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第7話 試される力と選ばれる存在

企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。

テンポと引きを重視して書いています。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

「――で、その特別なんとかって、誰が相手なんだ?」


 瞬が浦賀に聞く。


「……モッドモジュール調整直後の企業ランカー、とだけ」


 浦賀は核心をぼやかした。


 この日、瞬たちは解散できず、駅近くのカプセルホテルに押し込まれていた。


「ふぁー……隣のおばさんのイビキがうるさくて眠れなかったよ」


 座愛はあくびをしながら目の下にクマを作っていた。


 瞬も、あいが淹れる予定だった人工コーヒーが飲めず、不機嫌だった。


『レヴ・コーラ!翼が生える!』


 隅に置かれた広告モニターから流れてきた。


「……そうか。コーラならいくらでも出る。とにかく、砂糖とカフェインだ」


 瞬がジュースサーバーからコーラを出して、飲んだ。


「……うまっ。コーラってこんなに美味かったっけ?」


 止まらない。

 2杯、3杯とおかわりをする。


「瞬、何やってるんですか。今日は特別適正審査ですよ」


 電子も現れた。

 電子は意外と細かいことを気にしない。

 カプセルホテルでも普通に眠れたらしい。


「今の順位なら、AランクトップからSランク下位あたりをぶつけられるはずです」

「変なところで調子を崩して負けた、なんてやってたら順位下がりますよ」


 電子は少し苛立つが、瞬の手は止まらない。


「コーラうめぇ……」


 それを見ていた電子は、瞬が連続で押しているジュースサーバーを横取りし、人工イチゴミルクのボタンを押した。


「そんな甘いものばかり摂ってると、病気になってクリニック送りですよ」


「お前が一番甘ったるい……」


 瞬が顔をしかめながら突っ込む。


「……君たち、本当にSランクを討伐したんですか?」


 浦賀は呆れたように眉を寄せた。

 答えたのは座愛だった。


「ああ、ほとんど奇跡みたいなもんだったけど」


「はぁ……。会場に移動しましょう」


 カプセルホテルを出るため、全員でエレベーターに乗る。

 寝床だけじゃない。

 エレベーターまで狭かった。

 瞬の刀が邪魔になっている。


「……瞬、“それ”少し引っ込めて」


 後ろに立つ瞬の刀の柄が、座愛の柔らかい所に当たっていた。

 座愛は耳まで赤くして、振り向かずに言った。


「“それ”って……一応これにも名前はあるんだぞ」


「じゃ、“名前のあるそれ”をもう少し引っ込めてくれ」


 瞬は黙って刀を引っ込めた。


 カプセルホテルを出る。


 昨日の外敵騒ぎのせいか、人はいつもより少ない。


 襲撃現場には「立ち入り禁止」のテープ型ホログラムが浮かんでいる。

 その中で、調査班は綿棒などで現場を調べている。


「……ピリオドは本当に超能力者か何かなのか?」


 瞬が浦賀に尋ねた。


「詳しくは知りません。ああいうアイコニックモッドモジュールなのか、本当に超能力なのか」

「ただ、事実として、超能力のような力は行使できるでしょう……その目で見たはず」


「確かに。で、会場は遠いのか?」


「いえ、同じ第1地区の企業ビルです。徒歩で10分程度です」


 それ以上、誰も口を開かなかった。

 10分ほど、足音だけが続いた。


「こちらです」


 そこには、大量の企業広告バナーが貼られた、カラフルで背の低いビルがあった。


 だが、中へ入ると拍子抜けするほど整っていた。


「いらっしゃいませ」


 受け付けのロボットも小綺麗にしていた。


「特別適正審査だ。バーチャル戦闘空間で模擬戦を予定していたんだが」


 浦賀がそう言うと、受け付けロボットは足のタイヤを回して動き出した。


「お待ちしておりました。ようこそ、閃野瞬様。ご案内します」


 暗く、オシャレな廊下を、4人と1体で歩く。


 すると、「戦闘空間 A」という大部屋にたどり着いた。


「お連れ様はここまでです。あちらの椅子でおくつろぎください」

「浦賀様にはログ取りのため、ご一緒に入っていただきます」


 ロボットがそう言うと、抗議の声が大きく返ってきた。


「仲間なんだ!戦闘には参加しないと約束するから、私たちも中に入れてくれ!」


 座愛が受け付けロボットに懇願する。


「ビジターは例外を望んでいます……ベストな応対を検索中……戦闘に参加しないのであれば、中に入ることは許可します」


「話せばわかるな!」


「ええ、ハッキングしないで済みました」


 座愛と電子は喜んだ。


 中に入ると、真っ白だった部屋が一瞬で崩れたビル群の様相に変わった。


「遮蔽物とかは……触れるな。コンクリそのものの硬さだ。これが本当にバーチャルなのか?」


「はい。ホスト側はかなりの予算を使ってますから」


 遮蔽物を確認する瞬に、浦賀が答えた。


「では、始めます……」


 ビー。


 サイレンが鳴り、照明が1段階暗くなった。


「特別適正審査開始。ゲストは、Aランク15位、閃野瞬」


「そして、特別適正審査、ホストは……」


 向こう側の床下から、せり上がる床。

 相手が見える。


 サイレンのライトに照らされ、浮かび上がる筋肉のような外骨格アーマー。

 首から下げているドッグタグ。

 そして片手には、本物の酒が入った酒瓶。


「ホスト側は、Sランク1位、黒乃虚空 “ピリオド”です」


「な!?」


「マジかよ!?」


 瞬も座愛も電子も、さすがに声を失った。


「これより特別適正審査・模擬戦開始。無力化、または降参。あるいは、明らかな勝敗状況の構築によって終了とします」


「……サムライ。その力を見せてみろ」


 ピリオドが深く、唸るように話しかけた。

 そして、酒を飲む。

 空になった酒瓶を捨てる。

 地面で割れた。


 瞬が刀を抜く。

 ……少し震えているように見える。


「両者、構え……状況開始」


 またブザーが鳴った。

 特別適正審査開始の合図だ。


 瞬はまず、目の前の遮蔽物に身を隠す。

 この状況では定石だった。


 遮蔽物に入る。

 いつもの相手なら、それで十分だった。


 だが、相手はSランク1位だった。


 ピリオドは当然のように宙に浮き、上から瞬の位置を捉えた。


「マジかよ……」


 そして、昨日の府上駅鎮圧の時のように、何もないところから弾丸が出た。


 アサルトライフル級の連射。

 それも同時に4本。


 遮蔽物の外、横、上。

 死角の全部から撃たれているような弾幕だった。


 瞬はフラッシュを最大出力にし、その弾丸の雨を避ける。

 そして、斬れるものは斬り落とした。


「はぁ……はぁ……弾そのものは見える。しかも訓練弾か。喰らっても即死はしないってわけだな」


「やはり“フラッシュ持ちの刀使い”は素晴らしいな。今の攻撃を受け流せる者はそうはいない」


 ピリオドの声には感心はあっても熱はない。

 試しているだけの響きだった。

 どこから出したのか、また酒を飲んでいた。


 瞬が急いで新しい遮蔽物を探す。


「いや、違う。遮蔽物に頼っていたらジリ貧だ!――そうだ。逆だ」


 少し高い瓦礫を見つける。


「この上からなら……刺突が届く。ピリオドは昨日の実戦から見るに、5m程度しか浮けないはず!」


 瞬は瓦礫の上に立った。


 そしてピリオド目掛けて、脚の力を最大まで高め、渾身の踏み込みを見せる。


 一気に距離が詰まる。


 ……だが。


「俺が浮けるのは5m程度だと踏んだか。大外れだ」


 ピリオドがさらに上空へ浮く。

 首から下げたドッグタグが、強化外骨格アーマーへカチャリと当たった。


 高さの差が、そのまま格の差みたいだった。


 ――瞬の攻撃は届かない。


 高く飛びすぎた瞬は、そのまま落下し、地面に叩きつけられた。


 そしてピリオドが、見えない銃を瞬の前に展開する。


 地面に叩きつけられた状態から、瞬は急いで立て直す。

 刀を構える。


 斜めに置かれた刃が、全弾を斬り落とす。

 火花が連続して舞い、落ちていった。


 だがその時――フラッシュがオーバーヒートした。

 真上には、まだピリオドがいる。


 そして、瞬の周囲を、見えない銃が撃ち抜いた。


「……チェックメイト」


 ――万事休す。


 ビー。


 ブザーが鳴った。


「特別適正審査“模擬戦”終了。状況判断から、勝者 : ピリオド。適正を審査中」


 瞬も、座愛も、電子も、その場で固まった。

 それほどまでに、差は圧倒的だった。


「瞬が……手も足も出なかった……」


 浦賀は視線を逸らしたまま言った。


 アナウンスが続ける。


「勝者 : 黒乃虚空。適正 : Sランク1位」

「敗者 : 閃野瞬。適正 : Aランク3位」


「……負けたのに、Aランク3位……?」


 電子が目を見開く。


「ああ、ピリオドの弾を凌いだのがデカいんだろう」


 だが、瞬だけは結果を見ても顔を上げなかった。


 その時、浦賀の端末がけたたましく鳴った。


 浦賀は急いで背を向けるが、全員がその浦賀に注目する。


 背中越しに、大型端末の画面が見えていた。


『権限変更通知』

『非常時措置 : 中枢アクセス権付与』

『対象 : Sランク1位』


 ちらりと見えたその表示の意味を、負けたばかりの瞬は、深く考えられなかった。


「……こんなにも差があるものなのか」


 再び瞬は肩を落とした。

 それに浦賀が震えながら振り向き、呟いた。


「……もう、権限を持ったSランクですから……」


 ……そんな瞬に、ピリオドは背中だけを見せる。

 ピリオドは個人端末を開き、何かを確認した。


 そして、今度は腰の辺りからスキットルを出して、それをあおった。


 そして、そのまま撤収した。


「――お疲れ様でした。またの来訪、お待ちしております」


 受け付けロボットが冷たく見送った。


 3人でビルを出た。

 浦賀は、非常時対応が終わったため、現地で解散となり、ここにはいない。


 浦賀と別れても、誰も口を開かなかった。


「……でも、ほら、模擬戦だし。相手はマジで企業のエースだよ」


 座愛がなだめる。

 電子もそれに続く。


「そうですよ。敵として対峙することはまずありません」


「……わかってるさ。でも、自分が最強でありたいのが男の“さが”ってやつなんだよ」


 その時、雨が降ってきた。


「雨なんて、珍しい」


 誰もすぐには傘を出さない。


 ――雨音だけが、3人の間を埋めていた。

読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったら、次話も読んでいただけると嬉しいです。

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