第10話 山の門とおかしな鍵
第10話 山の門とおかしな鍵
山の中腹に現れた巨大な石の門。
その中央には、黒い鍵と同じ形の鍵穴があった。
ノアは鍵を握りしめ、門の前に立つ。
「これを差し込めばいいんだな」
「たぶん」
レオンが答える。
「たぶん?」
ノアが振り返った。
「古代文字の意味から考えれば、そうなる」
「つまり、確実じゃないんだな」
「古代文字なんて、今の時代には説明書がないからね」
「説明書……」
エコーが腕を組む。
「昔の人も『ここに鍵を入れてください』って書いておけばよかったのに」
「そんな親切な古代文明があるか!」
エラが突っ込んだ。
ミアが手を挙げる。
「私なら『ここ! ここ!』って大きく書く」
「ミアの場合、字より絵のほうが多そうだな」
グレゴリーが笑う。
「ひどい!」
そんな会話をしている間にも、山の心臓は脈打っている。
ドクン。
ドクン。
「遊んでいる場合じゃない」
ヴァルターが低い声で言った。
「分かってる!」
エコーが慌てて姿勢を正す。
「じゃあ、開けるぞ」
ノアが鍵を差し込んだ。
カチッ。
門が低い音を立てる。
ゴゴゴゴゴ……。
巨大な扉がゆっくりと開いていく。
「開いた!」
アリスが喜ぶ。
だが――。
突然、門の上から大量の粉が落ちてきた。
バサァッ!
「うわっ!」
「きゃっ!」
「何だ!?」
一行の頭から足まで、真っ白になった。
沈黙。
エコーが自分の腕を見る。
「……何これ?」
ミアが鼻をひくつかせる。
「小麦粉?」
グレゴリーが頭を振る。
「俺、パンになった?」
「熊のパンは聞いたことないわ」
アリスが笑いをこらえる。
ヴァルターだけは真っ白になった顔で固まっていた。
「……」
アルベルトが隣を見る。
「ヴァルター」
「何だ」
「顔が真っ白だ」
「見れば分かる」
「怒ってる?」
「……怒っている」
「粉に?」
「粉にもだ!」
思わずノアが吹き出した。
「お前、笑ったな!」
「いや……これは無理だろ」
ノアは笑いながら顔を拭った。
しかしレオンは粉を指先につけて、じっと観察していた。
「待って」
空気が変わる。
「これ、小麦粉じゃない」
「え?」
レオンが粉を魔法で浮かせる。
白い粉の中に、小さな青い粒が混ざっていた。
「魔力鉱石の粉末だ」
アリスが驚く。
「じゃあ、門が開いたときに魔力を放出する仕組みだったのね」
「そう。でも妙だ」
レオンが門を見る。
「この門は侵入者を攻撃するためのものじゃない」
「じゃあ、何のため?」
「……警告だ」
門の内側に、古代文字が浮かび上がった。
レオンが読み上げる。
「『二つの村の力を一つにせよ。さもなくば、心臓は怒りに目覚める』」
全員が黙った。
「二つの村の力を……一つに?」
ノアが呟く。
するとヴァルターが腕を組む。
「なら簡単だ」
「何が?」
「俺の炎と、ふわりか村の魔法を合わせればいい」
グレゴリーが頷く。
「確かに」
「ただし、魔法を合わせるには相性が必要だ」
レオンが説明する。
「下手に混ぜれば、魔力が暴走する」
ヴァルターが胸を張る。
「俺の炎なら問題ない」
アルベルトが小さく言った。
「前に一度、村の倉庫を燃やしかけたけど」
「アルベルト!」
「事実だ」
「余計なことを言うな!」
エコーが笑い出す。
「ヴァルターって意外と失敗するんだな!」
「お前も屋根から落ちただろ!」
「それは言うな!」
緊張していた一行の間に、また笑いが起こった。
だが、その瞬間だった。
門の奥から――。
ドンッ!
巨大な衝撃音。
「……!」
全員が一斉に振り返る。
門の奥に広がる暗闇。
そこから、巨大な影がゆっくりと歩いてくる。
四本の足。
巨大な角。
全身を石のような外殻が覆っている。
「これが……守護者」
アリスが息をのむ。
守護者は一行の前で立ち止まった。
そして――。
巨大な口を開いた。
「二つの村の者よ」
低く、地面を震わせる声。
「ここより先へ進みたければ――」
全員が身構える。
「試練を受けよ」
ヴァルターが拳を握る。
「望むところだ」
守護者が前足を上げる。
すると床に魔法陣が浮かび上がった。
「ただし、試練は一つ」
光が全員を包み込む。
「最も力の強い者ではなく、最も仲間を信じられる者が、この扉を開く。」
「……」
全員が顔を見合わせる。
そしてエコーが小声で言った。
「これ、ヴァルターが一番苦手なやつじゃない?」
「聞こえているぞ!」
山の奥に、ヴァルターの怒声が響き渡った。




