第10話 癒やしの温度と迫る異変
企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。
テンポと引きを重視して書いています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
「――状況は終了しました。ここは一旦封鎖されます。退去してください」
受け付けロボットが定型文を繰り返す。
瞬が折れた刀を握ったまま、呆然と立ち尽くしていた。
折れた先の部分は地面に横たわり、ビルの企業広告の画面を反射して、カラフルに次々と色を変えた。
その時、あいが瞬の元に走ってくる。
まるで体当たりのような勢いでその胸にうずくまり、そのまま泣きじゃくった。
「どうしたんだよ、あい」
瞬がハッと我に帰った。
「だって…私のせいで…刀が!!」
瞬が持っている折れた刀――酒呑に、あいの涙が落ちる。
それが刃を伝い、地面にこぼれた。
「金具が違うかなって思うところはあったの!でも…付くから大丈夫だと思って!!」
「急がないとって思って…私、確認を飛ばしたの!」
「…あいは良くやったよ。酒呑が折れたのは、俺のせいだ」
あいが声を上げ、咽び泣いた。
…あいは、瞬にとっての刀がどういうものか知っている。
瞬は、空いている方の手であいの頭を撫でた。
――4人はアパートに戻った。
車の中で、誰も口を開こうとしなかった。
アパートに着くと、電子が重い空気を裂いた。
「…ここから上に行くなら、情報が要ります」
「企業や回収班のログ、電子が洗います!」
電子が個人端末を弄りながら続ける。
「ここからは部屋の固定端末“フォースマン”を使うので、何か掴んだら呼びます」
「次は情報で殴るってわけか」
座愛がそれに答えた。
「Sランカーの強さの秘密とか、新しい刀の情報とか、何か拾えるかもしれません」
「それが掴めれば、瞬もまだ強くなれます」
そう続ける電子に、瞬は答えた。
「…今より強く?…どうせ俺はこれ以上モッドモジュールを入れられない」
「もう、今のまま金が稼げるならそれでいい気もしてきた」
その声は、どこか投げやりだった。
「でも瞬、仮にSランクにランクアップしたら、同じ仕事でもランクボーナスが付きます」
「そうなれば、第6地区の救済に近付きます」
瞬はそこで、ようやく目を上げた。
そして電子が続ける。
ソファーから立ち上がった。
「勝つにも情報が要ります。情報は、立派な武器です!」
電子は拳を握りしめ、1人で熱くなっていた。
「…」
電子が部屋に戻るため立ち去ろうとした時、座愛が顔を少し隠しながら言った。
「…瞬、ちょっと屋上に行かない?」
「ああ、別に構わんが」
この瞬間、電子とあいは揃って顔を赤くし、何も言わずに引っ込んだ。
瞬と座愛の2人でエレベーターに乗り、屋上へ行く。
屋上に出ると、窓から見る景色とはまた違う、都心部の摩天楼が遠目に輝いていた。
アパートの屋上に照明は少ないが、その摩天楼の光で夜でも明るい。
「…刀、折れちゃったんだね……」
「…ああ、俺の未熟だ」
「…瞬は、なんで銃を使わないの?」
「…聞きたいか?」
瞬がボロボロの手を差し出した。
傷跡があり、所々で変色している。
顔の綺麗さとは真逆の汚れ方。
「これは昔、銃を使ってた頃の傷だ」
「…ある日、一般市民に暴力を振るってるギャングを、改造した銃で撃ってたら、その銃が手の中で暴発した」
瞬の手は震えている。
「そして、手にこの怪我と大火傷を負った」
瞬が続ける。
座愛は真剣な顔で聞いていた。
「そのギャングは倒せた。でも、それ以来、銃が怖くて撃てなくなった」
「それでも、スラムで生きるには武器が要る。だから、刀を覚えた」
「…銃は、もう忘れた」
差し出した瞬の手が激しく震え出す。
昔の痛みが、そのまま戻ってきたみたいだった。
その手を、座愛が優しく握り返した。
「…頑張ったんだね。綺麗な手だよ」
「…ねぇ、私と一緒なら、今でも銃…撃てるんじゃない?」
そう言うと、座愛が愛銃の“スプラッターキャノン”を取り出し、瞬の手に置いた。
…そのまま、座愛は瞬を後ろから抱くようにして、手を添えながら構え方から教えた。
「…両手でしっかり持って、照門は効き目で覗いて、そう」
座愛が手を添える。
瞬がブルブルと震える。
暴発の恐怖で目を閉じてしまった。
「…今日は本当に撃たなくてはいいから、しっかり、構えてみて」
座愛の柔らかい胸が、瞬の背中に押しつけられる。
…皮膚アーマー越しに、鼓動が伝わる。
「…分かる?すごくドキドキしてる」
「…ああ、わかる」
「…銃のこと、刀のこと、話してくれてありがとう」
「…私、瞬のこと、もっと知りたい」
瞬が向き直る。
銃を座愛に返す。
座愛が銃をセーフティーにしてバッグに仕舞う。
束になった弾帯が一瞬邪魔をするが、押し込んだ。
すると、座愛が肩を狭めて瞬の胸にうずくまるように入り込んでくる。
「…あいのやつ、さっきはズルい。ここは、私の場所」
…瞬が、そんな座愛を強く抱きしめた。
――夜が明けた。
ロビーにはあいがいた。
そこに、瞬と座愛が一緒に降りてきた。
「あっ…」
あいが顔を背けた。
顔がまた赤い。
「…人工コーヒー淹れますね。それと、サンドイッチでも」
「よかった。あいの人工コーヒーが楽しみだったんだ。うんと甘く、冷たくしてくれよ」
瞬があいに甘いコーヒーを頼む。
それに対して、座愛が言う。
「まーたそれかよ。あい、私のはブラックで、熱いままね」
「はい!」
瞬は人工コーヒーのことより、元気そうなあいの顔に少し安心していた。
…人工コーヒーとサンドイッチができた。
「うまっ!人工でもやっぱり淹れたては違うな!!それに、このサンドイッチ…絶品だぞ!」
「コーヒーの方はそんなに甘くしたら美味いもどうもないでしょ…」
「でも、本当にどっちも美味しい。あい、ありがとう」
2人が軽い朝食を摂り終えたタイミングで、瞬の端末から通知音。
「電子から通信だ」
左手に埋め込まれた端末を開き、画面を確認すると、おかっぱ頭が上目遣いのアップで映っていた。
「瞬!昨夜、一晩中ログを集めてたんですが、いくつか奇妙なものを見つけました!」
「説明するより見てもらったほうが早いかもしれません。電子の部屋に来てください!」
電子は、企業や回収班が残す、隠しきれない断片を集めるのが得意だ。
そして、3人はエレベーターに乗り、電子の部屋に行く。
電子の部屋に入った。
大量の電源タップに線がつながり、それを辿った先にある巨大な端末の画面の青白い光が、暗い部屋を照らしていた。
大量の線。
大量のモニター。
大量の人工イチゴミルク…。
そして、飲みかけのカップが何本も転がっていた。
「いくつか気になるものを見つけたんです。見てください」
瞬、座愛、あいの3人で、電子の巨大ハイパワー端末フォースマンの画面を覗き込む。
『都市外郭倉庫 : 搬入予約(重量区分 特大)』
『封印 : 解除待機(非常時のみ)』
『鎮圧ユニット : 自己診断(待機)』
「鎮圧ユニット?」
瞬が眉をひそめる。
そんな瞬に、電子は更に、見つけたログを見せる。
『契約処理 : 再署名』
『対象 : 全契約(統合運用)』
『強制適用 : 準備中』
『放送 : 緊急時放送チャンネル』
「…再署名って、どういうことだ?」
「これ、契約を結び直すって言うより…縛り直す処理に見えます」
電子が説明し始めた。
「ただの戦闘準備には見えません」
「街そのものに何かするつもり…そう考えた方が自然です」
電子が1つのフォルダをクリックすると、ポップアップが出てきた。
「ただ、外敵の増加への最終手段って線もあります」
「ユニットを投入しての鎮圧、そのための非常時権限移譲、放送での避難誘導」
「今の断片だけだと、まだそこまでしか言えません」
――鎮圧ユニット。
――再署名。
――緊急時放送。
意味はまだ掴めない。
けれど、嫌な匂いだけははっきりしていた。
「――なんか、嫌な予感しかしねぇな」
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次回更新は日曜19:20を予定しております。




