第11話 粉に潜む罠と逆転の一斉掃射
企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。
テンポと引きを重視して書いています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
「――ぱぁん!……ふっ、私の敵じゃないな」
あいが、売り物のハンドガンで遊んでいる。
ここは武器屋。
だが、売り物の銃には弾は入ってない。
誤射の心配はなかった。
「あい、それは売り物ですよ!それに、オモチャじゃありません!」
電子がそれを、恥ずかしそうに止めようとしている。
「わかってるけど、ついやっちゃうじゃん」
あいはまだはしゃいでいる。
そこへ、座愛が入ってくる。
「セミオートの小型ピストルなんて、この都市じゃ護身用品にもならないよ」
「ほら、撃つならせめてこれ。EE44。大口径のハンドガンだよ」
「お、おう…」
座愛の本気のアドバイスにあいが少し引く。
「そして、銃はこうやって両手をしっかり添えて、効き手でトリガーを持って、効き目で照準器を覗くんだ。そう」
撃ち方の次はリロードを教えた。
「アサルトライフルの弾倉の交換は、そこを引っ張って…そうそう。最後にこのレバーを引けば、発射可能。今は弾が入ってないけど」
この前、瞬に教えた時のように、座愛はあいの後ろに周り、手を添えて銃の扱いを教えた。
そうしてる間に、瞬が店主と話していた。
「…高炭素鋼ベースだ。焼きも悪くない」
「確かに切れ味は劣るかもしれないが、鉄を斬れる剣でも斬れない“頑丈さだけ”はある…つなぎには十分だろ」
店主はそう言うが、瞬はどこか不満げだった。
そんな瞬が鞘からゆっくりと刀を抜く。
鈍い光、響かない音。
「悪くはないが、酒呑の代わりにはならないな」
「…今は、この辺が及第点か」
――少し前。
「何にしても、刀が無いと始まらない」
瞬がコーラを飲みながら言い出す。
腰には、いつも差してある刀がない。
「武器屋を巡ろう。電子、この辺に日本刀も扱ってる武器屋はあるか?」
そう言われた電子が素早く端末を起動して入力をした。
「…3軒ヒットしました。というか、瞬、それくらい自分の端末で調べてください」
早い。
しかも、言ってることももっともだった。
調べ物となると、つい電子を頼る癖がついていた。
「…俺が自分の端末に“日本刀”“取り扱い”と文字入力するより、電子が調べる方が、頼むの込みでも3秒は早いだろ」
「3秒あれば、コーラを一口飲んで、スカッとできるんだよ」
瞬が意味不明な持論を展開し始めた。
「瞬、もしかして、刀抜いてないとアホになる?」
「…アホとはなんだアホとは」
瞬が、本当に軽く、タッチするように座愛の頭を小突く。
それを見た電子とあいは顔を見合わせた。
(これが、夫婦漫才ってやつ…?)
「…とりあえず、武器屋なら行ってみたいです!」
おさげが弾んだ。
…あいが嬉しそうにはしゃいだ。
――そして、現在。
「…悪くはないから、これで一旦我慢しよう。店主、これをもらう」
「はいよ」
瞬がそのまま、マネーを送信する。
日本刀は希少だ。
値は張ったが、ひとまずの刀は確保できた。
電子は嬉しそうに笑い、端末を確認した。
「…それはそれとして、依頼が入っています」
あいの銃撃ごっこを受けていた電子は、すでに依頼を持っていた。
あいはリロードが得意になっていた。
「今入ってる依頼は、配給車列の護衛です。市民権で配給される、無料の食料品や医療品の護衛ですね」
…この企業都市・ヒートシンクでは、登録市民に最低限の食料品と医療品が配給される。
だが、市民登録そのものに金がいる。
その金すら払えない連中が、第6地区のスラムに溜まっていた。
「俺にもやっとそういうカッコいい依頼が来るようになったか」
「俺に来るのは、何故かいつも湿っぽい討伐依頼ばかりだ」
それに座愛が答える。
「だから、瞬の刀と閃きは暗殺向きで、逆に護衛には向いてないと踏まれてるんだよ」
瞬は少しだけ肩を落とし、自分の端末を確認した。
『配給車列護衛』
『報酬 : 固定50万Vicks(平常)、+Aランクボーナス、有事の際、出来高』
『時間 : 7月7日 10:00』
「何事もなくても、刀代にはなるな。受けるか」
――こうして、瞬は依頼を受けた。
『>はい』
――しばらくして。
「Aランク3位が護衛なんて、頼もしいです!」
車列のリーダーらしき男が興奮していた。
「最近はどこも外敵騒ぎで、配給も恐る恐るです。Aランクが護衛してくれるなら、安心できます」
「ああ、安心しろ。もし、外敵が襲ってきても守ってやる」
リーダーは興奮気味だが、助手席の副リーダーは不満げだった。
「…ピリオドじゃないのかよ」
それに、リーダーは答える。
「…ピリオドは非常事態レベルでないと動かない。こんなところの護衛なんかに来るわけがない」
こうして、先頭の配給車列のトラックの後部座席に4人が座る。
両ドア側に瞬と座愛、真ん中にあいと電子が座った。
「あい、またそこ。ズルい…」
座愛がその席順に文句を言うが、これは任務。
荷台には、水や医療品に混じって、「精製小麦粉」と印字された白い袋も山のように積まれていた。
「…荷崩れだけは勘弁してくれよ」
荷物が多いせいか、車列のリーダーは何度も振り返っていた。
「…なあ、瞬がSランカーになった時の通り名だけど、“殲滅の瞬”とかはどう?」
座愛が急に切り出した。
「カッコいいが、なんか残酷だな。そこまで惨いことはやってない」
「…いや、殲滅してるだろ」
――しばらく時間が経った。
目的地である配給センターまで来たが、何も起こらない。
…その時だった。
治安調整部隊“パトロール”の車が突然、車列の前を塞ぐ。
屋根に「停止してください」のホログラム。
「瞬、これって…」
「…ああ、だがまだ断定はできない。本物かもしれない」
外敵はいつも、パトロールを装って現れる。
だからと言って、見ただけで撃つわけにもいかない。
本物なら終わりだ。
「最近、外敵の襲撃が多い。この配給車も、既に敵が乗っ取っている可能性も排除できない」
「運転手のIDを確認させてもらう」
パトロールのその言葉に、一瞬安堵が流れる。
「はい、どうぞ。正規の運転手です」
運転手は端末にコードを表示し、パトロールがそれを読み取る。
「…企業都市ヒートシンクの住人と確認。作戦開始」
パァン!パァン!
乾いた音が2発。
外敵だ。
運転手は胸に大口径のハンドガンの弾2発受けた。
アーマーから煙が出て、衝撃で助手席の方まで倒れ込む。
「おい!大丈夫か!」
瞬が運転手に後ろから尋ねる。
他の3人も同じように、心配そうに運転席を覗き込む。
「…ああ、防弾チョッキと皮膚アーマーのおかげで死にはしないが…襲撃です。Aランク。頼みました」
「こちらも作戦開始だ!行くぞ!迎え撃つ!」
トラックを降りると同時に、銃撃してきた1人の腹を刺突。
1人目は即・無力化された。
座愛もトラックを降りる。
辺りにサイレンが鳴り響き、さっきまでノリノリで商品を紹介していた企業広告のバナーが「緊急」「避難」の文字に変わる。
人々が軽いパニックになり、四方八方に走り始める。
緊急時避難退路を示すインディケーターに従っていない。
「電子が避難誘導します!」
その状況を見ていた電子がたまらず叫ぶ。
トラックを降りる。
「…わ、私も!」
それに乗るように、あいも避難誘導へ名乗り出る。
「おい、大丈夫か!?」
瞬と座愛が、電子とあいを心配する。
「大丈夫じゃないかもしれないけど、市民の安全が最優先!」
そこに、座愛が予備の銃を投げて寄越す。
「さっきと同じEE44だ!使い方は教えただろ!いざとなったら使え!」
「うん!」
あいが、初めて実戦で銃を手にした。
両手で握り締めて、震えている。
――敵がパトロールの車から降りてくる。
最初に攻撃してきた1人目の敵は、瞬が既に刺突で無力化している。
だが、瞬には違和感が走っていた。
「…切れ味がついてこない気がする!」
手に馴染まないわけではない。
だが、酒呑ほどの一体感はない。
その予感はすぐに現実のものとなった。
敵がアサルトライフルを連射する。
瞬がいつものようにフラッシュで超反応し、弾道に刀をかざす。
火花が散る。
同時に、弾丸が割れる。
…だが。
「…弾丸を斬った時の衝撃がデカい!…手が!」
切れ味が足りない。
弾丸を斬った時の余計な衝撃が、そのまま手に返ってくる。
酒呑では起きなかったことだ。
その衝撃のせいで手が痛み、いつもの踏み込みからの刺突が遅れる。
そして…。
「まずい!」
瞬が見つめる先には、ショットガン。
「座愛、頼む!」
「わかった!」
瞬は、自分の弱点であるショットガンを持った敵を座愛に処理させる。
蜘蛛脚が展開され、重い連射音が辺りにこだまする。
ショットガンを持った敵は、50口径弾の前には紙のように踊り、武器を手放して崩れ落ちた。
「助かったよ座愛!」
…次の敵に備えて足に力を溜める。
そして、踏み込み中に敵の銃が放たれるのが見えた。
間一髪。
フラッシュで反応し、横へのステップで避ける。
頬をかすめたので、血が出る。
しかし、刺突一閃。
2人目の敵の腹を刺す。
その2人目を刺したまま、瞬が振り返る。
刀は抜かない。
貫通している。
2人目をそのまま盾にした。
そこへ集中砲火。
2人目の体から、皮膚アーマーと弾丸がぶつかって出る破片と火花が連発して放たれる。
そのまま、2人目から貫通して飛び出した刀の部分を使い、3人目も刺す。
2人を刺した状態。
「座愛、こっちに援護を!」
「了解!」
座愛が銃を放つ。
ダン、ダン、ダン、ダン、ダン!
鈍い連射が敵を捉えた。
4人目から6人目は反動で動けないまま、座愛のスプラッターキャノンの餌食になった。
終わった。
――しかし、現実はそう簡単じゃない。
「ですよねー」
座愛の視線の先に、新たに到着したパトロールの車がそれぞれ7台。
うち、正面から来た3台は本物、裏から来た4台が外敵だった。
瞬と座愛が、正規のパトロールの正面を押さえる。
そこに、避難誘導を終えた電子とあい。
市民はまだ列を作って逃げていた。
向かい側に、敵が24人。
「くそっ、状況が悪すぎる!」
瞬がフラッシュで弾を捌きながら叫んだ。
手には重い衝撃。
パトロールの車の防弾壁に、割れた弾が次々と刺さる。
だが、あるものが見えた。
「はぁ…はぁ…今日積んでた白い袋…やっぱり小麦粉か?」
座愛が頭を低くしながら返す。
「ああ、そうだな!そうらしい!」
「それに、今日はほぼ無風…配給センターもすぐそこ…」
――はっ!
「閃いた!」
何か閃いた瞬に対して座愛が言う。
「小麦粉を全部破いてばら撒いて、“粉塵爆発”でもさせて一掃ってところ!?」
「残念、それじゃ護衛任務としては失敗だし、何より民間被害が出る!」
「…」
小麦粉は危険だ。
空気中に舞ったところへ火が入れば、爆発的に燃える。
いわゆる粉塵爆発だ。
「全員、俺の端末を見ろ!」
瞬が端末に何かを入力して、後ろにいる味方に見せる。
『(!)強力フラッシュグレネード使用。目と耳を塞げ。そして、炸裂したらすぐに…(!)』
瞬がそれを見せると全員が頷いた。
そして、瞬はバッグから何か取り出した。
「…闇市で買った、規格外の手製の超強力フラッシュグレネード…ここで使う!」
「軍用バイザーでも無効化できない!」
それのスイッチを入れ、敵の足元に転がす。
そして、炸裂。
爆光と高音が敵の目と耳を一時的に潰す。
――何も見えない、何も聞こえない。
しかし、それも一時的。
敵の視力と聴力が回復してくると、耳鳴り共に見えてきた辺りは、数メートル先も見えないほど粉だらけだった。
敵の足元には“精製小麦粉”と書かれた袋が何袋か破れて捨てられている。
「…敵は配給物資を利用した。袋の表記は精製小麦粉、運搬データとも一致する。全員、粉塵爆発に注意し、火気厳禁。銃を捨て、近接戦に移行せよ」
「敵のリーダーはサムライだ。銃火器を封じて近接戦に持ち込むのが狙いと思われる」
敵が一斉に銃を捨てた。
あるいはセーフティーにする。
ナイフや警棒に持ち替えた。
瞬たちはその音と声を聞き逃さなかった。
「よし!敵は策に嵌った!全員、粉の中に飛び込んで一斉掃射だ!!」
銃を持った味方全員が粉の中に飛び込み、うっすら確認できる敵に一斉掃射を浴びせる。
――あいだけはまだパトロールの車の後ろに隠れている。
ハンドガンの聞き慣れた音。
アサルトライフルの軽い乾いた連射音。
スプラッターキャノンの重く湿った連射音。
全部が重なる。
死のオーケストラだ。
「…バカな…なぜあちらは銃を使っても粉塵爆発しない…」
敵が撃たれながらそう言うのも無理はない。
…瞬の指示はこうだ。
『(!)フラッシュグレネード使用。全員、耳と目を塞げ、そして、炸裂したら素早く消火器を撒け(!)』
舞っているこの粉の正体は消火器の粉。
消火器は配給センターから拝借した。
配給センターは粉物も扱う。
火気にはうるさく、消火器が多めに置かれている。
既に緊急事態のサイレンが鳴る中、敵の目と耳が生きてない間に静かに調達して、撒くのは容易い。
そして、敵の足元にあるのは、中身を撒かずにただ破いて捨てた小麦粉の袋が、何袋か置かれただけだった。
つまり、敵から見れば、全部が小麦粉の粉に見える。
粉塵爆発を警戒するのも当然だった。
だが、実際に舞っていた消火器の粉だ。
…消火器の粉は粉塵爆発を起こさない。
ナイフに持ち替えた敵、銃をしまった敵を、座愛たちは一方的に銃で圧倒する。
「さすがだな、瞬!刀を抜いてれば天才的だ!!」
ナイフや警棒に持ち替えた敵は、もう一方的に撃たれるだけだった。
「…やったぞ!あれだけの敵を、消火器と小麦粉の袋だけで倒した!」
「はぁ…はぁ…さすが…Aランク3位だ!」
パトロール隊員と車列のリーダーが喜んでいる。
――その時。
「こんなバカなことが…死ね!」
まだ動ける敵が1人だけいた。
起き上がって、銃を手にして、構える。
「危ない!」
――パァン!
…。
あいの銃口が煙を吐き、反動で真上を向いている。
そう、撃ったのはあいだ。
「バカな…」
――最後の敵も倒れた。
「あ、痛てて…あ、私…人を…!」
あいが取り乱しそうになる。
瞬が敵を確認しに行った。
刀を構えている。
片手に持ち替え、敵の脈を確認する。
「あい、大丈夫だ。ヘッドショットだが、骨格コートで止まってる、脳震盪だ」
その言葉で、あいの肩がようやく落ちた。
「…すごいな!あい!」
「あい!大手柄ですよ!」
あいは、座愛と電子にハグをされ、熱い祝福を受けた。
制圧が完了し、パトロールからその場で事情聴取を受ける。
その合間に端末を弄り、任務完了を送信していた。
「瞬!今回の功績と稼ぎは大きいですよ!」
電子がおかっぱ頭を揺らしながら小躍りしている。
そこに、おさげのあいも混ざり、手を繋いで踊る。
「あいのやつ、意外と才能あるんじゃないか?」
座愛は少し離れた場所からそれを見て、それから瞬のそばに来た。
「ああ、そうかもな。初実戦で頭を撃ち抜く軌道に持っていけるのは、まぐれでもそうそうないだろ」
「…教え方も上手かったんじゃないか?」
座愛がまた照れた。
だが、瞬にはまだ課題があった。
「今回も奇跡的にクリアしたが、刀が全然ついてこなかった」
「…市販品じゃダメだ。もっと良いやつが要る…」
――折れた酒呑の重さが、まだ手の中に残っていた。
読んでいただきありがとうございます。
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次回更新は月曜19:20、2話ずつを予定しております。




