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閃光の瞬  作者: KK9996
13/18

第12話 斬られた右手と逆転の短刀

企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。

テンポと引きを重視して書いています。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

“契約要項 : 独断による処刑、および契約外決闘を禁ずる。反復違反者は等級剥奪とし、回収対象となる”


「――ワン、ツー、ワンツースリーフォー!ココココケッコ!コケコッコー♫ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥン♫」


ロビーの固定端末から妙な動画が流れている。

ニワトリがテクノミュージックに合わせて、ノリノリで踊っている動画だ。


ロビーにいた全員が大爆笑だった。

流しているのは、あいだ。


「もういいから…止めてくれ。笑い死ぬ」


「どこで見つけてくるんですか、そういうの」


電子も笑いを堪えながらあいに尋ねる。


「動画投稿サイトだよ」


あいは楽しそうに答えた。


「ふふふっ…止めて。コーヒー吹き出して飲めない…ぷっ…」


座愛ももう限界そうだった。


「こういうの、都市中の画面で流したら面白そうじゃない?」

「敵も企業も、戦いをやめて大爆笑するかもしれない」


あいはそう言うが、瞬が答える。


「ははははっ…。こんなの公共の場で流したら、“笑い死に”が続々と出て大惨事だ…」


「えー、面白そうなサプライズだと思ったんだけど」


不満そうに膨れっ面をするあいに、電子が答える。


「不可能ではありませんよ。緊急放送系統に割り込めば、流すことはできます」

「ただ、瞬の言う通り“危険”です。やりません。ぷっ…」


それを聞き、あいが残念そうに端末の動画を閉じた。


「これから先、俺が突然コーラを吹き出したら、“アレ”の後遺症だからな。突然思い出して笑いかねない…」


瞬が、やっと飲めるコーラにまだ口をつけない。

余韻で吹き出す自信があったからだ。


「んんっ…。それはそうと、瞬。新しい本物の刀が必要って言ってましたよね?」


電子が咳払いをして笑いを一旦落ち着かせる。


「…これに関して、ちょうどいい依頼が来ています」


そこでようやく、場の空気が切り替わった。


「契約違反を繰り返して回収対象となった元ランカーの無力化、確保です」


「それが、刀と何か関係があるのか?」


瞬がやっとコーラを飲みながら電子に聞く。


「回収対象は瞬と同じ剣士――サムライです。強いですよ。元Aランク1位、“日向疾風ひゅうがはやて”です」

「勝手な私刑や、契約外の決闘を繰り返し、ランクと権利剥奪。使用している刀も一級品かと」


電子は手元のデータを見ながら続けた。


「正規登録品なので、勝てば所有権も移るはずです」

「…噂では、Sランククラスの腕前ですが、なぜか昇級も断っていたとか」


だが、瞬の耳にはもう“剣士”という部分しか残っていなかった。


「今時、刀を使うランカーが俺以外にいたのか…強い剣士相手の戦いなら、あれが必要だ」


そう言うと、瞬はエレベーターで自分の部屋に戻り、何かを取りに行く。


「間合いが変わるかもしれない。短刀が必要だ。それと…」


瞬は短刀を腰に差した。

そして、自分の右腕を見ながら顔をしかめた。


「…できれば使いたくはないが、追い詰められたら、“これ”も必要になるかもしれない」


その“何か”を手に取り、バッグに入れようとするが、一瞬ためらった。

だが、覚悟を決めたのか、その“何か”をバッグに入れる。


ロビーに戻ると、腰には、代用の刀の他に短刀が1本。


「瞬…カッコいいけど、作戦は二刀流?」


座愛が銃を弄りながら尋ねた。


「同じ剣士なら、いつもと間合いが変わる。短刀も必要になることがある。だが、これは腹に隠しておく」


瞬が、短刀を腰から鞘ごと抜き、懐に突っ込んだ。


そして、電子が依頼項目にあった潜伏先を伝える。


「現在疑わしい潜伏先は都市の果て、第9地区の廃墟地域です」

「この辺りは、人もいないので、銃撃が起こってもセキュリティが起動しません」


「それなら安心してスプラッターキャノンが撃てるな。なんなら、私が仕留めてもいいよ」

「強い剣士と言っても、さすがに、瞬みたいに弾丸が効かないわけじゃないでしょ」


座愛が愛銃を軽く空中に投げてはキャッチしながら言った。


「よし、それも込みで作戦にしよう。全員、よければ車に乗るぞ。第9地区まで行く」


「うん!」


「はい!」


座愛、電子、あいが返事をした。


…4人で車に乗り込む。

走り出す。


夜だった。

下弦の月が、ヒートシンクの明かりと蒸気で揺れる。


雲が流れる。


風が気持ちいい夜なので、少し窓を開けて走る。


すると、各店先で流している曲が違うので、間を通る時に奇妙な不協和音になる。

それが企業のビル広告と重なり、余計にわけがわからない曲になって聞こえる。


そんな不協和音を、V10ハイブリッドの甲高いエンジン音で切り裂いていく。


ボンネットは、ステンレスシルバーだが、企業広告が反射し、広告が変わるたびに色が変わる。


そんな広告が終わり、ニュース番組が流れ始めた。


車のナビゲーションシステムにも同じ画面が流れている。


「先日9日に発生した、配給車列襲撃事件につきまして、続報が入りました」

「都市警備局は、回収された適性体について、“人造人間”である可能性が高いと発表しました」


ニュースが続ける。


「詳細な製造元は不明。調査中とのことですが、やはり外部勢力の関与が引き続き疑われています」


「…あれって人造人間だったのか」


「ああ、そうらしい。道理で、血の匂いが薄いし、動きが揃いすぎてるわけだ。…驚くことじゃない」


4人とも、そこまで驚きはしなかった。


「しかし、それなら、どこから入ってきてるんですかね…」

「都市入り口の一本橋のセキュリティを通過するなんて、並大抵のことじゃありませんよ」


電子の言う通りだった。


都市の外は深い堀で囲まれている。

出入り口は、一本橋だけだ。

見た目をパトロールに似せるだけならともかく、個人識別IDまで偽装するのは簡単じゃない。

それでもやつらは入ってきている。


――そうしてるうちに、第9地区に着いた。


「この辺りか」


瞬と座愛が車を降りる。

電子とあいは後衛なので、車を降りない。


「車は防弾仕様だから、窓を閉めてここにいろよ」


瞬が、車に残る電子とあいに声をかけた。


「荒廃してて、ハッキングできそうなアイテムもありませんが…」

「一応、通信は可能にしておきましょう。瞬、座愛、気をつけて」


瞬と座愛が歩き出す。


「ひどい匂いだね」


ここは完全に捨てられた土地。

行き場のないゴミなどもここに捨てられる。

廃棄されたビルに、投棄されたゴミ。

人の気配はない。

生き物の気配が、すっかり抜け落ちた場所だった。


そんな場所で、血の匂いがした。


「瞬、あれ」


座愛が銃を構えながら、その銃で指す。


そこには、倒れた巨体がいた。

分厚い防弾チョッキを着ているが、斬られている。

血を流している。

が、息はあった。


「…ひっ……サムライ…!」


巨体の男は、瞬の姿を見るなりに驚いた。


「落ち着け。確かにサムライだが、敵じゃない」


瞬がなだめると、男は息絶え絶えに話し始める。


「…確保の依頼で来た…だが、あのサムライは異常だ。…この特殊アーマーごと斬られた……強い」


「ああ、わかってる。俺も同じ依頼で来た。ほら、止血剤を塗ってやるから、おとなしくしてろ」


瞬が男に応急処置として止血剤を塗る。

傷に染みるのか、巨体が一瞬ピクリと動く。


「…このアーマーを斬るって、普通の刀じゃないな。瞬、近いぞ。気をつけろ」


座愛の声が少し揺れた。


ただ、男はまだ何か呟く。


「うぅっ……敵は、2人だ。…相方は銃を持ってる」


それを受けて、座愛はすでに立たせていた鳥肌を更に高くした。


「聞いたか、瞬」


「ああ、敵は2人。ターゲットは剣士、その味方が…銃使いか」


瞬が座愛に顔を寄せた。


「…銃のほうは――」


座愛が何か言おうとした時、銃声。


瞬が素早く刀を抜き、空中に置くように構えた。

すると、後ろの方で弾丸が2つ、ゴミの山に着弾する音。

弾は斬った。


銃声がした方向を見ると、撃ってきたのはスーツ姿の男。

その脇に、瞬と同じく着流しの剣士。

――今回のターゲット、“日向”だ。

だが、先に、スーツの男。


「日向さんをやらせはしない!」


男は声を張った。

対して、座愛が蜘蛛脚を展開しながら言う。


「瞬!このスーツは私に任せて。あんたは日向の方を!」


「わかった!」


瞬が刀をいつもの順手に持ち替えて、構え直しながら言った。


すると、日向の方は走り、廃棄されたビルに逃げるように飛び込む。


スーツの男はそのまま開けた場所にいる。


「刀は閉所、銃は開けた場所…定石通りだな」


瞬が1人で呟いた。

呟きながら追った。


スーツの男が瞬を狙う。


その瞬間、スプラッターキャノンの鈍い連射音が、スーツの男を捉えた。


ダン、ダン!

2発。


返ってきたのは、皮膚アーマーが弾を砕く独特の音。


「ちっ、.50も砕くのかよ」


座愛が舌打ちした。


「…闇クリニックでインストールした強化皮膚アーマーだ」

「人体への負荷が高いが…50口径でも軽く20発は耐える」


スーツの男が異様に大きいハンドガンを構えながら言った。


「なるほど、相手に取って不足はないな。名は?」


座愛がそう聞くと、スーツの男が答える。


「…じょう


「こっちは座愛。善名座愛!よろしく!」


――その瞬間、遠くで刀を抜く音が聞こえた。


閉所に来た日向は、刀を抜いて構える。

鋭い光、澄んだように響く音。


このビル内は、非常灯が生きていてやや薄明るい。


「相当な上物だな」


「ああ。我が日向家に伝わる家宝なり…いざ!」


日向が叫ぶとすぐ、飛びかかって斬撃を繰り出してきた。

斜めからくる読めない斬撃。

瞬はフラッシュを使い、超速で反応し、刀と刀がぶつかる。


キン!

火花が舞って消える。


「なるほど。腕は確か。だが、そちらの刀は凡庸…なにゆえか事情ありか」


「ああ、本物の刀は折れた!これは代用品だ!」


瞬が答えた。

答えると同時に、脚に力を入れ、爆発させる。

踏み込み――刺突。

いつもならこれで終わる。

だが…。


日向は読んでいる。

読んでいるというか、見ている。

しかも見ているのは切先ではない。

瞬の腰の浮き沈みだ。

その“腰の浮き沈み”から、どこに剣が来るか…見ている。


キン!


瞬の得意、刺突は脇へと逸らされた。

同時に襲ってくる感覚…。


「まずい!」


間一髪。

フラッシュを使い避けたが、完全に斬られたコース。


踏み込みとは逆の方向に力を入れ、後退して距離を取る。


しかし、日向はそれを逃さない。

常人離れした飛び込みで斜め上から刀を振り下ろしてくる…。


――銃声が聞こえる。


座愛が丈と向かい合って、銃弾を避け合い、緊張状態が続いている。


「硬い上に俊敏ときた」


座愛が少し呆れ気味に漏らした。


「ああ、いくら強化皮膚アーマーとはいえ、それを受け続けるのは危険だからな」


丈は銃を構えたまま答えた。


「ここは遮蔽物がない。そして、攻撃力はこっちが上、防御力はそっちが上」

「…で、条件はイーブンか」


座愛が冷静に分析した。

だが。


「…本当にイーブンか?」


丈が答えながら、背中から蒸気を出した。

その瞬間、聞き覚えのある機械音。


「なっ!?まさか…」


そう。

丈の背中から2本脚が出てきて、固定砲台化。

座愛と似た機構だ。

そして、反動を地面に預けることができるようになった丈が、異様に大きい銃を連射できるようになる。


パァン!パァン!パァン!パァン!


重い連射。

座愛と同じ、連続した爆発のような連射。


「ちっ」


座愛が蜘蛛脚の2本を前に出して、それを盾に弾を受ける。


そして、丈がリロードに入るタイミングで、蜘蛛脚を4本地面に刺し、連射。


しかし丈はそれを受け切る。

アーマーから破片と煙。

だが、貫通はしない。


「くそっ」


しかし、座愛にはあるものが見えていた。


「あのスタビライザー、私のと違って地面を噛まない。置くだけだ」

「だから引きずって歩ける。機動力も残してる」


そして、ある物があった。

丈の足元のゴミの山に、“高性能エンジンオイル”と書かれた缶。

まだ封がしてある。

開いてない。


――はっ。


座愛が閃いた。


「日向さんはこの都市の新しいトップになるお方!」

「お前ら如きに躓く器じゃない!」


そう言った丈に、座愛は銃を連射し、その最後の連射を撃ち損じる。

いや、外したフリをした。


「どうした女!お前の腕前はそんなものか!?」


丈が叫んだ。

叫ぶと同時に、リロードが終わり、連射。

座愛も自分の強力なアーマーで受ける。


その時、丈が足元の違和感に気づく。


「これは…オイルか」

「まさか…こんなものでスタビライザーを崩せるとでも?なんという浅知恵」


「ちっ」


座愛が舌打ちした。


丈はその大きな銃を撃っても、確かに倒れない。

座愛のアーマーから煙が飛ぶ。


「くっ…私のアーマー、どれだけ耐えられる?」

「…いや、耐えられるかじゃない。耐えるんだ!」


丈はそんな座愛をお構いなしに撃つ。

皮膚アーマーに当たり、弾丸が潰れて砕ける。


「打つ手無しで諦めたか!?」


「いや!違うね!見えた!」


丈が一瞬頭を傾げるが、構わず引き金を引く指に力を込める。

そして…銃口が火と光を放ち、弾が発射される。


その時。


ダン、ダン!


鈍い発射音。

2発。


「なっ……スタビライザーが!何をした!」


丈のバランスが崩れて、後ろに倒れた。

座愛も数発喰らって、撃たれた所から煙が出ている。


「簡単なことさ、撃つ瞬間にスタビライザーに“重さ”を預けるだろ?そこを狙って撃っただけ」

「同じスタビライザー使いだから弱点が分かるんだよ」


座愛は、丈が撃つところを何度も見ることで発射の瞬間を見極め、その瞬間に銃を叩き込んでスタビライザーのバランスを殺した。

撃つ瞬間だけ、重さは後ろに逃げる。

そこを叩けば、支えは簡単に崩れる。

そして…。


「くそっ、オイルで滑って立てない!」


スタビライザーが地面で滑る金属音が虚しく辺りに響く。

体勢を立て直すことは叶わない。


そこに、座愛が蜘蛛脚を進め接近する。

そして、最後に脚を地面に刺して固定し、スプラッターキャノンを連射する。


「な…そのままで動けるのか!?」


ダン、ダン、ダン、ダン…!


だが、丈の強化皮膚アーマーはその連射に耐える。

強化したスプラッターキャノンでも、オーバーヒート寸前まで撃ち続ける。


空の薬莢がその場に積もる。

皮膚アーマーで耐えてるとはいえ、丈は50口径弾の直撃の反動で立てない。


「なんて硬さだ!」


座愛がうろたえた。


「はぁ…はぁ…それがオーバーヒートした時がお前の負け時だ!勝ちを確信して接近してきたお前のミスだ!」


丈が連射を受けながら言った。


――だが。


「残念、私の銃のバレルは交換式になった。オーバーヒートしても交換すればまた撃てるんだな、これが」


座愛が、熱さに耐えながらバレルを外す。

耐熱性の高い皮膚アーマーを手にインストールしたとは言え、熱い。

熱による痛みで、座愛の可愛い顔が少し歪んだ。


そして、ポケットから素早く新しい銃身を取り出して取り付ける。


「…っ!思ったより熱い!」


それを見た丈は驚愕する。


「バカな!そんな技術、見たことがない!」


丈がこの隙に、急いで立ち上がりながら、銃を構え直して言った。


「――これが仲間の力。世間から逃げたあんたたちには分からないだろうね」


座愛のスプラッターキャノンが火を吹く。


連射。

連射。

連射。

丈のアーマーは、既に受けていた攻撃で穴が空く寸前。

そして、連射に次ぐ連射に耐えきれず、丈のアーマーが破られた。

破片が飛び散り、内部に達する。


「…じゃあね」


座愛の連射が、ついに破れたアーマーの隙間に入り込む。

丈の痩せた体が後ろに弾かれ、壁に叩きつけられた。


――刀が交わる音が聞こえる。


キン!


刃がまた重なる。

全て読まれている。


呼吸も重なる。

呼吸まで読んでいる。


二撃、三撃。

斬り方を変えても、日向は対応してくる。


ゼロ距離からの刺突も読まれる。

刀の先に刀を置かれ、刃が交わる音が出るだけ。

ただ、この繋ぎの刀も高性能。

折られはしない。


しかし、軌道を読まれる。

そこで、瞬は刀を“順手”から“逆手”に持ち替える。


瞬時に柄を返す。

刀の切先が逆になる。

これが逆手だ。


逆手での下からの刀の軌道…

しかし、これも読まれる。


「はぁ…はぁ…強いな」


「否。貴様が弱い…正確には剣か」


日向は息を切らさずに答えた。


逆手から順手に戻し、踏み込みの刺突をしようと下がる。

すると、それ以上の速度で日向は飛びかかって斬りつけてくる。


瞬の息が乱れる。

だが、日向の呼吸は乱れない。

合っていた呼吸がずれるのが聞こえた。

余裕があるのは向こうだった。


――はっ。


その時、瞬が閃いた。


「これだけ不利な状況なら、あの手が使える。…手だけにか」


瞬がまた距離を取り、今度は飛びかかられる前に踏み込む。

刺突。

だが、何度も見せた軌道。

読まれる。

刀を置かれて弾かれ、斜めの斬撃がくる。


そして、間一髪…。

避けきれなかった。

瞬の右腕が飛んだ。


「くそっ、やられた!」


瞬が苦痛に顔を歪める。


『瞬!大丈夫ですか!?』


通信してきたのは電子だった。


『座愛は“自分の敵は倒した”と言っています!あとは、ターゲットの日向の無力化だけです!』


電子はそう言ったが、瞬の方は…。


右腕が日向の前に落ちた。


「利き腕を持って行かれた!」


『…瞬!!』


電子が通信越しに慌てた。


「…斬った感触が妙に軽い。だが、この“童子切安綱”の切れ味なら、それもあり得るか…」


瞬が右手の傷口を押さえる。

左手で即座に剣を仕舞い、左手で、着流しの上から止血剤を塗る。


そして、またすぐに左手で刀を抜いた。

逆手ではなく、順手だ。


左手一本で刀を上げたまま、瞬はゆっくり日向に歩み寄った。


右腕を失ったはずの瞬の重心も構えも明らかに崩れていた。

呼吸も浅い。


左手一本での上段一閃に賭けた――そう見えた。


「…」


「なるほど、実力は伯仲。最後は一閃の真剣勝負というわけか。受けよう!」


日向が続ける。


「この都市は腐敗しきった!ゆえに、私が世直しの正義を下す!腐った企業の連中に、正義の刃を!」


そんな日向に対して、左手だけで刀を振り下ろそうとする構えで、瞬が近寄る。


「…」


そして、答える。


「腐っているのはその根性だ!都市は確実に新しい未来へ向かう!未来は、正しいことでしか正しくならない!!」


――瞬が叫んだ。


そして、互いに構えたまま、間合いが潰れた。

刀を振り下ろせば斬れる距離だ。


…この時、日向には明確な勝ち線が見えた。


左手一本の順手とその構えから、初撃は上からしか来ない。

そこを受ければ、次に瞬は刀を上げ直す。

その隙に振り下ろせば終わる。

構えを見た時点で、日向はそう読んでいた。


「ふっ…愚か也」


だが、その時、斬られたはずの瞬の右手が、着流しの懐から現れた。


「なんだと!?」


…その時点でもう遅かった。

瞬は右手で、腹に隠してた短刀を逆手で抜いた。

一撃目を防ぐために刀を上げた日向の腹はガラ空きだった。

瞬はそこを、右手の逆手で持った短刀で一気に裂いた。


――剣士が好んでよく使う、動きやすい薄い皮膚アーマーを切り裂く。


「こんな…」


日向が血を吐いた。


「…あの腕は、俺の右手に似せたサンプルだ。こういう時のために、持ち歩いていた」

「お前の斬撃をギリギリで交わして、視線の影になった瞬間にバッグから取り出して落とした」

「そして、この流れてる血は、お前に肉だけ斬らせて出たものだ!」


瞬が腕のサンプルを拾い上げる。


「つまり、本物の右腕は斬られていない!着流しの懐にずっと隠していた」


ただでさえ精巧に作られた腕だ。

薄明かりの中では、飛んだそれは本物にしか見えなかった。


そんな日向に、瞬が吐いた。


「そして、俺が左手の…“片手での剣撃”で勝負を決めに行ったと思い込んだ…お前の負けだ」


「…はぁ……なるほど…つまらぬ」


日向が息を切らせながら、自分の刀を鞘に仕舞い、抱えた。


「片手を囮にするか…狂っている」


両膝をつく。


「…その刀はもらう」


瞬が手を伸ばす。

――だが。


「…この日向家に伝わる名刀…“童子切安綱どうじぎりやすつな”、貴様のような企業の狗には渡せぬ」


そう言い残し日向が前のめりに倒れた。


ただ、その胸はまだ上下している。

気絶しただけだ。


『瞬!腕がどうしたんですか!?』


電子が通信でまだ焦っていた。


「あー…いや、問題ない。無力化成功だ」


瞬が、そんな電子に調子良さげに答えた。

そして、倒れた日向から刀を奪う。


「もらっていくぜ」


「…」


――しばらくして、パトロールと回収班が来ることになった。

都市から離れているので、時間がかかる。


瞬は新しい刀の“やいば”を、下弦の月に照らして、眺めていた。

ガラクタの上に座っている。

行き場のないゴミが山積みに捨てられている。


「…“この都市は腐敗しきった”か…あの時は否定したが、確かにそうかもしれない…」


「瞬!よかった!」


座愛、電子、あいが嬉しそうに駆け寄ってきた。

――彼女らの笑顔を見て、改めて思った。


「いや、やっぱりそんなことないな」


「…“そんなことない”って、なんのこと?それより、その刀…すごく綺麗…」


座愛が目を輝かせていた。

電子とあいの目も、刃の光が反射してキラキラしている。


「――これで、まだ先へ行ける」

読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったら、次話も読んでいただけると嬉しいです。

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