
黒い亀裂が、少しずつ薄くなっていく。
「すごい……」
エコーが呟く。
しかし、黒い魔力がアリスへ逆流した。
「きゃっ!」
「アリス!」
エラが駆け寄ろうとする。
「来ないで!」
アリスが叫ぶ。
「今、離れたら魔力が暴走する!」
苦しそうに耐えるアリス。
そのとき、ノアが隣に立った。
「なら、俺が支える」
「ノア……」
ノアが風魔法を使う。
「アリスの魔力を、俺の風で循環させる」
さらに――。
「俺もやる!」
ヴァルターが炎を弱めて加える。
「炎を……支える力に使う」
ノアが驚く。
「ヴァルターが魔力を抑えている……?」
「うるさい。俺だってできる」
その姿を見て、エラも魔法を加えた。
エコーも。
グレゴリーも。
ミアも。
アルベルトも。
全員が少しずつ魔力を分けていく。
やがて――。
パァァァァン!
魔法石の黒い亀裂が完全に消えた。
そして巨大な扉が、ゆっくりと開いた。
「……開いた」
ノアが呟く。
その先には、巨大な地下空間が広がっていた。
中央には――。
巨大な黒い球体。
まるで心臓のように脈打っている。
「これが……山の心臓」
レオンが息をのむ。
だが、その下にはさらに別のものがあった。
黒い魔力を送り出す巨大な装置。
「これ……誰かが後から作ったものだ」
レオンが気づく。
「古代遺跡のものじゃない」
グレゴリーが装置を調べる。
「新しい」
「つまり犯人は――」
エラが言った。
「この場所に侵入して、装置を取り付けたんだ」
そのとき。
パチン。
どこかで指を鳴らす音がした。
「!」
全員が振り返る。
暗闇の奥。
黒いローブの人物が立っていた。
「見事だ」
仮面の奥から声が響く。
「まさか、二つの村が本当に協力するとはな」
ヴァルターが前へ出る。
「今度こそ逃がさん!」
炎が燃え上がる。
だが、仮面の人物は笑った。
「逃げる必要などない」
その人物が装置に手をかざす。
「目的は、すでに達成した」
ドクン――。
山の心臓が、今までとは比べものにならないほど大きく脈打った。
地下全体が揺れる。
そして、遠くの山の中から――。
巨大な何かが目を覚ます声が響いた。
「……まだ、封印の中の守護者じゃない」
レオンが青ざめる。
「別の何かが……山の中にいる」
仮面の人物は、その言葉を聞くと静かに姿を消した。
残された一行は、巨大な山の心臓を見上げる。
そしてヴァルターが、ふわりか村の仲間たちを見る。
「……どうやら、俺たちはまだ一緒に戦う必要があるらしいな」
エラが頷いた。
「ええ。今度は村を守るために」
ふわりか村と野獣村。
長く続いていた対立は、少しずつ終わりへ向かい始めていた。
しかし――。
山の奥では、誰にも知られていない本当の災厄が、静かに目を開けようとしていた。




