表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
閃光の瞬  作者: KK9996
9/18

第8話 強化された機構と射線の逆算

企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。

テンポと引きを重視して書いています。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

「――3日正午頃に起きた、府上駅襲撃事件について、都市警備局は、外部勢力による犯行の可能性が高いとして…」


少し古い型のテレビが喋っている。


落書きだらけで薄汚れた壁。

壊れたアスファルト。

散らかったゴミ。


それらを、遠くで光る企業の広告モニターがうっすらと照らしていた。

電車が通るたび、路地が揺れた。

車内の明かりが一瞬だけ差し込み、その時だけ、路地も明るくなった。


“現金のみ”

“企業 立ち入り禁止”

“一見さん お断り”


都市部とは違う、物と物が無理やり積み重なった雑踏の中。

注意書きだらけの扉の前に、瞬たち4人は立っていた。


瞬がそれをノックした。


コンコン、コンコンコン。


すると、半分壊れた自動ドアが嫌な音を立てながら開く。


「瞬か?生きとったのか」


「なんで俺だとわかった?」


「刀の声だ。話しかけてきた」


中から、背中の丸まった老人が出てきた。

背中も膝も悪く、よたよたと近寄ってくる。

だが、目だけは違う。

眼鏡型の最新モッドモジュールが、夜でもはっきりと瞬たちを捉えていた。


「お前さんも企業側になったんだよな?風の噂で聞いたよ」

「…本来、企業は立ち入り禁止なんだが…お前さんは昔よしみだ」


「すまねぇな。やっぱりオヤジのところじゃないと安心できないんだ」

「…企業の正規サポートは平均化には徹底してる。個人の癖までカバーできねぇ」


瞬が老人に続ける。


「今日は刀より先に見てもらいたい物があるんだ。座愛、自己紹介を」


「あ、座愛。善名座愛です。瞬の新しい相棒やってます」


老人が手を差し出した。

シワだらけで、ボロボロだ。

機械に巻き込まれたのか、指が一本無くて、そこだけ機械で補っている。


「ここの工房主、江田えだだ。よろしく」


――少し前。


「スプラッターキャノンには満足している。だけど、そろそろメンテ時期だ」


座愛がアパートのロビーで愛銃を取り出し、クルクルと回しながら言っている。


「それに、オーバーヒートが早い。もっと撃てるようにしないと…」


これに、瞬が返す。


「拳銃型で50口径弾を連射できるだけで、十分に変態だと思うんだが」


瞬も刀を見ていた。


「いや確かに、そろそろメンテ時期だな。電子、江田のオヤジってまだ生きてるか?」


「今調べます。……はい。見つけました。まだ第6地区で工房をやってます。この近くです」


電子が右手の端末に素早く何か入力して、すぐに答えた。


「その人、腕は確かなのか?この蜘蛛脚も、最近、展開時に違和感があるんだ。なんだかスムーズじゃない」


座愛がギシギシと音を立てながら蜘蛛脚を展開してみせた。


「それなら江田のオヤジのところに行こう」


瞬が立ち上がった。


「え、今から?もう21時だけど…」


「江田のオヤジは変わり者でな、光が嫌いで、朝に寝て夕方に起きる。だから、この時間も工房は開いてるんだ」


「お前たちさえよければ、いつでもいいぞ」


――そして、現在。


「この銃、強いんだけど、オーバーヒートしやすいんだ。なんとかならない?」


江田は即座にスプラッターキャノンを受け取り、まじまじと見た。


「これは珍しい技術だな。作り手の変態的な拘りを感じるよ」

「…ただ、オーバーホール時期だし、ついでに交換式ヘビーバレルにするか。それなら、今よりは連射が効く」


江田がスプラッターキャノンを回しながら続ける。


「ただし、銃身交換は熱いぞ。耐熱グローブがいる」

「それと量産の.50じゃそのうち通らなくなる。強装弾が必要だ。今ここには無いが手配してやる」


これに、座愛は目を輝かせて答えた。


「はい。貴重な銃なんです!」

「耐熱なら大丈夫です!手には新しく耐熱性のアーマーを入れてあります!」

「…それと、この銃用のスタビライザーが背中にあるんですけど、これも、最近動きが悪くて…」


そう言うと座愛の背中から蒸気と物音が鳴った。


プシュー…ガシャン。


圧縮された空気の開放音。

金属が軋む音。


「蜘蛛脚、クイックリリース。通常形態」


座愛の目が青く光り、背中から蜘蛛脚が外れた。


「それってそんな風に取り外しできたのか!?」


瞬が一番驚いた。

驚いた瞬に、座愛は続けた。


「瞬も背中には空きスロットあるって言ってたよね?排熱孔を作った時に」

「互換性はあるからクイックインストールなら接続できると思うよ」

「ただ、神経接続で、最初は地獄みたいに痛いと思う」


「…ならいいや」


瞬が残念そうに答えた。


座愛から離れ、自立している蜘蛛脚に、江田が近寄り、低く呟く。


「なるほどな…こいつで.50の反動を地面に流すのか。…調整と注油が必要だ。ちょっと待ってな」

「…それと、面白い機能が付けられるかもしれない」


こうして銃とスタビライザーを預けた座愛は、しばらくただの美少女に戻った。


「…ちょっとこっち来ない?夜景でも見ながら待とうよ」


座愛は、はっきり瞬を見て言った。


「お、いいな」


瞬がすぐに動く。


その後ろを、何も考えずに電子もついて行こうとした。


だが、その手首をあいが掴んで止めた。


「なんですか?」


電子が首を傾げる。

そこに、あいが小声で答えた。


「…わからない?2人っきりになりたいってことだよ」


電子とあいの顔が同時に赤くなった。

電子は口元をはっとして押さえた。


…こうして、瞬と座愛だけが橋に残った。

人工の川にかかる欄干へもたれると、向こうに都市のビル群が見えた。

さっきまでの工房とは別世界みたいに静かだった。


「瞬。電子とあいのこと、どう思ってる」


今度は、瞬に届いた。


「みんな大好きだ。俺の大切な仲間だ」


瞬は迷いなく答えた。

座愛はますます赤くなった。


「…そうじゃなくて」


座愛が顔を赤くしている。

袖口で目の下を少し隠した。


「…まぁいいや。瞬、星空って見てみたくない?」


「ヒートシンクは24時間明るくて、夜空も星が浮かばないもんな。見てみたいっちゃ、見てみたい」


「私も。好きな人と星空を見て、手を繋いだりしてみたい」


「…素敵な夢だな」


こうして2人はしばらく、橋から、オモチャの宝石みたいに輝く摩天楼を眺めていた。

その輝きは川へ落ちて、水へと溶けていく。


そして、疲れたのか、座愛が瞬の肩に頭を乗せた。

サラサラの髪が瞬の体にかかり、甘い香りが鼻をくすぐる。


「おい、大丈夫か?」


「大丈夫だけど、大丈夫じゃない…」


「…」


その時、ボロボロの服を着た小さな少女がバケツを持って現れた。


「なんでもするから、何かちょうだい」

「パンでも…お金でもいいから。今日、まだ何も食べてないの」


瞬は慣れた手つきでバッグから栄養バーと現金数枚を出し、バケツに入れた。


「ほら、今はこれだけだけど、すぐに腹一杯に食えるようになるからな」


瞬の言葉に、少女は笑顔で去って行く。


「ありがとう」


それが、第6地区の日常だった。


「厳しいんだね…」


座愛が悲しそうにする。

それに瞬が答えた。


「ああ、俺はこんな第6地区を救いたい」

「そのためには、傭兵としてもっと上に行って稼がなきゃならない」


「…すごく素敵。私にも手伝わせて」


座愛は即答した。


そして、また瞬の肩に頭を乗せた。


――しばらくして、江田が工房から半身を出し、座愛を呼んだ。


「おーい!女!できたぞ!」


座愛がすぐに反応した。

瞬の肩から頭を戻す。


「早っ。さすが名職人だな」


全員で江田のところに戻る。


その時だった。


――パァン!


スナイパーライフルの鈍い音。


江田の腹を撃ち抜いた――ように見えた。

衝撃で江田が倒れる。


「おい!大丈夫か!?」


瞬たちがすぐに駆け寄る。


「ああ、強化アルマジロのおかげで貫通はしてないが……古い内臓を少し押されたようだ」


見ると、皮膚アーマーに少し傷が入ってる程度だった。


「スナイパーだ!電子、あい!江田を担いでどこかに隠れろ!」


瞬が叫ぶ。

叫んで、刀を抜く。


「私は工房の蜘蛛脚とスプラッターキャノンを取って応戦する!」


座愛は工房に駆け込み、蜘蛛脚を背中にドッキングし、銃を取る。


展開したままでは動きにくい。

だが、座愛は蜘蛛脚を一瞬で背中に畳み、そのまま外へ飛び出した。

前とは比べものにならない滑らかさだった。


「すごい…これが職人の技術…」


銃の方も、太い“ヘビーバレル”に交換してあった。

交換用の銃身も6つほど用意してある。


すると、治安調整部隊がやってきた。

6人。

隊員が降りてくる。


「助かった!こっちはスナイパーに狙われて…」


その瞬間、部隊員のヘルメットのバイザーが赤くなった。


「まさか…!」


その“まさか”だった。


――外敵。


「座愛、こっちに下がれ!位置取りが悪い!」


瞬が座愛に指示を出すと、座愛は工房を後にし、瞬と合流した。


そして、どこからか来た敵は工房に踏み込み、銃を乱射した。


「なっ…ターゲットは工房の方だったのか!」


年季の入った刀の研ぎ台が、銃撃で崩れた。

木片と砥石の粉が跳ね、瞬の顔が歪んだ。


「くそっ、俺の刀研ぎはしばらく延期だな!」


「瞬!どいて!私が片付ける!改造したスプラッターキャノンの試し撃ちになる!」


座愛が蜘蛛脚を展開する。

そして、銃を敵に向けて一斉掃射。


ダン、ダン、ダン、ダン、ダン――


15発ほど吐かせても、銃身はまだ赤くならない。

ヘビーバレルが効いていた。


あっという間に、車から降りてきた6人を制圧した。


しかし…


――パァン!


今回はスナイパーが数人、混ざっている。


「座愛!」


瞬が、座愛の前に飛び込み、刀で銃弾を斬る。

フラッシュ最大出力だ。


斬られた銃弾は、2つになりながら夜の川へと消える。

軽く水しぶきが上がった。


「…どうする?いくら瞬でも、スナイパーには届かないだろ」


「ああ、だが考えがある」

「…その考えには、座愛の銃の腕前が必要だ」


――そして、スナイパーからの攻撃が来た。


パァン!


大きく重い音が、夜の街を切り裂く。


瞬はフラッシュで弾を斬る。

そして、発射方向を見抜いた。


「11時の方向、青いビルの屋上!」


「見えた!撃つ!」


ダン、ダン、ダン!


火花。

破片。

煙。

敵が崩れた。


また銃声。


瞬が再び弾を斬り、位置を割り出す。


「2時の方向、灰色のビルの12階!」


「今度も見えた!」


ダン、ダン、ダン!


「当たったのか!?」


「ああ、無力化した!」


そして、最後のスナイパー。

瞬がまた、弾を斬って、発射角を読む。


「今度は遠い!正面、企業広告だらけのビルの屋上!」


座愛が得意げに笑う。


「問題ない!こいつは射程も長い!…見えた!」


…最後は、スコープ越しに敵の頭を撃ち抜いた。

頭の骨格コートが押され、敵はそのまま倒れ込む。


「――攻撃が止んだ…凌げたぞ!」


その時だった。またパトロールの車が来た。


「今度は本物か?」


「いや、多分違うね。いつもこんなに早く来ない」


座愛が言った通り、その車両からは赤バイザーの隊員が、銃をこちらに構えながら降りてきた。


「スナイパー部隊が無力化された。直接制圧せよ」


敵は、相変わらず妙に揃った動きで瞬たちに襲いかかる。


瞬が刀を構え、脚に力を入れる。


その瞬間。


「瞬!ここは任せてくれ!」


座愛が蜘蛛脚で固定砲台になったまま叫んだ。


「今のスプラッターキャノンなら制圧できる!試し撃ちだ!」


瞬が前に向けていた脚の力を抜き、後ろへ下がる。


そして、座愛が掃射。

鈍い連射音。

相変わらず、連射というより連続した爆発。


まずは1発ずつ、全員の腹へ撃ち込んだ。

敵は衝撃でよろめき、動きが止まる。


全員がよろめいたのを見て、座愛はそのままとどめを浴びせた。


2発目でアーマーが剥がれ、3発目でその下まで届く。


連なった弾帯が揺れる。

空の薬莢が積み重なる。


ダン、ダン、ダン、ダン、ダン!


スプラッターキャノンはまだオーバーヒートしない。


1人目、2人目、3人目、4人目、5人目と倒す。

そして、6人目…。


間に合わなかった。


6人目は高所の遮蔽物に隠れた。


「くそっ!」


その時だった。

蜘蛛脚の神経接続に、今までと違う感触が走った。


「まさか……歩けるのか?」


座愛が“それなら歩け”と、脳から命令を送る。


すると、蜘蛛脚の1本が地面から抜けて、体の前の地面に突き刺さった。


それを繰り返す。

ゆっくりだが、歩いていた。

まさに、巨大な蜘蛛。


「座愛!それ展開したまま動けるようになったのか!?」


「どうもそうらしい!江田のオヤジさんの技術だな!」


驚く瞬に、座愛が蜘蛛脚で歩きながら答えた。


そして、敵がカバーから撃ってくる銃弾をアーマーで弾きながら、歩み寄る。


「それじゃ、やってみるか」


座愛は蜘蛛脚の先端を壁に突き立て、それを交互に繰り返し、高所を登っていく。


そうやってゆっくりと歩み寄り、物陰に隠れていた敵の真横まで辿り着いた。


「残念でした」


顔を合わせると同時に、スプラッターキャノンが火を吹いた。

ベルト状の弾が暗闇で揺れる。


蜘蛛脚が噛む、脆くなったアスファルト。

受け止めた反動で、更にひびが入る。


最後の敵も数発で倒れた。


「瞬、制圧完了だ!」


「すげぇ…」


瞬のボサボサでサラサラの髪が、夜風になびいた。


――攻撃は確かに止んだ。


だが、工房の被害は大きい。


江田の負傷。

砥石がバラバラになり、地面に撒き散らされている。


工房の空気そのものが死んだみたいだった。


瞬が刀を撫でながら確認した。


「このままだと…次ヘマしたら折れる」


「瞬!座愛!よかった!無事だったんですね!」


電子とあいが、江田に肩を貸しながら戻ってきた。


「江田さんは無事です!“アンビュランス”を呼んであります!クリニックに搬送されます!それと…」


「それと?」


「こんな時に言うのもどうかと思いますが、企業から特別適正審査の公告が来ています」


「それが何か関係あるのか?」


瞬の疑問に電子が答える。


「Sランク立ち合いの特別適正審査です」

「――相手はおそらくSランク1位・ピリオドです!」

読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったら、次話も読んでいただけると嬉しいです。

感想・ブックマーク・評価、とても励みになります。


次回更新は平日の19:20を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ