第9話 届いた一手と絶対的な差
企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。
テンポと引きを重視して書いています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
「――電子、それがSランク1位だという根拠は?」
瞬が電子に尋ねた。
「簡単に言うと、警備が甘いんです。Sランク立ち合いのわりに」
「普通なら封鎖だけじゃ済みません。警備ももっと付くはずです」
電子が説明を続ける。
「だから、警護が必要ない。イコール自身が最高戦力だから、じゃないかと思いまして…」
電子が端末に何か入力しながら推理を披露した。
「冴えてるな電子。本人があの強さなら警護なんか必要ない。そういうわけか」
「はい。少なくとも、企業最高戦力クラスです。…私は、Sランク1位本人だと思っています」
「瞬、自分が最強でありたいって言ってましたよね?…だから」
「そう。それが男ってやつ。それに、傭兵として稼ぐには、俺はもっと上を目指さなきゃならない」
瞬が刀を少し強く握り、金具がカチャリと鳴った。
「…行くのか、また」
それを、座愛が覚悟を送る目で見つめ返した。
「行くさ。負けたまま終われない」
その時、アンビュランスが来た。
――この都市の救急隊と、パトロール、治安調整部隊と回収班が到着した。
アンビュランスは江田を、回収班は倒れた外敵をそれぞれ車に乗せ、パトロールは現場を封鎖した。
「じゃあな江田、死ぬなよ」
江田は、親指を上げた。
「お前さんこそな」
かなり元気そうだった。
パトロールが瞬に寄ってくる。
事情聴取だ。
「任務中だ。企業傭兵権限によって、この手順を後に回させてもらう」
それを聞いたパトロールは瞬の端末のIDを確認して、すぐに下がった。
「電子、改めて任務の詳細を」
「はい。外敵襲撃増加を受けての、即戦力の選定、または強化を目的とした特別適正審査。立ち合いはSランクです」
「場所は、第2地区の解体予定の立体駐車場です」
「立体駐車場か…車が使えるなら、まだ手はある」
瞬が頭に軽く指を添えながらそう言った。
「この前話してたあれ、マジでやるの?ピリオド相手に通用するとは思えない」
それに座愛が少し呆れた様子でツッコンできた。
「自分が最強だと慢心してたら、掛かるかもしれない。電子、アパートに戻ったらS3500にウインチを取り付けてくれ」
そう指示する瞬に、あいが名乗り出た。
「その作業、私がやります!」
瞬は少し驚いたが、すぐに笑って頼んだ。
「かなり急ぎの作業になるが、大丈夫か?…ピリオドもそんなに待ってはくれないだろうし」
これにあいは答えた。
「問題ないよ!」
「…よし、それじゃ、電子は引き続きログを調べててくれ。一旦アパートに帰ろう」
――アパートに帰ると、すぐに瞬は刀を抜いた。
「瞬。どうしたの?」
刀を心配そうに眺める瞬を見て、座愛が声をかけた。
「なんでもない。ただ、嫌な予感がしただけだ」
瞬が何事もなかったかのように刀を鞘に戻す。
――少しして。
「ウインチの取り付け、完了しました!」
あいの可愛い顔と手がオイルで汚れている。
「ありがとうあい。良い出来だ!」
「私、役に立てましたか?」
あいが少し悲しそうに瞬に尋ねる。
「…あのな。仲間だろ。役に立つ立たないの話じゃない」
その言葉に、あいは少だけ笑った。
…けれど、その表情は長くは続かなかった。
そんなやり取りをしていると、電子が慌てた様子でやってきた。
「瞬!この特別適正審査ですが…」
「どうした?」
電子が続けた。
「ログを見てたら変化がありました!先に2人入ってます。Aランク4位と、Sランク17位です」
「しかも、どちらも敗北扱いなのに審査枠が閉じていません。つまり、ホスト側が連戦で勝ち続けてる」
電子は腕の端末と瞬を交互に見ている。
「そんなことができるのは…やっぱりピリオドですよ」
「マジかよ…そんな高ランク相手に連戦で勝てるって、ピリオドしかいないな」
座愛が即座に反応した。
「ああ、急ごう」
4人で車に乗り込む。
「…ねぇ、これで勝って、瞬がSランクになったら通り名みたいなの付くんだよね?」
「ああ、Sランクには大体付いてるよな。黒乃虚空には“ピリオド”、小幡王には“破壊王”…」
「今のうちに考えようよ。“瞬・ザ・スピード”とか」
座愛が楽しそうに提案しているところへ、電子やあいも入ってくる。
「“電撃の瞬”とかの方がカッコいいですよ」
それに瞬が答える。
「どっちにしろ、まず勝たないと始まらねぇけどな」
――そんな会話をしていると、会場である第2地区の解体予定の立体駐車場に着いた。
解体前の立体駐車場は、所々コンクリが剥がれ、廃車寸前の車が乱雑に並んでいた。
天井の照明は半分死んでいて、赤い警告灯だけが屋上を照らしている。
そんな現場は、電子の言うように、警備ロボットが数体いるだけだった。
「立ち入りにはトークンを提示してください」
「現在、立ち入りは制限されています」
ロボットは定型文を繰り返す。
「ほら、これでいいだろ」
瞬がIDとトークンを提示する。
右ハンドルの車で、左手の端末を確認する。
少し無理な体勢になる。
「このまま屋上まで進んでください。ご健闘を」
それを聞いた瞬が呟く。
「やはり屋上…よし、読みは当たってる」
車に乗ったまま、屋上へと進む。
螺旋をドリフト気味で勢いよく登るので、あいが少し酔いそうになる。
口元を抑える。
それをバックミラーで見て、瞬はアクセルを緩めた。
ゆっくりと登る。
ゆっくりと登った先に、彼はいた。
サイレンの赤に囲まれ、硝煙の匂いと薄い煙の向こうに、外骨格アーマーの男が座っていた。
首にはドッグタグ、目元まで覆うヘルメット。
Sランク1位。ピリオドだ。
「やっぱり…」
先に審査を受けていたであろうランカーが2人、倒れている。
「今日の最後は件のサムライか。面白くなりそうだ」
ピリオドが本物の酒を、瓶のまま口をつけて飲み干して、捨てる。
それに対して、瞬は自販機を叩いてコーラを出して…一口飲んだ。
「戦いの前はコーラだろ!酒は判断力が鈍る!逆にコーラは鋭くなる!」
「レヴ・コーラ!翼が生える!」
瞬が刀を向ける。
ピリオドが唸る。
「…お子様だな」
「ルールを説明する。前回と同じく、簡単だ。1、無力化。2、または明らかな状況の構築、で終了だ」
ピリオドがゆっくりと立ち上がる。
それに対して、瞬が言い放つ。
「その3、俺がお前を倒して大金星」
「…では、始めよう」
ピリオドは当たり前のように、ふわりと宙に浮く。
「そこらじゅうにある車は、廃車予定の遮蔽物だ。自由に使うがいい」
そう言うと、また、ピリオドの両脇辺りの何もないところから銃の連射が始まる。
「…はぁ…はぁ、相変わらず、意味不明な力だな」
瞬が、弾を斬りながら息を切らす。
弾を斬るたび、刀の芯がわずかに軋むような嫌な感触が手に残った。
「貴様もだ」
それに、余裕げにピリオドが答える。
それを見た瞬が、遮蔽物から身を出す。
そして、自分の車、S3500のボンネットに飛び乗る。
その時、何かを取り出した。
「そうやって、人を人と思わない態度、今日で終わりだ!」
「電子!今だ!」
「了解!」
電子が叫び返した。
すると、S3500のボンネットが沈み込む…いや、車体全体が沈んでいる。
「乗り心地を確保するためのハイドロリック自動サスペンション機能…オーバーライドすると、こんなことができる!」
瞬が踏み込むと同時に、車が跳ねた。
瞬の踏み込みに、油圧バネの跳ねが乗る。
上空のピリオドが、一瞬だけ近づいた。
「頼んだぞ…ここまでは予定通り」
傍で見ている座愛が願いを込めた。
そして、ピリオドの体に――届かない。
だが、左手で何かをピリオドの脚に走らせた。
「車のサスペンションを使うか…なるほど。ただ、そんなのは浅知恵だ」
ピリオドは紙一重、瞬の飛び込み刺突をかわす。
「…届かない」
「いや、届いたさ。…あい!今だ!ウインチを巻き上げろ!」
「はい!」
その瞬間、ピリオドの体のバランスが崩れ、車の方に引き込まれる。
初めて、ピリオドの体勢が乱れた。
「まさか…ピアノ線か。剣撃すると見せかけて、私の体のどこかに引っ掛けた…」
「…御名答。その派手なアーマーの脚に引っ掛けた。まず見えないだろ」
ピリオドと瞬が地面に叩きつけられる。
「はぁ…はぁ…なんのモッドモジュールか知らないが、浮いてるってことは、ワイヤーで巻き取ってしまえば浮くこともできないだろ!」
瞬がピリオドを斬りつける。
何度も何度も。
すると、ピリオドの外骨格アーマーにも切り傷がついた。
攻撃が…通る。
「お前の天下も終わりだ!慢心したな!」
その切り傷に、瞬が何度も斬撃を繰り返す。
徐々にアーマーが削れていく。
「…面白い」
ピリオドが初めて口元を大きく動かした。
――その時だった。
車の前方に取り付けられていたウインチの固定金具が、悲鳴のような音を立てて千切れた。
「…っ!」
あいが、口元を抑える。
当然、ピリオドは立ち上がる。
外れたウインチを引きずったまま、また上空にふわりと浮く。
「…その刀捌き。常識外れの閃き。素晴らしい。実に面白い。」
「貴様は使える。私の直属に置いてやる。」
「それは名誉だ。断る理由は無いはずだ」
ピリオドがそう言うと、瞬は聞き返す。
「…俺が救うはずの第6地区の人はどうなる?」
それにピリオドが答える。
「弱きものは切り捨てるまで。この都市は新たなる理想郷へと生まれ変わる」
そう答えたピリオドに、瞬が即答を突き返す。
「なら…ダメだ!」
「…残念だ」
ピリオドが何もないところから実弾を連射する。
連射。
連射。
連射。
何もないところに、空の薬莢が積み上がる。
「さあ、斬らねば死ぬ。斬ってみせろ!」
瞬が刀を斜めに構え、フラッシュを最大出力にする。
いつものように、超人の反射神経で弾丸を斬る。
…だが最後の弾を切った瞬間。
キーン…。
金属が離れる、嫌な音。
――刀が折れた。
「…酒呑が!」
瞬が折れた刀を見つめた。
「瞬!もういい!そいつは私がやる!!」
それを見ていた座愛が、堪らず、蜘蛛脚を展開して、銃を掃射する。
ダン、ダン、ダン、ダン!
重い爆発音。
ピリオドへ向かう。
「なるほど。50口径弾か。このアーマーでも受け続けるのは危険だ」
そう言うと、ピリオドは手を空中にかざす。
その瞬間、座愛の重い銃弾も、ピリオドの手前の空中で弾け飛んだ。
何もないはずの場所に、一瞬だけ鈍い火花が走る。
弾道が、不自然に砕ける。
砕けた弾が落ちる。
「な…バカな!?途中で落ちた!?本当に超能力者かよ!?」
そして、すぐにピリオドの、“何もない銃”が火を吹き、座愛の顔のすぐ横の壁に穴を開けた。
「――状況終了。状況判断から、勝者 : Sランク1位、ピリオド」
さっきの警備ロボットが来ていた。
状況を無慈悲に読み上げる。
「また…負けた…しかも、酒呑まで…」
瞬が膝をついて、月の影を落としている。
傍には、折れた刀。
折れた刀身に月の光が鈍く映る。
手の中が、異様に軽かった。
「…サムライ、実に良い戦いだった。そんな刀ではなく、然るべき銃を手にして、私の元へ来い」
「…いつでも歓迎してやろう」
――ピリオドが背中を見せ、酒を飲み干し、撤退した。
読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、次話も読んでいただけると嬉しいです。
感想・ブックマーク・評価、とても励みになります。
次回更新は土曜日19:20を予定しております。




