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閃光の瞬  作者: KK9996
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第5話 磁力の怪物と奪われた自由

企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。

テンポと引きを重視して書いています。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

“契約要項 : 支給医療品の横流し、無許可譲渡、及び医療資産の契約外運用を禁ずる。これに反復違反した者は、資格・等級を剥奪し、回収または討伐対象となる”


――少女の名は「朝日あさひあい」

先日、旗中の車から瞬たちが救出した。


「それにしても、なんであんなところに?」


アパートのロビーで、瞬があいに尋ねていた。


「それが…よく覚えてないんです…。誰かに後ろから襲われたと思って、気づいたら暗闇にいて…」


丸いメガネにセーラー服でおさげ姿のあいは、まだ少し震えている。


座愛が呟いた。


「この街でよくある“人身売買”ってやつかもな」


「あい、若くて可愛いですもんね」


電子が温かいお茶を差し出す。

久しぶりに向けられる優しさに、あいの震えが少しずつ収まっていく。


「もし、上が関わってるなら依頼課に返すのは危険だな。俺たちで匿うのがベターだろう」


瞬は白い激甘人工コーヒー片手に、しばらく考えた。


…そんな瞬や座愛の刀と銃を見ながら、あいは小さく口を開いた。


「…あの…。私に何かできることってありますか?」


瞬たちは少し驚く。


「何か特技でもあるのか?」


「いえ…あ、家事とか。人工コーヒーを淹れるのも得意です」


これに、瞬が一番嬉しそうに反応した。


「ってことは、これからは毎朝淹れたて人工コーヒーが飲めるのか?」


「ええ、人工豆さえあれば…それなりのは」


「なら十分だ。あいも今日から俺らの仲間だ。部屋なら空いてる」


こうして、あいの部屋もこのアパートに決まった。


そして、電子が話題を変える。


「前回、元Aランク2位を倒したことで、ランクポイントがかなり変動しました」

「瞬がAランク15位、座愛がAランク20位です!瞬は異例の飛び級ですよ」


「よっしゃ!」


「負けた!」


瞬は純粋に喜び、座愛は少し悔しそうに笑った。


「Aランクってことは、固定給にプラスアルファだろ?」


「はい。さらに厳しく、高給の仕事も入り込んできます。…そうなると、やっぱり心配です」


その時、電子の端末から通知音が鳴った。


「確認します。少し待ってください」


電子が自分の右手から端末をニョキっと出した。


それを見たあいは、引いた。


「うぇっ、痛そう…」


「見た目と違って全然痛くないですよ。この部分は痛覚キャンセラー…んっ、うん。この都市の技術が入ってますので」


あいに寄り添いながら説明しつつ、電子は連絡欄を確認する。


だが、その表情が一瞬で曇った。


「…瞬、座愛。また、討伐の依頼が来ていますが…」


2人が顔を寄せる。


「相手は、契約違反により契約剥奪となった、元Sランク20位、黒乃核くろのかくです…いわゆる、Sランカーです」


「追放されて元とは言え、Sランカーって…」


「はい、“ほぼ超能力者”と呼ばれる域です」


「なんで俺にはこんな依頼ばっかりなのかねぇ…」


瞬がロビーのソファーに頭を抱えて倒れ込む。


「その剣、暗殺向きだしな。タイマンじゃ強いし、その点が上にも評価されてんだろ」


座愛がなだめた。

だが瞬の頭には、前回の旗中戦が蘇っていた。


刀が通らなかった時の反動で痛めた手が、少し疼く。


「この刀、通るのかな…」


「それなんですが…」


電子が申し訳なさそうに続ける。


「…黒乃のアイコニック強化モジュールは、腕の“磁力操作”らしいです」

「腕そのものを強力な磁石みたいに扱えるとか」


「マジでほぼ超能力者じゃねぇか…」


ただ、この時、電子と座愛は同時に思った。

弾丸を斬るあの姿を思い出して思った。


(お前だってほぼ超能力者だろ…)


「…それで、この依頼は受けるのか?」


座愛が切り出した。


「額によるな」


瞬と座愛の2人は電子の方を向いた。


「1200万Vicksです。固定1000万に加えて、Aランクボーナスで2割増しです…」


電子は目を伏せたまま、控えめに言った。


「…受ける」


瞬は刀を持ち、背を向けた。


「なら、私も」


座愛も立ち上がった。


電子は少しがっかりしたような顔をし、あいはきょとんとした。


「S3500で現場まで行こう。渋滞がひどい第1地区とかじゃなければ、どこであってもすぐ着くだろ」


「あいはどうします?」


3人があいを見る。


「わ、私も行きます!」


あいは、お荷物になりたくなかった。


「やめとけ。Sランカー相手だ」


瞬がきっぱり言う。

そして、元ギャングを呼ぶ。


「おい、お前」


「はい、親分」


「このお嬢さんを守れ。誰かが連れて行こうとしたら、そいつを撃て」


「わかりました」


あいは唇を噛んだ。

助けてもらったのに、自分だけが置いていかれる。


瞬みたいに刀は使えない。

電子みたいにハッキングもできない。

座愛みたいに砲台化して銃も撃てない。


――瞬たちが車に乗り込む。

前回の戦利品、高性能セダン“ヤナギ・S3500”だ。


運転席に座った瞬の手つきは、妙に慣れていた。

運転は得意だった。

こう見えて、運び屋をやっていた時期がある。


刀とバッグを助手席の座愛に預ける。


「電子、黒乃の潜伏先は?」


エンジンをかけながら、瞬が聞く。


「確認されたのは第8地区のスクラップ工場です。手下などはいない様子」

「追跡を恐れて、第8地区まで行ったようです」


「第8地区か…高速周回道路を使った方が早いな」


V10ハイブリッドエンジンが、甲高く、悲しげに叫んだ。


「傭兵は、活動中であれば、ある程度のスピード超過や信号無視は許される…か」


座愛が、長い髪を強い風にさらしながら呟く。


その通り、車はパトロールに止められることなく、第8地区へと向かう。


ビル街を抜け、人工川を越え、螺旋状の坂を登る。


高架へ出ると、普段は見上げる企業の広告がすぐそこに見えた。


『何かを永遠にくっつけたい?それなら、ケイヨウ化学のワンダフルグルー!!透明、瞬間接着、素材を選ばない!』

『――注意。超強力です。接着の際は十分な注意を』


「…瞬、黒乃の“追放理由”ですが、医療用品の横流しらしいです。それで、何か作戦でもあるんですか?」


電子が後部座席から声をかけた。

体はフワフワのシートに押さえつけられて、顔しか前に出せない。


「無い」


「出た。脳筋モード」


座愛が呆れたように突っ込む。


「これでも俺なりに考えてる。前もった作戦で挑むと、例えばそれが崩された時に、負け線ができるからな」


電子と座愛は少し納得した。


だから瞬は、前もって組み上げた作戦より、その場で掴む一手を好んだ。


しばらくして、目的地に着く。


「目的地に到着しました」


ナビが無愛想に告げた。


正確には、目的地の少し前だった。

戦闘で強くない電子を巻き込まないために、少し離れたところに停めた。


そして、瞬と座愛が自分の足で少し走った。


目標は、すぐそこにいた。


スクラップの上に、どこか悲しげな目をした好青年が1人。


ツーブロックの髪。

すらりとした体。

腕は金属になっていた。


刀を見た黒乃が残念そうに振り返る。


「サムライ…?最近登録されたっていうCランクか。てっきり、“兄さん”でも呼ぶのかと思ってたよ」


黒乃は悲しげだった。


「追放理由は医療用品の横流しだったな!企業に雇われて討伐に来た!ちなみに、今はAランクだ!!」


瞬が刀を向ける。


「やれやれ…良かれと思ってやったことなのに…しょうがない」


そう言って、黒乃は腕を光らせた。


「確か、銃は効かないんだよね。ただ、これなら」


途端、刀が吸い寄せられた。


「マジかよ…いや、だよね。そうなるか」


瞬は刀を地面に突き刺し、耐える。

座愛も蜘蛛脚を地面に噛ませ、耐える。


そうしている間に、鉄のスクラップが黒乃の腕に集まっていく。

いびつで巨大な腕が形を成した。


「それじゃ、さよなら。Aランクさん」


黒乃は、その固まったスクラップを一斉に放出した。


「瞬!やばい!」


座愛がすぐに掃射を開始した。

鈍い連射音。


鉄の塊が火花を散らし、50口径弾の反動で勢いを失って落ちていく。

重いものから順に、地面へ落ちた。


その代償に、スプラッターキャノンの銃身が赤く焼け、蒸気を噴いた。


――オーバーヒートだ。


「はぁ…はぁ…マジで超能力者じゃねーか」


「へぇ…今の耐えたんだ。じゃ、もう一回」


黒乃が再び腕にスクラップを集める。


「瞬、まずいぞ」

「次に同じような弾幕張ったら、スプラッターキャノンはまたオーバーヒートだ!」

「その次の攻撃は…耐えられない!」


「なら、俺も斬る」


次のスクラップ攻撃が来た。


座愛がまた弾幕を張り、瞬は自分に飛んできたスクラップを斬る。

だが形がまばらだった。

斬っても、弾丸みたいに綺麗には逸れない。


「うっ…しまった!」


瞬の腹に、鉄の棒が一本刺さった。


「瞬!大丈夫か!?」


座愛がすぐに引き抜く。


「…基幹システム、“マグネトロ”オーバーヒートか」

「たった2回の全開出力で…使い方が違うとはいえ、やっぱり兄さんのようにはいかないか…」


黒乃が悲しげに語り、攻撃が止んだ。


腕から蒸気が噴き出す。


黒乃の強制排熱の間に、瞬は急いで傷口に止血剤を塗っていた。

座愛もこれを手伝う。

銃もオーバーヒートしているため、反撃に転する時間は無かった。


そうしてる間に黒乃が強制排熱を済ませた。


「…飛ばしてもまた落とされる」

「なら、叩き潰そう」


黒乃の腕に、また鉄が集まる。

だが、今度は放出の構えではなかった。


巨大な塊のまま、腕を持ち上げる。


その巨大な鉄塊が、ゆっくりと頭上へ持ち上がっていく。


「瞬!あれをまともに喰らったら、さすがにやばい!」


「…ああ、息を合わせてそれぞれ違う方向に跳ぼう。直撃は回避するぞ」


鉄塊により、巨大な影ができる。

そして、それが振り下ろされる。


ガシャーン!


轟音と振動。


細かい鉄屑は宙を舞う。

重いスクラップは地面にめり込んだ。


「…座愛!大丈夫か!?」


瓦礫と化した鉄塊の中から瞬が鉄を斬って現れた。


「…ああ、ギリギリだったな!」


座愛も、蜘蛛脚を即席の盾として使い、なんとか無事だった。


それを見ていた黒乃が呟く。


「こっちの方が効く…かな?じゃ、悪いけどもう1回いくよ」


黒乃の腕に、また鉄が集まっていく。

再び、巨大な腕が形を成す。


「あいつ、自分の強いモッドモジュールに頼りすぎだろ!」


黒乃の姿と、座愛のその一言が、瞬の中で噛み合った。


「巨大な磁石の鉄の腕…能力に頼り切り…」


――はっ。


「座愛、思いついたぞ、必勝パターン!」

「とにかく、今は建物内に走れ!」


「やっと!?でも今言う!?」


2人は走った。

建物の入り口めがけて全力疾走。


それを黒乃は許さない。


「屋内ならこの手は使えないと踏んだ、か…なら、今叩き潰す!」


ガシャーン!


また鉄塊の飛び散る轟音。

建物の入り口ごと叩き潰した。


…。


「…はぁ…はぁ…本当に間一髪だったな」


「…はぁ…ああ…そうみたいだな」


入り口は潰れた。

2人は、その直前に中へ滑り込んでいた。

荒い呼吸だけが、暗い建物の中に残った。


「…よし、狙い通り入り口も破壊してくれた」

「これで時間を稼げるはず!座愛!まだ奥まで行くぞ、走るんだ」


2人はまた走り出す。


「…それで、必勝パターンって!?まさか、またガスタンクがあるか祈りますって!?」


座愛は皮肉を混じらせて言った。


「いや、神頼みじゃない!もっと具体的なことだ!」


建物の中は、幸いなことに大きなスクラップはなかった。

しかし、黒乃が攻撃に使えそうな鉄はどこにでもある。


瞬が痛みで立ち止まる。


「瞬、大丈夫か?」


座愛が瞬の先ほどの傷を心配した。


そうしてる間に、なんと黒乃が追いつく。


「まさか…磁力で飛んできてるのか?」


「御名答。入り口を潰したところでどうにかなるとでも?」


黒乃はその磁力操作によって、動きも俊敏。


「基幹システム・マグネトロ。 鉄を集めて、敵目掛けて掃射を開始せよ。なんてね」


黒乃がそう言うと、施設内にある、固定されてない鉄の部品が集まる。


瞬は刀を地面に突き刺し、座愛は蜘蛛脚を地面に噛ませて、また耐える。


「瞬!こっちもオーバーヒート覚悟だ!全部撃ち落とす!」


座愛がそういうと、黒乃の腕から鉄の部品が放出された。


そして、座愛がスプラッターキャノンを掃射。

鈍い連射音。

ただ、致命傷になる部品をしっかり狙って撃ち落としている。


それでも、撃ち落とし切れない小さな部品が、座愛と瞬に向かう。


「やばい!」


座愛の綺麗な顔に、鉄片が刺さった。


そして瞬の腹に、鉄の棒が刺さった。


電子が通信してきた。


『…もう無理です!任務放棄して逃げてください!!』


――瞬は、返さなかった。


もう一回来る。


鉄が、また黒乃の腕に集まり始める。

ガリガリと音を立て、不揃いの鉄が集まった。

工具、ホイール、ネジ、鉄筋入りのコンクリート、鉄片。


瞬は刀を地面に突き立て、座愛は蜘蛛脚を地面に噛ませ、また耐える。

今はこれしかできない。


「…放出」


また、鉄の放出が始まった。

銃弾ほどの速さではないが、殺傷するには十分な重さと速度だ。


座愛が、オーバーヒート覚悟でスプラッターキャノンを撃ち続けた。


しかし、撃ち漏らした大きな鉄の部品が座愛の腹に直撃する。

皮膚アーマーが押され、内臓にダメージをもたらす。


「うっ…ちくしょう、スプラッターキャノンもオーバーヒートか…さすがにやばいな…」


黒乃の腕から、また蒸気が噴いた。

その数秒だけが、命綱だった。


「瞬!今踏み込めないなら、このうちにもっと奥へ!」


瞬と座愛は、施設の奥へと逃げることには成功した。


奥まで逃げ切ると、2人は急いで止血剤を塗った。


そして、瞬は痛みに耐えながら、壁の配管やドアなどの鉄を斬り落とした。


「何してる?」


座愛が息を切らしながら聞いた。


瞬はバッグから小型のボトルを取り出した。

透明な液体を、切った鉄の切断面から縁まで素早く走らせていく。


「時間がない。急がないと」


座愛にも何をしているのか分からない。


「まさか…ね。でも、勝つためななら手伝うよ」


瞬は、次の鉄片にも同じ液体を塗った。

暗い屋内では、それはほとんど見えない。


しばらくして、黒乃が瞬と座愛を見つけた。


相変わらず、黒乃は磁力で滑るように飛んできた。

もはや人じゃない速さだった。


「あ、こんなところにいた。探したよ。それじゃ、そろそろとどめだね」


瞬の周りには、自分が斬った鉄の扉や配管などが散らかっている。


「えーと、敵に弾送ってどうすんの?」


黒乃が再び、磁力でそれらを集めながら言った。


両手を開く。

周囲の鉄が低い唸りと共に引き寄せられ、腕へと重なっていく。


最初に浮いたのは、すぐ脇に倒れていた非常扉だった。

そこへ、配管、鉄板、フレーム。

瞬が斬り落とした鉄まで巻き込みながら、巨大な腕がまた形を成した。


「待て!取り引きしよう!」


黒乃が大量の鉄を纏ったまま、瞬は取り引きを申し出た。

瞬は刀を鞘にしまい、両手を上げる。


「俺がお前を討伐したことにする。そうすれば、お前は死んだことになり、自由の身だ。どうだ?悪くないだろ?」


瞬の提案に、黒乃は悲しげに答えた。


「無理だね。討伐対象となったら、死体が確認されるまで続けられる」

「偽装はできない。つまり、ここでどちらかが死ぬまでやるしかないって話さ」


「…そうか、そうだよな。残念だ」


瞬がまた刀を抜く。


「…はっ。はなから降伏するつもりなんてなかったさ…」


「そうか。良かったよ。今から殺す相手が、降伏するような小物だと思いたくなかった」


黒乃の腕が光り始める。


「それじゃ、さよなら」


扉や鉄のパイプを引き寄せていた黒乃が、それらを磁力操作で放出しようとした。


そして、放出――されない。

正確には、放出はされたが、ごく一部の小さなネジやボルト類だけ。

瞬が斬った、非常扉から先の、壁の一部やパイプ類といった、致命傷になる鉄部品が放出されない。


瞬がその小さな部品だけをフラッシュで反応し、斬って逸らす。


「バカな!なんで鉄が離れない!」


何度も“放出”を実行しても、鉄は腕から離れない。

こんなに鉄を纏っては、重くて動けない。


「これは…!まさか…!接着剤!」


「…御名答…この部屋にあるデカい鉄には、斬った後で接着剤を塗っておいた」

「すぐには引き剥がせない。しかも、その塊を無理に動かすほど、天井や配管に噛むようになってる」


瞬が答えた。


「なら…このまま潰す!」


黒乃が、接着された巨大な鉄塊ごと腕を持ち上げようとした。


浮く。

確かに、浮く。


だが、巨大になりすぎた塊は低い天井へぶつかり、張り出した配管へ引っかかる。

一つずつだった鉄と違い、塊となったせいで逃げ場がない。


ギギギギ…。


鉄とコンクリートが、悲鳴みたいな音を立てた。


黒乃はさらに力を込める。

磁力で無理やり引き上げる。


だが、狭い。

振りかぶれない。


――身動きが取れない。


「しまった!」


「遅い!」


瞬が横に回り込む。


動けなくなった黒乃の横から、踏み込み、刺突一閃。


刀が、薄いアーマーの隙間に簡単に入っていった。

そして、黒乃の体が震えた。

鉄を纏ったまま、その鉄にもたれるように崩れた。


「…がっ…これは…本当か…?負けた…のか…」


息が切れそうになる黒乃が言った。


「…僕はただ、恵まれない下層の子供たちに…はぁ…VIP用の特別医療品を回しただけだ。兄さんとは違う」


「…それは本当か?医療品横流しってそういうことだったのか…」


「はぁ…はぁ…ああ。だから、企業側の判断は暴挙だと思うんだ。この討伐依頼、どっちが正しいか言い切れる?」


瞬は、すぐには答えられなかった。


「…はぁ…はぁ…重要臓器損傷の表示が出た。もう長くない」

「…聞け、君なら兄さんを止められるかもしれない……」


黒乃がそう言うが、この時の瞬にはなんのことかわからなかった。


「…兄さんは………だよ。…………だ。…はっ、ダメだ。……さよなら…」


黒乃は必死に何か伝えようとしていたが、息が絶え絶えで何を言っているのか分からない。

そして、黒乃が事切れた。

鉄塊に顔を埋める形だ。


――しばらくして、任務完了の報告画面が、瞬の端末にきた。


『任務 : 完了』

『報酬 : 支払い済み』

『功績 : 閃野 瞬』

『主担当 : 閃野 瞬』


その文言を見た瞬間、瞬は左手を壁に叩きつけていた。

軽く血飛沫が飛ぶ。

この部分に神経は通ってない。

だから、痛みは無いが、何故か痛い。


“――どっちが正しいか言い切れる?”


瞬がスクラップの上で膝をついた。


そんな瞬を見て、座愛が後ろから優しく瞬を抱きしめた。


「今は、答えがなくても大丈夫だよ…大丈夫なはず」


――太陽が、ビル群の向こうで沈んでいく。

読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったら、次話も読んでいただけると嬉しいです。

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