第13話 消える花火と未確定の功績
企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。
テンポと引きを重視して書いています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
「――ほら、ついた!」
電子が持つ花火から、金色の火がパチパチと出て地面に散っていく。
「ひいっ!これ、本当に大丈夫なんですか?…でも、確かに綺麗…」
アパートの屋上。
この日は定期的にある“放送調整中”で、ビルの広告モニターが沈黙していた。
その分、屋上もいつもより暗かった。
そして、新月。
曇り空のせいもあって、月明かりはほとんどない。
その暗さの中で、手に持った花火の火だけがよく映えた。
全員の花火に火がついた。
シューっと音を立てながら、輝く小さな火がたくさん落ちていく。
瞬が座愛のほうへ目をやると、花火の光のせいか、喜んでる表情のせいか、いつもより少し幼く見えた。
「瞬!見て見て!色が変わった!」
全員の花火の色が、輝かしい金色から、派手な緑色へと変わる。
「…花火って楽しいね。昔の人は、これを毎年やってたんだよね」
「ああ、利益優先のヒートシンクでは時間の無駄、そして危険という理由で廃れてしまった」
「今はもう、第6地区のスラムの闇市でしか手に入らない」
手持ち花火はすぐに終わった。
綺麗な火花こそ出るが、静かに燃えて、音もなく消える。
だからこそ、綺麗だった。
「ねぇ、次は“線香花火”って言うのやってみようよ!高解像度の映像サンプルでしか見たことないんだ」
座愛がしゃがみ込んだ。
そして、他の3人もつられるように腰を落とす。
「あい…それだと、瞬の方から見えるって。押さえて」
座愛があいにそう言うと、あいは顔を赤くして、セーラー服のスカートを押さえ直した。
――夜の屋上で、4人が小さな火を囲む。
線香花火の赤い玉が、先端で震えながらパチパチと火花を散らす。
「綺麗…」
火の粒が弾けた。
また一つ、また一つ。
小さな火花が宵闇に落ちて消えていく。
「ねぇ、誰が1番長く燃えてるか、ってやつ、やってみようよ」
座愛が楽しそうに言った。
「いいですね、頑張れ、私の線香花火!」
「応援したら長持ちするのか?」
そう言った途端、瞬の線香花火が真っ先に落ちた。
「…こんなことってあるか?」
他の3人は笑った。
――しばらくして、3人の火の玉もほぼ同時に落ちた。
すると、ほぼ同時にビル群のモニターの映像が復旧して、ニュースが夜の闇を光で焼いた。
それで、花火の時間は終わった。
「…こんなに綺麗なのに、すぐ終わっちゃうんだね」
「…次はスプラッターキャノンみたいに派手なの買ってくる」
座愛は少し不満気だった。
「これ以上派手なのをやったら、通報されて、監査の目にとまります」
「花火が理由で監査官と勝負、なんてなったら、前代未聞ですよ」
その時、座愛が蝶を発見した。
「あ、蝶々」
反射的に捕まえようとする。
だが、蝶は手をするりと抜け、飛び立った。
「捕まえようとするからですよ」
電子が蝶を目で追いながら言った。
「だって、綺麗なんだもん」
見上げる先で、蝶はビル群の摩天楼へと消えていった。
――利益優先のヒートシンクでは、こういう時間は無駄なのかもしれない。
金にもならないし、役にも立たない。
それでも瞬は思った。
――こういう時間を守りたい。
「…さて、今日は寝るとしますか!」
座愛がそう言うと、瞬が花火の燃えかすを入れた水入りバケツを持った。
全員でエレベーターに乗り込むが、瞬はかなり上の階に住んでいるので、下りエレベーターはすぐに止まった。
「じゃ、また明日。楽しかったな」
3人は手を振る。
戸が閉まると、3人だけの空気になった。
「…ねぇ、2人とも、瞬のことどう思ってる?」
座愛が切り出した。
「大好きですよ。いつも守ってくれるし、任務もクリアしてくれる、頼りがいのある人です」
「そうじゃなくて、…男として」
「…あ、そういうことですか。それなら、ないですね。私は、あいみたいな女の子が好きなので」
電子はあっさりと答えた。
それに、座愛は安心する。
あいはまた顔を赤くする。
「…あいは?」
…あいは答えなかった。
…答えなかったのが、答えだった。
「コイツめ…」
座愛が手をあいにグリグリと押し付けた。
「あ、でも、座愛の邪魔はしないよ!」
あいが、可愛い顔を更に真っ赤にして答えた。
エレベーターが開く。
女性3人も解散し、それぞれの部屋に戻った。
――翌朝
『瞬!おはようございます。緊急の依頼です。ロビーまで来てください』
瞬の端末が鳴った。
開くと、電子が話していた。
いつものように冷水で顔を洗う。
急いで軽く歯を磨く。
新しい刀、童子切安綱を持って部屋を飛び出す。
ロビーに降りると、3人は緊急依頼だというのにしっかり朝食を取っていた。
「瞬、起きるのいつも最後…」
座愛がボソッと呟いた。
「おはよう。甘くて冷たい人工コーヒーと、プロセスチーズトーストでいい?」
あいは瞬の好物の名を口にした。
頷く瞬の反応を見て、あいは立ち上がり、キッチンへ向かう。
入れ替わるように、瞬が空いてるソファーに座る。
「で、緊急の依頼って?」
「変電所の奪還です。第5地区の変電所が敵兵に占拠されたそうです。」
電子が食事を急ぎ気味で摂りながら続ける。
「はむ、はむ…。で、その奪還作戦ですね。敵は、システムを乗っ取って、系統制御を握ることを企んでいます」
「…敵の手に落ちたら、区画ごとダウンします。第3地区から第7地区まで落ちます」
「その割に余裕があるな」
瞬が突っ込んだ。
「ええ、あの変電所のシステムは“タイラ”の最新OSが守っています」
「ハッキングで落とすにも2時間はかかるので、食事の時間くらいあります」
電子がそう言ってる間に、あいが瞬の朝食をもってきてくれた。
ぱくり、と食いつくと、プロセスチーズがやたらと伸びた。
本物らしく見えるよう、そう設計されているのだろう。
「はふはふ、うまっ…」
瞬が伸びたチーズと一緒に、感想をこぼした。
それを見た座愛がボソりと呟く。
「…やっぱり、料理できる子の方が良かったりする?」
「えっ?」
瞬の耳には呟きが届いてなかった。
それほど、小声だった。
座愛が自分の頬をパンパン、と2回叩いた。
瞬が食事を終えると、激甘コーヒーを飲みながら自分の端末を確認する。
『緊急依頼:変電所奪還』
『場所 : 第5地区 変電所』
『報酬 : 400万Vicks +Aランクボーナス』
「報酬が高めだな。ランカーの討伐レベルだ」
「…それだけ、敵の数が多いと思われます」
「それと、確認できる情報では、敵はランカークラスの皮膚アーマーをインストールしているそうです」
「相当硬いらしいです」
「それなら座愛、ありったけの弾薬を用意しておけ」
瞬が座愛に指示を出した。
「わかった。トランクを弾丸でいっぱいにしよう」
「…頼んだぞ、童子切安綱」
4人で車に乗る。
いつものように、運転は瞬、助手席に座愛、後部座席に電子とあい。
「作戦は?…聞くだけ無駄か」
「ああ、1、敵陣に乗り込む。2、斬りまくる…」
それに座愛が被せてくる。
「3、フラッシュがオーバーヒートしてピンチになるから、私がスプラッターキャノンを撃ちまくる」
「…冴えてるな、座愛。それを考えてなかった。フラッシュの冷却を稼ぐためにも座愛の銃撃が必要だ」
他の3人は同時に思った。
(別に冴えてない。普通の脳筋作戦だよ…)
「はいはい。さすがAランク2位様」
Aランク1位が追放されたことで、繰り上がり的に瞬がAランク2位になっていた。
第5地区の変電所付近にたどり着く。
この都市では、電線は基本的には埋め込み式だが、ここだけは無数の線が四方八方に伸びている。
少し遠くに車を停める。
電子は後衛だ。
そして、いつのまにか、あいがその電子を護衛する形で、銃を預かるのが定番となった。
「座愛、行くぞ」
「ああ!」
こうして、2人は小走りになる。
ただ、今回は弾薬が多いので、座愛のバッグが重い。
走っても速くはない。
その時だった。
電子から通信が入る。
『緊急事態です!敵は新型の端末を使っているのか、ハッキング速度が上がりました!』
『現在の残り時間は…残りあと5分しかありません!』
「マジか。急ごう」
――変電施設に着いた。
敵が取り囲んでいる。
「どうする?時間も無いし、そのまま押し切るのか?」
座愛が小声で瞬に確認した。
「いや、作戦変更だ。二手に分かれて挟み撃ちにしよう」
「そして、位置についたらまずあの6人をスプラッターキャノンの反動で動けなくしてくれ」
「そしたら、俺がこの新刀で刺す。」
「了解…やっとそれっぽい作戦…」
座愛はようやく少しだけ納得したように息を吐き、二手に分かれた。
それぞれ遮蔽物に着いて、顔だけで合図を交わす。
首を縦に振るだけで合図すると、作戦開始。
座愛の蜘蛛脚が背中から展開され、スプラッターキャノンが火を吹いた。
強化皮膚アーマーを仕込んだ1人目に当たる。
だが、煙や屑が出るだけで、1発ではよろめくこともない。
「瞬!やばい!敵は思ったより硬い!2発は当てないとよろめきすらしない!」
「ああ、そのようだ!なら、2発ずつ頼む!」
「…簡単に言ってくれる!」
ダン、ダン、ダン、ダン!
座愛が重い連射で敵に掃射する。
「あわよくば倒せると思ったけど、無理だ…こいつら、旗中クラスのアーマーを仕込んでるよ!」
「人体への負荷、どうなってんの!?」
座愛がぼやいた。
「一時でも動きを止められたらそれでいい!この新刀なら通るかもしれない!」
瞬が敵の撃ってくる弾を斬りながら進む。
その火花の中で気づいた。
「はっ…!弾丸を斬った手応えすら感じない…!」
日向の言った通りだった。
この刀は、手応えが無いほどよく斬れる。
「これなら…行ける!」
「敵は想定外の武器を使用している。グレネードで応戦しろ」
敵がそう言うと、瞬の足元にグレネードが投げ込まれる。
だが、それを座愛が即座に撃ち抜く。
弾かれたグレネードが地面を転がり、敵の足元へ戻る。
「残念、それは悪手なんだな」
座愛が誇らしそうにすると、敵の足元でグレネードが炸裂。
瞬は遮蔽物に隠れている。
敵は爆発の衝撃でアーマーが押し込まれ、痛みと反動で動きが止まる。
「チャンス!」
瞬が踏み込み――刺突。
すると、驚くことが起こった。
今まで通ったことがない、特殊繊維強化皮膚アーマー。
それが、何もないみたいに、いとも容易く貫通した。
紙を裂くように。
手応えがない。
手に反動すら来ない。
敵が一瞬ピクリと動き、その次の瞬間に力が抜ける。
「なんだ、この刀…!」
瞬が震えた。
「瞬!そいつは…!」
座愛も驚いていた。
「敵の武器は未確認の日本刀だ、取り囲んで一斉掃射せよ!」
敵が施設内からも出てきて、一斉に瞬を取り囲む。
「瞬!さすがに囲まれたら…」
「…大丈夫さ。見てな」
瞬を取り囲む敵の銃が、一斉に火を吹く。
そこに、瞬は刀を置き、体は逸らす。
すると、正面から来た弾丸は刀で割れ、その破片が背後の敵2体に突き刺さる。
同時に、後方から撃たれた弾丸は、瞬が身を逸らしたことで、そのまま正面の敵に突き刺さった。
強化アーマーのせいで即死には至らない。
それでも、大口径弾の反動までは殺しきれず、正面の敵はよろめいた。
そこに、瞬が新刀を突き立てる。
やはり、紙を裂くように刀が入っていく。
これは名刀。
それは知っていたが、ここまでとは思っていなかった。
次々と刺突し、また弾丸を斬ってやり過ごし、隙ができたら踏み込んで刺突。
これを繰り返し、取り囲んでいた敵もあっという間に制圧した。
その瞬間、瞬の首の後ろから熱を帯びた蒸気。
フラッシュの強制排熱だ。
「今だ座愛!スプラッターキャノン、一斉掃射!」
「了解!」
座愛のスプラッターキャノンが重い連射を吹く。
この場にある鉄という鉄に反響して、異様な音となり敵に進んでいく。
敵が反動で動けなくなる。
その隙に、強制排熱を済ませた瞬が飛びかかり、斬りつける。
座愛の口から、思わず本音が漏れた。
「瞬…もう“ほぼ超能力者の域”だよ…」
「何か言ったか!?」
「いや、もうどうでもいいことだ!」
座愛が背中の蜘蛛脚をゆっくりと動かして、位置取りを変える。
動きながら、空いてる蜘蛛脚を宙にかざし、弾丸を受ける。
火花が出る。
蜘蛛脚は特殊合金製だ。
この程度では砕けない。
そして、位置を取ったら、蜘蛛脚を地面に噛ませて一斉掃射。
「…座愛もじゃね?」
「聞こえてたんだ」
敵が次々とよろめく。
連射は、完全に通りこそしないが、反動で“はりつけ”になる。
そこに、瞬が踏み込み、刺突。
座愛の銃の腕を信用しているからこその飛び込み。
「電子!残り何分だ!?」
『残り2分です!』
その瞬間、壁を破って、明らかに格の違う相手が現れた。
「…防御力に特化した特殊部隊が全員やられた。…ジャガーノート参上。無力化開始」
ジャガーノートはより分厚いアーマーを着込んでいて、手にはライトマシンガン。
「瞬!なんかヤバそうなのが出てきたぞ!」
座愛がそう言ったが、瞬が答える。
「あー、多分、今なら問題ない」
そして、ジャガーノートがレーザーポインターを頼りに、ライトマシンガンを連射し始める。
それに対して、瞬はフラッシュを起動。
刀を斜めにして宙に置くように構える。
刀に弾が当たる。
火花が散り、弾丸が割れる。
敵は連射を続ける。
まるで“線香花火”のように、刀から火花が出続ける。
「瞬!」
「…大丈夫だって!」
キーン…。
最後の1発まで全弾斬り落とした。
「バカな」
「だよな。本当にそう思う」
瞬が、弾切れになって何もできなくなったジャガーノートにトドメを刺しにいく。
必殺の、踏み込みからの刺突。
ジャガーノートも最後の抵抗。
空になった銃を盾にする。
しかし、童子切安綱は銃ごと易々と貫通する。
この装甲であっても、少し手応えがあるかないかの感触しかなかった。
ジャガーノートが倒れた。
「行こう、あとは施設内の敵だけだ!」
瞬と座愛が施設内に突入する。
しかし、敵はいない。
外での戦闘の際に、既に援護として全員出てきていた。
いるのは、変電施設のメイン端末に繋がっていて、ハッキングをしているメカニックらしき敵兵が1人だけ。
瞬が話しかける。
「…それ、やめてくれたら手は出さんぞ。どうだ?」
「…回答。やめるわけにはいかない。…殺せ」
「そうか。…電子、あと何分だ?」
『30秒です!とてもマズイです!』
それに対して、瞬はため息とともに刀を取り出した。
そして、一歩踏み込み――峰で打ち倒す。
「そんな…」
最後の敵が倒れた。
刃ではなく、峰打ちだった。
倒れ込み、ケーブルが外れる。
――ハッキングが止まった。
「電子、オールクリアだ」
「よっしゃあ!」
座愛がガッツポーズをした。
「やったぁ!」
電子とあいも、車内で手を取り合い、おかっぱとおさげが揺れた。
瞬が目線を落とす。
童子切安綱の刃が鋭く輝く。
「――この刀なら…」
回収班とパトロールが来た。
その間に、いつものように瞬は「任務達成」を送信していたので、通知音が鳴った。
座愛が先に言う。
「主担当 : 閃野瞬。判定 : ランク変動有り…下手すればSランク入りもあるぞ」
――だが、瞬の端末には信じられない表記が来た。
『任務 : 完了』
『報酬 : 支払い済み』
『功績 : 未確定』
『主担当 : 未確定』
「未確定って…」
「また?」
「どうなってんだ!?今回は変電所を取り返したの、明らかに私たちだろ!」
座愛が叫んだ。
そこに電子が割って入ってくる。
「瞬、端末に接続させてください!今度こそ掘ります!」
電子が自分の端末と瞬の端末を、物理ケーブルで繋いだ。
「戦闘ログ、監査ログ、統合運用処理の痕跡…電子が全部もらいます!」
「――頼んだぞ、電子」
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次回更新は平日19:20を予定しております。




